安全保障政策は第2次安倍政権が集団的自衛権の行使を認めた安保関連法を制定して以降、大きく変質した。
その是非がまず問われる。
中国の軍拡、北朝鮮の核・ミサイル開発など日本周辺の安保環境は確かに悪化している。
だが、米国に追従して防衛力さえ増強すれば、平和と安定を担保できるわけではない。
■専守防衛逸脱認めぬ
自民党は岸田政権が策定した安保関連3文書に基づき、防衛力を抜本的に強化するとした。
財源は法人、所得、たばこ3税の増税で確保するとしながら実施時期を先送りし、自民、公明両党の公約にない。
石破首相はテレビ番組で年末の税制改正の際に「決着させなければならない」と述べた。それなら具体的に説明すべきだ。
日本維新の会も「国民の負担増に頼らない」としつつ、2%まで増額するとした。
膨張する防衛費にどこかで歯止めをかけなければ、教育など暮らしに不可欠な予算にしわ寄せが及びかねない。身の丈に合った防衛力の議論が必要だ。
■対米追従加速は危険
際限なき日米同盟強化がもたらす帰結について、根本からの議論が欠かせない。
だが石破首相は核抑止力を重視し、米国との核共有や核の持ち込みを具体的に検討する必要があるとの持論を訴えている。
■多国間協調で安定を
影響力を強める中国とどう向き合うか。まさに外交の真価が問われる課題だ。
北方領土問題を含め対ロシアの戦略は各党の公約に乏しい。置き去りにしてはならない。
北朝鮮が南北間の道路や鉄道を遮断するなど韓国との関係が悪化している。改善基調にある日韓は米国と共に、事態の沈静化を図ることが求められる。
公明は「多国間の安全保障対話の仕組み作り」を掲げ、立憲は日米豪印の協力枠組み「クアッド」の参加国を増やすなどして緊張緩和に取り組むとした。
中国の封じ込めでなく、多国間協調をいかに実現して平和と安定を主導するか。さらに具体的な構想が必要だ。
いまが右肩上がりの時代でないことは誰もが知っている。むしろこの先20年ほどは、日本の人口減少と高齢化が一層進む見通しだ。次代を生きる子や孫の負う国の借金など「重荷」は、できるだけ軽いのが望ましい。衆院選で有権者は、各党の物価高対策や経済政策がかえって「重荷」を増さないか、厳しく見極めてもらいたい。
高インフレが国民を襲って既に3年目。多くの家計は物価上昇に収入が追い付かず苦境にある。選挙ではその対応策が各党に問われている。
自民党は石破茂首相が経済対策の策定を指示し、その財源確保へ選挙後に大型補正予算を編成する方針。低所得世帯への給付金や、地方自治体交付金の拡充が柱に挙がる。連立を組む公明党は電気・ガス、ガソリン価格抑制の補助金継続を掲げており、その方向で検討が進む見込みだ。
しかしガソリンなどへの補助金は、相次ぐ延長や再開で累計11兆円余り。恩恵がマイカー所有者などに偏り、化石燃料削減の脱炭素に逆行すると指摘される。その場しのぎのばらまきと言える政策の是非を、この機に改めて考えるべきだろう。
経済成長の主役である個人消費が振るわないのは、物価高をしのぐ所得を家計が得られていないからだ。だが賃上げ実現に向けた政策は、最低賃金の引き上げを自公をはじめ立民、国民民主、共産党が掲げるなど違いに乏しい。
企業は長年、デフレを口実に人件費を抑える一方、資金の多くを配当など株主還元や海外投資に割いてきた。人手不足の現在も基本姿勢は変わらない。国民が政治に期待するのは、こうした企業に「働く人最優先」へ転換を迫る政策論であろう。各党はその自覚が足りないのではないか。
物価高対策としてはもちろん、次代への「重荷」軽減に肝心なのが日銀による金融政策の正常化だ。異次元緩和は今春終えたものの、超低金利の長期化で財政規律が緩みばらまき政策が常態化。歴史的な円安を招き、輸入コスト増で中小企業や家計を苦しめている。
脱デフレ最優先の自民は、石破首相が追加利上げへの難色を明言。国民民主も緩和継続を求める。これに対して立民は物価目標を現在の2%から「0%超」へ下げることで正常化を促す立場だ。
残念なのはほとんどの党が財源を曖昧にしたまま財政支出拡大を掲げ、複数の野党が消費税減税や廃止(れいわ新選組)を主張している点だ。立民と国民民主は低所得者に利点のある「給付付き税額控除」導入の一方で、国の財政状態を監視する「独立機関」の設置を公約に盛り込んだ。
大型の補正編成を表明した石破首相には、その財源に国債を充てるかどうかを明確にする責任がある。国債増発ならば、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2025年度に黒字化する財政健全化目標は、達成が危うくなるためだ。
個人消費の低迷がデフレからの脱却を目指す日本経済の足を引っ張り続けている。原因は誰の目にも明らかだ。賃上げが物価の上昇に追い付かず、家計を圧迫しているからに他ならない。
衆院選では各党とも賃上げの拡大、定着をうたっている一方、その方法や家計の負担軽減策にはそれぞれ特徴がある。金融政策や税制にも及ぶ課題を分かりやすく整理し、中長期的な成長を見据えた具体策を競ってもらいたい。
厚生労働省が先週公表した8月の毎月勤労統計調査(速報)によると、物価変動を考慮した実質賃金は前年同月比0・6%減で、3カ月ぶりにマイナスに沈んだ。
実質賃金は2022年4月以降、円安や原油高などの影響で過去最長の26カ月連続マイナスとなった後、6、7月はプラス転換。だが、夏のボーナス支給が終わった途端、あっけなく賃金が物価高に追い付かない状態に戻った。
生産性の向上や負担が重くなる中小企業への支援策などについて産業別、地域別に突っ込んだ議論を求めたい。
衆院解散を急いだ結果、経済全体のパイを拡大する成長戦略も生煮え感が否めない。
自民党では脱炭素やデジタル化への投資など、岸田文雄前政権から引き継ぐメニューが目立ち、立憲民主党も「リスキリングなど徹底した『人への投資』」「半導体、生成AI(人工知能)の国内立地化」などで新味に欠ける。
一方、野党では消費税、所得税の在り方を見直すことで家計負担の軽減を目指す動きが活発だ。
共同通信が12、13日に行った電話世論調査で、何を重視して投票するかを聞いたところ、景気・雇用・物価高対策が57・0%で最多となった。 食料品など生活に不可欠な物の値段が上がっている中だけに、有権者の関心は高い。
「暮らしを守る」(自民)「分厚い中間層の復活」(立民)「手取りを増やす」(国民)など各党のスローガンに異存はない。ただ、有権者が知りたいのは「どうやって」という点だ。ぜひ、具体的な主張を繰り広げてほしい。
厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、物価変動を考慮した1人当たりの実質賃金は円安や原油高などの影響で2022年4月から今年5月まで26カ月連続で前年同月比マイナス。6、7月にいったんプラスに転じたものの、8月は再びマイナスとなった。物価上昇のペースに賃上げの伸びがまだ追い付いていない。これでは生活は上向いていかない。
自民党と公明党は低所得者世帯に給付金を支給し、生活を下支えする方針だ。石破茂首相は、衆院選後に前年度の13兆円を上回る規模の補正予算を組む考えを示している。電気・ガス代やガソリン料金を抑える支援策も盛り込む方向だという。
日本維新の会は消費税を10%から8%に引き下げ、軽減税率を廃止するとしている。国民民主党も、消費税は実質賃金が持続的にプラスになるまで5%にすると主張。共産党は消費税廃止を目指し、当面5%に引き下げるとした。
生活支援は一定程度必要だろう。だが気になるのは財源だ。各党ともその点を十分考慮しているのかが、いまひとつ見えてこない。
新型コロナウイルス禍に対応するためにここ数年、歳出が大きく膨れ上がったままの国の予算を、平時の状態に戻す必要がある。有権者に聞こえのいい政策を打ち出す一方、財源のめどが立たないということであれば、財政再建は遠のくばかりだ。
国の借金は23年度末時点で1200兆円を大きく上回る異常な状況だ。借金を着実に減らしていくことが求められる。そのためには、税収を増やすと同時に、無駄な支出を抑えるなど、バランスの取れた財政のかじ取りが欠かせない。
日銀は今年、長年続けたマイナス金利政策を解除し、利上げに踏み切った。行き過ぎた円安となり、物価高を招いてきたことなどを踏まえた軌道修正だ。だが、これに伴い国による借金の利払い額は増える。安易なばらまき政策は禁物だ。
その上で、いかに経済成長を図っていくかにもっと知恵を絞ってもらいたい。各党は持続的な賃上げや最低賃金の大幅な引き上げに言及しているが、そのためには企業の生産性向上が不可欠だ。
日本に今、どんな成長戦略が必要なのか。各党はそれぞれが練り上げた対策を明確に、かつ分かりやすく訴え、存分に競い合ってほしい。
2014年に地方創生の取り組みが始まってから10年。スタート時、まち・ひと・しごと創生本部の初会合に出席した安倍晋三首相(左)、石破茂地方創生担当相(中央)、高市早苗総務相(右)=首相官邸で2014年9月12日午前11時9分、藤井太郎撮影(いずれも肩書は当時)
地方の人口減少が進み、地域社会の維持が危ぶまれている。
各党は選挙公約で、地方の重視を掲げる。「東京一極集中」が止まらない要因を分析し、より踏み込んだ具体策を競うべきだ。
2014年から政府は「地方創生」の人口減少対策に取り組んでいる。石破茂首相はその強化に向けた本部を政府に設けた。来年度予算で自治体の施策を支援する交付金約1000億円の倍増を目指し、自民党公約にも盛り込んだ。
地方創生は観光需要の掘り起こしなど、自治体の成功事例を他にも波及させることで、地域の活性化を図る施策だ。「単年度ベースで東京圏と地方の人口流出入を均衡させる」との目標を掲げる。
東京圏への集中が止まらないのは、地方からの若い女性の流出に歯止めがかからないためだ。
自民の公約には「分散型国づくり」との表現はあるが、「東京一極集中是正」の文言はない。
東京都の合計特殊出生率は0・99と全国一低い。この状況のまま地方から人が流入すれば、日本全体の人口減少を加速させる要因となる。一極集中是正は防災など、危機管理の観点からも重要だ。もっと明確に打ち出すべきだ。
人口減少の大きな流れは変わらない。居住地域のコンパクト化、老朽インフラの選別など備えも進めるべきだ。能登半島地震は過疎地が抱えるもろさを浮き彫りにした。地域の持続に向けた議論を与野党は深めていく必要がある。
危機防ぐ外交・安保の覚悟はあるのか(2024年10月18日『日本経済新聞』-「社説」)
世界で紛争や危機が広がる。抑止力強化の必要性は論をまたないが、平和的な解決は対話でのみなし得る。複雑な脅威に持続可能な防衛力と外交力をどう高めていくか与野党は道筋を示すべきだ。
各党の衆院選公約は掛け声や抽象論がめだち、政治の覚悟が伝わってこない。
中国が台湾を囲む形で大規模な軍事演習を実施した翌日の15日に北朝鮮が韓国へとつながる道路を爆破した。日本周辺の緊張が高まっている。
5年間に43兆円の巨費を投じる防衛力の強化へ政府は2027年度以降に1兆円強を増税で賄う方針だ。石破茂首相(自民党総裁)は増税の開始時期を年内に決着させる考えを示す。責任ある政治の姿として妥当である。
もっとも国防が喫緊の課題であるなら、与野党は徹底的な無駄の削減とあわせて負担のあり方を国民に説く必要がある。立憲民主党は「防衛増税は行わない」としたが「急増した防衛予算を精査する」だけでは無責任ではないか。
首相が「必ず実現したい」と意気込む日米地位協定の改定について自民党は「あるべき姿を目指す」との表現にとどめた。アジア版NATO(北大西洋条約機構)構想などとともに国民への丁寧な説明や調整が欠かせず、内外に混乱を招かないようにすべきだ。
ノーベル平和賞に日本原水爆被害者団体協議会が選ばれた。日本は唯一の戦争被爆国として核軍縮への果たすべき責務がある。野党や公明党が求める核兵器禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加は現実的で、核抑止との両立をめぐって議論を深めるときだ。
外交の取り組みが総じて物足りない。大国間の対立により国連が本来の役割を果たせず、日本は中国をはじめ戦略外交の立て直しが急務だ。票にならないといわれてきた外交・安保こそ国会議員の仕事だと肝に銘じてほしい。
長引く物価高騰で打撃を受けている私たちの暮らし。家計の痛みを抑えるために、各政党・候補はどのような支援策を訴えているのか。その効果をじっくり検討した上で、投票先を決めたい。
給付金は一時的な家計支援にはつながるが、効果が薄れるのも早い。支給対象を線引きすれば、不公平感も生じる。自公両党はこうした問題点について、選挙戦で丁寧に説明する必要がある。
これに対し、野党各党は消費税を巡って負担減を掲げている。
立憲民主党が訴えているのが給付付き税額控除の導入。課税額より控除額が多い場合、差額を現金で戻す仕組みだ。低所得者の負担が重い消費税の逆進性を軽減する狙いがあるが、仕組みが複雑で、効果を疑問視する意見もある。
