GDP4位に転落 豊かさの基準見つめ直そう(2024年3月2日『河北新報』-「社説」)

 「転落」と「史上最高」が同時期に伝わった状況は、日本経済のひずみを感じさせる。成長至上主義の行き着く先と豊かさの意味を考え直す機会にすべきではないか。

 日本の昨年の名目国内総生産(GDP)がドイツに抜かれ、世界4位に転落した。背景には、為替や両国の物価上昇ペースの差による影響だけではなく、日本経済の長期低迷があろう。

 GDPは一国の経済規模を測る代表的指標であり、経済大国としての影響力低下を懸念する専門家も少なくない。

 一方、日経平均株価が先月22日に史上最高値を更新し、終値で3万9098円とバブル経済期を超えた。きのうは3万9910円となり、4万円台に迫った。海外投資家の関心も高く市場は沸くものの、物価高に苦しむ庶民は好景気を感じられずにいる。

 内閣府によると、日本の中長期的な経済の実力を示す潜在成長率は本年度0・8%の見通しだ。1980年代には3~4%台だったが、90年代以降、資本投入と労働投入の縮小で急降下した。このまま少子高齢化が進めば、日本経済は一段と縮小するだろう。

 打開するには内需拡大が鍵となるが、物価上昇のペースに、約7割の人々が働く中小企業の賃上げが追い付いていくのは難しい。個人消費は低迷し、経済成長の下押し要因となっている。

 政府は潜在成長率引き上げのため、有望とされる脱炭素分野や人工知能(AI)への投資を加速させようとしている。設備投資や生産拡大を通じ、企業の業績を伸ばすことで、賃上げや消費拡大につなげる経済の好循環を目指す。

 日本は68年に旧西ドイツを当時の主要指標だった国民総生産(GNP)で抜き、米国に次ぐ世界2位の経済大国となった。だがバブル崩壊後はデフレに陥り、長期にわたって経済が低迷した。2010年には名目GDPで中国に抜かれて3位に転落した。

 ドイツは2000年代から解雇規制の緩和や就労促進などの労働市場改革に着手した。就業者人口は日本の約6割にとどまるが、生産性は日本より高いとされる。日本も少子高齢化の中で、生産性向上や構造改革にいかに取り組んでいくかが問われよう。

 世界を見渡せば、1%の富裕層が個人資産の4割を保有している。日本では富裕層が潤えば低所得層にも富が滴り落ちるとするトリクルダウン理論に基づきアベノミクスが進められたが、恩恵は富裕層にとどまった。再分配には程遠く格差は広がるばかりだ。

 高度成長期のように利益の最大化を求め大量生産・大量消費を続けていては一層の環境破壊につながり、持続可能な社会づくりからも懸け離れていく。経済成長一辺倒である「豊かさ」の価値基準を見直しつつ、数少ない資源や人材を効果的に活用できるような経済を築いていきたい。