皇位継承の議論 「国民の総意」が前提だ(2024年2月25日『北海道新聞』-「社説」)

 天皇陛下はおととい64歳の誕生日を迎えた。新型コロナ感染が落ち着いた昨年は6月に皇后陛下インドネシアを親善訪問した。
 9月に釧路市釧路管内厚岸町を訪れ、「全国豊かな海づくり大会」に出席するなど、地方での公務も活発に行っている。
 記者会見で能登半島地震に「深く心を痛めている」として犠牲者に哀悼の意を表し、復旧・復興を「心から願っている」と述べた。
 5月で即位から5年となる。これからも国民との絆を深めながら、令和の新しい皇室像をつくりあげていくことを期待したい。
 一方、女性・女系天皇の是非など、将来にわたる皇室の安定に不可欠な皇位継承問題に関する政治の議論は進んでいない。
 肝心なのは、象徴天皇の地位は主権者である国民の「総意に基づく」と定めた憲法に沿って、多くの国民が納得できる皇位継承策を練り上げることだ。国会は先送りせずに検討を急いでもらいたい。
 陛下の長女愛子さま(22)は4月から日本赤十字社で嘱託職員として勤務することが内定した。
 秋篠宮家の次女佳子さま(29)と共に、若い成年皇族として公的な務めの機会は増えるだろう。
 しかし愛子さまと佳子さまは結婚した場合は皇籍を離脱する。陛下の次の世代で皇位継承資格があるのは、秋篠宮家の長男悠仁さま(17)だけだ。
 陛下は会見で皇族数が減少している現状に懸念をにじませた。
 政府の有識者会議が2021年12月にまとめた報告書では、皇族数確保策として2案を提起した。
 《1》女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する《2》皇族の養子縁組を可能とし、旧皇族の男系男子を皇族復帰させる―である。
 しかし皇位継承策の検討は先送りした。国会が主体的に取り組む必要がある。自民党は昨年11月、この問題で麻生太郎副総裁をトップとする懇談会を立ち上げた。
 旧皇族の男系男子の復帰案を軸に検討が進む見通しとされる。養子縁組した男系男子に皇位継承資格を認めるかどうかが焦点だ。
 だが共同通信社の21年の世論調査では女性・女系天皇を容認する声が80%以上となった。自民党の動向は国民世論と乖離(かいり)している。
 民間人となり長い年月が経過した旧皇族を皇室に迎えるのが「国民の総意」とは到底言えまい。
 歴史と伝統を持つ皇室の姿も、時代とともに変わってきた。そのことを踏まえながら、責任ある熟議を尽くさねばならない。