日銀のマイナス金利解除が近づいている…(2024年3月4日『毎日新聞』-「余録」)

衆院予算委員会に臨む日銀の植田和男総裁=国会内で2024年2月22日午後0時55分、竹内幹撮影 

衆院予算委員会に臨む日銀の植田和男総裁=国会内で2024年2月22日午後0時55分、竹内幹撮影

 日銀のマイナス金利解除が近づいている。好調な企業業績を追い風に今春闘での賃上げは昨春を上回ると期待されている。日経平均株価はバブル期を超え、史上最高値を付けた。外形的には機が熟しているように映る

▲過度な金融緩和の継続による弊害は顕著だ。歴史的な円安がエネルギーや原材料、食料などの輸入価格を高騰させ、家計や中小企業を苦しめている。異次元緩和からの出口への第一歩を踏み出すことが日本経済の喫緊の課題であるのは確かだ

▲気がかりなのは、企業と家計の景気認識が乖離(かいり)していることだ。第一生命経済研究所の分析によると、2022年度後半以降、企業の景況感が改善する一方、家計は悪化傾向にある

▲浮かび上がるのは「30年ぶりの高水準」と騒がれた昨年の春闘を経ても、賃上げが物価高に追いつかない「不都合な真実」だ。実際、厚生労働省の統計でも、物価変動を反映した実質賃金は昨年12月まで21カ月連続で減少している

▲日銀はマイナス金利解除の条件として「賃金上昇と物価上昇の好循環」を挙げる。人手不足も背景に企業の賃上げが続き、家計の購買力が高まって、個人消費が活発化するシナリオを思い描いている。ただし、想定通りにいく保証はない

▲日銀には00年にゼロ金利解除を急いだ結果、景気をかえって悪化させ、その後、デフレと金融緩和拡大の悪循環に陥ったトラウマもある。解除のタイミングを慎重に探る植田和男総裁の姿には「今度は失敗できない」との緊張感が漂う。