「遅い、遅すぎる」…『セクシー田中さん』日テレが「調査チーム」を設置…原作者死去から約3週間後の対応に厳しい声(2024年2月16日)

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「セクシー田中さん」報道で多発する”意外な勘違い” 現在のドラマは本当に漫画原作ばかりなのか?(2024年2月16日)

 
 

14日・15日にアップされた主な記事をあげてみると「日テレ×小学館×『セクシー田中さん』のプロデューサー“再タッグ”の新ドラマ『たーたん』主演はムロツヨシ(48)」(文春オンライン)

「『セクシー田中さん』原作者急逝に第三者委員会の検証求める声…2週間ダンマリの日本テレビは問い合わせを“まさかのスルー”」(女性自身)

「『セクシー田中さん』問題で揺れるドラマ業界。オリジナル作品はなぜ実現しにくい?」(女子SPA! )
さくらももこさん手がけたNHKドラマ脚本を制作サイドが改変 元夫・宮永正隆氏が明かす」(日刊スポーツ)
「『セクシー田中さん』の悲劇を繰り返さないために…再発防止の核となる「著作者人格権」とは?」(弁護士ドットコムニュース)
「『セクシー田中さん』問題で傾聴すべき米ハリウッドの声 映像化に8年かかるケースも」(東スポWEB)

 ■「これは違う」と思わせるミスリード

 週刊誌系、スポーツ新聞系、タブロイド系、ウェブ専門サイトなど、さまざまなウェブメディアが報じているところに社会的関心の高さを感じさせられます。

 記事のコメント欄やXには連日、放送局の日本テレビや出版元の小学館への批判があがっていますが、悲しい出来事が起きてしまった以上、原作の扱いや原作者への対応に何らかの問題があったことは否めないでしょう。

 しかし、多くの記事やコメントが飛び交う中、1つ「これは違う」と思わせるミスリードがありました。それはどんなことなのか、過去1年間のデータをあげながら解説していきます。

 そのミスリードは、「ドラマは漫画の原作モノばかり」という記事やコメント。

 冒頭にあげた記事の中に、「『セクシー田中さん』問題で揺れるドラマ業界。オリジナル作品はなぜ実現しにくい?」(女子SPA! )がありましたし、少し前には「漫画原作ドラマ急増で改めるべきこと」(デイリースポーツ)という記事も配信されていました。また、XなどのSNSにも「ドラマは漫画原作ばかり」というコメントが目立ちます。

 しかし実際のところ、今冬の民放ゴールデン・プライムタイムで放送されている16作中13作(81%)が原作のないオリジナルドラマ。

■8割がオリジナルで漫画は1作のみ

月曜の「君が心をくれたから」(フジテレビ系21時)、「春になったら」(カンテレ・フジテレビ系22時)
火曜の「マルス-ゼロの革命-」(テレビ朝日系21時)、「Eye Love You」(TBS系22時)
水曜の「相棒」(テレビ朝日系21時)
木曜の「グレイトギフト」(テレビ朝日系21時)、「大奥」(フジテレビ系22時)
金曜の「ジャンヌの裁き」(テレビ東京系20時)、「不適切にもほどがある!」(TBS系22時)

土曜の「新空港占拠」(日本テレビ系22時)
日曜の「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」(TBS系21時)、「アイのない恋人たち」(ABCテレビテレビ朝日系22時)、「厨房のありす」(日本テレビ系22時30分)
 はすべてオリジナルです。

 一方、原作ありのドラマは、水曜の「となりのナースエイド」(日本テレビ系22時)と「婚活1000本ノック」(フジテレビ系22時)、金曜の「院内警察」(フジテレビ系21時)の3作(19%)。しかも前2作は小説であり、漫画は「院内警察」の1作のみ(6%)に過ぎないのです。

 では「セクシー田中さん」が放送され、「漫画原作が多い」と言われた昨秋はどうだったのか。16作中9作がオリジナル(56%)で、原作ありが7作(44%)、うち漫画が5作(31%)でした。 ※残りの2作はノンフィクションと韓国ドラマ

 もう1クール前の昨夏は16作中9作がオリジナル(56%)で、原作ありが7作(44%)、うち漫画は3作(19%)でした。 ※残りの4作は小説2作、ドキュメント、台湾ドラマ

 さらにもう1クール前の昨春は15作中9作がオリジナル(60%)で、原作ありが6作(40%)、うち漫画は3作(20%)でした。

 ここであげてきた最近の4クール1年間分を合算すると、63作中40作がオリジナル(63%)で、原作ありが23作(37%)、うち漫画は12作(19%)でした。

 この「漫画原作は1クール3作程度で、全体の20%前後」というデータを見て、「ドラマは漫画ばかり」と思うか、「意外に少なかった」と感じるかは個人差があるでしょう。

 しかし、30年以上にわたってゴールデン・プライム帯の主要作をほぼ見続けてきた筆者にしてみれば「明らかに減った」ように見えるのです。約4年半前の2019年7月13日に「夏ドラマ、前代未聞のオリジナル作品0 人気脚本家も深夜帯へ」(NEWSポストセブン)という記事を書いてYahoo! トピックスとして大きく報じられましたが、当時と比べてオリジナルの割合が高まっているのは間違いありません。 

 実際、民放各局はオリジナルに力を入れていて、たとえば業界トップの歴史と実績を誇るTBSの「日曜劇場」(21時)はほぼオリジナルですし、昨春に新設されたばかりのテレビ朝日系・日曜22時のドラマ枠(ABCテレビ制作)は4作すべてオリジナル。その他でも、フジテレビ系の月曜21時、テレビ朝日系の火曜21時なども、オリジナルメインで制作する主要ドラマ枠が増えているのです。

 なぜ今、民放各局はオリジナルに注力し、その背景にはどんな理由があるのでしょうか。

■IPビジネスの肝となるオリジナル

 その最たる理由は収益性を高めるため。デバイスの発達や視聴習慣の変化などで放送収入の減少が避けられない中、それを補うものとみられているのが配信収入であることはすでに周知の事実でしょう。

 無料配信での動画広告、自局系動画配信サービスでの有料会員獲得、海外への配信などで収入を得ていくことが求められ、なかでもドラマは最大の稼ぎ頭。事実、TVerなどの配信再生数ランキングではドラマが上位を独占し続けていますし、スポンサーが好む若年層の配信視聴が多いことも民放各局が注力する理由の1つです。

 その点、オリジナルは原作ドラマ化のような脚色の制限がなく、「物語や登場人物をそれらの収入を得やすいものに最適化できる」のが強み。さらに、ネタバレがないため考察が盛り上がり、伏線や小ネタを探す楽しさを盛り込めるなど、ネット上の反響を狙いやすいなどのメリットがあります。

 加えて続編、シリーズ化、映画化、グッズ展開、イベント集客、海外販売などの収益化がしやすいこともオリジナルが重視される理由の1つ。つまり民放各局の間でIP(知的財産)ビジネスを進める上でオリジナルドラマの重要度が高まっているのです。

 たとえば昨夏に大きな反響を呼んだ「VIVANT」(TBS系)は福澤克雄氏が演出だけでなく原作から手がけたオリジナルであり、放送に限らず配信、グッズ、イベント、ツアー、さらに続編の含みなど、さまざまな形で収益化して業界内を驚かせました。

 ここまで書いてきたようにゴールデン・プライム帯で放送される主要作はオリジナルが主流であり、局をあげた力作ほどその傾向が強くなります。しかし、オリジナルを書ける脚本家がいなければ収益化はままなりません。

木村 隆志 :コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者