中小の多くは価格転嫁が進まず賃上げの原資を十分確保できていない状況だ。大企業に価格転嫁に応じるよう促す具体的提案が与野党ともに少なく、物足りない。
高騰する電気・ガス、ガソリン料金対策を巡り、自公は補助金継続を基本とし、立民と国民はガソリンについて、価格高騰時の減税を可能にするトリガー条項の凍結解除などを掲げる。
ただ、エネルギー支援の総支出額は11兆円超に達する。財政圧迫要因となることも考慮した判断が必要となるだろう。
厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、8月の実質賃金は3カ月ぶりにマイナスに転じ、再び賃上げが物価高に追いつかない状況になった。一部の大企業や富裕層が潤い、国民の多くが節約を強いられる構造は許されない。不公平を是正し、暮らしの痛みを抑えるための活発な論戦を期待したい。
経済政策 好循環へ具体的な道筋を(2024年10月18日『新潟日報』-「社説」)
耳当たりのいい言葉が並ぶが、実現可能性はどうなのか。各政党、候補は経済を好循環させる具体的な道筋を示し、財源を含めて論じてもらいたい。
日本経済の大きな課題は、物価の上昇に賃金の上昇が追い付いていないことだ。毎月勤労統計調査によると、8月の実質賃金は3カ月ぶりにマイナスに沈んでいる。
こうした状況を踏まえて多くの政党が打ち出しているのが最低賃金の引き上げだ。
労働者にとってはどれも歓迎すべきことだが、問題は企業がそれだけの給料を払えるかどうかだ。
24年度の最低賃金は全国平均が1055円、本県は985円だ。時給1500円では「倒産する」との声が経営側からは漏れる。
政治に問われるのは、十分な賃上げができるよう企業の成長を促す具体的な方策だ。
各党はデジタル化やリスキリング(学び直し)、ライドシェアなどによる成長戦略を描くが、物足りない。選挙戦を通じて詳細を詰め、有権者に説明してほしい。
各党は物価高対策として国民の生活支援策も提示している。
自民は低所得者世帯への給付金支給、公明は給付金支給の他に電気・ガス料金、ガソリン代の補助延長を行うとする。
立民は実質的に消費税の一部を還付する「給付付き税額控除」を中低所得者に導入するとした。
他の野党は消費税減税を訴え、維新は8%、共産と国民は5%への引き下げを提唱する。れいわは廃止、社民は3年間ゼロとし、参政党も消費税減税を主張する。
目先の選挙のためのばらまきで借金を増やし、将来につけを回すことにならないか。私たちはそうした点もしっかり吟味したい。
物価高対策/見極めたい財政への影響(2024年10月18日『神戸新聞』-「社説」)
長引く物価高は国民生活に深刻な影響を及ぼしている。衆院選では各党が対策を打ち出し、重要な争点の一つとなっている。
背景には国際情勢や人口減少といった構造的な要因が重なり、短期間での解消は見通せない。いったん講じた対策は継続が避けられないだけに、財政への影響や他の政策との整合性を慎重に見極めたい。
消費者物価指数はデフレ経済下で下落基調が続いたが、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻し資源価格が値上がりしたのを受けて上昇傾向を強めた。残業規制の強化や人手不足による人件費高騰も重なり、23年の上昇率は前年比3・1%と41年ぶりの高水準となった。
与党の自民と公明は、ガソリンや電気・ガス料金引き下げを目的とした補助金の継続と、低所得世帯向けの給付金創設を公約に掲げる。
会計検査院は、ガソリン価格の抑制額が補助金の交付額を下回っていると試算した。効果的な公金の使い方なのかは疑問符が付く。エネルギーを使えば使うほど補助額が増え、「脱炭素化を妨げる」とした国際通貨基金(IMF)の批判は一考に値する。選挙戦が熱を帯びていけば、給付金の支給対象がなし崩しに拡大する懸念も否めない。
野党の公約は消費税見直しが目立つ。立憲民主は、中低所得層の消費税負担分を税額全体から控除し控除しきれない額は給付する「給付つき税額控除」を掲げる。日本維新の会や国民民主、参政は減税を、共産は廃止を目指した上での減税を、社民とれいわ新選組は廃止を唱える。
家計の負担は軽減されるが、消費税収は税収全体の3割超を占める。財政の国債依存度を高めないよう、税収がどの程度減り、どう穴埋めするのかを明確に示してほしい。
立民は日銀が「物価の番人」である点に着目し、2%の物価上昇率目標を0%超に改める公約も示した。長く続いた金融緩和路線が物価高の一因との指摘もある。だが金融政策で物価を抑え込もうとすると金利の大幅な引き上げにつながり、景気に悪影響を及ぼしかねない。そもそも中央銀行の独立性を脅かすことにならないかについても、きちんとした説明が欠かせない。
今回の物価高は高度成長期のような需要の増加ではなく、原材料や人件費などコスト上昇分の転嫁によるものだ。給与の上昇分が追いつかず、実質賃金の低下傾向も続く。
痛み止めのような一時しのぎの対策ではいずれ効果が薄れる。問題の背景にまで踏み込み、解消に向けた政策をパッケージとして盛り込んでいるかどうかも、有権者は厳しく吟味する必要がある。
衆院選の公示直前に日本被団協のノーベル平和賞受賞が決まったことを受け、核兵器廃絶への取り組みが争点に浮上した。とりわけ、核兵器禁止条約に背を向け続けてきた政府の姿勢を改めるよう求める声が、与党の公明党や野党から強まっている。
首相は公示前のNHKテレビ番組で、「まず日本を守ることを考え、いかに核廃絶につなぐか野党とも議論しながら道を見いだしたい」と述べた。政府は米国の核抑止力を重視する立場から条約の署名・批准を拒んでいる。オブザーバーとして参加できる締約国会議にもそっぽを向き、自民党公約にも言及はない。
ただ同じ番組で首相は「等閑(とうかん)視するつもりはない。真剣に考える」とも語った。姿勢をやや前向きにしたと受け止める関係者は少なくない。
公約で公明はオブザーバー参加を含め批准の環境整備を進めると唱える。共産党は核抑止から抜け出し条約に参加する政府をつくると訴える。立憲民主党はオブザーバー参加を掲げるが批准の是非は示していない。公約に記述はないが、被団協受賞に呼応して日本維新の会や国民民主党もオブザーバー参加を求める。
一方で核政策を巡り、維新は米国の核兵器を日本で運用する「核共有」の議論、立民と国民は米国が核兵器と通常戦力で日本防衛に関与する拡大抑止の深化などを公約にうたう。核共有の検討は首相の持論でもあるが、非核三原則に反すると指摘しておく。
各党の公約や訴えなどを見極める必要があるものの、オブザーバー参加で自民以外の足並みはそろう。衆院選後の政権枠組みがどうなろうとも、現実的な政策に位置付けられよう。
