子育て支援の財源 理解得る努力が足りない(2024年3月3日『毎日新聞』-「社説」)

 国民負担の議論を避けていては、日本が直面する喫緊の課題への対応に支障が出かねない。

 岸田文雄政権の看板政策である「次元の異なる少子化対策」の関連法案が国会に提出された。児童手当などに年3兆6000億円規模の予算が投じられる。

 焦点は財源の確保だ。医療保険料に上乗せして国民、企業から1兆円を徴収する「支援金」制度が新設される。児童手当や育児休業給付の拡充などの原資となる。

 全世代型社会保障を掲げる政府は支援金について、子育て世帯を支える「新しい分かち合い・連帯」の仕組みと位置づける。だが、実態は保険料の追加負担だ。

 国民の理解が進まないのは、岸田首相が「実質的な追加負担はない」と言い続けているためではないか。

 支援金は国民1人当たり月500円弱になるとの見通しを首相が示したところ、「実質増税だ」との批判が噴出した。このため、子ども1人当たり18歳までに平均146万円相当の恩恵を受けられるとの試算を公表した。負担は小さく、恩恵は大きく見せようとする意図がうかがわれる。

 政府は医療・介護などの歳出改革が着実に進めば、社会保険料が減り、支援金の負担分は相殺できると説明する。

 しかし、歳出改革の実効性は不透明だ。高齢者の増加に伴い社会保障費が増す中、削減は容易ではない。利用者負担の引き上げにも限界がある。

 賃上げを実現して国民の負担感を和らげるというが、企業によって業績や体力には大きな差がある。賃上げ頼みでは心もとない。

 新たな負担が生じないかのようなつじつま合わせを続ければ、国民の不信感は増すばかりだ。

 そもそも、社会保障費の枠内で財源を確保しようとしているところに無理がある。

 消費増税などの選択肢も排除すべきではない。

 2023年の出生数速報値は、過去最少の75万人台となり、少子化が加速している。歯止めをかける対策を急がなければならない。

 そのための有効な政策を打ち出し、必要な負担について、丁寧に国民の理解を求めていくのが政治の王道である。