衆院選スタート(公示)に関する社説・コラム(2024年10月16日)

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衆院選が公示され、党首の演説を聞く有権者ら(15日、福島県石川町)
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道内も論戦開始 地域の政策見極めたい(2024年10月16日『北海道新聞』-「社説」
 
 衆院選がきのう公示され、道内でも各党の論戦が始まった。
 急激な人口減少やそれに伴う地域の疲弊、公共交通の維持、1次産業の担い手確保など、全国各地で直面する深刻な課題が北海道で顕著に表れている。
 国が推進し、北海道の役割が大きい再生可能エネルギー導入にしても、自然や環境への負荷が最近顕在化している。
 こうした課題解決の処方箋を北海道で議論し、国政に反映させる必要がある。衆院選はその大切な機会だ。政党と候補者は具体的な政策と実現の道筋を明確に示し、有権者の選択に資する論戦を展開してもらいたい。
 北海道新聞社が公示前に実施した全道世論調査では、衆院選に「関心ある」との回答が8割に上った。最も重視する政策は経済政策が4割で最多だった。
 物価高騰対策は重要だ。とりわけ低所得世帯への支援が急がれる。道内は中小企業が多い。経営を圧迫せずに賃上げできる環境をつくることも大事だ。
 石破茂首相(自民党総裁)は地方創生を看板政策に掲げる。しかし自身が地方創生担当相を務めていた当時から、地域の衰退に歯止めはかかっていない。
 若者の流出を食い止めるには賃金や待遇面などで質の高い雇用の場を設けねばならない。
 半導体製造ラピダスの千歳進出や外国客でにぎわうニセコ地域などで雇用創出の例は出ているが、波及効果は全道に届いていない。地域の特徴と強みを生かした施策が肝要となる。国の財源と権限を自治体に移譲する地方分権の推進が欠かせない。
 1次産業の担い手確保には所得の安定が不可欠だ。食料安全保障の観点からも、北海道の役割は極めて大きい。持続可能な産業とするため、所得を直接支える政策も検討対象となろう。
 JR北海道の赤字路線問題は展望が見えない。線路や施設を公的機関に譲渡し鉄道会社が運行を担う上下分離方式導入などの抜本策実現へ、道内議員が党派を超えて動いてほしい。
 原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定は、調査に手を挙げた自治体の問題にとどまっていないか。交付金で過疎地に押しつける現行の選定方法から見直したい。
 ロシアによるウクライナ侵攻で北方領土交渉は再開のめどが立たない。高齢化した元島民は古里への墓参を切望している。返還運動の継承も課題だ。根室市など北方領土隣接地域への財政支援を含め、現場の切実な声を国政に届けねばならない。

自民1強継続か否か問う/衆院選公示(2024年10月16日『東奥日報』-「時論」/『茨城新聞佐賀新聞』-論説』)
 
