育児中のストレス、腸内細菌の多様性低く 京都大学(2024年2月29日『日本経済新聞』)

 

京都大学などは、育児中の母親の腸内細菌の状態と抱えているストレスとの関連性を明らかにした。育児のストレスが高い母親は、腸内細菌の多様性が低かった。研究成果は、育児中の親の心身の健康を支援するための対策につながるとみている。

育児中のストレスは、親の精神疾患児童虐待のリスクを高める要因の一つだ。約3割の母親に産後うつの症状がみられるという国内の報告もある。

研究チームは、育児中のストレスやストレスから回復する力を評価する指標として、腸内細菌に着目した。腸内細菌は、免疫系や自律神経系を介して脳と関連しているとされる。

欧米を中心としたこれまでの研究で、腸内細菌の組成や多様性がうつ病や不安障害などの精神疾患に関連することが知られている。ただ、妊娠や出産によって身体が弱っている産後の腸内細菌の状態と、心の状態の関係性はよくわかっていなかった。

0〜4歳児を育てる母親339人を対象に、育児にまつわるストレスと身体の症状、腸内細菌の状態を調べた。便に含まれるRNA(リボ核酸)を解析し、腸内細菌の多様性と組成を調べた。

世界的に標準化されている質問票による調査で、育児ストレスが高い状態にあるとされた約2割の母親は、腸内細菌の多様性が低かった。腸内細菌の多様性が高い方が、心身の状態にとって良いことがこれまでの研究でわかっている。

研究チームは動物実験やヒトへの臨床研究などによって、腸内細菌の状態を改善すると心身の状態が変化するかどうかを確かめていくのが重要と指摘する。研究成果は、英科学誌「コミュニケーションズ・バイオロジー」に掲載された。

出産後の母親の健康状態を継続的に把握するシステムは現在ないが、乳幼児健診の機会などを生かして、母親の心身の状態を把握して支援する対策の実施を目指す。