岸田文雄首相や自民党安倍派の幹部らは、国民の疑問の核心がどこにあるか分かっていたはずだ。それに応えないまま「幕引き」を図ることは許されない。
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、衆院政治倫理審査会が2日間にわたって開かれた。
1日目は党総裁の岸田首相と二階派事務総長の武田良太元総務相、2日目は西村康稔前経済産業相や松野博一前官房長官ら安倍派の事務総長経験者4人が審査対象になった。
最大の焦点は、ノルマ超過分のパーティー券販売収入を政治資金収支報告書に記載せず、裏金化していた経緯がつまびらかになるかだった。
最大派閥の安倍派では、大半の議員がそうした政治資金規正法に背く処理をしており、自民党の聞き取り調査報告では、20年以上前からの慣行だった可能性も指摘されていた。
組織的に違法行為を続けていたと批判されても仕方ない不記載はもともと誰の発案で、目的は何だったのか。
派閥からの資金還流は、安倍晋三元首相が一昨年、西村氏ら幹部と協議し、とりやめを決めたが、安倍氏の死去後に復活した。還流再開も幹部が話し合った上での判断と考えるのが普通だろう。
自民党の調査がこれらの点に曖昧さを残したことで、国民が政倫審を通じて明らかにしてほしいと思うのは当然だ。
ところが、政倫審に臨んだ安倍派幹部の説明は、従来の範囲内にとどまり、新たに判明した事実はなかったと言わざるを得ない。
資金還流が始まった時期や関わりについて松野氏は「存じ上げない。収支報告は事務総長の担務ではない」とし、資金の「不正利用はない」と主張。西村氏は幹部の違法性認識に関わる還流復活に対し「経産相就任以降の話で、経緯は承知していない」と述べた。
武田氏も事務方の会計責任者に任せ、政治資金の違法な処理は「存じ上げなかった」と答えている。
今回の衆院政倫審は規程に基づき、議員本人の申し出を受けて開催された。事件発覚時は還流の実態を把握していなかったとしても政倫審出席に際しては、資金還流の経緯について事情を知るとみられる関係者にただしておく必要があったのではないか。
安倍派で言えば、派閥会長を務めていた森喜朗元首相が当たる。西村氏は、第三者の確認が適切だと述べたが、それが実行できるならなおいい。自民党は第三者による再調査に取り組むべきだ。
塩谷立元文部科学相や高木毅前国対委員長を含め安倍派幹部の証言によっても疑問が解消されなかったのは、前日の政倫審に出席した岸田首相の姿勢が影響したはずだ。
首相はこれまでの国会答弁を繰り返したり、自民党の調査報告をなぞったりするだけで、説明責任を果たしたとは言えなかった。首相以上に踏み込んだ発言はできないとの考えが働いたことは否めまい。
今週から参院に移る2024年度予算案の審議は重要ではあるが、自民党内では、茂木敏充幹事長らの後援会組織で不明朗な会計処理も判明している。首相が言う通り政治への信頼なくして政策は推進できない。「政治とカネ」問題の徹底解明が求められよう。(共同通信・鈴木博之)