 衆院選が公示され、小選挙区289、比例代表176の計465議席を争う選挙戦に突入した。27日の投開票に向け、与野党には有権者の審判に値する論戦を望みたい。
 政権選択と位置付けられる、3年ぶりの衆院選である。焦点は石破茂首相(自民党総裁)の下で自民、公明両党が政権を維持できるかどうかだが、まずは自民「1強」体制継続の是非が問われるのではないか。
 自民は2012年衆院選で、公明とともに政権を奪還。その後も岸田文雄前首相が踏み切った前回21年衆院選まで3回続けて大勝した。
 今回の公示前勢力を比較すると、自民256議席に対し、野党第1党の立憲民主党でさえ98議席に過ぎない。
 政府による政策推進には、多数の与党勢力をバックにした政治の安定が欠かせない。半面、肥大化した与党が長期にわたって政権を担うとおごりや緩みを招く。自民も例外でないことは、派閥の裏金事件が示している。それ以前にも安倍晋三元首相にかかわる「桜を見る会」問題など数々の不祥事があった。
 自民が圧倒的な議席を獲得したのは、有権者の支持が集まったからである。ただ、投票率は12年衆院選から50%台の低水準が続く。しかも定数に占める議席の割合ほど自民の得票率は高くなかった。当選者が1人という小選挙区の特性が有利に働いたためだ。
 自民は有権者から全面的に信任されていないと自戒する必要があった。にもかかわらず政権運営に誠実さを欠いていた。石破首相が十分な国会質疑に応じず、就任から最短期間で衆院解散を断行したことにも表れている。
 自民が単独過半数を下回るなど「1強」体制が崩れれば、政策決定や国会審議がこれまでよりも滞る可能性がある。しかし、支持者だけでなく国民のさまざまな意見をくみ取り、時間をかけて合意形成を図るのが民主政治の基本だ。石破首相が掲げる「納得と共感」の政治にもつながる。
 首相は公示後の第一声で裏金事件に触れ「深い反省の下、もう一度、新しい日本をつくる」と訴えた。
 そのためには自民政治を抜本的に改革しなくてはならない。物価高や少子高齢化対策、東京一極集中の是正などと併せ、選挙戦では、決意にとどまらない具体策を提起すべきだ。
 衆院選で続く低投票率は、国政における既成政党への有権者の忌避感を反映している。裏金事件で拍車がかかったが、背景には野党への期待感の低さもある。
 立民の野田佳彦代表は「政権交代こそが最大の政治改革」と呼びかけ、与党自体の過半数割れと、自民を上回る議席獲得を目標に掲げた。
 日本維新の会共産党、国民民主党、れいわ新選組なども裏金事件を批判し、政策面でも与党との対決姿勢を強めている。
 一方で、どの野党も単独で政権を担うのは困難なのに、候補者の一本化は進まず、立民をはじめ衆院選後の政権枠組みを明確にできなかった。
 選挙戦が始まった以上、政権政党たる資格を得るには、各党が公約を肉付けし、実効性を高めて有権者から支持されなくてはならない。
 同時に野党候補が重複していない選挙区では、投開票日ぎりぎりまで選挙協力を模索すべきだろう。

(2024年10月16日『東奥日報』-「天地人」)
 
 米国で俳優や歌手が政治的意見を表明するのは珍しくない。今年没後20年の名優マーロン・ブランドは過激だった。公民権運動に参画し、1973年には映画界の北米先住民への扱いが不当としてアカデミー主演男優賞受賞を拒否した。
 「とりわけ私が嫌悪感を抱くのは、権力を濫用(らんよう)し、他人の権利を踏みにじる輩(やから)である。いかなる形の不正、偏見、貧困、不公平、人種差別にも我慢がならなかった」(自伝『母が教えてくれた歌』)。反逆児のイメージを地で行くが、その裏には揺るぎない信念があった。
 衆院選が公示された。「新政権は早期に国民の審判を受けるのが重要」。石破茂首相はもっともらしく語った。が、自民党総裁選からの変節が指摘され、ご祝儀相場狙いという党利党略が透ける。決断から信念は感じ取れず、あるのは保身のにおいだ。
 政治改革や経済、社会保障などを巡り各党の公約が並んだ。選挙のたび繰り返される内容もある。約束が誠実に守られてきたなら、社会の閉塞(へいそく)感は今ほどでなく、政治不信も広がらなかったのではないか。政治家は胸に手を当ててみるべきだ。
 ブランドはつづった。「政治家には、聖書に手を置いて宣誓させるかわりに、約束を破ったら足をセメント詰けにして、ポトマック川に放り込むということで、誠実を誓わせたらどうかと思う。政治汚職は激減するだろう」。ゴッドファーザーの提言、うなずけるところもある。

’24衆院選 政治とカネ 国民の審判、改革のてこに(2024年10月16日『河北新報』-「社説」)
 
