震災とラジオ 貴重な情報源の役割を今後も(2024年2月20日『読売新聞』-「社説」)

 


 ラジオは災害時の情報源として信頼感があり、能登半島地震でも力を発揮した。経営環境は厳しいが、非常時に強いメディアとして、機能を維持していく必要がある。


 能登半島地震の被災地では停電が長く続き、テレビやインターネットが使いにくい状況に陥った。情報収集の手段として重宝されたのは、新聞やラジオだった。

 携帯ラジオは、電池が切れるまでは長時間使えるのが特徴だ。手回し充電ができるラジオも防災グッズとして人気が高い。

 地震発生直後は、断続的に続く余震を警戒して車中泊を選んだ被災者が少なくなかった。カーラジオから流れてくる情報に耳を傾けた人も多かったのではないか。

 東日本大震災熊本地震北海道胆振東部地震を対象とした日本民間放送連盟研究所の調査で、避難時に利用した放送や通信などについて尋ねたところ、ラジオが役に立ったとの回答が目立った。

 特に東日本大震災北海道胆振東部地震では、テレビやSNSなどと比べても、ラジオを評価する声が最も多かった。

 東日本大震災後は、地元のコミュニティーFMなどが運営する「臨時災害放送局」が次々と開局した。地域に密着し、暮らしに根ざした情報を提供できるのも、地元ラジオの利点だろう。

 だが、ラジオ局の多くは若者のラジオ離れなどもあり、経営環境が厳しい。2020年には名古屋と新潟の2局が閉局した。

 NHKはAM放送を維持する方針だが、多くの局は施設維持に費用がかかるAM放送から、コストを抑制できるFM放送への転換を目指している状況だ。

 各地のラジオ局は2月から、総務省の特例措置で、一部のAM放送を休止し、代わりにFMの補完放送などを聴いてもらい、影響を検証する取り組みを始めた。

 AM放送は、広範囲に届く特性があり、地元の放送施設が被災しても、遠方からの電波を受信することができる。聴ける範囲が限られるFMへの転換が進むことによって、ラジオの空白地帯ができることがないようにしてほしい。

 ラジオは、想像力をかき立てるメディアだ。深夜放送で笑ったり、音楽を楽しんだりしている人は少なくないはずだ。

 被災者が避難中、ラジオから、なじみのある出演者のトークが聞こえてきて、癒やされることもあるだろう。普段ラジオを聴かない人にも、その魅力を伝える努力を忘れないようにしたい。