岸田首相と政倫審に関する社(論)説・コラム(2024年3月1日)

 

 

衆院政治倫理審査会の冒頭、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件について陳謝する岸田文雄首相=国会内で2024年2月29日午後2時8分(代表撮影)

 

政倫審での首相 「説明責任」には程遠い(2024年3月1日『北海道新聞』-「社説」)

 自民党派閥の裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会(政倫審)がテレビ中継を含む公開で開かれ、岸田文雄首相が党総裁として出席した。現職首相の出席は初だ。
 しかし、首相はこれまでの衆院予算委員会での答弁と同様に「確認できない」などと繰り返し、真相究明に向けては意気込みを強調するばかりだった。
 これでは自ら名乗りを上げて出席した意味がない。裏金づくりの実態を明かさなければ、説明責任を果たしたとは到底言えまい。
 首相は真相究明なしには一歩も先に進めないことを肝に銘じなければならない。
 自民党の自浄能力の乏しさと、統治不全は目に余る。
 公開での政倫審出席を拒んでいた議員が、首相の出席表明によって、ようやく登壇を決めた迷走ぶりがそれを象徴している。
 国民に向き合う姿勢がなければ政治不信は拡大する一方だ。内向きな自己保身は捨て去るべきだ。
 首相は、安倍派が裏金づくりをいったんやめると決めながら復活した過程などについて「残念ながら、はっきりした経緯や日時などは確認できていない」と述べた。
 政治資金の制度改正については会計責任者だけでなく政治家の責任も問う連座制の導入に前向きな意向を表明したものの、それ以外に踏み込んだ発言はなかった。
 こうした従来答弁が繰り返されるのは予想されたことだ。十分な説明の準備もせず、首相は政倫審の場で一体何をしたかったのか。
 首相に続いて登壇した二階派事務総長だった武田良太氏も「虚偽記載は全く存じ上げなかった」などと述べるのみだった。
 このままでは予算案の衆院通過をにらみ、自民党が政倫審を国会対策の駆け引き材料としか見ていないと疑われても仕方あるまい。
 そもそも当初、非公開にこだわり続けた政倫審の対象議員たちには、国民への説明責任を果たす意思がどれだけあったのか。反省の色がまるで見えない。
 自らの意思で出席できる政倫審は弁明の機会でもあり、偽証罪に問われる証人喚問などに比べて出席のハードルが低いと言われる。
 そうした場での説明にさえ、後ろ向きなようでは、国民の疑念がかえって高まるのは当然だ。
 きょう2日目の政倫審では、組織的に裏金づくりをしてきた安倍派の元幹部4人が出席する。
 初日のようなあいまいな答弁が続くのであれば、参考人招致や証人喚問に踏み切るのが筋である。

 

首相の政倫審出席 これが「説明責任」か(2024年3月1日『東奥日報』-「時論/『山形新聞』-「社説」/『茨城新聞山陰中央新報佐賀新聞』-「論説」)

 政治の信頼回復へ勝負に出たつもりかもしれないが、安倍派幹部を引っ張り出す効果はあっても、肝心の裏金事件の実態解明に向けた熱意は乏しく、これまでの国会答弁を繰り返すだけ。これでは説明責任を果たしたことにはならない。

 岸田文雄首相が衆院政治倫理審査会に出席した。疑惑が持たれた議員が説明責任を果たす場として設置されている政倫審で、現職首相が初めて弁明した意味は極めて重い。

 しかし、最大の焦点である安倍派の政治資金パーティーを巡る裏金事件については、関係議員からの党執行部の聞き取り調査に立ち会った弁護士の報告書をなぞるだけに終わった。誰がいつから何のために組織的な裏金づくりを始めたのか、派閥の幹部たちは違法行為を知りながらなぜ黙認したのか、裏金を受けた個々の議員は何に使ったのかといった核心部分を、報告書は全く解明していない。党の調査に限界があるのは明らかだ。

 今回、首相は「自民党総裁として」、政倫審出席を決断したという。ならば、真相に迫るために、第三者機関に調査を委ね、聞き取りの対象を広げ、歴代幹部を集中的に聴取、議員一人一人の使途をより詳細に説明させるなど別の方法を考えなければならないだろう。

 とりわけ、20年以上前から始まっていた可能性を指摘されたのだから、安倍派の前身、森派で会長を務めた森喜朗元首相のヒアリングは不可欠だ。それを言下に否定するのであれば、事実関係の解明に後ろ向きと批判されても仕方あるまい。

 もう一つ、首相には自身に関わる問題があった。大規模なパーティーの自粛を求めた大臣規範がありながら、就任後の2022年に7回にわたりパーティーを開催、21年分も含め計約1億5510万円の収入を得ている。

 さらに、首相就任を祝う会を主催した任意団体が収益の一部とみられるカネを首相の関連政治団体に寄付していた問題も表面化。首相は「地元政財界が発起人となり、政治団体とは異なる任意団体が開催した純粋な祝賀会」と釈明するが、参加者に宛てた文書は問い合わせ先に岸田事務所の連絡先を記載していたことから、野党は「脱法行為だ」と批判する。

 このうち、首相自身のパーティーについては、政倫審で野党側に再三詰め寄られた結果、ようやく在任中の開催はしないと表明した。ただ、これまで「大規模ではない」などと逃げ腰だったことは、改革への姿勢に疑問符が付いたのも事実だ。

 自民党が変わらなければならない、自らはその先頭に立つと言うならば、後者の任意団体によるパーティーも、好ましくないときっぱり宣言すべきではないのか。そうでなければ、派閥のパーティーを禁止しても、あの手この手で抜け道を探してカネ集めをする風潮は止められないだろう。