一度崩れたら未曽有の惨事を招く核抑止に持続可能性はない。人類視点に立った外交や被爆の実態を国際社会に伝える取り組みに最大限の努力が求められる。安全保障を他国の核に頼る矛盾を抱えたままであっても、それを乗り越えるため被爆国にしかできない役割の議論を深めたい。
石破茂首相は、初の所信表明で防衛力の抜本的強化をさらに推し進める方針を示した。「わが国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」との認識に立つ。
日本を取り巻く状況が厳しくなっているのは確かだろう。中国やロシア、北朝鮮の軍事活動が活発化している。
しかし、対応を誤れば、危うい軍拡競争に陥る恐れがある。偶発的な衝突を招いたり、緊張を一層高めたりしかねない。冷静な論議が求められる。
16年施行の安保関連法では、平時から他国軍の艦艇や航空機を守る「武器等防護」も可能になった。米軍と自衛隊の一体運用に懸念が強まっている。
経済政策 家計支援の具体策を示せ(2024年10月18日『西日本新聞』-「社説」)
物価高に苦しむ家計の支援と、低迷が続く日本経済の成長戦略をどう描くか。経済政策は衆院選の大きな争点だ。 各党の公約には物価高対策や最低賃金の大幅引き上げ、所得税の控除拡大、消費税の減税や廃止といった家計に関わる政策が並ぶ。
有権者の関心は高い。各党は財源を含む実現への道筋を示すべきだ。
世界経済の成長から取り残された日本経済の再生を急ぎたい。世界3位だった米ドル換算の名目国内総生産(GDP)は2023年にドイツに抜かれ、近いうちにインドに追い越される。「経済大国」の看板は色あせてしまった。
国民の暮らしを底上げし、経済を浮上させるには給料の大幅上昇が必要だ。生産性を高め、給料を上げる政策を各党で競ってほしい。
6月にプラスに転じたのもつかの間、8月はマイナスに戻った。前政権の踏襲では局面の打開は難しい。
経済対策には電気・ガス代やガソリン料金の補助が入る見通しで、与党の自民党と公明党が物価高対策の公約に盛り込んだ。大企業や富裕層にも恩恵が及ぶ一律補助に巨費を投じるのではなく、低所得世帯など真に困っている人に対象を絞るべきだ。
現在の全国平均は1055円だ。5年間で500円近く引き上げるには、中小零細企業に対する思い切った支援策が欠かせない。
長引く物価高が県民の暮らしを圧迫している。
円安や燃料高騰を受け、石破茂首相は「物価に負けない賃上げ」を掲げるが、実現には程遠いと言わざるを得ない。
全国では8月、実質賃金が約3カ月ぶりに減少へ転じた。止まらぬ物価高に賃上げ効果も薄れている。
県内ではさらに深刻だ。実質賃金は前年比マイナスが3年間続く。2020年を100とした実質賃金指数は今年7月に88となり減少の一途をたどっている。
背景には他県に比べても割高に推移する物価と、中小零細企業で賃上げが進まないことなどがある。
中でも価格変動の大きいのが食料品だ。
物価水準の地域間の差を表す「消費者物価地域差指数」の費目別で、沖縄は「食料」が21年から全国1位となっている。
それまで高かった福井や東京を抜いた。
島しょ県の県内では、食料品の調達にもともと物流コストがかかる。それが折からの燃料高騰で、より色濃く影響を受けた形だ。
子どもの貧困対策として県が子育て世帯に毎年実施している調査で、経済的負担が大きいものを複数回答で尋ねたところ「食費」が78・7%と最も多くなった。
「おやつなど子どもの食事を減らした」との悲痛な声もあった。
■ ■
大企業を中心に賃上げが進む全国との差は広がるばかりだ。
県労連の試算では那覇市在住の女性が生活するために必要な時給は1662円だった。
賃上げ効果を広く行き渡らせるためには、さらなる引き上げが欠かせない。
県内ではフルタイムなど正規雇用でも賃上げが進んでいない。
従業員5人以上の事業所の給与は直近7月、前年同月比から6・3%減少した。
全国的な賃上げにもかかわらず県内では低迷している。
中小零細企業で価格転嫁が進まないことなどが背景にあり、こうした企業からは「賃上げの負担に耐えられない」との声も上がる。
■ ■
物価高対策については各党とも公約に掲げている。
これに対し立憲民主、日本維新の会、共産など野党は消費税減税や、給付付き税額控除などの減税策を中心に訴えている。
ただ、どちらも対症療法なら県民の生活不安を払拭できない。
全国的な施策と同時に、県民所得を全国並みに引き上げる道筋も示すべきだ。
物価高が暮らしに重くのしかかる。今月はペットボトル飲料など約3千品目の食品が値上げした。ボーナスなどの賃上げ効果も薄れ、8月の実質賃金はマイナスに転じている。
政府の掲げる「物価に負けない賃上げ」実現には程遠い状況と言わざるを得ない。
各党とも衆院選公約で物価高対策を柱とする。ただし目先のバラマキは抜本策とならず、高止まりを助長しかねない。
物価高の大きな要因はアベノミクスが招いた急激な円安である。燃料や電気代は高騰し、製造・運搬コストを押し上げた。輸出企業は潤うが、その利益は社会に還元されていない。
だが市場に配慮してか持論の金融所得や法人への課税強化は封印し「富の再分配」への覚悟は見えない。成長戦略もデジタル化や投資促進を踏襲した。
少子化対策の観点からも現役世代重視は大切だが、両党とも高齢者への配慮が見えづらい。
失墜した政治の信頼を取り戻せるのか。衆院選の最大の争点は、政治とカネを巡る問題への対応だ。ところが、石破茂首相の判断は甘く、改革に懸ける熱量は極めて乏しい。「平成の政治改革」で若手論客として注目を集めた面影はない。
石破首相は、自民党の公認候補決定に当たり、派閥の巨額裏金問題に絡んだ前衆院議員全員の比例代表重複立候補を認めず、12人を非公認とした。厳しい対応と強調するものの、34人を公認しており、線引きの基準はあいまいだ。法律を逸脱したことに照らせば、疑問符を付けざるを得ない。しかも非公認でも当選すれば追加公認する意向を示したことには、今回の選挙で幕引きを図る思惑がにじむ。有権者は納得するだろうか。
旧安倍、旧二階両派の幹部を除き、裏金前議員44人の審査は、衆院政治倫理審査会で自民も含む全会一致で可決している。しかし、対象者は弁明を拒み、党執行部が出席を積極的に促した形跡もない。今回石破首相の衆院スピード解散によって、政倫審での審査の効力は消失した。
政倫審で弁明する機会を奪う、つまり国会のルールを壊す重大性を、首相は自覚していたのか。総裁選中は裏金前議員から使途を確認すると言いながら、それを実践したのかも定かでない。実態解明のための再調査にも背を向けたままだ。