 衆院選は本来、政権選択の機会として国の在り方や国民生活に関わる政策が争点となってしかるべきだが、今回ばかりは「政治とカネ」を最大の争点に据えざるを得まい。
 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で失墜した政治への信頼を取り戻さない限り、いかなる政策も正統性を持ち得ないからだ。
 「秘書が-」「会計責任者が-」「派閥の指示で-」
 「説明責任」が問われる度に繰り返されたのは、そんな言い訳ばかり。事件の真相はいまだ究明されていない。事件を含め「政治とカネ」の問題にどう取り組むかが選択基準となるのは当然だ。
 自民は今回、事件に関係した前議員、選挙区支部長ら計34人を公認する一方、旧安倍派議員ら12人を非公認とし、公認した裏金議員についても比例代表との重複立候補を認めていない。石破茂首相としては厳しく対応したことをアピールし、逆風を和らげたいところだろう。
 だが、事件を巡り、政治資金収支報告書への不記載があった裏金議員は衆参合わせて85人に上る。有罪が確定した2人を除き、責任を取って自ら辞職した議員はいない。
 自ら定めた法律を破り、派閥から受け取ったカネを国民の目から隠していた人物を国会議員として認めるべきか否か。私たち有権者がそれぞれ審判を下すときだ。
 事件の解明が不十分だったため、岸田文雄政権下での政治資金制度改革は極めてお粗末な内容にとどまった。
 先の通常国会で自民は野党の主立った要求をことごとく拒否。政治資金規正法改正でパーティー券購入者の公開基準を「20万円超」から「5万円超」に引き下げたものの、使途公開義務のない政策活動費の廃止や企業・団体献金の禁止は実現せず、随所に「抜け道」を温存した。
 政策活動費は改正法の付則で支出上限を設け、10年後の領収書公開、第三者機関による監査を盛ったが、具体化に向けた議論は進んでいない。
 議員に月額100万円が支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費、文通費)は一部野党と使途公開を義務化する法整備に合意していたにもかかわらず、通常国会での法改正を見送った。
 自民は今回、政策活動費について「将来的な廃止も念頭に透明性を確保する」と政権公約に明記し、旧文通費の使途公開なども掲げる。
 世論の批判に耐え切れなくなってのことだろうが、野党に加え、公明党も政策活動費の廃止を訴えているだけに踏み込み不足が際立つ。
 国民の審判が、今後の政治改革のてことなるのは間違いない。自民の自浄能力に「政治とカネ」を巡る問題の解消を託せるのか。野党が主張する企業・団体献金の禁止や国会議員の世襲制限などの実効性、実現性と合わせ、慎重に見極めたい。

(2024年10月16日『山形新聞』-「談話室」)
 
▼▽漢字をじっくり見つめて浮かんだのだろう。吉野弘さんに「表裏」と題する詩がある。「『裏』の中に『表』があります/裏を見れば表もわかるのが世の常」。だいぶ前の作なのに今の社会を見据えていたように映る。
▼▽酒田市出身の詩人は次のように続ける。「『表』だけに目を凝らしても、その中に/『裏』を読みとることはできません」。昨日公示された衆院選も「裏」で持ち切りである。派閥裏金事件を筆頭に政治が抱えるさまざまな課題を、有権者はどう受け止め、判断を下すのか。
▼▽衆院選は、国政のかじ取りを担う衆院議員を有権者が選択する。民主主義の基盤となる行為である。ただこのところ投票率は全国的に低い水準が続く。吉野さんには「省」という作品もある。「省く」の意味で使われることが多い漢字の成り立ちにまで遡(さかのぼ)って詩人は考えた。
▼▽省は「之(し)」と「目」が合わさった字とか。之は「行く・出る」を表す。だから省は「行く目・出向く目」となる。つまり「見るべきものに充分、目を配ること」の意になる、と。投票を省略することなく、選挙期間中は公約や演説に十分目を配って大切な権利を行使したい。

衆院選・舌戦スタート/判断する材料がまだ足りぬ(2024年10月16日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 政治改革だけが争点ではない。与野党には、政治浄化だけに議論を集中させるのではなく、政策とそれを実現する力を判断するための材料を示さなければならない。
 第50回衆院選が公示された。本県では選挙区に前職5人、新人6人が立候補した。このほか本県関係で前新3人が比例東北単独で名簿に登載された。
 石破茂首相は、勝敗ラインについて自公で獲得議席過半数との認識を示している。野党第1党の立民は政権交代を目標とする。裏金問題などにより、自民に注がれる有権者の目は、政権を奪還して以降で最も厳しくなっているのは間違いない。これまで以上に、政権選択の意味合いが濃い選挙だ。
 しかし、石破政権は発足から2週間しかたっていないことに加え、選挙に政策活動費を使うか使わないなどの議論に注目が集まってしまっている。自民の公約集は最初の項目が「ルールを守る」というのも、立法府の与党として甚だおかしい。政治改革への取り組みに加え、経済や財政をどう健全化していくかなどの具体的な方策を論じてほしい。
 自民関係者からは公約に掲げた政策が煮詰まっていないのは「政権発足から時間がなかったため」との声が聞こえる。しかし、その日程で解散したのは石破首相であり、言い訳にはならない。
 例えば、税制を巡っては野党が減税を掲げるのに対し、自民は「安定した財政基盤構築の観点から、税制見直しを進める」としているのみで、具体的な政策への言及は薄い。自民が示すべきは、その税制見直しをどう進めるかだ。
 政策で勝負すべきなのは、野党も同様だ。減税を主張するのであれば、税収減をどう補うかや、どの分野の政策を縮小させるかまで言及しなければ現実味は伴わず、票狙いの公約の範囲にとどまる。
 さまざまな不祥事が表面化しながら自民1強の状態が続いてきたのは、有権者が野党に政権を任せられないと判断してきた結果だ。そのことを野党は直視すべきだ。
 自公が過半数割れした場合の政権構想については、立民以外の野党もその考えを示す必要がある。新たな政権に入る考えがあるのか、その場合にどのような枠組みを想定しているのかなどを明らかにした上で審判を仰がなければ、有権者の適正な判断を妨げることになってしまう。
 きょうから期日前投票が始まる。どの候補者、どの党に票を投じるのがより良い未来につながるかを考えて、必ず投票所に足を運んでほしい。

