沖縄の陸自訓練場 撤回要求は抑止力損なう(2024年3月10日『産経新聞』-「主張」)

新設される陸自訓練場の候補地となっているゴルフ場跡地=2月29日、沖縄県うるま市(大竹直樹撮影)

 

 沖縄県うるま市のゴルフ場跡地に陸上自衛隊の訓練場を整備する計画を巡り、県側の反発が強まっている。

 玉城デニー知事が反対しているほか、県議会も政府に白紙撤回を求める意見書を全会一致で可決した。

 中国の軍事的圧力が強まり、政府は南西諸島の防衛力強化を急いでいる。那覇市駐屯の陸自第15旅団を師団に格上げする計画で、人員増に伴う訓練場整備は重要だ。

 県と県議会は翻意し、訓練場整備に賛同してもらいたい。

 県議会が可決した意見書は、訓練場予定地の周辺が閑静な住宅地であるとし、「県民の福祉向上、生命と財産を守る立場から、白紙撤回を速やかに実現するよう強く要請」した。

 この意見書は的外れと言わざるを得ない。

 沖縄の自衛隊は県民の生命と財産を守るために活動している。自衛隊員にとって訓練を重ねて練度を保つことは極めて大切だ。訓練が不足すれば能力が高まらず、有事に死傷者が増えたり、防衛任務に失敗したりしかねない。訓練は隊員や県民の命に直結するのである。訓練場では災害時の人命救助訓練なども行う計画だ。

 落下傘部隊である陸自第1空挺(くうてい)団は千葉県・習志野駐屯地に配備されているが、住宅地に近接した訓練場を運用していることも指摘しておきたい。

 防衛の最前線となっている沖縄で、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に加え、自衛隊訓練場にも県側が反対する危うさはほかにも指摘できる。

 訓練場反対が中国の政府や軍部の目にどう映るかという問題がある。彼らが「日本与(くみ)しやすし」「沖縄は防衛に真剣でない」とみなせば、対中抑止力低下につながる。台湾有事も懸念される今、あってはならないことではないか。

 意見書には自民党公明党の会派も賛成した。6月県議選での争点化を嫌ったのかもしれないが、政権与党の地方組織として訓練場の必要性を説いてほしい。防衛省は計画撤回は否定し、土地利用の在り方を再検討するという。訓練場整備の基本線を守ってもらいたい。

 自衛隊への県民の評価は高く、各種世論調査でも大多数が「信頼している」と回答している。その期待に応えるための訓練場なのである。