最新研究で判明! “幸福度が高い企業”は社員の95%が月曜日に「出社したくてたまらない」らしい…何が違うの?(2024年3月1日『日刊ゲンダイ』)

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 誰でも幸せになりたいと思うだろう。最近は科学的にもその正体が明らかになっているという。

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 効率や利益を重視する拡大路線の経済は、環境の悪化や貧富の広がりなどをともなって、行き詰まっている。そのかわりにあらゆる面で重視されるのが持続可能性だ。ウェルビーイングや幸福学も持続可能性と結びつき、企業も積極的に取り入れているという。

「価値観や社会的な背景が大きく変わったことがポイントです。経産省は健康経営を推奨し、企業は健康への関心が高まったほか、働き方改革の定着で、働く人一人一人が多様な働き方を選択できるようになっています。そんな社会の変化が重なって、よい状態がより長く続くことが重視されるようになりました。その一方、幸福に関する心理学の研究も進み、職場や教育などあらゆる分野での科学的な知見も重なっています。たとえば、幸せな社員は、不幸せな社員より創造性が3倍高く離職率も低い。幸福度の高い会社は利益が出て、株価も高く、企業価値も高いという研究結果もそろっています。社会的な変化や価値観の変化と幸福学研究の結果から、生産性や創造性を上げるため、そういうことへの投資の動きも早い。幸福学の考え方はまず企業で広まり、地域や家庭へと拡大すると思います」

 これまで幸せの視点で重視されたのはカネやモノ、地位など客観的幸福で地位財と呼ばれた。価値観の変化でいまは、健康や自由、愛情など主観的幸福が重視される。そう、周りとの比較ではなく、自分の気持ちが重要だという。

「哲学や宗教などで重視された主観的幸福は、認知科学や心理学、統計学などの分野の研究でも盛んに取り入れられています。私たちの研究グループは、日本人1500人を対象に心的要因についてのアンケートを実施。その回答を統計処理して解析した結果、幸せについての4つの因子を特定できました。幸せのあり方は多様でも、その基本はこの4つに左右されるのです」

 では、4つの因子とは何か。「やってみよう因子」「ありがとう因子」「なんとかなる因子」「ありのままに因子」だという(別表)。

 医学的には、幸せとホルモンの関係は明らかになりつつある。収入や地位の上昇など地位財などによる幸せで分泌されるのはドーパミンだ。報酬ホルモンと呼ばれる。一方、感謝したり、優しい気持ちになったりすることで分泌されるセロトニンオキシトシンは別名愛情ホルモンや幸福ホルモンで、セロトニンが不足すると、イライラしたり、うつ状態になったりしやすいという。

「あいさつ」「掃除」「コミュニケーション」
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 前野氏は日本各地の企業と幸福度の関係についても研究している。どうしたら会社の幸福度は上がるのか。

「まず、『社員が幸せに働けることが会社にとって良いことなんだ』と経営者や社員が気づくことです。つらくて苦しい仕事でも給料のために働くのが日本の常識でしたが、幸福度が高い企業は『従業員を幸せにしたい』という経営者の思いや理念が強く、会社全体にも広がっているのです」

 幸福度が高い企業は何が違うのか。まず、その代表として名前が挙がったのは、「かんてんぱぱ」の伊那食品工業(長野県)、ネジ製造の西精工(徳島県)、産業廃棄物処理業の石坂産業(埼玉県)、トヨタ系ディーラーのネッツトヨタ南国高知県)の4社だ。これらの企業では、「あいさつ」「掃除」「コミュニケーション」の徹底が共通しているそうだ。

「社員が顔を合わせると、目を見て大きな声であいさつします。掃除をみんなで行うので、工場はピカピカ。朝礼は毎日1時間行い、理念の浸透や改善提案など全員で一体化、共有した上で毎日活動しています。その結果、伊那食品工業ネッツトヨタ南国では95%の社員が『月曜日には会社に行きたくてたまらない、早くみんなと一緒に働きたい』という思いですから衝撃的。日本企業でも、こんなことが可能なんです(笑)」

 伊那食品工業の社是は「いい会社をつくりましょう たくましく そして やさしく」で、会社の売り上げ目標はナシ。社員が幸せなら結局はちゃんと利益が出るという考え方だ。一人一人が生き生きと働き、自分たちの考える仕事をしてほしいという方針が徹底しているそうだ。

 当然、社内のムードはすこぶるいい。学校の文化祭や運動会の準備や遠足前日のワクワク感で働いているような雰囲気だという。

「幸福度が高い企業の社員は“仕事を楽しみ”にしているのです。たとえばネジひとつ作るにしても、『みんなで力を合わせて社会をつくっているんだ』という充実感を持っていると、仕事も生活も楽しくなりますよね。どの会社も私が本で書いてきたようなことが実践され、理論的に明らかになっている幸福行動がすべて定着しているのです」

 

弱みを見せて助けてもらう

 

慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司氏(C)日刊ゲンダイ


 幸せの4因子をもとに、幸せに生きるコツがあるという。

「たとえば自己開示をすることです。相手に自分を見せなければ深いコミュニケーションはできません。たとえ仕事で失敗しても隠さず、仕事を進めるためにみんなで話し合う方がいい。弱みが人間味で、弱みを見せると周りに助けてもらえますから。ネッツトヨタ南国では、経営者は給料を公表して古い車に乗って、体を張っています。トップの頑張りに加えて、従業員の給与は一律で上がるのですから、社員は一丸となって頑張ります」

 組織に所属していないシニアはどうか。

「基本は企業に属する人と変わらず、前向きな生き甲斐と利他の精神です。たとえば社会貢献するボランティア活動などは幸せの条件を満たしています。感謝されることで人間関係も円滑になります。人助けでワクワクすれば、ドーパミンセロトニンも両方分泌されますから、家でゴロゴロしているよりいい。ただ自己犠牲になりすぎるのはよくないので、人によります」

 感謝の気持ちを示すのは人間関係の潤滑剤。前野氏も幸福学を応用して、夫婦仲がますますよくなったそうだ。

 まずは周りの人への「ありがとう」から始めよう。