犯罪被害者 社会で支える意識を高めたい(2024年2月15日『読売新聞』-「社説」)

 犯罪の被害は、いつ誰の身に降りかかるか分からない。突然の悲運に見舞われた被害者や家族が自力で生活を再建するのは極めて難しい。社会全体で支えていくことが重要だ。

 国は、犯罪被害者の遺族に支払う給付金の最低額について、現行の320万円から1000万円超の水準にまで引き上げることを決めた。警察庁有識者検討会が骨子案をまとめた。

 現在の制度では、死亡した被害者の収入や、その人が一家の生計を支えていたかどうかを基に給付額を算定している。そのため、被害者が子供や無職で収入がない場合は給付額が低くなりがちだ。

 2021年の大阪・北新地のクリニック放火殺人事件では休職中の犠牲者らが多く、制度の見直しを求める声が高まっていた。

 遺族が事件の精神的なショックで働けなくなるケースも珍しくない。給付金は生活を立て直すのに不可欠だ。その増額は被害者支援の前進だと言えよう。

 事件によって被害者自身がけがで働けなくなったり、障害が残ったりした場合に支払われる給付金についても、最低額が引き上げられる見通しだ。警察庁は今後、金額の具体的な算定方法を定め、早期の導入を目指すという。

 遺族や被害者が、事件直後の苦しい時期を乗り切るには、給付金の迅速な支給が欠かせない。

 しかし、これまでは申請から支給決定まで平均9か月もかかっていた。容疑者が逮捕されず、事実関係の確認に時間がかかる場合などがあるためだ。

 こうしたケースでは、給付が正式に決定するのを待たずに、仮給付金を一時的に支給するといった運用上の改善も必要だろう。

 給付金の増額だけでなく、被害者が孤立しないような支援も重要だ。政府は、殺人や性犯罪などを対象に、同じ弁護士が事件直後から継続的に被害者を支える制度も創設する方針という。

 被害者団体は、過去の事件で苦しんでいる人も救済できるような仕組みを求めている。被害者側の声に耳を傾けながら、きめ細かい制度を実現してもらいたい。

 独自の被害者支援策を講じている自治体もある。兵庫県明石市は、加害者から賠償金が支払われない場合、最大300万円を立て替える制度を設けている。被害者の転居費や教育費も補助している。

 こうした支援をさらに拡充してほしい。途方に暮れる遺族や被害者に寄り添い、親身になって相談に乗ることも大事な役割だ。