石破首相は「裏金」は決めつけで、政治資金収支報告書の「不記載」だと強弁する。自民党の調査報告書は、派閥から収支報告書に記載しないよう指示されていた状況を明記している。明確な意思に基づく組織的な行為を、単なる「不記載」で片付けるわけにいかないのは明白だろう。
党から幹事長らに渡される公開義務のない不透明な政策活動費の扱いもぶれる。総裁選で複数の候補が「廃止」を訴えていたが、石破首相や自民公約が「将来的な廃止も念頭」とするにとどまっただけでなく、首相は堂々と今回選挙でも政策活動費を使うと明言した。だが、野党の激しい批判を浴びると、「抑制的に使う」「使わない」と発言を二転三転させた。「深い反省」を示し、「不断の改革」を表明しても、その意気込みは伝わってこないのだ。
自民党は深刻な政治不信を招いた張本人だ。にもかかわらず、総裁の問題認識がこの程度なら、党の公約も改革への具体性を欠くのは当然かもしれない。危機感が決定的に欠落している。
これに対し、立憲民主党や日本維新の会、共産党は、企業・団体献金の禁止という政治資金規正法の抜本改革に踏み込む。立憲民主は「政権交代こそ、最大の政治改革」と訴え、政治資金の世襲制限も打ち出す。自民との違いは明らかである。
一方、与党の公明党は政策活動費の廃止、政治資金を監視する独立性の高い第三者機関の設置を提唱した。ただ「清潔な政治」を掲げながら、自民の非公認となった者も含め、多数の裏金前議員の推薦を決めるという「倫理観」は理解に苦しむ。
各党の公約を比較すると、できるだけ現行の制度を維持したいという自民の及び腰の姿勢が際立つ。刑事事件にまで発展した裏金問題をどの程度投票行動に反映させるのか、政治改革に取り組む本気度をどう受け止めるのか。有権者の判断が問われている。
法相の諮問機関である法制審議会(法制審)が制度導入を答申してから、およそ30年。早期実現を求める声は高まり、社会の理解も進む。国民が政治に求めるのはイデオロギーによる対立ではなく、現実に即した冷静な判断だ。
石破茂首相は当時、「実現は早いに越したことはない」と意欲的だったが、首相就任後は党内で賛否が割れる現状に配慮し、「議論の動向を踏まえ、さらに検討する」と慎重姿勢に転じた。
衆院選の党公約では「運用面の対応で不便解消に取り組む」とし、今後の氏制度の在り方については「合意形成に努める」と具体的な方針は示さなかった。
今年6月に経団連が「女性活躍を阻害する」として別姓制度の早期実現を提言し、社会的な関心が高まった。
提言では経済界で旧姓の通称使用が定着したものの、国際的に通用しないなどとして「女性活躍が進むほど弊害が顕在化し、ビジネス上のリスクになり得る」と指摘した。
別姓制度を巡る各党の衆院選公約を見ると、与党の公明のほか、立憲民主、共産、国民民主、れいわ新選組、社民が実現を訴える。日本維新の会は戸籍制度を変えず、旧姓使用に法的効力を持たせる独自案を提唱。参政党は伝統的家族観の軽視などを挙げて反対する。
いずれも党としての方針を明記した。自民も方針を明らかにし、有権者に問うべきだ。党内の意見統一が困難な課題こそ、トップがリーダーシップを発揮すべきだろう。判断の先送りは国民の失望を深めるだけではないか。
同委は、17日にも女性政策に関する政府への対面審査を予定しており、あらためて勧告が出る可能性がある。女性活躍を進める政府の方針にも逆行している。国際的な動きも相まって、有権者の関心はさらに高まるだろう。
結婚後に同姓と別姓のどちらかを選べる制度の実現は、ジェンダー平等を進める上での一里塚に過ぎない。
政治や経済、教育など幅広い分野に潜む男女格差を課題と認識し、有効な解決策を提示しているか。各党の公約を比較し、候補者の政策論争に耳を澄まし、その本気度を問いたい。
自民党派閥裏金事件を受け、国民の政治に対する不信感がかつてないほど高まっている。政策遂行の土台となる信頼を取り戻せるか。「政治とカネ」への対応が大きな争点だ。
自民は「厳しい反省の上に立ち、不断の改革を進める」とする。石破茂首相は関係した前議員12人を非公認とした一方、34人は比例代表への重複立候補を認めなかったとはいえ公認した。裏金の実態解明の再調査には否定的な考えを示している。有権者の目にはどう映るか。
政治の信頼回復を図るには、事件が繰り返されることのないよう、政治資金の透明性を確保する仕組みづくりが欠かせない。事件を受け、先の通常国会では政治資金規正法が改正された。幾つもの「抜け道」が指摘されながら、与党が数の力で押し切った。前政権を含めたこれまでの姿勢も審判を受ける。
政党から政治家個人に渡され、使途公開義務のない政策活動費の在り方は、国会審議の焦点の一つとなった。法改正で支出の項目別金額と年月を報告させることにはなったが、それだけで詳細な使途は分からない。
付則に盛り込まれた領収書公開までの期間は10年と長い。公開されても黒塗りばかりではとの懸念もある。使途公開に後ろ向きとも見える自民の姿勢が隠しきれない改正の中身だ。政活費を監査する第三者機関については設置時期や権限など詳細な検討が先送りされている。
公明や多くの野党の公約は政活費の廃止で一致した。自民も「将来的な廃止も念頭に」と公約で言及している。煮え切らない表現だが、政活費に問題があると考えているなら廃止の議論を急ぐべきではなかったか。
通常国会では政治資金収支報告書の公開の在り方も議論された。現在インターネット上では報告書を画像化したものが公開されている。米国などでは検索や絞り込みができるデータベースが構築されているという。同様の形で公開し、監視強化することが望ましい。
報告書の公開が3年間に限られているのは、規正法の時効5年に照らしても短い。野党の中には延長を求める声がある。
国会議員に月額100万円支給される「調査研究広報滞在費」(旧文書通信交通滞在費)の使途公開は与野党の公約で一致した。選挙後、すぐにでも実行に移せるはずだ。
政治に関するカネの動きが国民に十分見える仕組みになっていなかった。政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするという規正法の目的を、いま一度かみしめたい。
透明性を確保するために論じるべき点は多岐にわたる。将来に課題を積み残すようでは信頼回復はおぼつかない。政治改革を大きく前に進める覚悟があるかが問われている。
デフレ脱却の「千載一遇のチャンス」。岸田文雄前首相がそう強調したのは昨年秋のこと。
