医療機関が受け取る診療報酬の2024年度改定の内容が決まった。医療従事者の賃上げなどを目的に基本報酬が軒並み引き上げられる一方、ムダを省いて筋肉質の医療体制にする視点は乏しい。制度の持続性が心配になる。
今回の改定は賃上げ対応が大きな柱となる。政府は診療報酬本体の改定率を0.88%増とする方針を23年末に決定。厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)がこの枠内で医療行為ごとの報酬配分を審議していた。
14日に答申された改定内容によると、外来、入院ともに基本的な報酬が上がる。最初の外来受診でかかる初診料は30円増の2910円、2回目以降の再診料も20円増の750円にそれぞれアップする。入院1日あたりの基本料も大学病院の一般病床の場合で1万8220円と1040円増える。
幅広い患者を対象とする「ベースアップ評価料」という加算もできる。看護師、理学療法士、検査技師ら医師以外の専門職の賃上げ原資にするもので、受診先の人員状況に応じた額が初・再診料や入院基本料に上乗せされる。
物価高に負けない賃上げが必要なのは、医療従事者も例外ではない。ただ国民負担が原資となるので、報酬が賃上げにきちんと使われたか否かの検証が不可欠だ。
特に40歳未満の医師や事務職員の賃上げは、使途が限定されない初・再診料や入院基本料の中で対応することになっている。すべての医療機関に院長を含む職種別給与の報告を義務付けて賃金の変化を把握すべきだが、こうした議論は後回しになっている。
23年度に約48兆円と見込まれる医療費は高齢化で今後さらに膨らむ。原則3割を支払う患者の負担増だけでなく、高齢者医療を支える現役世代の負担も重くなる。効率化は待ったなしの課題だが、今回の改定での対応は乏しい。
医療を効率化する仕掛けを診療報酬に導入すべきだ。例えば1日あたりで算定している入院報酬を病気ごとに1入院あたりの定額とすれば、病院は必要以上の入院や検査を抑えるようになる。外来もかかりつけ医の登録制など重複受診を防ぐ策を考えるべきだ。
診療報酬の設定では加算というインセンティブで医療機関を誘導する考え方が強いが、それでは高齢化対応として不十分だ。医療の構造そのものに切り込む真の改革に取り組んでほしい。