選挙演説中に「ヤジ」を飛ばした市民が、警察官に排除された問題から"表現の自由"について考える話題のドキュメンタリー映画が、あすから富山市で上映されます。
監督に作品の見どころを聞きました。
【写真を見る】「増税反対!」政権批判の「ヤジ」を警察が排除 表現の自由とは?ヤジ排除問題を追ったドキュメンタリー映画が富山でも24日公開
嘉藤奈緒子アナウンサー:「富山市のミニシアター・ほとり座では、ドキュメンタリー映画『ヤジと民主主義』が、あすから公開されます」 市民:「安倍やめろ!安倍やめろ!」「これが民主主義か!?」 JNN系列HBCが製作した「ヤジと民主主義劇場拡大版」。
この映画は、2019年7月、参議院選挙期間中の札幌で、自民党候補の応援演説をしていた当時の安倍総理にヤジを飛ばした市民が警察に排除されたほか、年金政策に批判的なプラカードを掲げようとした女性が、「道路に出たら危ない」などの理由で、その場から移動させられた問題を4年間にわたって追ったものです。
映画では、ヤジを飛ばした人たちの背景やその思いを取材するとともに、「迷惑だ」といって異質なものを排除する社会の風潮も描かれています。
監督を務めるのは、HBC北海道放送で数々のドキュメンタリーを制作してきた山﨑裕侍さんです。
嘉藤奈緒子アナウンサー:「映画は、ヤジを飛ばした男女2人が軸となって進んでいきますが、2人は、人としての存在そのものを否定するわけではなく政権・政策への反対意見を述べていただけ。
しかし、恐ろしいほど無理やりその場から排除されました。このようなことは、どうして起こってしまったのでしょうか」 ヤジと民主主義・山﨑裕侍監督:「警察の説明は、『危険が及びそうだ』とか『犯罪を未然に防止した』といった説明をしているんですけれど、やはり札幌地裁の判決で言及されているように、安倍総理の演説会場で、安倍総理にヤジを聞かせたくなかった、要するに時の権力者に忖度したのではないか。それ以外に考えられないと思いますね」 ■ヤジ排除問題を取り上げるきっかけは 嘉藤奈緒子アナウンサー「実際に今回取材をするきっかけというのはどこから始まったのですか?」
ヤジと民主主義・山﨑裕侍監督:
「実はあの排除の現場に、HBCのオフィシャルなカメラはなかったんです。全部視聴者映像なんです。最初は他社のスクープで、その記事を見て我々は『現場でそんなことが起きていたのか』と初めて知って、映像を集めました」
ヤジと民主主義・山﨑裕侍監督:
視聴者映像を見た瞬間に、僕は当時アメリカとかロシアで市民が警察に拘束されたりする映像を、海外のニュースとして見ていたんですけれど、それが札幌でまさしく起きたという…びっくりしたんですよね。一体警察はなんでそんなことをしたのか、どういう法的根拠があったのかというのを知りたくて、継続取材をした」
しかし、気が付くとほかのメディアは報じることをやめ山崎監督は危機感を感じたといいます。
ヤジと民主主義・山﨑裕侍監督:
「このまま僕らの報道が終わると、市民も忘れてしまうんじゃないか、あの排除がなかったことになってしまう、あるいは次の排除を許してしまうんじゃないかという危機感があって、続報をするのをやめられなくなったんですね。それが番組になり、今回映画までなった」
■警察官は指示を受けて排除をした
嘉藤奈緒子アナウンサー:「映画を見て、女性警察官が(ヤジを飛ばした)桃井さんを2キロにも渡って追いかけて、話す内容も『お願い、お願い、あきらめて。ジュース買ってあげるから』という小さな子どもを手なずけるような形で話をしていて、もやもやした気持ちになりました。そして、どうしてあんなに大勢で取り囲む必要があったのか、疑問に感じます」
ヤジと民主主義・山﨑裕侍監督:
「当時の安倍政権は、メディアや警察も含めて、自分たちのコントロールを強めていたんですね。警察の力を使って何か自分たちが思うことを実行しようとしてきた政権。警察はあのヤジの排除を警察官たちが自分の判断で行ったと説明しているが、元北海道警察のOBに話を聞くと、『どこかからの指示がないと排除はしない』と。よく見ると、警察官は無線で指示を受けながら排除しているんです。
彼らは何らかの命令があって行動していると考えないと説明ができない。ただ、警察官一人ひとり、政権批判の声を飛ばすことが市民の権利だということも分かっていなかったと思うんですよね。」
嘉藤奈緒子アナウンサー:「
この問題を取り上げる上で、大杉さんと桃井さんの存在は大きいですよね。社会や警察と戦う2人の姿は、どう映りましたか?」 ヤジと民主主義・山﨑裕侍監督:「今はデモをしても迷惑だとか、警察に抗議する人に対しての誹謗中傷がインターネットである中で、おかしいことはおかしいと、きちんと声を上げる。名前も声も出して。それは勇気がいることだと思います。今まで市民活動をしてきた人たちも、どこかであきらめてきたと思うんですよね。けれど彼らはあきらめなかった」 ヤジと
民主主義・山﨑裕侍監督:
もうひとつは軽やかだなと思います。大杉さんは、警察が出した動画に『ギャグセンスが高い』と言っていて。熱くなって周りが見えなくなるというよりも、そのような状況すらも楽しむ、笑う余裕があるのは大きいなと思います」
■市民は排除を無視していなかった 映画のテーマである、
ヤジ排除問題。この問題を取り上げる上で欠かせなかったのは市民の存在です。 ヤジと民主主義・山﨑裕侍監督:「警察は周りにいたメディアのことを無視して、ああいう排除行為をしたんですけれど、僕らは、本人も含めて周りにいた人たちが映像をちゃんと残していたからこそ、この事実が明らかになった。
つまり、周りにいた人はあの排除を無視していなかったんです。それが市民の力というか…」 市民が撮影した動画から始まった、継続取材。テレビ番組の枠を超えて、映画を作った理由とは。
ヤジと民主主義・山﨑裕侍監督:
「テレビ番組で短いニュースだと、編集しますよね。ヤジで排除された場面も、ものの10秒ほどしか見せられない。そうすると、『変わった人が警察に排除された』といった伝わり方をしてしまう。けれど、映画のようにノーカットで見せることで、彼が何をしようとしたのか、警察の行動のおかしさというものが分かる。また今回、大杉さんや桃井さんという排除された人が、一体どんな思いでヤジを飛ばしたのか、どんな生き方をしてきたのか、ヤジを飛ばす前の物語を手厚くしたんです。テレビ番組で伝えることのできなかった部分を映画で表現できたと思います」
嘉藤奈緒子アナウンサー:「全国でも話題となっている今回の作品、いよいよあす公開です。見られた方に何を一番伝えたいですか?」 ヤジと民主主義・山﨑裕侍監督:「ヤジという一見すると小さな権利が奪われた出来事かもしれませんけれども、これが誰かに起きた遠い出来事だと思っていると、いつのまにか自分の大事な権利も奪われてしまうことにつながる恐れがあります。ここで起きたことが、いつか自分の身にも起きる可能性があるという風に感じてもらえれば」 映画『ヤジと民主主義』は富山市総曲輪のほとり座であすから来月8日まで上映。 あすの上映後は、山崎監督の舞台挨拶も行われます。
【関連記事】