もう1年になるが、その好機はいまも続いている、という。これを突破するのを何よりの課題とするのが、自民党が掲げる経済政策の大枠と言えるだろう。
ただ、「政治とカネ」がメインの争点となる中、経済の長期的な先行きに関する議論は後景に退いた感がある。与野党とも、候補者の訴えには物価高を受けた当面の生活支援などが目立つ。
デフレとは、物価が下がり続ける現象のことだ。長引くと企業の収益が伸びず、賃金や設備投資が抑制され、働いている人の収入も増えない循環に陥る。巡り巡って消費者にも悪影響が及ぶ。
物価高に直面するいまの暮らしを思うと、違和感を覚える人もいる議論かもしれない。
■賃上げ促進だけでは
日本経済はこの30年、デフレに苦しんできた。好循環へと変える鍵は現在、賃上げによる消費の拡大にある。各党が賃上げの重要性を強調するのもそのためだ。
具体策に挙がるのが、中小企業が賃上げの原資を確保できるようコストを価格に転嫁できる環境を整えることや、最低賃金の大幅な引き上げだ。野党が訴える消費税減税も消費拡大に狙いがある。
どんな政策が着実な賃上げにつながるか。深める必要がある。ただ、それだけで経済の好循環が実現し、長続きするだろうか。
取り巻く状況を見渡すと、好循環のチャンス到来とばかりは言っていられない面が浮かぶ。
企業業績は大企業を中心に好調で、株価も伸びた。今年の春闘は大幅な賃上げも実現した。それなのに、多くの国民が景気の回復傾向を実感できずにいる。
一番の理由は、物価上昇を加味した実質賃金が十分に伸びないことにある。暮らしに欠かせない食料などの値上がりが大きく、賃上げが相殺されてしまう。
実質賃金は今年5月まで26カ月連続で前年を下回った。6月と7月にプラスに転じたが、8月には再びマイナスに戻っている。
いまの物価高が、経済の好循環が回り始めた成果ではなく、輸入原材料の高騰に押し上げられた結果であることに注意する必要がある。高騰を招いた主な要因は、円安の過度な進行だ。
■格差拡大が足かせに
当初は「富める者が富めば、貧しい者にも富がこぼれ落ちる」というトリクルダウンが期待されたが、実現しなかった。埋まらない格差が、好循環の鍵である消費拡大の足を引っ張っている。
さらに、長い超低金利は企業に借金しやすい「ぬるま湯」のような環境を生み出し、生産性向上を妨げたとも指摘されている。
超低金利が政府の財政運営に与えた影響も忘れてはならない。
大規模金融緩和は既に限界を迎え、日銀は利上げを慎重に進めている。国債の利払い費の増加は避けられず、野放図な財政運営は転換を迫られている。
■成長だけが解決策か
自民党は公約で「経済あっての財政」の考え方に立つとした。これは見方を変えると、経済が成長すれば借金はどうにかなる、と言っているように聞こえる。
日本はこの先、人口減少と高齢化が急速に進む。向き合うべき負担増を国民に示し、持続可能な将来像を描くことこそ責任ある政治と言えるのではないか。
「デフレ脱却」を言うばかりで楽観論を振りまいても問題は解決しない。与野党とも、その先の姿を語らねばならない。
政治とカネ 信頼回復へどう取り組む(2024年10月17日『新潟日報』-「社説」)
国民の政治への信頼を二度と裏切ることがないよう、政治にかかる資金の透明化を実現させねばならない。
「政治とカネ」の問題は衆院選最大の争点だ。各党がいかにこのテーマに取り組むかが問われる。
選挙戦で各党は具体的な改革案を示さねばならない。
石破茂首相は公示後の第一声で「政治とカネの問題が二度とないよう深い反省の下にこの選挙に臨む」と述べた。
とはいえ、政治制度改革を巡る自民の公約は、各党に比べて踏み込み不足なことは否めない。
しかし自民は「将来的な廃止も念頭に、透明性を確保し、監査する第三者機関を設置する」との方針にとどめている。
これでは廃止するのか、はっきりしない。「将来的な」では、いつ廃止するかも分からず、有権者の判断材料になるとは言い難い。
首相は9日の党首討論などで、今回の衆院選では政活費を「抑制的に使用する」と述べていたが、野党の批判などを受け、13日に一転して「衆院選では使わない」と明言した。発言がぶれることも、対応を分かりにくくしている。
公明党は政活費廃止を公約にしており、与党での対応の違いも理解に苦しむ。
公約では「新設した総裁直属の政治改革本部を中心に不断の政治改革に取り組む」などとうたうものの、消極的な姿勢が目立っては、政治への信頼を取り戻す改革ができるだろうか。
立民の野田佳彦代表は第一声で「自民に自浄能力がない」と述べ、自民の対応を批判した。
こうした指摘に、首相はどう答えるのか。有権者が注目していることを忘れないでもらいたい。
ただ、当選すれば追加公認や役職に登用する考えで、選挙をみそぎとする思惑が透けている。
裏金事件の究明をどう進めていくのかも、各党の主張をしっかり見極めたい。
地方と人口減 「縮小社会」見据えて議論を(2024年10月17日『京都新聞』-「社説」)
初代の地方創生担当相だっただけに、数少ない石破カラーの政策として目を引く。
ただ、「町おこしの延長ではなく、日本の社会の在り方を大きく変える」と強調するものの、具体性に欠ける。
政権は先の閣議で創生本部を設置した。今後10年間の基本構想を策定するというが、額の倍増ありきでは、地方へのばらまきとも映ろう。
10年間の成果に乏しい地方創生の反省を踏まえた上で、何を変えるのかを明確にすべきだ。
だが、自治体間で人口と税金の奪い合いを招き、逆に地方を疲弊させた面は否めない。
地方の自主、自律をどう高めるかが問われよう。
中央集権の強化だとして批判される中、岸田文雄前政権が法改正で決めた国の指示権拡大の廃止も目指す。
積年の少子高齢化の帰結として進む人口減は、社会の成熟と不可分であり、その維持さえ容易ではない。
少子化対策に加え、地方では賃金を含め労働環境の男女格差を解消し、女性が働きやすく、活躍できる職場を創出することが肝要だ。こうした取り組みで人口減のペースを鈍化させると同時に、国が真剣に検討すべきは、確実に迫る「縮小社会」を前提とした適応策である。
すでに都市部でも人手不足は顕在化しており、過疎地ではインフラや住民サービスの維持が困難になり始めている。
各党は、近未来を見据えた社会像を示してほしい。
希望すれば夫婦がどちらも結婚前の姓を名乗り続けられる選択的夫婦別姓は、もはや時代の要請である。政治は今度こそ、導入に向けて動くべきだ。総選挙では主要争点の一つとして議論を戦わせてほしい。
