音なき被災 健常者と学ぶ(2024年3月2日『読売新聞』)

訓練、学習会 県内広がる

災害時に、耳が不自由なことを知ってもらうためのバンダナを手にする浅井さん(右)ら(川西市で)
災害時に、耳が不自由なことを知ってもらうためのバンダナを手にする浅井さん(右)ら(川西市で)

 耳が不自由な人を災害時に支援するための防災訓練や学習会が県内で広がっている。

 手話通訳者の派遣を受けて健常者の訓練に参加したり、自治体の防災担当者と避難方法を確認したり。川西市では2日、防災士と協力した「耳の日の集い」が開かれ、体験談などを通じて、支援のあり方を考える。(望月弘行)

手話通訳者ら協力 2日 川西で体験語る集い

 耳が不自由な人は、サイレンや広報車の呼びかけが届かずに逃げ遅れることがあるほか、避難所では館内放送が聞こえずに支援情報が伝わらないこともある。外見から分かりにくい障害のため、孤立しがちになる。

 明石市は昨年度から、地域の防災訓練に手話通訳者と要約筆記者を派遣し、地元の住民と障害者らが一緒に避難所生活などを体験。西宮市では2月、防災セミナーが開かれ、耳が不自由な人ら約50人が防災担当者とともに、山や川、海沿いの地域に分かれ、豪雨や津波発生時の対応を確認した。

 宍粟市は、耳が不自由な人が意思を絵で伝える「コミュニケーションボード」を全避難所に配備し、防災訓練で毎年、活用している。

 川西市ではこれまで、市主催の防災訓練に手話通訳者の派遣などはなく、耳の不自由な人は参加しにくかった。そのため、川西ろうあ協会や川西難聴者耳の会など6団体が、「耳の日」(3月3日)にちなんだ集いのテーマとして初めて企画し、かわにし防災士の会の協力を求めた。

 「聴覚障害と防災~聞こえない人も聞こえる人も一緒に学ぼう~」と題し、手話通訳と要約筆記付きで、家具の転倒防止方法や防災グッズの使い方などを解説。耳が不自由な人が体験談などを語る。

 また、避難生活で直面する課題についてゲームを通じて意見を交わすほか、大地震で家具が「凶器」となる様子がわかる映像を上映。簡易トイレやベッドなども展示する。各コーナーに手話通訳者12人、要約筆記者10人を配置して、参加者同士の交流も促す。

 川西難聴者耳の会会長の浅井直美さん(50)は「豪雨や土砂崩れを音で感じられないことや、不安な避難所生活を知ってほしい」と話し、避難所などで障害を周囲に知ってもらうバンダナを巻く取り組みも紹介する。          

 「耳の日の集い」は2日午後1時半~同4時、川西市火打のキセラ川西プラザで。入場無料。

手話、文字で伝える手段を 

聴覚障害者情報センター ハンドブックで紹介

災害支援ハンドブックで紹介している聴覚障害者にやさしい避難所のイメージ図
災害支援ハンドブックで紹介している聴覚障害者にやさしい避難所のイメージ図

 県立聴覚障害者情報センター(神戸市灘区)によると、阪神大震災では、避難所で救援物資が配布された際、校内放送や拡声機で案内されたため、耳が不自由な人は配給の列を理解できず、受けられないことがあった。役所の事務手続きでも十分な説明を受けられなかったという。

 センターは2011年に「聴覚障害者 災害支援ハンドブック」を発行。耳が不自由な人が災害時に困ることや支援の留意点を解説した。昨年1月には改訂版を出し、手話や文字による緊急放送を受信できる装置や、ホワイトボードを配備した避難所のイメージ図を紹介。自治体職員の学習会を開いて、現場での活用を求めている。

 センターは「防災の取り組みを通じて地域のつながりを増やし、共助の体制を強化することが大切だ」としている。

兵庫の最新ニュースと話題