野生動物ペット 安易な飼育は生態系に影響も(2024年5月20日『読売新聞』-「社説」)

 日本では、多種多様な生き物がペットとして飼われている。持て余した飼い主に捨てられ、自然環境に影響を与えることもある。飼育には慎重さが求められる。
 野生動物を「かわいい」という理由だけでペットにすることには問題が多い。例えば、北米原産のアライグマは、1970年代に人気を博したアニメの影響で、日本に大量に輸入された。
 ところが、 愛嬌あいきょう のある顔つきに反して気性が荒く、手に負えなくなった飼い主が放したり、逃げ出したりして、各地で繁殖することになった。現在は農作物を食い荒らし、人家の屋根裏にすみ着くなど、被害が深刻化している。
 外来生物は在来種を駆逐し、生態系をかく乱する恐れがある。いったん定着してしまった生物を根絶するのは難しい。安易な飼育が、生態系に深刻な影響を与えることを認識する必要がある。
 近年は、東南アジアにすむ小型の「コツメカワウソ」が人気を集めている。SNSでかわいらしい姿が拡散され、「マンションでも飼える」という印象が広まった。カワウソに会えるカフェの登場もこうした風潮を助長した。
 しかし、カワウソは強いあごや鋭い歯を持ち、新鮮な魚や貝を食べている。群れで陸地や水辺を活発に動き回る。一般人が本来の生息環境を用意することは困難で、動物園では専門の飼育員や獣医師が世話にあたっている。
 需要があり、高値がつく限り、供給者が現れる。東南アジアでは日本向けのカワウソの密輸が摘発されている。消費者の「飼いたい」という気軽な気持ちが、希少動物の密猟や密輸を誘発する結果を招いているとも言えるだろう。
 両生類や魚類など、様々な生物がオンライン販売を含めて幅広く取引されている。売る側も買う側も、その生き物がどこから来たもので、法令上の問題はないのか、確認する姿勢が必要だ。
 野生動物は、人間との生活になじんだ犬や猫とは異なる。飼えるかどうか判断に迷ったら、WWF(世界自然保護基金)ジャパンのサイト「エキゾチックペットガイド」を参照するのも一案だ。
 例えば、ペットとして人気のコキンメフクロウは「攻撃的で神経質な一面がある。決して飼いやすい動物とは言えない」といった専門家の解説が見られる。
 アパートの部屋からニシキヘビが逃げて、大騒ぎになったこともある。生き物の飼育には責任が伴うことを忘れてはならない。