【自民党裏金問題】「追加納税」報道は批判をかわすためのポーズか 岸田首相は「非課税特権」を手放す気はさらさらない(2024年2月26日)

キックバック課税の大嘘

自民党の裏金事件のアンケート調査によると、政治資金収支報告書を修正した議員は85人。そのうち安倍派から5年間で2728万円のキックバックを受けていた萩生田光一・前政調会長は「事務所の担当者が机の引き出しに現金で保管していた」と説明したが、修正された政治資金収支報告書では支出の金額や内容欄に「不明」の記載が並んだ。1019万円のキックバックを受けた高木毅・前国対委員長は「会合費」「お品代」などに使ったと修正したが、領収証はなく、金額や支出日は「不明」とした。

 政治アナリストの伊藤惇夫氏が指摘する。

「裏金を1年も2年も現金で机の中に入れていたとすれば、政治資金という言い訳は通用しない。明白な脱税です」

“やばい”と感じた安倍派幹部らは派閥の解散手続きを行なう「清算管理委員会」で税金を払うか対応を話し合ったという。

「安倍派の議員はキックバックを政治資金として関連団体が受け取ったと政治資金収支報告書を修正したばかりだが、納税すると、そのカネが個人所得だったと認めることになる。今度は修正したことが虚偽記載になってしまうから非常にまずい」(同派関係者)

 党内からは、「オレたちを国税に売る気か」という納税反対論が上がった。すると岸田首相は、裏金議員に納税させる案を検討中という報道について「全く承知していない」と言い放ったのだ。森山裕自民党総務会長も追加納税は「ありえない」と否定した。

「追加納税案の記事が出たのは批判をかわすためのポーズ。総理も執行部も無理とわかっている。安倍派を揺さぶり、最後は納税しなくていいと恩を売った」(自民党幹部)

 

闇パーティーでも“特権”

 岸田首相自身、巧妙な政治資金の課税逃れが指摘されている。本誌・週刊ポストが1月に報じた「内閣総理大臣就任を祝う会」(2022年)の闇パーティー問題だ。

「祝う会」パーティーの運営は実態としては岸田事務所が担っていたが、形式上、任意団体の主催とされ、会費1万円で約1100人が出席。飲食の提供はなかったことから大きな利益が出たのは確実だが、利益の一部とみられる約320万円が岸田首相の政党支部に寄附された。

 本来、任意団体が収益事業を行なえば法人税の課税対象だ。ところが、会の代表者は本誌の取材に「寄附した覚えもないし、経理には一切関わっていない」と証言し、この任意団体が税金を納めた形跡は見当たらない。岸田首相は自分の総理就任パーティーの主催団体に“非課税特権”を与え、税金を納めずに済んだことで生じた利益を献金させていた疑いが強い。

 そんな岸田首相が裏金議員たちに追加納税させれば自分の足元にも火がつく。だからこそ“納税させる”というポーズだけ見せて、裏金議員たちと一緒に政治とカネの“非課税特権”を死守しようとしているのだ。

 国会議員の非課税特権はまだまだ広範囲に及ぶ。

  年間約2200万円の議員歳費(給料)は個人所得として課税されるが、「調査研究広報滞在費」(1200万円)、新幹線のグリーン車に乗れる「JR無料パス」や「無料航空券」(平均200万円)、政党や会派に支給される「政党交付金」(1人あたり約4500万円)と「立法事務費」(1人あたり780万円)などを合わせると、議員1人あたり7000万円近いカネが非課税で使える。いずれも原資は税金だ。

「使い勝手がいいのが国会議員の“第2の財布”と呼ばれる『調査研究広報滞在費』です。漫画を買っている人もいるし、『通信費だ』と理屈をつけて動画配信サービス・ネットフリックスの月額料金を支払っていた議員もいた。使途を公表しなくていいから日常の買い物に使ってもわからない。高給取りの国会議員の場合、非課税の『調査研究広報滞在費』が1200万円ということは、課税所得なら2400万円分くらいに相当する。歳費と合わせた給料は実質5000万円近いわけです」(伊藤氏)

 こうした特権に岸田首相もメスを入れようとはしない。

(後編につづく)

週刊ポスト2024年3月8・15日号

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