100歳になってもボケずに自宅で家族と暮らす――。そんな理想的な老後を送る村山富市・元首相の近況が話題となっている。
誰もが羨む、村山氏の「健康長寿」のヒミツはどこにあるのか。
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初代社民党党首で、第81代内閣総理大臣を務めた村山富市氏が3月3日、100歳の誕生日を迎えた。歴代の総理経験者のなかで「百寿」を祝ったのは、第二次世界大戦後の終戦処理内閣を率いた東久邇宮稔彦王(享年102歳)と“大勲位”中曽根康弘(享年101歳)の2氏のみ。つまり村山氏で3人目となる。
メディアの取材に応じた村山氏は受け答えも一人でこなし、トレードマークの“フサフサ眉毛”も健在。地元・大分で暮らす現在の生活について、次のように語っている。
「100歳の実感はないが、無理をせず、自然体で暮らすこと。1日1日、家族と過ごせることを幸せに思っている。(日課は)大相撲を見るのが楽しみ。週3回、デイケアに行き、1日2回の散歩と体操を続けている」
村山氏の百寿を祝うニュースを見た、都内のベテラン介護士は驚きを隠すことなく、こう感想を漏らした。
「100歳になっても施設に入らず、家族に囲まれて自宅で暮らす高齢者は非常に稀で、幸運なケースといえます。“どうすれば、村山さんのような老後を送ることができるのか?”と職場でも話題になっています」
「運動に定年はない」
村山氏の「健康長寿」のヒミツはどこにあるのか。長年、高齢者医療や地域医療に携わり、これまで多くの高齢者を看取ってきた新潟大学名誉教授の岡田正彦氏がこう話す。
「村山さんは散歩などの運動に加え、デイケアにも通い、相撲観戦という趣味も持っている。第一印象として、非常に“バランス”の取れた生活をされているなと感じました。なかでも“1日2回の散歩と体操”を日課としている点は注目に値します。実際、運動こそが健康寿命を延ばす一番の要因だとする研究データが数多く存在します」
岡田氏によれば、アメリカで85歳以上の高齢者を追跡調査した最新研究において、若い頃から「週に4時間以上の運動」経験がある対象者は、そうでない対象者と比べ「認知症になるリスクが5分の1」に低下する結果が得られたという。
「これらデータから、私は『運動に定年はない』という言葉を提唱していて、何歳から始めようと運動が健康長寿に寄与する点に疑いの余地はありません。ただ運動といっても大げさに考える必要はなく、たとえば1日30分程度でも“すこし早歩きするだけの有酸素運動”を日課に取り入れるだけで、健康寿命が延びることは多くの研究で証明されています」
また「ヨガや太極拳を生活習慣に取り入れている高齢者は長寿の傾向が高まる」と結論づけた欧米の研究レポートもあるという。
「孤独」と「ストレス」
岡田氏が続ける。 「高齢者が認知症になるキッカケの一つに、転倒した拍子に大腿骨などを骨折し、寝たきりを余儀なくされて認知症の発症が促進される――といったパターンがあります。
しかし運動習慣を取り入れていれば、転んでも簡単に折れたりしない丈夫な骨と、その骨を守る筋力を維持できる効果が期待されます」
前出のベテラン介護士は、村山氏が「家族と暮らしている」と話した点に注目する。
「『孤独』が心身にマイナスの影響を与えることはよく知られ、“慢性的な孤独感によって死亡リスクが26%上昇する”との米ハーバード大の研究報告も存在します。ひと口に在宅介護といっても、核家族化の進展や老々介護など、介護する側・される側の関係が希薄になってしまっているケースは珍しくありません。
家庭内であっても孤立感に苛まれていた高齢者が施設に入所すると、徐々に生気を取り戻し、体調面も良くなるといった事例をこれまで何度も目にしてきました」
家族と暮らすのが無条件で良いわけでなく、その家族との関係性によって「天国にも地獄にもなる」という指摘だ。一方で、 「人間はすこしストレスがあったほうが脳に刺激が与えられ(脳の)活性化を促すなど、必ずしもストレスフリーの状態が“健康長寿に繋がる”とは言えない面があります。だからこそ、何か一つの習慣を絶対視するのでなく、運動に趣味、家族との語らいや人との交流など、ありふれてはいるけれども、さまざまな刺激を受ける日常生活を送ることが重要と考えます」(岡田氏)
「運動」「バランス」「孤独」「ストレス」――これらとどう向き合い、いかに生活に取り込むか。村山氏は「日本がどこまでも平和な国であり続けることを願っている」との談話も発表したが、“平和”も健康長寿に欠かせないファクターの一つであるのは言うまでもない。
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