「『このままでは日大は変わらない』それが1年半の間、日大経営に携わった私の偽らざる実感です」
【画像】2023年12月4日、アメフト部の違法薬物事件を巡り会見に臨んだ林理事長、酒井学長、澤田副学長(当時)
1月12日付で日本大学常務理事の職を辞した精神科医の和田秀樹氏が、退任後に初めてメディアの取材に応じ、任期4年の半分も満たさず退任に至った内紛の顛末や、アメフト部違法薬物事件をめぐる真相について明かした。
今年度の入学志願者数は前年比で約25%減少
2018年のアメリカンフットボール部悪質タックル問題、2021年の板橋病院建替えをめぐる背任・脱税事件など相次ぐ不祥事を受け、2022年7が、2023年8月5日には麻薬取締法違反でアメフト部員が逮捕され、私学助成金の3年連続不交付が決定する事態となった。事件を受けて林理事長の減月1日に林真理子新理事長のもとで再起を誓ったはずの日本大学。ところが、酒井健夫学長、澤田康広副学長の退任が決定。今年2月2日には大貫進一郎次期学長が選出され、新年度からは漸く「新生日大」に向け前進する――。こうした見方に、和田氏は首を傾げるのだ。
「違法薬物事件とその対応の問題ばかりに注目が集まりますが、『なぜこの事件が起きたのか?』に目を向ければ、そこには日大特有の構造的問題が横たわっています。守旧派勢力の排他性、男性中心のマッチョ体質、無責任体制……。
こうした内部の根深い“病巣”が一掃されぬ限り、似たような事件は何度も再発する。それが私の見解です。
変わらない日大へ向けられる世間の目は相当に厳しく、今年度の入学志願者数(2月25日付)は前年比でなんと、約25%も減少しました。既に経営から身を引いた私が、批判を覚悟で取材にお応えするのは、林理事長ですら萎縮しているように見えるいまの日大の空気に強い危機感を抱いているからなのです」
学部長会議という病巣
常務理事として総務・人事、2022年11月以降は「新しい日本大学キャンペーン(通称「N・N」)」の企画を任されていた和田氏は、独自の「改革構想」を描いていた。とりわけ大きな関心を寄せていたのが、医学部改革だ。1925年設立の日本大学専門部医学科を前身とし、来年には創立100周年を迎える歴史と伝統を誇る日大医学部だが、実は問題が山積しているという。
「医師国家試験の合格率は東海大学に次ぐワースト2位。もちろん、国家試験の合格率だけで教育力を測るのは酷な話ですが、ほとんどの新設私大に敗けている現状は看過できません。
たとえば、優秀な教授をスカウトし、教授数を大幅に増やすなどの改革で教育の質を飛躍的に向上させ、“新御三家”とまで呼ばれるようになった順天堂大医学部など、歴史と伝統に甘んじることなく他所の成功事例に貪欲に学ぶ姿勢も必要です。また、日本大学病院の経営改革も課題でした。順天堂医院や東京医科歯科大学病院など、同じ御茶ノ水で立地上も競合する病院といかに差別化するか。総合大学の強みを生かした総合診療の充実、理工学部との“医工連携”によるDX化推進など様々な施策が考えられました」
「学部のことは学部に任せるのが筋ではないですか」
数々の構想に胸を躍らせながら、いざ改革に乗り出そうとした和田氏が直面したのが、日大内部に立ちはだかる“壁”の存在だった。 「このままじゃ医学部は赤字の垂れ流しで、日大の経営にとって非常に厳しい状況にあります」 「順天のようにある程度、教授の数を増やして、外来診療にも力をいれていただきたい」
そうした和田氏の会議での提案を酒井学長はこう一蹴したという。 「学部のことは学部に任せるのが筋ではないですか」
私立大学では一般に「教学」と「経営」は分離され、教育や研究は学長、経営は理事長が担う慣習がある。ところが、権力を肥大化させた田中英壽前理事長が学部人事や学生の処遇まで差配し、学校全体が私物化され、不正の温床となってきたことが日大の大きなトラウマになっていた。
腹の底では現状維持を望むメンバーばかり
「結果、我々“新参者”の経営陣が遵守徹底を求められたのが、“教学と経営の分離”だったのです」
教学と経営には、それぞれ最高意思決定機関として、理事長を議長とする「理事会」と、学長を議長とする「学部長会議」とがあり、常務理事はどちらにも参加する。ところが、専制政治への反省から理事会のメンバーは一新された一方で、学部長会議のメンバーが刷新されることはなかったのだ。
「学部長に女性は一人もいません。内実を見ても、『改革』とは名ばかりの慣例的な申し送り事項ばかり。何か提案すれば『学部のことにクビを突っ込むな』と一蹴される。学部再編や新設など既得権益にかかわる改革案は議論すらできない。腹の底では現状維持を望むメンバーばかりでは、改革がうまくいくはずもありません」
ほかにも、違法薬物事件の対応に奔走する執行部の内幕や、“教学支配”の実態について明かした「 日大病は治らない 」は、2024年3月8日発売の月刊「文藝春秋」4月号と「 文藝春秋 電子版 」(3月7日公開)に掲載される。
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