夫婦同姓を義務付ける国は、世界で日本だけとされる。現在、夫婦の95%は夫の姓を選んでいる。改姓の負担や不利益が女性に極端に偏っている状況だ。男性からも別姓を求める声が上がりながら、長年放置されてきた。自民党が強硬に反対しているためである。
ところが、首相就任後、発言は一気に後退した。臨時国会の代表質問では「国民の間にさまざまな意見があり、さらなる検討を要する」と述べるにとどまった。党内保守派の反発を恐れたのだろう。失望した有権者は多いに違いない。
男性を「戸主」とする家制度が廃止され、現在の民法ができたのは1947年である。80年近くがたつ今も、男女の経済格差なども相まって、夫の姓になるのを「当たり前」とする社会の意識は根強い。
96年には法制審議会が選択的夫婦別姓の導入を答申した。法務省が民法改正案を準備し、夫婦別姓でも子どもの姓は全員同じにすることや、夫婦が同じ戸籍となることなどを示した。しかし、国会に提出されず、たなざらしになっている。
自民党内の反対派は「家族の一体感が弱まる」「子どもがかわいそう」などと主張する。家族は同姓でなければ幸福でないと決めつけるようなもので、あまりにも一面的だ。旧姓の通称使用を拡大すれば事足りるとの意見もあるが、戸籍上の姓名が必要な場合は多く、改姓による負担や不便さは解消されない。
国などの調査では、若い世代ほど選択的夫婦別姓に賛成する割合が高い。2021年の内閣府調査では、積極的に結婚したいと思わない理由について、20~30代女性で「姓が変わるのが嫌・面倒」と答えた割合が男性の約2倍に上った。夫婦同姓を強いる制度が結婚の「壁」となっているのであれば見過ごせない。
将来世代の意見にもしっかり耳を傾ける。それは政治の責務である。
衆院選で注目される争点の一つが経済政策だ。新型コロナウイルス禍で落ち込んでいた企業業績は急回復し、日経平均株価が史上最高値圏で推移するなど日本経済は活力を取り戻しつつある。一方で実質賃金は伸び悩み、食料やエネルギー価格が高騰して家計は厳しい状況が続いている。経済成長を持続させ、その恩恵を国民が実感できるようにするための方策が問われる。
各党は、物価高に苦しむ家計への支援策を前面に打ち出している。自民党は電気・ガス代やガソリン料金を抑え、低所得世帯に給付金を配るなどの対策を示した。これらを盛り込んだ2024年度補正予算は前年度を上回る歳出規模になるという。公明党は低所得者向けの住宅手当も検討するとしている。
これに対して野党は、立憲民主党が中低所得者に消費税を一部還付する「給付付き税額控除」の導入を提唱。他は消費税の減税を訴え、日本維新の会は税率を10%から8%に、共産党と国民民主党は当面5%に引き下げるとしている。れいわ新選組は消費税そのものの廃止を主張する。
これらの政策はいずれも家計の助けになるが、財源の確保が問題だ。自民党総裁選で金融所得課税など増税の余地に言及していた石破茂首相は、首相就任後はこうした発言を控えている。野党が訴える税額控除や消費税減税も、税収減への対応が避けられない。日本経済が「金利のある世界」に戻る中で国の借金が増えれば、利払い費がますます膨らみ財政が悪化する。「ばらまき合戦」にならないよう、財源を含めた責任のある議論が求められる。
高止まりする物価に賃金の上昇が追いつかず、個人消費の停滞を招いているとして、各党は賃上げの必要性も強調している。中でも最低賃金の引き上げは賃金水準全体の底上げにつながることが期待され、立民、公明、共産党とれいわが時給を1500円とする目標を掲げている。自民党は公約に時期や金額を明記しなかったものの、臨時国会で石破首相が「20年代に全国平均1500円」を目指すと述べた。「30年代半ばまで」としていた以前の政府方針からは大幅な前倒しとなる。
ただ、経営余力に乏しい中小企業には厳しい負担となることが予想され、関係団体などから疑問の声が上がっている。目標の実現には、中小企業が生産性を高めるための相当な支援が必要だろう。企業倒産の増加など痛みを伴う恐れもある。各党には実現に向けた具体的な道筋を論じてもらいたい。
分配政策に加えて、次世代の主力産業を育てる成長戦略の議論にも期待したい。各党の公約では脱炭素、デジタル、コンテンツ産業などの育成を掲げる記述が目立つが、やはり実現までの道筋が見えにくい。成長分野に投資を集中させ、人材育成を促す中長期的な戦略を示すべきだ。
民間調査機関によると、10月は食料品2911品目が値上げされるという。4月を超えて今年最多になる。
実質賃金は直近の8月が3カ月ぶりに減少に転じた。消費支出もコメが前年同月比34%増、猛暑でエアコンが同22%増となったのに全体は1・9%減と2カ月ぶりのマイナスに。春闘で5%を超す賃上げは実現したが、それ以上の物価高に国民があえぎ、生活を切り詰めているのだろう。
一方で、8月の税収は前年同月比で25%の大幅増となった。国民が窮乏しているのに政府の懐だけが潤って良しとはなるまい。国民の暮らしを立て直す政策が必要だ。
野党は「補助金は無駄が多く、利権も発生しかねない」と批判し、海外のように減税で国民に直接還元すべきだとの立場だ。ただ、補助金も減税も一過性のものならば、国民生活をどれだけ下支えできるかは見通せない。これまで投じた補助金の効果を検証しないままでは、単なるばらまきに終わる可能性もある。
税額控除は社会保障の仕組みの変更であり、そもそも国民生活へのてこ入れとは発想のベースが異なる。各党の主張には一長一短があり、それぞれの訴えに耳を傾けて判断する必要があるだろう。
気になるのは、公約が短期的なものに片寄っていることだ。目前の選挙を意識するからだろうが、物価高を乗り越えるには日本経済の成長戦略をいま一度、描き直す視点が欠かせない。成長の道筋を示し、実現する具体的な政策を各党が示せているかと言えばまったく物足りない。
もちろん物価高を乗り越える最善手は賃上げによる可処分所得の増加である。各党がこぞってうたう最低賃金1500円の実現が、中長期的対策だと言いたいのかもしれない。ただ、実現する主体は企業であり、政府が原資を負担するわけではない。
安倍政権以降取り組まれてきた、賃上げ企業を優遇する税制は中小企業には縁遠かった。実際に価格転嫁を実現できたのは、100円のコスト増分のうち44円に過ぎないという調査結果もある。大企業による「下請けいじめ」も相次いで発覚している。
既得権益を持つ産業への参入障壁を撤廃するなどの規制改革や、ITや半導体などに関わる技術を生産性向上につなげる工夫が必要なのは言うまでもない。目先の物価高対策に終わらせず、政治がどんな中長期的な視点で政策を講じていくか。その具体策を競う選挙戦にするべきだ。
