ミャンマー国軍 「徴兵制」即座に撤回を(2024年3月4日『東京新聞「社説」)

 
 3年前のクーデターで政権を奪取したミャンマー国軍が、「徴兵制」を導入すると発表した。既に「市民に銃口など向けられない」と徴兵忌避の動きが広がり、国内は混乱している。民主政権を支持する国民が大半である以上、当然の拒否反応だろう。国軍は即座に徴兵制導入を撤回すべきだ。
 対象は18~35歳の男性と18~27歳の女性。2年間兵役に就く。専門職は最高45歳までで、兵役期間も長くなる。対象者は男女計約1400万人。拒否すると禁錮刑の罰則がある。地元メディアは「4月から、年間約5万人が徴兵される」と伝えている。
 唐突な強硬策の背景には、昨秋以来、国軍が、民主派と連携する少数民族との戦闘で劣勢に立っていることがある。国軍は、これまでに数百の拠点を失い、多数の部隊が少数民族側に降伏した。
 米国のシンクタンクは、35万人とされる国軍勢力が半減したと分析。士気も低下し、隣国タイやインドに逃亡する兵士も続出、国軍内ではミンアウンフライン総司令官ら幹部批判もささやかれているという。
 一方、徴兵制の発表直後から国外脱出を企図する人が急増。第2の都市マンダレーでは、パスポートを求める市民数千人が窓口に殺到、2人が圧死する痛ましい事故まで起きた。最大都市ヤンゴンのタイ大使館には、同国の観光ビザを求める市民が連日押しかける。
 本紙のオンライン取材に対し、若い世代は「自傷行為をしてでも徴兵を逃れる」(女子中学生)、「徴兵されたら殺し合いより降伏を選ぶ」(男子高校生)-など怒りと困惑の心中を明かしている。
 地元メディアは、特に国軍との戦闘の激しい国境地帯出身の若者は、自分の親族に銃を向けることになりかねない任務に激しい拒否反応があるとみる。徴兵制は、国軍の思惑とは逆に、反軍組織に加わる若者を増やす可能性もある。
 民主政権を武力で倒した国軍に政権を担う大義がないのは無論、徴兵制が奏功して勢力回復がなるとも思えない。ただちに休戦し、民主化へと戻るプロセスに入るべき時だ。今こそ、日本や東南アジア諸国連合ASEAN)など国際社会も、国軍への説得を本格化させてもらいたい。