ジャニーズ謝罪1年 被害申告985人、長引く補償交渉 出演再開に「なし崩し」批判も(2024年5月14日『産経新聞』)

 

動画で「おわび」

スマイル社の東山紀之社長は産経新聞の取材に、「心のケアや誹謗(ひぼう)中傷の問題など、金銭補償をした人の中にも継続してサポートが必要な被害者がいる。1日も早く多くの人を救済できるよう今後も誠心誠意、補償業務に取り組みたい」と表明した。

1年前の令和5年5月14日、当時の藤島ジュリー景子社長は事務所の公式サイトに掲載した動画で、「世の中を大きくお騒がせしておりますこと、心よりおわび申し上げます」と謝罪した。同年3月に英BBCが性加害問題を報道したことなどを受けた対応だった。

10月に社名変更して東山氏が社長に就任。被害申告した985人のうち454人に補償内容を通知、399人と合意し、374人に補償金が支払われた。金額は未公表だが、関係者によると数百万円から1800万円が提示されたという。

「補償金、生活のよりどころ」

「ジャニーズ性加害問題当事者の会」副代表、石丸志門氏(56)は提示額に不服を申し立て、今月9日の交渉で、同社の提案により裁判所の民事調停手続きへの移行が決まった。石丸氏は「第三者を入れた場で徹底的に議論できるので、一歩前進と捉えている」と述べ、他の被害者にも「納得いかない場合、強く申し立てれば対応してくれる」と呼びかけた。

石丸氏は昭和57年から3年にわたり100回以上の性被害を受け、現在もPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされているという。「働けない状態で補償金が生活のよりどころになる。簡単に解決しない問題だと実感し、とても長い1年だった」と振り返った。

同社によると500人以上に補償内容を通知できておらず、93人には「弊社への在籍、被害を確認できない」として補償を行わないと連絡。解決には年単位の時間がかかると見込まれる。

「テレビ局は改めて検証を」

看板が外された旧ジャニーズ事務所=令和5年10月、東京都港区

テレビ各局は旧ジャニーズ事務所が性加害を認めて以降、性加害の事実認識や事務所との関係についてそれぞれ検証を行った。一方、新会社「STARTO ENTERTAINMENT(スタートエンターテイメント)」に移行したタレントの番組への起用を巡っては、対応が分かれている。

NHKの稲葉延雄会長は4月、「補償や再発防止策の着実な実施が確認されるまで、当面新規の出演依頼は行わない」と表明。テレビ東京も同じ方針だ。他局は「人権状況について注視している」などとしつつ、日本テレビのように4月期ドラマにタレントを起用した局もある。

毎日放送プロデューサーで同志社女子大の影山貴彦教授は「テレビ局は加害者の立場に近い当事者だという認識が薄いのではないか」と指摘。「出演を継続させることで、事件の風化を望んでいると見えてしまう。タレントに罪はないが、なし崩しは良くない」とし、「補償など事態が進んでから改めて自らの対応を検証し、メッセージを出すべきだ」と話す。(三宅令、大森貴弘

ジャニーイズムは踏襲できない

西条昇・江戸川大教授(アイドル論)の話

昨年5月の藤島ジュリー景子氏の謝罪は、性加害疑惑の存在を認めたという点でインパクトは大きかった。旧ジャニーズの特徴はコントロールの強さにあった。タレントはもちろん、メディア、テレビ局までグリップされていた。この1年で、くびきから解き放たれた影響が出始めている。タレントの独立が相次ぎ、テレビではジャニーズ以外の男性アイドルを見かけることが増え、例えるならジャニーズ幕府は倒れ、群雄割拠の時代になったとも言える。

独特のセンスでタレントを染め上げ、アイデンティティーを確立してきた「ジャニーイズム」は消えることはないが、もう踏襲はできない。所属タレントたちや新事務所が飛躍していくためには、新しいアイデンティティーの確立が必要となるだろう。(談)