暮らしに溶け込んだ省略語は多い。今や世界に広がったカラオケだってそうだ。「カラオケ文化の日」と全国事業者協会が定めてからきょうで20年になる
▲もとをたどれば「空(から)のオーケストラ」で、歌手がレコーディングで使う伴奏音源を指す業界用語だった。バブル期に全国で流行し、誰もが知る言葉に。日本発祥の文化として海外にも進出した。語源などは知らずにマイクを握る人がほとんどだろう
▲同じく、省略語だと忘れがちな言葉に「経済」がある。もともとは中国の古典に出てくる「経世済民(けいせいさいみん)」。世の中を治め、民を救うというのが本旨だ。その民の暮らしが日本ではなかなか上向かない。8月の実質賃金が3カ月ぶりにマイナスに転じた
▲賃上げの期待に胸が躍った春闘も今は昔。物価高に再び手取り額がむしばまれつつある。大企業の経常利益や内部留保は増えているというのに。片や、人件費の高騰に悩む零細企業の悲鳴も聞こえてくる。庶民がほくほく顔で暮らせる時代はまだか
▲衆院選公約に並ぶ各党の経済対策はどれも立派だ。財源の裏付けはあるか、本当に民を救えるのか。目を凝らし耳を澄まして見極めたい。暮らしの憂さは歌で晴らしながら。
賃金と物価がそろって上昇する好循環はまだ見通せない。堅実な取り組みで経済を好転させ、生活の底上げにつなげることが重要だ。
衆院選の争点に物価高対策と成長戦略が挙げられる。
値上げが暮らしを直撃している。新型コロナウイルス禍で停滞した経済活動の正常化やロシアのウクライナ侵攻で、エネルギーや原材料価格が高騰した。また、日本と米国との金利差からの円安が進み、輸入物価を押し上げた。
2年余りマイナスが続いた実質賃金は6月にようやくプラスに転じたものの、8月は再びマイナスに沈んだ。力強さは乏しい。継続した賃上げができるかは今後の鍵を握る。
対応は企業の人材確保にも大きく影響する。少子高齢化を背景に人手不足が深刻化し、多くの企業が人手の確保に苦しんでいる。労働者の処遇改善は急務となっている。
その一面は最低賃金の引き上げにも見て取れる。高知など27県で目安額を上回った。意識されたのは他県との人材獲得競争の厳しさだ。地方は中小企業が多く、立場の弱さからコスト上昇分を十分に価格転嫁できていないとされる。収益が圧迫される中でも対処を迫られた格好だ。
地方から都市への人口流出が加速するようでは、地方創生に逆行する。石破茂首相は賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現を目指すとする。また、最低賃金は2020年代に全国平均1500円とする目標を示した。賃上げには企業業績の向上が不可欠で、特に中小企業の動向が重視される。地域の実情を勘案しながら、生産性を高める施策を論じる必要がある。
賃上げとともに、物価高対策を緩めるわけにはいかない。石破政権は電気・ガス料金やガソリン代を抑える補助金を継続する意向を示す。生活支援は当然怠れない。
同時に財政健全化を曖昧にはできない。岸田前政権による約3兆3千億円の定額減税に世論は批判的で、内閣支持率の反転にはつながらなかった。家計の下支え効果は歓迎するにしても、政権浮揚の思惑をより感じ取ったからだろう。
効果に厳しい視線が向けられている。少子化対策や防衛費など歳出増の圧力が高まる。無駄を排除し、どこにどれだけ振り向けるのかは財源とともに重要な論点となる。
日銀は大規模な金融緩和策を転換した。企業業績や暮らしへの影響を注視する必要がある。
日本の国内総生産(GDP)は半世紀ぶりにドイツに抜かれ、世界4位となった。順位はさらに下がると予測される。円安の影響があるとはいえ、成長は勢いを欠いている。各党、各候補は目指すべき姿をしっかりと提示することが求められる。
政治資金改革 アピール合戦で終わるな(2024年10月17日『西日本新聞』-「社説」)
各党は先送りされている政治改革を公約した。その本気度、実行力が問われる。
この間、自民党は国民の批判をよそに、裏金づくりの実態解明に踏み込まなかった。これでは有効な再発防止策が打ち出せるはずもない。
先の通常国会で自民、公明両党の主導で成立した改正政治資金規正法は「抜け穴」が目立つ。パーティー券購入者の公開基準を「20万円超」から「5万円超」に引き下げた程度で、それ以下は記載義務がない。裏金をつくる余地は依然として残っている。
政党が議員に支給する政策活動費も、領収書の公開を10年後とするなど、不透明な資金が温存されたままだ。
衆院選になって、国民の厳しい視線を意識しているのだろう。各党は政治資金改革をアピールしている。
政策活動費は使途の報告義務がなく、過去にも選挙に巨費が投じられた疑いがある。自民が「透明性の確保」を主張するなら、衆院選で使ったかどうかを明らかにするのは当然だ。廃止に踏み込めない理由の説明も必要だろう。
30年来の懸案である企業・団体献金の扱いは意見が分かれる。多くの政党が禁止を訴えるのに対し、自民は公約で触れなかった。
リクルート事件など金権腐敗政治の反省から、1990年代の政治改革で与野党は企業・団体献金の禁止を確認した。その代わりに政党交付金制度を導入し、国民に政治資金を負担してもらっていることを忘れてしまったのか。
首相は「大事なのは政策が左右されないかどうかで、献金は認めるべきだ」と禁止に反対する考えだ。
政治改革は与野党を超えて果たすべき責務である。各政党に改めて自覚を求めたい。「選挙の方便」になるようでは、政治の信頼回復は遠のくだけだ。
また「沖縄問題」か(2024年10月17日『琉球新報』-「金口木舌)
▼「基地の提供義務」は異様なほど沖縄に偏在する。不平等の極みとの憤りはひとまずおくとしても、最近、どうにも気になる。基地だけでなく問題意識まで「偏在」していないか。自分にも跳ね返ることを承知の上で、あえて言う。最近の、特に在京の報道には首をひねる
▼時の首相が日米地位協定の改定に意欲を示し、リアルな議題に上りつつある。ところが、それを伝える報道はこうだ。「米軍基地が集中する沖縄の要望が強い」「沖縄など米軍基地を抱える地元自治体が政府に求めている」
▼当事者意識を欠き、まるで人ごとのようだ。記者の意図は計りかねるが、米軍基地は北海道から九州まで10県以上にある。2018年には全国知事会が抜本改定で提言もした
▼自らの問題との意識はどこへやら。また「沖縄問題」へと押し込めるつもりか。本来は国の問題だ。あたかも地方特有のごとき言い方はやめてもらいたい。いきり立つ思いを抑えるのに一苦労する。