【第50回衆院選】政権選択へ意識高めて(2024年10月16日『福島民報』-「論説」)
 
 衆院選政権選択選挙とされ、国の針路に関わる重要な意味を持つ。有権者は今回、新内閣発足から短期決戦での選択を求められる。熟慮の材料や時間は十分とは言い難い。各党、各候補者は政治改革、経済、外交、安全保障など現下の課題解決への具体的な政策と実現の道筋を明確に示す必要がある。
 
 争点の政治改革で、自民党は政策活動費について、将来の廃止も念頭に透明性を確保するとした。連立を組む公明党は廃止を明言する。旧文通費の使途公開と未使用分の返納は自民党と同様、実施を掲げた上で時期に踏み込み、来年の通常国会までの法整備を目指すとしている。
 政策活動費の廃止と旧文通費の公開、返納は立憲民主党をはじめ野党側が一致して求めてきた。企業・団体献金の禁止でも足並みをそろえる。
 内外の有事を踏まえれば、政治とカネ問題で国会審議が滞る現状に、早期に決着をつけるべきだ。政治改革への各党の本気度と政策実行力を改めて見極めねばならない。
 経済対策は、低所得者世帯への給付金支給、給付付き税額控除など物価高への独自策をそれぞれ打ち出した。財政の国債依存が強まる中、支持獲得を企図したばらまきといった指摘には、財源を含めて正面から答えるべきだ。
 地方創生に再び光が当てられている。東京一極集中是正の政府目標は、たびたび先送りされ、創生法が2014(平成26)年に施行されて以降の歳月は「失われた10年」と言うほかない。財源の手当てだけで、地方への人の流れが進むわけではないのが今に至る教訓だろう。実効性のある政策と知恵を、選挙戦でぜひ論じ合ってほしい。
 衆院選は1890(明治23)年に始まり、50回を迎えた。第1回選挙の当選者は、三春町生まれの河野広中ら、自由民権運動に身を投じた人々が名を連ねる。
 時代は移り、選挙や政治への無関心層の広がりが嘆かれて久しい。最大与党は公認問題に揺れ、野党は共闘の足場が定まらない。既成政党は、期待や信頼が問われかねない局面にある。有権者は節目の選挙に主権者意識を高め、各党、各候補者の主張をしっかりと見定め、投票行動によって次世代への責任を果たしていかねばならない。(五十嵐稔)

大風呂敷(2024年10月16日『福島民報』-「あぶくま抄」)
 
 一体、どなたが名付けたか。「福島大風呂敷」。福島市のまちなか広場に、縫い合わせた数メートル四方の古布を広げる。県都の夏の風物詩は今や、県内外のイベントにも貸し出される
▼「大風呂敷を広げる」の聞こえは良くない。「できそうにないことを言ったり計画したりすること」と、広辞苑にある。対して実物は縁起がいい。山陰地方には婚姻などの際、家紋入りの大風呂敷に祝いの品を包む風習があった。ある菓子店が自社のホームページで紹介している
衆院選が公示され、12日間の舌戦に入った。鳥取県選出の党首が率いる政党は「暮らしを守る」を公約の柱に。物価高対策で給付金の支給が盛り込まれた。地元のしきたりに従い、大風呂敷に包んで有権者に差し出す心境か。他党もエネルギー料金の補助延長、税額控除と百花繚乱[りょうらん]の感がある
▼福島大風呂敷は、本県出身の音楽家や市民有志が震災の年に始めた。大きな夢を語り合い、「フクシマ」の豊かな未来をつくろう―。復興を目指す前向きな思いが原点だ。「国の将来を、こうつくる」。選挙の論戦も、夢や理想をぶつけ合うのは大いに結構。広げた大風呂敷に、中身を詰めてお返ししてもらえるならば…。