 岸田派もパーティーに絡む政治資金収支報告書の不記載が発覚している。だが、資料が残っていないことなどを理由に、詳細な調査結果を報告することはなかった。

 岸田首相は何のために政倫審に出席したのか。公開の場での弁明に難色を示す安倍派幹部の背中を押すだけが目的だとすれば、国民に見透かされる。せっかくの機会に、踏み込んだ見解を語らなかった首相に、失望感が広がるのは避けられそうにない。(共同通信・橋詰邦弘)

 

首相出席の政倫審 説明責任果たしたと言えぬ(2024年3月1日『河北新報』-「社説」)


 組織的な裏金づくりの実態解明には、ほとんど前進がなかった。発言の中身は不十分な党内調査の域を出ず、果たして自ら党総裁として出席した意味があったのか、首をかしげざるを得ない。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会(政倫審)がきのう開かれ、現職首相として初めて岸田文雄首相が出席した。

 裏金づくりがいつ、どのように始まり、派閥や議員は何に使っていたのか。具体的な内容のある説明が期待されたが、冒頭の本人による弁明も質疑への答弁も、衆院予算委員会などでの説明とほぼ同じ内容にとどまった。

 岸田首相は自身の政倫審出席という奇策に出て、結果的に公開審査を拒む安倍派幹部らを引き出し、何とか政倫審の開催にこぎ着けた。

 前日には「志のある議員に説明責任を果たしてもらうよう期待している」と述べていたが、新たな事実や方針を示さぬ政倫審での発言は、むしろ後に続く議員のために「防衛ライン」を引いたようにさえ見える。

 裏金づくりが始まった時期は「判然としない」。その使途では「政治活動以外への支出、違法な支出をした議員はいない」。安倍派で長く続いていた還流の仕組みづくりに「森喜朗元首相が直接関わったとの報告はない」。

 いずれも自民党が15日に公表した調査報告書などで既に明らかになっていた内容だ。

 野党から調査が不十分だと指摘されても「捜査権限がない」「再発防止を考える上で重要だった」と逃げの姿勢に終始した。

 報告書は議員側に還流した資金の「主な使途」として懇親費用、手土産代、お品代など15項目を列挙しただけ。金額や使用日時もほとんど不明のままだ。

 民間では決してあり得ないずさんな処理に対し、多くの国民が憤っている現状をまだ理解していないのだろうか。

 一方、自身が頻繁に開いてきた政治資金パーティーが大臣規範に抵触しないと強弁したことも看過できない。

 政治資金収支報告書によると、岸田首相は収入が1000万円以上となる政治資金規正法上の「特定パーティー」を2022年だけで計7回開いており、その合計収入は1億4800万円に上る。

 01年に閣議決定された大臣規範は「国民の疑惑を招きかねない大規模な」パーティーの自粛を求めているが、首相は「疑惑を招くかどうかは各大臣らの判断」とした上で規範に反するとの指摘は「当たらない」と述べた。典型的な詭弁(きべん)というほかない。

 首相が率先垂範で説明責任を果たしたと評価する人は決して多くあるまい。きょう開かれる政倫審に出席する安倍派幹部はまさに疑惑の当事者だ。より詳細な説明が求められるのは言うまでもない。

 

首相の政倫審出席 政治不信は増すばかり(2024年3月1日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会が29日始まった。党総裁の岸田文雄首相が、現職首相として初めて出席。安倍派で2022年にいったん中止したパーティー収入の議員への還流を復活させた経緯について言葉を濁すなど、既に公表されている自民の調査結果の域を出ない説明にとどまった。

 これでは首相が何のために出席したのか分からない。国民の疑念に真摯(しんし)に応え、政治への信頼を回復しようという姿勢から程遠く、不信は増すばかりだ。

 政倫審で首相は「党総裁として自ら説明責任を果たす」と表明した。関係議員に説明責任を果たすよう求めることも強調。党としての関係議員の処分や、再発防止策として会計責任者だけでなく国会議員も責任を負う政治資金規正法の改正にも意欲を示した。

 その一方、大臣規範で自粛を求められている大規模な政治資金パーティーを就任後の22年に7回開催したほか、昨年12月にも開こうとしていたと追及を受ける場面もあった。首相は在任中はもう開催しないと述べた。

 政倫審は原則非公開だが、衆院での開催を巡っては、野党が全面公開を強く求めていた。非公開を主張する自民と折り合わず、大筋合意していた28日からの開催を延期した。首相が全面公開で出席する意向を示したことを受け、安倍派と二階派の幹部計5人も応じた。

 自民の調査では、18~22年で収支報告書に総額約5億8千万円もの不記載があり、衆参82人の現職議員が関与している。この重大さを踏まえれば、信頼回復に向け国民に見える全面公開での審査は当然だろう。

 首相が当初から公開に向け明確な指示を出していれば、政倫審は予定通りの日程で開催されたのではないか。今回は安倍派と二階派の幹部を出席させるため、自ら出席せざるを得ない状態に追い込まれた印象だ。

 国民の信頼を回復したいのであれば、他の出席者にも説明責任を果たすよう強く求めるべきだ。29日に首相と共に審査に臨んだ二階派事務総長の武田良太総務相は不記載について、元会計責任者から説明を受けておらず知らなかったと釈明した。派閥内で調べを尽くした上での説明なのだろうか。

 きょう1日は西村康稔経済産業相松野博一官房長官塩谷立文部科学相、高木毅前国対委員長の安倍派幹部4人が出席する。いずれもこれまで記者会見などで「経理や会計業務には一切関知していなかった」「(収支報告書を)見ていない」などと不記載への関与を否定している。

