歌劇団員急死/パワハラ防止へ改革急げ(2024年3月4日『神戸新聞』-「社説」)

 宝塚歌劇団宙(そら)組の俳優の女性が急死した問題で、遺族側の代理人弁護士が会見し、遺族の主張するパワーハラスメント15項目のうち、7項目について歌劇団側が認めたと明らかにした。これを受け、歌劇団は「当該経過報告について現時点でコメントすることは差し控える」とした。

 当初、歌劇団側はパワハラやいじめについて「確認できなかった」としていた。双方の見解にはなお隔たりがあるものの、ハラスメント行為の存在が確認されたことになる。

 言うまでもなくパワハラは人格や尊厳を傷つける行為であり、決して許されない。歌劇団を運営する阪急電鉄と親会社の阪急阪神ホールディングス(HD)は、早急に再発防止策に取り組まねばならない。


 女性は昨年9月、宝塚市内で死亡して見つかった。兵庫県警は自殺の可能性が高いとみている。遺族側がパワハラや過重労働の認定を求めたのに対し、歌劇団側は長時間の活動による心理的負荷だけを認めていた。なぜ事実の認識を変えたのか。歌劇団側は遺族のみならず、ファンや社会に対し説明する責任がある。

 見解が一致しないのは、上級生がヘアアイロンを女性の額に押し当てて、やけどを負わせた事案が故意かどうかなどの点だという。遺族側代理人は、パワハラに対する歌劇団の理解が乏しいと指摘した。

 会見では「姉の死を軽視している」と訴える女性の妹のコメントも読まれた。現役団員と明かした上で「宝塚は治外法権の場所ではない」などとし、歌劇団パワハラをした側の言い分のみを聞き、第三者の証言を無視していると厳しく批判した。

 自らの立場を恐れずに出した勇気ある発言であり、内部からの声という意味でも重みがある。歌劇団は真摯(しんし)に耳を傾け、遺族との合意に向けて問題を徹底検証すべきだ。

 双方が合意に至った場合、歌劇団側はその内容を公表せず、合意していない内容に限り公表する案を検討しているという。人の命に関わる問題について、起きた事実を明らかにしようとしない姿勢は理解に苦しむ。劇団が社会的な存在だという自覚に欠けているのではないか。

 管理責任を取るため、阪急阪神HDの角和夫会長が先月末、歌劇団宝塚音楽学校の両理事を退任した。角氏は遺族側に直接謝罪する意向を伝えているが、トップの理事退任のみで幕引きとはならない。


 阪急阪神HDと阪急電鉄は、企業全体の姿勢が問われていると重く受け止める必要がある。歌劇団は伝統的に上下関係が厳しく、閉鎖的だとされる。社会のルールを順守する劇団として再生させるために、組織の抜本改革から逃げてはならない。