衆院選がスタート 不信と不安ぬぐう論戦を(2024年10月16日『毎日新聞』-「社説」)
 
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衆院選が公示され、街頭演説に集まった多くの人たち=東京都豊島区で2024年10月15日午前10時34分、本社ヘリから幾島健太郎撮影(画像の一部を加工しています)
 衆院選が公示された。内外に難題を抱えた「内憂外患」に日本がどう向き合うか。自民党の「顔」を替えるだけの疑似政権交代で危機に対処するのか、それとも与野党政権交代を実現させるのか、という選択である。
 日本経済の低迷が続く。国外では、ウクライナ戦争と中東紛争が長期化し、アジアでも中国や北朝鮮の動向が懸念される。にもかかわらず、政治への信頼は失墜し、政府・与党は政策の推進力を欠いたままだ。
 政治に対する不信と、生活や国の将来に抱く不安という、二つの「不」をぬぐえるかが焦点だ。
 現在の政治の危機的状況をもたらしたものは何か。自民党長期政権のもと、緊張感の乏しい政治が続き、おごりやゆがみが生じた。それを象徴するのが、派閥の裏金問題だ。
具体策乏しい各党公約
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街中を走る選挙カー。走行中は政策を訴えることはできず、候補者名の連呼しかできない=東京都八王子市で2024年10月15日午前10時37分、長谷川直亮撮影(画像の一部加工しています)
 とりわけ第2次安倍晋三政権以降は「自民1強」状態の弊害で、国会論戦が低調になった。岸田文雄前政権の検証だけでなく、2012年以来の安倍路線への評価も問われることになる。
 しかし、国民が与野党の政策を判断するための材料は乏しい。
 石破茂首相の就任からわずか8日後の衆院解散、26日後の投開票という、いずれも戦後最短の日程となった。肝心の各党の選挙公約は、具体策に欠ける。日本記者クラブでの党首討論会では、それを補う論戦が期待されたが、なお十分とは言えない。
 喫緊の課題は、暮らしを直撃している物価高への対応だ。
 賃上げの実現に向け、最低賃金を現在の全国平均1055円から引き上げる政策を、自民党も含め多くの政党が掲げる。
 首相は所信表明演説などで「20年代最低賃金1500円」との目標を表明したが、これまで以上のペースでの引き上げが必要になる。中小企業の支払い能力を高めるために、生産性向上や価格転嫁への支援をするというが、従来の施策の延長線上では実現はおぼつかない。
 立憲民主党野田佳彦代表は、中低所得者の消費税負担の一部を税額控除と給付で軽減する「給付付き税額控除」の導入を主張する。消費税の軽減税率の廃止を財源として想定しているが、具体的な制度設計は見えない。
 人口減少と高齢化の進行により、社会保障制度の維持はますます難しくなっている。40年には、団塊ジュニア世代が65歳以上になり、高齢者が人口の約35%に達すると予測されている。医療・介護などの需要は増大する一方、サービスを提供する人手も財源も不足している。しかし、負担の議論は深まっていない。
 外交・安全保障では、日本原水爆被害者団体協議会日本被団協)のノーベル平和賞受賞が決まったのを受けて、核兵器禁止条約へのオブザーバー参加を求める声が野党や公明党から強まっている。核抑止力を重視する首相は、慎重姿勢を崩さない。核使用のリスクが高まる中、廃絶に向けて日本が果たす役割を認識すべきだ。
 一方、在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の改定については「沖縄の思いを無視することはない。必ず実現したい」と意欲を示す。早期に道筋をつける努力が求められる。
問われる「政治とカネ」
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衆院選の候補者の応援に駆け付けた党幹部の演説に耳を傾ける有権者ら=堺市堺区で2024年10月15日午後4時24分、北村隆夫撮影
 裏金問題への対応で、首相は政治資金収支報告書に不記載のあった議員のうち12人を今回の衆院選自民党の非公認とした。34人については公認するが、比例代表との重複立候補を認めず、小選挙区だけで当落が決まるようにした。
 国民の批判は根強く、首相は勝敗ラインを「自公で過半数」維持と設定する。裏金議員が当選した後の追加公認を否定していない。公明党は、自民党が非公認とした議員を含めて裏金議員たちを推薦した。政権維持のため、与党のなりふり構わぬ姿勢が目につく。
 政党から議員に渡され使途公開義務のない政策活動費については、公明党と野党が選挙公約に「廃止」を明記した。しかし、自民党は「将来的な廃止も念頭」と後ろ向きだ。首相は、今回の衆院選で政策活動費を使うといったん表明し、批判を浴びると軌道修正を図るなど、迷走している。
 既成政党への不満が渦巻く中、政治の問題解決能力が試される正念場だ。27日の投開票に向け、各党は論戦を通じて山積する課題への処方箋を国民に示す責任がある。

