ミニストップもまいばすも…イオングループがパート「7%賃上げ」へ 労組トップは「年収の壁、突き破れ」(2024年2月19日『東京新聞』)

 イオングループ労働組合連合会の永島智子会長は春闘の本紙インタビューで、グループのパート約40万人について7%賃上げする方針で会社側と合意したことを明らかにした。イオンが雇用するパートは日本最多で、来年以降も継続して賃上げする考えだ。低い賃金が社会問題化してきた非正規労働者格差是正に向けた動きとして注目される。

 非正規労働者 雇用契約や勤務時間を一定の期間に区切って働く人たち。パートやアルバイト、派遣社員らが含まれ、業種としては小売りや外食に多い。労働力調査によると、2023年で2124万人いて、役員を除く雇用者の37%。非正規を男女別にみると、女性が7割近くを占める。

◆7%≒75円上げ しかも2年連続

 イオン労連と会社側は昨年の春闘から、グループで統一した賃上げ水準を決めている。対象となる約150社の正式な賃上げ率は今後、各労使が議論して正式に決めるが、グループトップの方針は拘束力を持つため、大半は7%の水準で妥結する見通しだ。
 イオン広報によると、グループのパートの平均時給は現在1070円。7%の賃上げが実現すれば単純計算で75円程度の上乗せになる。昨年も労連は7%の賃上げで会社側と合意しており、2年連続の高水準の賃上げとなる。
 永島氏は「来年、再来年も含めて中長期的に賃上げをやり続けることが、イオンの使命であり、労使の統一した見解だ」と述べ、高水準での賃上げを続けたい考えを示した。
 多くの専門家は、春闘で大手企業の正社員だけが賃上げされても経済の好循環実現は難しいとみている。雇用の4割近くを占めるパートら非正規の賃金の底上げが急務になっている。(渥美龍太、畑間香織)

◆パートの賃金がこんなに低いのは日本特有の事情が

 日本ではパートら非正規労働者の賃金が正規と比べ低く抑えられている。労働政策研究・研修機構によると、パートタイムで働く人の賃金水準は2018年でフルタイムの7割に届かないが、スウェーデンは8割を超え、フランスは9割に達する。海外と比べて雇用形態の違いによる賃金の格差が大きい。
 浜銀総合研究所の遠藤裕基氏は理由を「海外ではフルタイムとパートの賃金の違いは働く時間数の差だけだが、日本では転勤などの会社の指示を無限定に引き受ける見返りとして、正社員に各種の手当を支給するなど高い賃金を支払い、非正規と差をつけている」と説明する。
 バブル崩壊後に経済団体が人件費を抑えるために非正規を増やす方向に舵(かじ)を切り、政府は労働者派遣法の改正などで非正規化を加速させてきた。正社員との不合理な格差の解消を目指す「同一労働同一賃金」を20年度から導入したが、遠藤氏は効果は限定的とみる。
 格差が広がり固定化される中、春闘で賃上げをしようにも、労働組合に加入している人の割合「組織率」は、パートでは1割に満たない。この状況の打開を目指し、個人で加入できる労組が企業の枠を超えて集まり、一斉に非正規の賃上げを求める「非正規春闘」という動きが23年から始まった。今年は一律10%以上の賃上げを求める。
 実行委員会のメンバーで総合サポートユニオン(東京)の青木耕太郎氏は「非正規ら労組に入っていない人は賃上げができていない。各社で1人や数人が声を上げて、それぞれの会社全体の賃上げを目指したい」と話す。 (畑間香織)
◆「振り切るしかない」イオン労組トップが語った常識破りの賃上げ
 イオングループ労働組合連合会の永島智子会長は本紙のインタビューで、2年連続で7%という高水準の賃上げ方針を決めたことに「ここまで来たら振り切るしかない」と強調した。日本最多のパートを抱える組織として、社会的な影響力を意識して方針を決めていることも吐露している。(渥美龍太、畑間香織)

 永島智子(ながしま・ともこ) 1993年ニチイ(後にイオンの傘下に入る)入社。2000年から労働組合専従になり、イオンリテールワーカーズユニオン中央執行委員長などを経て18年10月から現職。日本最大の産業別労組UAゼンセンの副会長も務める。大阪府出身。

◆40万人の賃上げが日本全体の生活を守る

 —グループ全体で賃上げに動く意義は。
 日本の特徴である企業別の労使でばらばらに賃金を決めていては、全体に波及しづらい。この日本式の賃金決定システムを変えていくのが非常に重要だ。その一歩として、イオン労連というグループがトライすることに大きな意味がある。
質問に答えるイオングループ労働組合連合会の永島智子会長

質問に答えるイオングループ労働組合連合会の永島智子会長

 労連は会社と労働協約を結び、昨年から賃上げ率についてグループ統一の方針を示すことにした。企業や労働者個々の活動では限界がある。パートタイマー40万人の賃上げを率先してやると示すことが大きな意味を持ち、日本全体の生活を守ることにもつながる。
 —7%の賃上げにグループ内から脱落する企業も出てくるのではないか。
 昨年、パートの賃上げでの脱落は1社もなかった。7%というのは過去の常識を超えたレベルで、今までの経営の感覚なら「大変だ」となるが、ここまで来たら思いきって賃上げに振り切るしかない。それが経営の革新、改革につながる。
質問に答えるイオングループ労働組合連合会の永島智子会長

質問に答えるイオングループ労働組合連合会の永島智子会長

 日本では30年間「雇用が大事」「企業存続が大事」で、思考が停止しているところが若干あった。それがイオンでは人への投資をして中長期で成長していく方針を出し、グループ全体の思考も変わってきた。

◆「組合員が正社員だけなんて職場が成り立つのか」

 —パートで労組に加盟している人が非常に多い。
 イオングループは圧倒的に非正規の皆さんに支えられている企業。組合員総数のうちパートの割合は80%以上になる。賃上げ率が7%あって、組合費の負担も納得してもらえるといいなと。これからの時代、組合員が正社員だけなんていう職場が成り立つのかなと思う。多様性の問題も突きつけられている中、パートの組織化は必然だと思う。
 —(一定収入を超えると社会保険料負担などが生じる)年収の壁がパートの賃上げを阻害しないのか。
 年収の壁があるからといって賃上げの上昇率を抑える発想は全くない。これは突き破れという方向性だ。