 国民が知りたいのは、裏金づくりが、いつ誰の指示で、どんな目的で始まり、誰が何に使ったのかだ。政倫審でもこれまでと同様の発言を繰り返すだけでは国会軽視も甚だしい。全面公開の場で説明を尽くすべきだ。

 

(2024年3月1日『山形新聞』-「談話室」)

 

▼▽医者や看護師が忙しく立ち働く病室に、突然植木等さんが現れる。治療中の患者に「棺おけの寸法を測らせていただきます」とおもむろに巻き尺を当てる。しばらくして、やっと場違いだと気付き「お呼びでない?」。

▼▽クレージーキャッツの往時の鉄板ギャグだ。昨日付本紙の世相漫画を見て思い出した方も多かったのでは。岸田文雄首相が「日本一の説明責任男」ののぼりを背中に掲げ「政倫審出席しま~す」と満面の笑みを浮かべる。タイトルはもちろん、植木さんの件(くだん)のせりふである。

▼▽今回の政倫審では、自民党派閥の裏金事件で疑惑を持たれた衆院議員5氏の責任を見極めるはずだった。しかし、公開を巡って態度が二転三転。野党が求めてもいなかった首相が出席を表明すると「やっぱり5人とも出ます」なのだからコントさながらの流れに見えてくる。

▼▽疑惑のセンセイ方は国民に向けて真実を話すことより、相変わらず内輪の駆け引きにとらわれているのだろうか。首相は昨日の政倫審で改めて説明責任を強調した。今日は安倍派4人の弁明と質疑に注目しよう。政治の世界にはもう「お呼びでない」向きがいるやもしれぬ。

 

政治倫理審査会/説明責任を果たしていない(2024年3月1日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 全面公開で行われたものの、国民が抱く多くの疑念はまったく晴らされていない。これで説明責任を果たしたと考えるのであれば、政治不信の払拭は不可能だ。

 自民党派閥の政治資金パーティ ー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会が開かれ、党総裁の岸田文雄首相が現職首相として初めて出席し、弁明した。

 首相は自身の派閥の政治資金収支報告書の不記載について「事務処理上の疎漏によるもの」と説明した。2022年に計7回開催され、1億円を超える収入を得た自身のパーティーについては「勉強会であり、政治資金パーティーではない」と弁明した。

 これまで予算委員会など国会で繰り返してきた答弁と同じ説明に終始した。大臣規範では大規模なパーティーは自粛が求められている。首相は自身のパーティーについて「在任中は開催しない」と明言したが、当然の判断だ。

 事件を巡っては組織的な裏金づくりの開始時期や目的、議員の使い道などに疑惑の目が向けられている。しかし首相は「党の聞き取り調査で関係者に質問を繰り返したが、はっきりした経緯や日時は確認できていない」と語り、真相解明への熱意は感じられなかった。

 総裁として「強い危機感」をにじませ、政倫審出席という異例の対応を見せても実態解明に進展がなければ、及び腰との批判は避けられまい。首相の信頼回復に向けた姿勢そのものに疑問符が付く。

 疑念を十分に払拭できる発言がなかったのは、これまで党が実施してきた調査が不十分であったことを露呈したともいえる。議員個人への聞き取りやアンケートにとどめることなく、調査を外部機関に委託するなどして真相解明に取り組む必要がある。

 岸田首相は政倫審で、会計責任者だけでなく政治家本人の責任を追及できる仕組みの構築、外部監視の強化、収支報告書のデジタル化―などについて党内で検討させていることを説明し、政治資金規正法の改正などに意欲を示した。

 これまで「政治とカネ」の問題が明らかになるたび、制度上の見直しが図られてきたが、さまざまな「抜け穴」が不正の温床となってきた。議員本人が違法行為に直接関与しなくても連帯責任を負わせる連座制の導入、企業・団体献金の全面禁止など、規正法の厳罰化検討は欠かせない。

 政治資金の透明性を向上させ、不祥事の根絶に取り組むことが急務だ。ザル法とも呼ばれてきた規正法の改正に向けた首相の指導力が問われている。

 

岸田首相と政倫審 何のために出て来たのか(2024年3月1日『毎日新聞』-「社説」)


 裏金づくりの実態を解明し、失われた政治への信頼を回復しようという意思が感じられない。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、衆院政治倫理審査会が開かれ、岸田文雄首相が出席した。自ら申し出たもので全面公開された。開催は15年ぶりで、現職首相の出席は初めてだ。

 冒頭、首相は党総裁としておわびし「説明責任を果たす」と語った。だが、予算委員会でのこれまでの答弁や、党の聞き取り調査の結果をなぞる姿勢に終始した。

 調査はあくまでも再発防止の観点を重視したもので、裏金づくりが続いてきた経緯については「確認できなかった」と弁明した。

 政倫審は、疑惑が浮上した時、政治的・道義的な責任の有無を審査するのが目的だ。新しい事実や今後の取り組みについて、何一つ具体的に明らかにしないのでは、何のためにわざわざ出席したのかわからない。

 岸田派についても、政治資金収支報告書の不記載額が約3000万円に上ったのは「転記ミスなど事務処理上の疎漏によるもの」と従来の説明を繰り返した。

 首相が大規模な政治資金パーティーを2022年だけで7回も開いたことは「勉強会」と言うばかりだった。追及されてようやく、今後、首相在任中は開催しないことを、渋々受け入れた。

 二階派事務総長の武田良太総務相は「経理だけは事務局長にすべて任せていた」と説明した。

 自身も派閥会長の二階俊博元幹事長も、虚偽記載は全く知らなかったというが、二階氏らに直接、聞かなければ真相究明にはつながらない。

 政倫審を巡っては、安倍派幹部らが非公開を求めて調整が難航し、首相が自ら出席を唐突に申し出るという窮余の策で、何とか開催にこぎつけた。だが、首相の姿勢は、来年度予算案の年度内成立を確実にするための道具として、政倫審を扱ったと見られても仕方がない。