国連によれば…(2024年10月16日『毎日新聞』-「余録」)
 
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有権者に支持を訴える候補者=川崎市中原区で2024年10月15日午後2時31分、矢野大輝撮影
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候補者の演説を聞く有権者ら=横浜市南区で2024年10月15日午前10時57分、蓬田正志撮影
 国連によれば、今年は「人類史上最大の選挙の年」。60カ国以上で国政選挙が行われ、世界人口の半分弱、約37億人が投票する。英国の政権交代やメキシコ初の女性大統領誕生など変化も起きている
▲モンゴルではクオータ制導入後の6月の総選挙で女性議員が大幅に増えた。冷戦崩壊に伴う民主化運動から35年。社会主義時代から続く与党は3年前に40代の首相を擁立して世代交代を図り、腐敗一掃に向けた政治改革に取り組む
▲中露に挟まれながら権威主義とは一線を画す。総選挙後にはそれまでの与野党3党の大連立政権が発足した。経済成長を最優先に世論の分断や対立激化を防ぐ狙いという。激動する世界で生き残る独自戦略だろう
衆院選が公示された。世界を見渡せばわが国も民主主義の老舗だ。来年は普通選挙100年、女性参政権が認められて80年。新興モンゴルの努力を思えば「裏金解散」と呼ばれ、今も政治とカネが争点になるのは悲しい
▲近年「民主主義疲れ」が指摘される。大衆迎合ポピュリズムが隆盛する背景にも有権者のニーズを十分にくみ取れない政治への不信感がある。来月は米大統領選。民主主義が光を失っては権威主義国が喜ぶだけだ
▲経済や安全保障の重要性は言わずもがなだが、政治のあり方も国家の命運を左右する。12日間の選挙戦。与野党の論戦に目をこらし、民主主義を十分に機能させるにはどんな政治改革が必要かを考えたい。有権者が熟慮し、投票所に足を運んでこその民主主義である。

衆院選公示 信頼できる政党を見極めたい(2024年10月16日『毎日新聞』-「社説」)
 
 内外の課題が山積する中、日本の針路を決める重要な選挙が始まった。信頼できる政党や候補者を冷静に見極め、責任ある1票を投じたい。
 第50回衆院選が公示された。自民、公明両党が過半数の233議席を確保し、石破首相が本格的な政権運営にあたる体制を築けるか。あるいは、野党が目指す自公両党の過半数割れが現実となり、政局が流動化するかが焦点だ。
 景気は回復傾向にあるが、物価上昇に賃上げは追いついていない。安全保障環境の急速な悪化にどう対応するか、高まるエネルギー需要をどうやって賄うのか、といった点も争点となる。
 各党や候補者は、これらの課題に説得力のある処方箋を示し、建設的な論争を展開してほしい。
 政治とカネの問題で自民党は防戦を強いられている。
 党執行部は、政治資金収支報告書への不記載のあった議員の処遇を巡って揺れ続けた。
 首相は日本記者クラブの討論会で、政策活動費について「抑制的に使う」と述べたが、野党の追及を受けると、その翌日に「選挙に使わない」と軌道修正した。
 一連の対応を有権者がどのように見ているかは、衆院選の 帰趨 きすう に影響を与える可能性がある。
 立憲民主党は、半数を超える237人を擁立したが、多くの選挙区で他の野党と競合しており、共倒れを懸念する声も出ている。
 今回の候補者数は、現行制度で最少だった3年前より293人多い1344人となった。このうち女性は314人で、過去最多だった2009年を85人上回った。
 3年前は立民と共産党など多くの野党が共闘したが、今回は調整が進まず、各党が独自に候補者を擁立したことが背景にある。
 また、自民党が不記載のあった前議員ら34人について、比例選との重複立候補を認めず、その穴埋めとして比例選単独候補を土壇場で立てたことも影響している。
 この中には、党執行部から頼まれ、出馬を決めた党の事務職員や女性経営者らが数多く含まれている。多様な人材がそろった形だが、数合わせのように集められた人たちに、国民の代表としての役割を果たす覚悟はあるのか。
 近年の各種選挙では、選挙運動の妨害や、選挙と関係のないポスターの掲示、奇矯な政見放送などの問題が相次いでいる。
 民主主義の根幹である選挙を 愚弄 ぐろう するような行為は許し難い。全ての候補者はルールを厳守し、健全な選挙運動を展開すべきだ。

