次期戦闘機輸出 この答弁で納得するのか(2024年3月7日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 岸田文雄首相の答弁に説得力はない。

 「直接移転(輸出)を行い得る仕組みを持たなければ、わが国が求める戦闘機の実現が困難になる」。英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出を巡り、「平和国家の信頼を損なう」とただした公明党議員に答えた。

 日英伊は2022年末、共同開発を公表。既に資金拠出などを定めた条約に署名している。

 公明は戦闘機の輸出を「重要な政策変更だ。議論が尽くされておらず、国民の理解も得られていない」として認めていない。

 日本だけが第三国へ売れなければ開発を主導できず、製造単価を下げられない。国内の防衛産業への打撃となる―。首相答弁の背景には、国民の理解を得るより、公明に姿勢軟化を促したい政府・自民党の焦りがある。

 自公は昨年の実務者協議で、軍需品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針を大幅に改め、国産の殺傷兵器輸出に道を開いた。

 敵基地攻撃能力の導入と同じだった。国会で説明せず、非公開の与党協議を経ただけで決め、他国を脅かさないとした戦後日本の理念を覆している。

 首相はわずかに残された制約について、いまさらに輸出の必要を訴えたに過ぎない。これも密室同然で解禁できると踏んだ目算が狂ったのが実情ではないのか。

 「英伊と同等に貢献し得る立場を確保することが国益だ」。首相はこう強調してもいた。

 政府は、米国の戦略に沿って防衛予算を膨らませ、憲法をないがしろに軍備拡充を急ぐ。その結果中国との関係は悪化し、拉致問題や核・ミサイル開発といった北朝鮮との間に抱える難題の改善を遠のかせている。

 薄氷を踏む財政状況下、武器を売って稼ぐ防衛産業に偏重した投資は、暮らしを守る政策経費の確保を危うくしかねない。

 公明の山口那津男代表は「丁寧に分かりやすく説明しようという姿勢が印象的だ」と、首相の答弁を評価してみせた。

 本来なら、武器輸出促進を明記した国家安全保障戦略に立ち返り、幅広い層の意見を入れつつ輸出の是非と内容から練り直すべき問題だ。この程度の首相の弁で戦闘機の輸出まで認めるなら「平和の党」の看板が泣く。

 公明は国民の理解と、紛争を助長しない「歯止め」を求めるという。紛争を助長しない戦闘機などあるとは思えない。