 本来、首相に求められるのは、安倍派や二階派の幹部らに、裏金事件の経緯や使途を、国会ですべて明らかにするよう指示することだ。事件の実態解明を主導すべきである。さもなければ、政治不信は増幅するばかりだ。

 

首相政倫審出席 開いただけでは解明にならぬ(2024年3月1日『読売新聞』-「社説」)

 政治不信の高まりに対する岸田首相の危機感は伝わってきたが、これまでの焼き直し答弁に終始した。信頼回復にはほど遠い結果となった。

 自民党の派閥を巡る政治資金規正法違反事件を受け、首相と、二階派の事務総長を務めた武田良太総務相が、それぞれ衆院政治倫理審査会に出席した。

 首相は「なぜ政治資金の収支を明確にする当然のルールすら守れなかったのか。コンプライアンスの確立に向けた改革を進める」と述べ、「裏金」作りに関与した議員を処分する考えも示した。

 政治資金規正法の改正を念頭に「会計責任者だけでなく、政治家本人の責任を追及できるような仕組みを実現する」とも語った。

 しかし、こうした方針はこれまで予算委員会などでも表明しており、事件の実態解明につながるものではなかった。

 野党は政倫審で、首相が率いてきた岸田派のパーティーの収支報告書への不記載や、首相自身の政治資金について追及した。

 首相は岸田派の問題について「誰が売ったか不明なパーティー券収入が計上されていなかった。事務処理上のミスだ」と従来の答弁を繰り返した。

 だが、岸田派の元会計責任者は検察当局に略式起訴された。首相の言う単なるうっかりミスで刑事責任を問われるとは、不自然な印象が拭えない。

 政府は大臣規範で、首相や閣僚の大規模な政治資金パーティーの自粛を定めているが、首相は2022年に計7回のパーティーを開催し、「勉強会であり、問題ない」と説明してきた。

 立憲民主党野田佳彦元首相が政倫審で「全く反省していない」と批判すると、首相は「首相在任中は開催しない」と確約したが、勉強会が大臣規範に抵触していないという主張は変えなかった。

 大臣規範で自粛を定めたパーティーと、首相のパーティーはどう違うのかの説明もない。

 首相に続いて弁明に立った武田氏は、二階派の不記載について「全てを会計責任者に任せており、チェック機能が働かなかったことを反省している」と述べた。

 派閥からの還流金については自身の政治団体のパーティー収入として誤って計上していたと述べ、裏金作りの意図を否定した。

 立民の泉代表は政倫審後、「時間の無駄だった」と述べたが、独自の材料もなしに、政倫審開催や審査の公開を求め続けてきた野党にも責任があるのではないか。

 

政倫審で露呈した自民の深刻な統治不全(2024年3月1日『日本経済新聞』-「社説」)

 自民党は派閥の裏金問題の深刻さをきちんと認識しているのか。不正会計がここまで広がった経緯の解明は後手に回り、国会対応でも執行部の迷走ぶりが際立っている。批判を受けて公開での質疑に渋々応じるような姿勢では、政治の信頼回復はおぼつかない。

 衆院政治倫理審査会が29日に開かれ、岸田文雄首相と二階派事務総長だった武田良太氏が弁明した。3月1日は安倍派の事務総長経験者の塩谷立、高木毅、西村康稔松野博一の4氏が出席する。

 与野党は先週、政倫審の28日開催で大筋合意した。だが自民党は「原則非公開」のルールに沿った実施を求め、野党の反発で開催が遅れた。首相が公開の場で自ら弁明する考えを表明し、傍聴やテレビ中継も認める「完全公開」での開催がようやく決まった。

政倫審は様々な疑惑が浮上した国会議員が自ら申し出て審査を受ける。過去9件で傍聴や議事録閲覧などを一切認めなかったのは1件だけだ。公開方法をめぐる調整の遅れと混乱は、自民党の深刻な統治不全を露呈したといえる。

 審査の非公開は刑事訴追の恐れなど特段の事情がある場合に限るべきだ。東京地検特捜部による事件捜査と立件の判断がすでに示された今回のケースは当てはまらず、政倫審の規定も「原則公開」に見直すべきではないか。

 首相は29日の政倫審で、派閥の政治資金パーティー収入の還流について①遅くとも十数年前から行われていた可能性が高い②派閥側が還付金等を政治資金収支報告書に記載しないよう指導した例があった――との見解を示した。

 武田氏は資金還流の詳細は「事務局長しか知り得ない」との答えを繰り返した。実態解明にはほど遠く、裏金づくりが始まった経緯や使途は今後の焦点となる。

 野党側は自民党で不記載が見つかった衆院議員51人、参院議員32人(離党者を含む)の政倫審出席に加え、二階俊博元幹事長や萩生田光一政調会長らの参考人招致を求めている。参院での政倫審開催とともに調整を急ぐべきだ。

 自民党は今回の政倫審をめぐり安倍、二階両派の事務総長経験者を優先した。他の派閥幹部を含め、公開の場で説明責任を果たすよう執行部は強く促してほしい。

 国会での裏金問題をめぐる実態解明と責任追及を契機に、再発防止に向けた法改正の議論を与野党で加速していく必要がある。

 

政倫審に首相 全容解明にもっと努めよ(2024年3月1日『産経新聞』-「主張」)