財源を語らぬ大盤振る舞いは無責任だ(2024年10月16日『日本経済新聞』-「社説」
 
 衆院選が15日に公示され、27日の投開票に向けて選挙戦が始まった。日本の将来を左右する重要な選択が有権者に託される。
 「政治とカネ」の問題に隠れ、経済論戦はこれまでのところ低調だ。人口減が進むなか、国力をどう保つか。財源を示さずに、給付や減税といった大盤振る舞いを公約に掲げるのはあまりに無責任だ。与野党は負担の議論から逃げず、成長と財政健全化の両立をめざすべきである。
 自民党石破茂首相は「経済あっての財政」を掲げ、年内に大型の経済対策をまとめる方針だ。一般会計の歳出総額で13兆円あまりに達した2023年度の補正予算を上回る規模にするという。
 物価高に苦しむ低所得層への支援が必要なのは言うまでもない。だとしても、どういった根拠でこれだけ巨額の追加支出が必要だというのか。それを説明できない以上、「規模ありき」のバラマキと断じざるを得ない。
 財政規律が緩む背景には、成長で税収を増やせば財源は捻出できるとの甘い見通しがある。こうした景気頼みの楽観論に委ねるほど日本の財政に余裕はない。
 日銀の利上げ開始で「金利のある世界」が現実になり、今後は元利払いにあてる国債費の増大が必至だ。安易に国債を増発すれば将来に禍根を残す。国と地方の基礎的財政収支を25年度に黒字化する目標の達成も危うくなる。
 有権者に聞こえのいい公約ばかりを並べるのは野党も同じだ。
 立憲民主党国公立大学の授業料の無償化や児童手当の増額などを掲げる。いずれも財源を明らかにしないままでは、実現性に疑問符をつけざるを得ない。
 日本維新の会や共産、国民民主、れいわ新選組など各党は消費税の減税や廃止を訴える。石破首相が社会保障の安定的な財源を確保するために、消費税率を下げない考えを示したのは妥当だ。
 高齢化で社会保障費は増え続け、少子化への対応で子育て関連の予算も確保しなければならない。給付や減税で目先の生活が少しばかりよくなっても、将来への不安が増すようでは本末転倒だ。
 有権者もそれはわかっている。岸田文雄前首相が打ち出した定額減税を、世論は必ずしも支持しなかった。与野党はその事実を改めて思い起こすべきだ。

衆院選公示 日本の針路掲げて論戦を(2024年10月16日『産経新聞』-「主張」)
 
