タクシー不足 地域で議論を深める時(2024年3月4日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 上伊那地域で4月から、24時間営業するタクシー会社がなくなることになった。

 労働規制の強化や若年層の採用難で、深夜や未明に働ける運転手が足りなくなっているためだ。

 上伊那を地盤とするタクシー会社は2社。ともに午前2時から早朝の受け付けをやめる。

 運送業界の人手不足は全国的な現象だ。地方も大都市圏も、タクシーが不足して移動が制約される状況が広がっている。

 労働時間の厳格化は4月から始まる。その影響は「2024年問題」と呼ばれる。人手不足に根本的な解決策はなく、今後、上伊那と同様の対応を迫られる地域が出てくる可能性もある。

 未明にタクシーを使う機会は少ないので、大きな影響はない。そう受け止めた人もいるだろう。だが、離れて住む身内に一大事があった時など、多少無理して駆けつけねばならないこともある。

 深夜にバスや鉄道は動いていない。そんな場合に割高でもすぐ利用できる移動手段が確保されていること。それを暮らしに欠かせない要素とみることもできる。

 タクシー各社も社会的な使命は理解している。ただ営利企業である以上、経営判断は自由だ。

 深夜や未明に限らず、日中でもタクシーがあまりにつかまらない状況になれば、観光やビジネスへの影響は大きい。タクシーという交通機関をどこまで必須なものと捉えるか。自治体も関わりつつ、地域ごとに議論を深めるべき段階に来ている。

 県タクシー協会によると、23年3月時点の県内のタクシー運転手は、19年から約2割減って2594人。業界には、長時間労働と低賃金が若手のなり手不足につながっているとの声がある。

 待遇改善は欠かせない。それには、運賃引き上げによる利用者負担の増加なども避けられまい。

 同協会は、供給不足を生まないよう事業者同士で運行を調整する「相互扶助」を働きかけている。それでも不足すれば、一般ドライバーが自家用車で客を運ぶ「日本版ライドシェア」の導入検討なども呼びかけるという。

 海外で普及が進むライドシェアには、安全性確保などの観点で導入に批判的な意見もある。政府は昨年、タクシー会社による管理を条件に導入を決めている。

 一般の人が協力する方法はほかに、NPOなどによる「自家用有償旅客運送」の仕組みもある。困った時に頼れる足の確保へ、さまざまな手を尽くしたい。