 岸田文雄首相(自民党総裁)は衆院政治倫理審査会(政倫審)に出席し、自民派閥の政治資金パーティー収入不記載事件について弁明した。

 政倫審の開催は15年ぶりで、現職首相が出席するのは初めてだ。自ら審査を申し出て、全面公開で弁明に立ったのは妥当だ。ただし、その内容が十分だったとはいえない。

 首相は政治不信を招いたことを謝罪した。だが弁明では、還流資金の政治資金収支報告書への不記載をいつ、だれが、どのような理由で開始したのか、またその使途など、肝心な点は明らかにならなかった。

 「遅くとも十数年前から行われていた可能性が高い」などと記した党の聞き取り報告書をなぞり、「はっきりした経緯や日時などは確認できていない」と述べるにとどまった。質問者は一層の真相究明を求めたが、明確には約束しなかった。

 岸田派の政治資金収支報告書にも不記載があり、首相はこれまで「事務的ミス」と語ってきたが、政倫審でも納得のいく説明はなかった。

 これでは説明責任を十分に果たしたとはいえない。首相は党総裁として、今後も全容解明に努めねばならない。

 1日の政倫審には、安倍派で座長を務めた塩谷立文部科学相、事務総長経験者の松野博一官房長官、高木毅前国対委員長西村康稔経済産業相が弁明に立つ。包み隠さず真実を語るべきである。

 2月29日には二階派事務総長の武田良太総務相も弁明に立ったが、「経理だけは事務局長に任せていた」と繰り返した。同派の収支報告書の不記載についてもっと調べ上げ、誠意ある対応を求めたい。

 国会では政治資金規正法の改正が焦点となっている。首相は会計責任者だけでなく政治家本人も責任を負う規正法改正を党に指示していると強調した。政治家にも責任が及ぶ連座制の導入は欠かせない。

 首相はまた、収支報告書に不記載があった議員に関し「政倫審など説明責任の果たし方を踏まえ党の処分、政治責任について判断する」と述べた。処分に時間をかけるべきではない。

 首相と自民は国民から厳しい目で見られていることを、もっと自覚してもらいたい。自浄能力が問われている。

 

首相が政倫審に 裏金の解明には程遠い(2024年3月1日『東京新聞』-「社説」)

 

 自民党派閥による政治資金パーティー裏金事件を受けて開かれた衆院政治倫理審査会岸田文雄首相が党総裁として出席、弁明したが、内容は党役員による聞き取り調査結果の範囲にとどまった。説明責任を果たしたとは言えず、裏金の実態解明には程遠い。
 最も問われるべきは、裏金の使途や裏金づくりの仕組みをいつ誰が作ったのかだ。こうした点が不明のままでは政治責任を明確にできず、実効性のある再発防止策の法整備もできない。
 しかし、首相は裏金を「還付金等」と呼び「政治活動費以外に使用したり、違法な使途に使用した例も把握されていない」と強調した。政治資金収支報告書への不記載があった安倍、二階両派議員の言い分を繰り返すだけでは、裏金の実態に迫れるはずがない。
 安倍派による裏金づくりの経緯も「いつどのようにして始まったかは判然としないものの、遅くとも十数年前から行われていた可能性が高い」と、党の調査結果を引用しただけだった。
 長く同派会長を務めた森喜朗元首相の裏金への関与は、所属議員らへの聞き取りで「森氏が直接関わったという発言があったとの報告は受けていない」と述べた。なぜ本人から直接聴取せずに関与を否定できるのか。自民党が調査しないなら森氏を国会に呼び、事情を聴く必要がある。
 首相は2022年に7回開いた自身の政治資金パーティーについて首相就任前から続く「勉強会」であり、大臣規範が自粛を定めた「国民の疑念を招きかねない」大規模パーティーでないと強弁。
 立憲民主党野田佳彦元首相に繰り返し追及されてようやく、首相在任中は開催しないと明言したものの、反省の弁はなかった。
 岸田派のパーティー収入不記載も「事務処理上の疎漏」として意図的ではないと強調したが、追及を避けるために問題を矮小(わいしょう)化しようとしていないか。
 首相が政倫審での弁明を申し出たのは、公開の場での説明を渋る安倍派幹部らに国民への説明を促すためだったはずだが、首相自身が裏金の実態を解明する決意を示さないのなら、高まる国民の不信を払拭することはできない。
 1日には安倍派幹部4人が出席する政倫審が開かれる。実態解明の状況次第で、国会は参考人招致や証人喚問を躊躇(ちゅうちょ)すべきでない。

 

(2024年3月1日『新潟日報』-「日報抄」)

 

 朝刊連載「永田町天地人」で、本紙客員論説委員で政治ジャーナリストの後藤謙次さんが、国会に政治倫理審査会が設置されるまでの道のりを振り返っていた

ロッキード事件に端を発する金権批判の高まりで、政界は政治倫理の確立を宣言することを迫られた。そうした中、政倫審の設置と同じく1985年に議決されたのが「政治倫理綱領」と「行為規範」である

▼綱領はうたう。〈政治不信を招く公私混淆(こんこう)を断ち、清廉を持し、かりそめにも国民の非難を受けないよう政治腐敗の根絶と政治倫理の向上に努めなければならない〉。綱領制定から間もなく40年。自民党派閥の裏金問題を見るにつけ、この文言が一顧だにされてこなかったことが分かる

▼議員らに支給される手帳には全文が載っている。内容を知らないはずはない。綱領はこうも言う。〈疑惑をもたれた場合にはみずから真摯(しんし)な態度をもつて疑惑を解明し、その責任を明らかにするよう努めなければならない〉

岸田文雄首相が改めてこれを読んだかは分からない。ともかく、きのうは政倫審に出席し、やりとりを全面的に公開した。公開を渋っていた議員が、これに倣わざるを得なくなったのは間違いないだろう

