天皇誕生日(2024年2月23日)

記者会見に臨まれる天皇陛下=21日午後、皇居(代表撮影)

 

天皇誕生日 陛下の祈りを国民の力に(2024年2月23日『産経新聞』-「主張」)

 「国民の幸せを常に願って、国民と苦楽を共にすることだと思います」

 皇室のあり方についての、天皇陛下のお言葉である。

 天皇陛下は64歳の誕生日を迎えられた。日々国民のことを思い、寄り添われている陛下に、心からのお祝いと感謝を申し上げたい。

 誕生日に先立つ記者会見で、陛下が真っ先に言及されたのは、能登半島地震の被災地への思いだ。

 陛下は「多くの方が犠牲となられ、今なお安否が不明の方がいらっしゃることや、避難を余儀なくされている方が多いことに深く心を痛めております」と述べられた。

 長引く避難生活で高齢者らの体調悪化が案じられること、道路網の寸断や断水が続いていること、伝統的な文化や産業も大きな被害を受けたことなどに触れたうえ、厳しい状況下で救助や復旧に努める全ての関係者をねぎらわれた。

 宮内庁によると、天皇、皇后両陛下は被災地ご訪問を望む一方、復旧作業などに支障が出てはならないと考えていらっしゃる。政府はそのお気持ちを踏まえ、両陛下が来月下旬に日帰りで訪問される方向で検討を進めている。

 ご訪問が実現すれば、被災者が勇気づけられることはもちろん、国全体で被災地を支えようという機運が一層高まるに違いない。

 天皇陛下は今年5月で即位5年を迎えられる。新型コロナウイルス感染拡大防止のため地方行幸啓などが制約されていたが、その間も、皇室が国民の力になるために何ができるかを、考えてこられたという。

 新型コロナが「5類」に移行した昨年5月以降はお出ましの機会が増えた。翌月には皇后陛下インドネシアを訪れ、国際親善では即位後初の外国訪問を果たされた。春と秋の園遊会も再開された。

 国民が広く目にするご動静のほかに、陛下は数多くの宮中祭(さい)祀(し)を営み、国家と国民の安寧や豊(ほう)穣(じょう)を祈られている。祭祀や儀式を通じた天皇の祈りと、それに対する国民の深い感謝の念こそ、不変の国柄である。

 きょうのお誕生日を、国民こぞって寿(ことほ)ぎたい。ますますお元気に活動されることを、願ってやまない。

 

「水」をご縁に国際親善、きょう天皇誕生日(2024年2月23日『産経新聞』-「産経抄」)

 インドネシアは天災の多い国として知られる。中でも豪雨や津波がもたらす水害は深刻で、国会はすでに、洪水の多いジャカルタからの首都移転を決めている。治水は古来、同国の為政者にとって腕を問われる課題であり続けた。

ジャカルタ北部で見つかった5世紀のものとみられるトゥグ碑文には、当時の王朝による大がかりな治水事業が刻まれている。国王の命により3週間で全長約22キロの水路を掘削、その落成式では「千頭の牛が献納された」とも書かれているという。

▼きょう64歳の誕生日をお迎えになった天皇陛下は、水に関する研究に打ち込まれてきた。トゥグ碑文には前からご関心があり、昨年6月にインドネシアを訪問した際は、国立博物館で熱心にご覧になった。やはり水害に泣かされてきた日本の歩みを、想起されたのかもしれない。

▼水は神からの授かり物―とするかの国の自然信仰は、配水をつかさどる日本神話の天之水分神(あめのみくまりのかみ)と国之水分神(くにのみくまりのかみ)に重なる。稲作が盛んな点も、水を介したうれしい共通項である。リゾート地として名高いバリ島の棚田は「神様の階段」と呼ばれている。

▼陛下は昨年、「水と災害」をテーマにした国連の会合でビデオによる基調講演をなさった。水の問題を知ることは海外の社会や文化の理解につながる―。21日の会見ではそう述べられてもいた。これからも水が取り持つ縁を大事になさり、国際親善を深めていかれることだろう。

天皇、皇后両陛下は能登半島地震の被災地訪問を望まれている。被害を受けた方々にとっては、どれほど心の支えとなることか。国民と苦楽を分かち合うことを旨とされる両陛下のお心遣いに、こんな言葉を思い浮かべてみる。干天の慈雨。優しい水である。

 

被災者に寄り添う(2024年2月23日『中国新聞』-「天風録」)

 取材の帰り際、記者会見場に呼び戻された。待ち構える男性が出した名刺は〈宮内庁侍従職〉。「陛下から、お言葉を預かっております」。4年前の赤坂御所での出来事である

▲令和への改元後、初の天皇誕生日の記者会見に出席した。被爆地への思いを問うと、「今後とも広島、長崎に心を寄せていきたい」。言い足りぬと感じられたのだろう。言付かった「お言葉」は、被爆者への伝言だった。「幼少の頃より原爆の日には黙とうをささげてきました」

▲きょう、64歳の誕生日。皇居で一般参賀を受ける。正月2日は能登半島地震の被災者を思い取りやめた。恒例だった万歳三唱は今回自粛を求めている。その思いはきっと能登の地に届こう

▲ことしの誕生日会見でも、令和の皇室のキーワードを改めて示されていた。「国民の中に入り、少しでも寄り添うことを目指す」。各所に足を運ばれ、膝を折り、人々と対話されるはず

▲来月は能登半島地震2カ月となり、東日本大震災東京電力福島第1原発事故から13年の節目も迎える。残念ながら「3・11」は記憶の風化が進む。あの頃、世の中は「被災者に寄り添う」との誓いにあふれた。私たちもいま一度思い返そう。