ニーズ増す「老犬・老猫ホーム」どんな施設?費用は? 事情で飼えないペットを預けた人の声を聞いてみた(2024年10月17『東京新聞』)

 
 さまざまな事情で飼えなくなったペットを長期間有償で預かる「老犬・老猫ホーム」が増えている。飼い主の高齢化に加え、室内飼いの浸透、医薬と食生活の進歩によるペットの長寿命化が背景にある。ホームとはどんな施設で、どれくらいの費用がかかるのか、取材してみた。(神谷慶)

◆飼い主の死去、犬の老化…入居理由はさまざま

 緑に囲まれた約9000平方メートルの敷地内に、首都圏中心に全国から預けられた犬約80匹が暮らす。千葉市緑区の郊外型の老犬ホーム「スマイルフラワー」。犬舎が5棟あり、個室は約1.5メートル四方で、多くは日中をドッグランスペースやウッドデッキのある屋外で過ごす。
表(1)

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 入居理由はさまざまだ。飼い主の死去や施設入居などのほか、犬が認知症で夜鳴きしたり、要介護状態になったりしたケースも。年齢問わず、1~12カ月の月単位で預かる=表(1)。
 動物病院グループを展開する企業が運営する。経済的負担を理由に犬への医療行為を望まない契約者もいるため、5月からは無料で獣医師が毎月往診し、医療費も20%引きにした。自身も獣医師の張本和貴代表(30)は「全ての犬に高額な高度医療が必要とは思わないが、月数千円の『緩和ケア』で快適に過ごせる可能性もある。選択肢を提示したい」と話した。

◆「蓄えと施設がなかったら、犬はどうなっていたか…」

 千葉県船橋市の女性会社員(54)は昨年10月末に入居した柴犬の雌、花梨(かりん)(15)の面会に隔週で訪れる。「かわいくて、仕方がなくて」。元は夫の両親の愛犬だったが、数年前、義母が認知症になり、義父も入退院を繰り返すようになった。夫は長男で、女性との住まいはペット不可の物件。次男は既に犬と猫を飼い、いずれも引き取れなかった。老犬ホーム入居費は、施設で暮らす義父の貯蓄や年金で支払う。女性は「蓄えがなかったら、花梨はどうなっていたのだろう」と話す。
花梨の面会に訪れ、頭をなでる女性=千葉市緑区のスマイルフラワーで

花梨の面会に訪れ、頭をなでる女性=千葉市緑区のスマイルフラワーで

 花梨を飼い始める時、義母は「子犬だと面倒を見切れるか分からない」と反対寄りの意見だったという。一緒に暮らせた年月はかけがえのないものだったと思うが、「花梨がふびんで、義母の考えが正しかったのかなと思う時もあります」。

◆都市型の場合は「年100万円程度」

 ホームは都市部にもある。羽田空港にほど近い東京都大田区の「東京ペットホーム」は計30匹弱の犬と猫を預かる。猫は広さ1平方メートルの個室で眠り、1日の大半を約20平方メートルの「集会所」で過ごす。スタッフが1日約20時間常駐する。
 契約は6カ月ごとの更新制。都市型は郊外型より高額な場合が多く、「ざっと1匹で年100万円程度見ておく必要があると思う」と渡部帝(あきら)代表(55)。ただ、高額でも「近さ」は重要だとして、「断腸の思いで預けた飼い主も、面会を重ねることで『二人三脚で飼い続けている』と思えるはずだ」と話す。

◆「預けても家族と思っています」

 神奈川県在住の女性(85)は3週に1度、2022年11月に預けた雌の黒猫、ちぃちゃんとの面会を続けてきた。18年前、夫が営む会社兼自宅の軒下で保護した。転居し、廃業した後もその場所で過ごすちぃちゃんの元に毎日1時間かけて通ってきた。
ちぃちゃんを抱く飼い主の女性(右)=東京都大田区の東京ペットホームで

ちぃちゃんを抱く飼い主の女性(右)=東京都大田区の東京ペットホームで

 2年前に夫が急逝した後も都内に住む娘と手分けして世話をしたが、体力的に難しくなった。自身が倒れる可能性を考えると引き取れず、娘も家庭の事情で飼えなかった。元の家を売却した資金を入居費に充てている=表(2)。「寂しいけど、心も体も楽になった。預けても家族と思っています」
表(2)

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 人間が怖いのか、触らせてさえくれなかったちぃちゃん。入居後はスタッフに慣れ、女性のひざにも乗るようになった。9月下旬、ちぃちゃんは面会中の娘のひざの上で、誰も気付かぬうちに静かに息を引き取った。女性は「最期まで大切に面倒をみてもらい、人になついてもくれた。ただ、感謝しかない」と語った。
 環境省によると、「老犬ホーム」や「老猫ホーム」が主な対象となる第1種動物取扱業者の「譲受飼養業」の登録数は、23年4月時点で241件。10年前(13年4月時点)の20件から約12倍となっている。

<識者に聞く>介護生活見据えて自宅リフォームも

岡田敏宏さん

岡田敏宏さん

 ドッグトレーナーでファイナンシャルプランナー(FP)の岡田敏宏さんの話 飼い主がいない犬や猫の保護に対する社会的関心は近年高まっている。どうしても飼育できず、ホーム入居も経済的に難しい場合、動物病院や愛護団体、店舗などに仲介してもらう形で、新たな飼い主を見つけるのが現状では最も現実的な方法だ。自分たちの年齢を考慮し、高齢のペットを迎える高齢者もいる。
 ホームに預けるなら、新しい飼い主に任せるのと違い面会できるはずなので、希望通り会えるか確認を。また、介護の問題から長期間預けることを検討するなら、自宅のリフォームも選択肢だ。夜鳴きやトイレの失敗に備えて狭めの1室を防音・防水仕様にするなどすれば、一緒に住めて費用も抑えられる場合がある。施設に預けない場合、介護を見越して生涯の飼育費プラス100万円ためておけば安心できる。