▼とはいえ、やはり、と言わねばならないようだ。過去に開かれた際と同様に、きのうも疑惑の解明とは程遠い内容だった。綱領の言葉がないがしろにされる状況に変わりはない。きょうは、大規模な裏金づくりを続けてきたと指摘される安倍派幹部が出席する。

 

首相の政倫審出席 国民の疑問に応えていない(2024年3月1日『中国新聞』-「社説」)

 岸田文雄首相は、いったい何のために出席したのか。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けて、きのう開催された衆院政治倫理審査会での答弁は、国民の疑問に応えたとはとても言えない。

 はなから出席する意味を取り違えていたのではないか。弁明で「政治不信を引き起こしていることに自民党総裁として心からおわびを申し上げる」と述べた。今回の政倫審は裏金に関して国会議員が説明責任を果たす場である。それを差し置き、謝罪したところで意味はなかろう。

 まして政権が苦境に陥る中で、政治改革に取り組んでいるかのようなアピールの場に使ってもらっては困る。党総裁として実態解明へのリーダーシップがこれまで以上に求められる段階だ。裏金事件が浮上して既に約3カ月。法案審議に影響が出ている。

 きょうの政倫審には安倍派幹部4人が出席する。これまで、裏金づくりについて「分からない」「関与していない」と不自然な釈明を続けている。説明責任を果たさせるために率先垂範が求められた。その意味でも、踏み込んだ見解を語らなかった首相に失望感を禁じ得ない。

 最もあきれたのは安倍派の組織的な裏金づくりがいつ、誰の指示で始まり、2022年にいったん中止しながら復活した過程を尋ねられた時だ。首相は「残念ながら、はっきりした経緯や日時などは確認できていない」とした。党の聞き取り調査の報告書にある「判然としない」をなぞったに過ぎない。

 報告書が核心部分を明らかにしていないのは分かりきっていた。ならば新たに調査を重ね、公表するのが「説明責任」というものだ。

 裏金づくりが始まったとされる時期に派閥会長だった森喜朗元首相らへの聞き取りをしていないことも判明した。裏金の使い道は報告書に沿い「政治活動以外への使用、違法な使途は把握されていない」と言い切った。だが、安倍派議員による政治資金収支報告書の修正で「使途不明金」としたり領収証がなかったりする例が多く、信じ難い。

 さらに首相自身の政治資金パーティー開催について大臣規範への抵触だと野党から再三詰め寄られた挙げ句、在任中は開催しないと答弁した。これも改革への後ろ向きな姿勢の表れだ。首相は繰り返し「あらゆる機会を利用して説明責任を促すことが重要」と話すが、肝心なのは説明の中身だ。

 現職の首相が初めて政倫審で弁明した意味は重い。しかし、従来の国会答弁を繰り返すばかりで、真相に迫る熱意は見えなかった。これでは、安倍派幹部に全面公開での出席を促すという内向きの論理だけで出席を決めたと言われても仕方ない。

 二階派事務総長の武田良太総務相もまた、実態解明に程遠い答弁に終始した。派閥の政治資金収支報告書への虚偽記載を「全く存じ上げなかった」と述べた。首相ともども、国民が何に憤っているかへの想像力が欠けている。政治不信が深まるばかりだ。

 

【政倫審の開催】首相出席で終わらない(2024年3月1日『高知新聞』-「社説」)

  
 政治不信を解消するつもりがあるのかが疑われるほどのどたばたぶりを見せつけた。ようやく事態は動いたが、形だけの取り組みでは不十分だ。真相解明を求める世論としっかりと向き合う必要がある。
 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会が開かれた。現役首相として初めて、岸田文雄首相が出席した。
 首相は疑念や政治不信を招いたことを謝罪し、在任中は自身のパーティーを開催しないと述べた。また、政治資金収支報告書に不記載があった議員の政治責任に言及した。
 ただ、党の聞き取り調査は再発防止に重点を置いたとして、裏金化がいつから誰の指示で、何のためにという疑問に明確に答えることはなかった。防止策にも触れたが、背景の検証には踏み込まなかった。
 予算委員会でも答弁してきた首相があえて政倫審へ出席したのは、2024年度予算案を3月中に成立させる審議日程が厳しくなる中、行き詰まる国会を打開するためだ。首相の出席が安倍派幹部らの公開審査を引き出したが、そもそも首相が説得に乗り出さないのがおかしい。
 政倫審は原則非公開で、公開には本人同意が必要となる。このため首相は本人の意思が尊重されるべきだとの考えを示した。だが、「政治とカネ」問題は国民の関心が高く、政治不信につながる。公開を避ければ強い反発が想定できたはずだ。首相は説明責任を繰り返すが、指導力の乏しさを露呈してしまった。
 政倫審開催を巡る自民の迷走ぶりはいただけない。野党は派閥からの還流を収支報告書に記載していなかった衆院議員51人に出席を求め、自民は安倍派と二階派の計5人にとどめた。これに先立ち2人の出席を伝えたが、野党の納得を得られなかった。これでやり過ごせると高をくくっていたのだろうか。
 党内にも若手を中心に、説明責任を果たさない派閥幹部への批判がある。こうした不満を抑え込むことを狙い、幹部5人が出席へ動いたとの見方がある。小出しで乗り切ろうとする姿勢に、この問題との向き合い方がうかがえる。
 さらに、審査の公開を巡り紛糾は続いた。全面非公開や一部議員の容認など二転三転して、結局は大筋合意していた開催日程は見送ることになった。政倫審で説明責任を果たそうとする姿勢は乏しい。
 首相は岸田派の解散を突然打ち出し、追随する派閥もあった。首相の奇策が力を発揮したが、それに頼らざるを得ないのは政権基盤の弱さが影響している。首相の政倫審出席表明が状況を変えたとはいえ、首相自らが意表を突く行動をしなければ動かないほど自民は統治不全に陥っているということだろうか。
 政倫審はきょうも開かれ、安倍派幹部4人が出席する。安倍晋三元首相が派内で定着していた還流を取りやめる決定をしたが、急逝を受けて中止を撤回したとされる。そのいきさつの解明は不可欠だ。もちろん、弁明すべき人はほかにもいる。

