避難所暮らしの「大」問題は「便秘」 専門家のアドバイスは? 言い出しにくいから我慢しがち…腹痛で救急搬送も(2024年3月3日『東京新聞』)

 能登半島地震で避難所生活が長引く中、喫緊の課題に浮上しているのが「便秘」の問題だ。周囲に悩みを言い出しづらく、命に直結しないとして後回しになりがち。だが、深刻な状況を引き起こすこともある。避難者の健康支援に当たっている「排泄(はいせつ)ケア」専門家、榊原千秋さん(62)と石川県小松市の2次避難所を巡った。(木原育子)
参加した女性にマッサージの方法を教える榊原さん(上)=石川県小松市粟津温泉の旅館ロビーで

参加した女性にマッサージの方法を教える榊原さん(上)=石川県小松市粟津温泉の旅館ロビーで

 2月28日、石川県小松市粟津温泉の旅館ロビー。榊原さんの周りに、2次避難中の女性が集まっていた。

◆排せつのプロが勧める「セルフケア」

 榊原さんが「皆さん、身体たいそないけ?(疲れてない?)」と声をかけると、女性たちは1度目は「なーんも、なんともないけ(大丈夫)」などと気丈に返した。ただ、その表情はどこか不安げで、榊原さんが「ほんとけ?(本当に?)」と促すと、どこからともなくようやく「お弁当ばかりで野菜が」「便秘で…」と胸の内を語り始めた。
 榊原さんは「便の悩みは言いにくいかもしれないが、我慢すると余計に便が硬くなり出にくくなる」と呼びかけ、「慣れない避難所生活で緊張感もあるかもしれないが、納豆やオクラなどねばねばした水溶性食物繊維やオリゴ糖を効率よく取れば大丈夫」と話した。
 榊原さんは保健師であり、看護師であり助産師。2015年に小松市内に排泄ケアの相談拠点となる「うんこ文化センター おまかせうんチッチ」を開設し、排泄の大切さを学ぶ「便育」や、「POO(プー)マスター」と呼ばれる排便ケアのプロフェッショナルの養成に尽力してきた。

◆震災後「5回しか出せていない」深刻な例も

 そんな榊原さんは地震発災直後から、奥能登特別養護老人ホームや福祉避難所を視察。「(手袋をして便を肛門からかきだす)摘便をしたと聞いたが、ケアできる人材も限られている。いかに日ごろから自身でケアできるようにしておくかだ。震災で学んだことだ」と振り返る。
避難所入り口に設置された仮設トイレ=1月5日、石川県輪島市で

避難所入り口に設置された仮設トイレ=1月5日、石川県輪島市

 榊原さんによると、長引く避難生活で便秘による腹痛で救急搬送された人や、今年に入って5回しか大便がないなど深刻なケースも出始めているという。
 この日も榊原さんは、便秘気味の女性らにマッサージを実施。榊原さんは女性の腹部に手を当てながら、「ここをもみほぐすと出やすくなりますよ」などと、「うんちが出るツボ」を伝授していた。

◆子どもの食育はしても「出すこと」は学ばない

 排便の悩みは大人だけではない。NPO法人日本トイレ研究所(東京)が小中学生を対象に実施した23年調査でも、7日間のうち、「排便日数2日以下」「硬便2回以上」のどちらか、または両方に該当する児童は小学生全体で26.3%。子どものころからすでに4分の1の割合で、すっきり出せていない環境であることが分かる。
 研究所の加藤篤代表は「子どもたちの学びに、食育や体育はあるが、出すことは学ばない。自分が便秘だと認識しないまま大人になっている」と指摘し、「避難所では睡眠不足、運動不足、食事の偏りの全てが押し寄せ、安心できるトイレがないことも拍車を掛けて、便秘が常態化してしまう可能性がある」と続ける。
 榊原さんも排便の大切さを説く。「大便は身体からの『大』きな『便』りといえる。今日見たうんちが、ここ数日の生活の答え合わせになる。避難所生活でも気持ち良くうんちを出してもらえるよう、しっかりサポートしていきたい」