実質賃金5.5%減 確実な賃上げの流れを(2024年3月4日『沖縄タイムス』-「社説」)

 物価上昇に、賃金上昇が全く追いついていない。

 県内の5人以上事業所における2023年の実質賃金は、前年比5・5%減で、データのある05年以降の下げ幅として最大となった。

 実質賃金は、労働者が受け取った給与(名目賃金)から物価変動の影響を差し引いて算出した賃金。昨年の実質賃金指数は90・1となり、消費増税で過去最低だった14年を4ポイントも下回っている。

 物価高騰の影響を受け全国でも実質賃金は目減りしているものの、県内ではそれを上回る形で大幅に減少した。

 背景には、島しょ県という地理的要因などがある。物流コストがかかる県内は、燃料費や原材料費の高騰などあらゆる物価上昇の影響を受けやすい。

 多くの零細・小規模事業所で、そうしたコスト増を価格転嫁できていない。

 産業別の給与は昨年、15業種のうち5業種で前年比マイナスに。最も下げ幅が大きかったのは「教育・学習支援業」の20・5%減、続いて「学術研究等」の11・1%減だった。

 労働者数が多い「医療・福祉」でも給与が前年比で減少したことが全体を押し下げ、全産業の名目賃金は前年比1・4%減となっている。

 23年春闘は約30年ぶりとなる高水準の賃上げが実現し、全国ではほぼ全ての産業で賃金が上昇した。

 一方、県内で賃金上昇の動きは鈍い。30人以上の事業所でも上昇率は0・2%にとどまり、零細・小規模事業所ではそもそも賃金が上がっていないという実態がある。

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 フルタイム労働者の賃上げが進まないのが県内の特徴だ。

 5人以上の事業所におけるパートタイムとフルタイムの賃金指数は、パートが前年比0・5%増となった一方、フルタイムは1・0%減少した。

 要因の一つには新型コロナ禍で失った人材を取り戻せていないことがある。

 比較的賃金の低いパート労働者が増加し、1人当たり平均の実質賃金を引き下げた可能性がある。

 大企業を中心に賃上げが進む全国との差は広がるばかりだ。県内でも最低賃金(最賃)の引き上げなどで「経済の好循環」を促すことが求められる。

 厚生労働省の中央審議会は昨秋、最賃を全国平均で時給1002円に引き上げる目安額をまとめている。

 人手不足を解消し、零細・小規模事業所の賃上げを実現するため、県内でも最賃千円超えを目指し継続した引き上げが必要だ。

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 中小企業でも生産性を高め、さらなる賃上げにつなげる努力が求められる。

 そのためには、中小・零細企業に仕事を発注する大手企業側が、人件費を含めた適正な価格転嫁を受け入れることが欠かせない。

 実質賃金の低迷は県民生活の質にも直結する。特にひとり親世帯など経済的に困窮する層への影響は深刻だ。

 急激な物価上昇の影響を見極め、県など自治体には暮らしへの目配りもしてほしい。