 

政倫審に首相出席 説明責任を見極める場だ(2024年3月1日『熊本日日新聞』-「社説」)


 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会が開かれ、岸田文雄首相は現職首相として初めて出席した。自ら審査を申し出たものの、裏金の実態解明につながる発言は聞けなかった。国民の疑念に応える説明責任を果たしたとはいえず、首相と自民党の信頼回復は極めて難しいと言わざるを得ない。

 首相は「党総裁として出席を決断した」と述べ、謝罪した。とはいえ、裏金については党の調査結果をなぞるばかりで、新たな情報や見解を示さなかった。公開審査に難色を示した安倍派幹部の翻意を促すために出席を決めたのだろうが、失望感は否めない。

 東京地検特捜部の捜査が一区切りし、通常国会が始まって1カ月が過ぎた。裏金を撲滅し、政治資金を透明化する議論を急がなくてはならない。その前提となる真相究明が進まないのは、安倍派幹部が誠意を欠いている上に、党の本気度が足りないからだ。

 きょうは、裏金事件の「本丸」にあたる安倍派幹部4人が審査に臨む。国民が知りたいのは、総額約6億7千万円に上る裏金づくりがいつ、誰の指示で始まり、議員が何に使ったか-である。陳謝するだけでは足りず、それぞれが詳しく説明するかどうかが焦点となる。首相は4人に誠意ある答弁を強く促さなければならない。

 国民が納得できるだけの説明がなかった場合、うそをつけば偽証罪に問われる証人喚問などで政治責任を問うべきだ。首相が出席したからといって、政倫審で幕を引くようだと政治不信はさらに深まるだろう。野党には腰を据えた対応を求めたい。

 政倫審の開催にあたっては、全面公開するかどうかを巡って自民党の対応が二転三転した。審査は原則非公開だが、本人が了解すれば公開できる。組織的ともいえる裏金事件の重大性に加え、国民の信頼を取り戻したいのであれば、全面公開するのは当然である。

 首相は自ら出席することで事態の打開を図ったが、党総裁としての指導力不足は否めない。政倫審開催と公開の可否を「国会で判断されるもの」と繰り返し、出席を申し出た5人の対応についても「本人の意思が尊重される」と人ごとのようだった。公開の場での説明を指示しなかったのは危機感と責任感の欠如と言うほかない。

 自民は2024年度予算案の審議日程をにらみ、政倫審を巡って野党との駆け引きを続けたようにも映る。年度内成立にはあすまでの衆院通過が必要だ。能登半島地震の復興費なども含む重要な予算案ではあるが、かといって政倫審で弁明と質疑を一通り終えればいい、という姿勢では政治改革はおぼつかない。

 国民が裏金に憤っているのは、金額の大きさだけではない。政治資金の収支をごまかしたカネを私的に使えば課税されるのに、その使途は隠されている。政倫審で首相は「政治家の特権意識」と表現したが、抜け穴をくぐった政治家は自らの責任を語るべきだ。

 

首相の政倫審出席(2024年3月1日『宮崎日日新聞』-「社説」)

◆踏み込んだ見解語らず失望◆

 岸田文雄首相が衆院政治倫理審査会に出席した。疑惑が持たれた議員が説明責任を果たす場として設置されている政倫審で現職首相が初めて弁明した意味は極めて重い。

 だが、最大の焦点である安倍派の政治資金パーティーを巡る裏金事件については、党執行部による関係議員からの聞き取り調査に立ち会った弁護士の報告書をなぞるだけに終わった。誰がいつから何のために組織的な裏金づくりを始めたのか、派閥の幹部たちは違法行為を知りながらなぜ黙認したのか、裏金を受けた個々の議員は何に使ったのかといった核心部分を報告書は全く解明していない。党の調査に限界があるのは明らかだ。

 今回、首相は「自民党総裁として」政倫審出席を決断したという。ならば、真相に迫るために第三者機関に調査を委ね、聞き取りの対象を広げ、歴代幹部を集中的に聴取すべきだ。そして議員一人一人の使途をより詳細に説明させるなど別の方法を考えなければならないだろう。

 とりわけ、20年以上前から始まっていた可能性を指摘されたのだから安倍派の前身、森派で会長を務めた森喜朗元首相のヒアリングは不可欠だ。それを言下に否定するのであれば、事実関係の解明に後ろ向きと批判されても仕方あるまい。

 もう一つ、首相には自身に関わる問題がある。大規模なパーティーの自粛を求めた大臣規範がありながら就任後の2022年に7回にわたりパーティーを開催。21年分も含め計約1億5510万円の収入を得ている。

 さらに、首相就任を祝う会を主催した任意団体が収益の一部とみられるカネを首相の関連政治団体に寄付していた問題も表面化。首相は「地元政財界が発起人となり、政治団体とは異なる任意団体が開催した純粋な祝賀会」と釈明するが、参加者に宛てた文書は問い合わせ先に岸田事務所の連絡先を記載していたことから、野党は「脱法行為だ」と批判する。

 自民党が変わらなければならない、自らはその先頭に立つと言うならば、後者の任意団体によるパーティーも「好ましくない」ときっぱり宣言すべきではないのか。そうでなければ、派閥のパーティーを禁止しても、あの手この手で抜け道を探してカネ集めをする風潮は止められないだろう。

 岸田首相は何のために政倫審に出席したのか。公開の場での弁明に難色を示す安倍派幹部の背中を押すだけが目的だとすれば、国民に見透かされる。政治の信頼回復へ勝負に出たつもりかもしれないが、せっかくの機会に踏み込んだ見解を語らなかった首相に、失望感が広がるのは避けられそうにない。

 

首相の政倫審出席 結局 説明責任は口だけ(2024年3月1日『沖縄タイムス』-「社説」)

 結局、知りたかった疑問は何一つ解明されなかった。 自民党派閥の裏金事件を巡り、岸田文雄首相が現職の総理として初めて衆院政治倫理審査会に出席した。テレビ放映を含む全面公開の中、首相は冒頭から「説明責任を果たす」「政治への信頼回復を目指す」と何度も口にした。

 しかし、問題の根幹である政治資金パーティーの裏金づくりがいつ誰の指示で始まり、何に使われたのかなどについて、新たな事実や説明はなかった。答弁は、政治資金収支報告書に不記載のあった議員に対する聞き取り調査の域を出ず、報告書の内容をなぞっただけだった。

 ならば何のために、わざわざ首相が出てきたのか。こんな説明で国民が納得できるはずはない。

 そもそも、開催に向けた調整段階から、党内のまとまりのなさと首相のリーダーシップの欠如が見えた。

 公開・非公開を巡り与野党で折り合わず、開催が1日延期された。安倍派幹部らが公開を渋ったことから、野党が求めていないにもかかわらず首相が自ら出席を表明。結果、予定されていた5人全員が出ることになった。

 そこまでして臨むなら、党総裁として国民の疑問に答えるため、報告書の不備を補う調査を重ねるべきだった。安倍派の前身である森派会長だった森喜朗氏へのヒアリングを含めて聞き取り対象者を広げ、問題に真剣に向き合う必要があった。

 浮き彫りとなったのは、党内で孤立を深める首相の姿であり、保身に走るだけで説明責任を果たさぬ議員の姿である。

■    ■

 長年にわたり党内にはびこる悪しき慣習と、どう決別するか。首相は法令順守に向けた改革を進め、不記載のあった議員の説明状況を踏まえた上で「党の処分、政治責任を判断する」と述べた。

 また、会計責任者だけでなく政治家本人の責任も問う「連座制」について言及。政治資金規正法の本国会での改正を目指すとした。

 裏金づくりの温床である政治資金パーティーについても、首相在任中は自身のパーティーを開催しないとの意向を表明した。

 しかし、問題を根本から解決するためには、裏金づくりの経緯をつまびらかにして、どこにどんな問題があるのかを突き止めることが不可欠である。

 さもなければ、また新たな抜け道を探し出して同じことが繰り返される。

■    ■

 政倫審には二階派武田良太事務総長も出席した。ノルマ超過分の還流について「全く存じ上げなかった」との釈明に終始し、真相究明には程遠い内容だった。

 きょうは安倍派幹部の4人が出席する。一度は廃止が検討された資金還流がなぜ復活したのか。「会計責任者が」「記憶にない」と繰り返すだけの、のらりくらりとした答弁で終われば、政治の信頼回復どころか、さらに不信感が募るだろう。

 これ以上真相解明に背を向け続けるのなら、解散総選挙で信を問うべきだ。 

 

政倫審の数少ない意義は「野田」VS「岸田」(2024年3月1日『日刊スポーツ』-「政界地獄耳」)


★この程度の政倫審のやりとりをライブは嫌だとかぐずぐず言っていた5人は、いずれも閣僚経験のある将来の首相候補を自任する面々だったと考えると、もうポスト岸田などと名乗るのは辞めていただきたい。首相・岸田文雄の政倫審出席は違和感があったものの、立憲民主党の元首相・野田佳彦とのやりとりはさすがに重みと迫力があった。既に2人は政治とカネの問題について衆院予算委員会で対決しているが、野田が予算委員会での繰り返しでは意味がないと冷静に詰めると、岸田も覚悟を決めた様に議論が推移した。

★さすがに岸田も予算委員会のようなかわし方では通用しないと感じたのだろう。首相に「22年に7回もパーティーを開いているのは異常ではないか、月に3回も東京、大阪、広島でパーティーをやるのはいかがか」と野田が問うと、当初は勉強会と抗弁していたが「もう、内閣総理大臣としては政治資金パーティーはやらないと明言できないですか」と問われ「内閣総理大臣としてパーティーを開催すること、これは今は考えておりません」と答弁。野田が「今は考えてないっていうのは、ほとぼりが冷めたらやるってことじゃないですか。やらないと言って下さい、在任中は」と畳みかけると「結果的に在任中はやることはないと考えております」との答弁まで引き出した。また、政倫審に出てこない自民党議員たちはとがめられずそのままか、政治的、道義的に処分を決める時期ではないかと問われ「党として処分をはじめとする政治責任についても判断を行っていく」と認めさせた。2人の対決は野田の圧勝だった。

党首討論のような迫力のあるやりとりはこの政倫審の数少ない意義と感じるが、首相の口から自民党の調査結果以上のものは出なかった。ただ、首相の政倫審出席で事態が動き、首相(自民党総裁)としてできる、判断、決定でイニシアチブをとった意味は自民党内でも評価せざるを得ず、鈍感力首相の火事場の底力を見せられた思いだ。岸田の賭けは吉と出たか。(K)