キャプチャ
衆院選が公示され、候補者の街頭演説に集まった人たち=福島県
 第50回衆院選が公示された。
 石破茂首相が率いる自公連立政権の信を問う選挙である。有権者はどの政党、候補者に日本を託すべきかを十分吟味し、一票を投じてもらいたい。
 今回の衆院選は「一票の格差」を是正するため、小選挙区定数を「10増10減」するなど、25都道府県の140小選挙区で区割りが変わった。有権者はよく候補者を確認し、訴えに耳を傾け、投票では間違いのないようにしたい。
 日本を取り巻く安全保障環境は厳しい。日本の独立と繁栄、国民の生命と暮らしがかかった政権選択選挙である。有権者はこのことを自覚し、投票先を決めてほしい。
 臨時国会では論戦の時間が短く、国民に十分な判断材料を提示したとは言い難い。各党、各候補者は選挙戦で具体的な政策を示し、在るべき日本の針路を丁寧に論じねばならない。
 「政治とカネ」の問題が衆院選で問われている。同時に国民を守り抜く外交安保政策に関し議論を深めるべきである。
 首相は岸田文雄前首相の路線を継承する姿勢を示しているが、総裁選で掲げたアジア版NATO北大西洋条約機構)構想の検討を自民に指示した。首相に曖昧さがあるのは否めない。立憲民主党は日米同盟が基軸だと主張する一方で、集団的自衛権の限定行使は「憲法違反」との立場を崩さず、同盟強化に逆行している。各党は防衛力の抜本強化と抑止力向上の具体策を競い合うべきだ。
 少子化対策も重要な争点の一つだが、給付拡大の訴えが中心で、財源確保策について各党はあまり語ろうとしていない。これでは無責任である。
 物価高に負けない持続的な賃上げによるデフレからの完全脱却の方策についても、議論を尽くすことが求められよう。
北朝鮮による拉致問題や国の根幹である憲法改正について、活発な論戦になっていないのは残念だ。
 憲法改正与野党論議を主導すべき首相は、自衛隊明記や緊急事態条項創設の意義について国民の理解を深めるべく、もっと説かねばならない。
 安倍晋三元首相暗殺で要人警護の在り方が見直されてから初の大規模な国政選挙である。暴力による言論封じは許されない。警備に万全を期したい。

後世に胸張れる選択を、衆院選の公示 (2024年10月16日『産経新聞』-「産経抄」)  
 
キャプチャ
衆院選が公示され、候補者の出陣式に集まった有権者ら(南雲都撮影)
 選挙結果を国民の「肖像」にたとえたのは、大正期に東京市長などを務めた後藤新平である。どんな政党も、「選挙という種板(写真の原板)に採影せられたる国民の写真である」。写りの美醜に有権者も責任を負いなさい―と。
▼大正14(1925)年に日本で普通選挙法が公布されてから、まもない頃の発言という(『大正・昭和戦前期 政治・実業・文化 演説・講演集』日外アソシエーツ)。それまでの納税要件が廃止になり、満25歳以上の男子が選挙権を手に入れた。
▼女性の選挙権は戦後まで待たねばならないものの、普選の幕開けから100年となる来年は一つの節目だろう。選挙権の行使について、後藤はこうも述べた。「その醜い写真を修正し、後世、子孫に誇り得る立派な肖像を、我が憲政史上に残す用意と覚悟がなければならぬ」と。
▼卓説からほぼ100年たったいまも、政治不信をどう拭うかが大きなテーマであり続けているのは残念でならない。さりとて先送りできない課題は他にも山積し、有権者の肩に食い込む荷は重い。こちらは節目の第50回となる衆院選が公示された。
▼世界は緊迫の度合いを高めている。台湾情勢の行方によっては、次の政権が「有事」に直面するかもしれない。国家と国民を守る覚悟を持った政治家は誰か。有権者の眼力が、これまで以上に問われる政権選択選挙になろう。後世に恥じることのない肖像を残したいものである。
▼「票」という字は、細かい火の粉が舞い上がるさまを表している。政党や候補者が論戦に火花を散らし、票を奪い合うなら大歓迎である。少子化社会保障などの課題も待ったなしだ。有権者の胸にくすぶる不安と不満の火を、大事な一票に託す選挙でもある。

'24 衆院選 政治とカネ 透明化の決意見極めて(2024年10月16日『東京新聞』-「社説」)
 
 衆院選が15日に公示された。最大の争点は自民党派閥の裏金事件に象徴される「政治とカネ」。国民の信頼回復には、カネをかけない政治を実現し、資金の透明性を高めることが必要だ。その決意を見極める選挙にしたい。
 焦点は政党から政治家個人に支出される政策活動費の取り扱い。使途公開の義務がなく、以前から不透明だと指摘されてきた。
 特に自民党は、歴代幹事長に年10億円規模が支出され、その巨額さも批判の的になっている。
 立憲民主党日本維新の会に加え、公明党も廃止を公約に掲げたが、自民党は「将来的な廃止」に言及するにとどめた。
 9月の自民党総裁選で複数候補が即時廃止を明言したにもかかわらず、公約が踏み込み不足となった背景には、不透明な資金を温存する下心があるのではないか。
 石破茂総裁(首相)は衆院選で政策活動費を「使わない」と表明したが、当初は抑制的に使う考えを示していたからだ。
 政策活動費の使途を10年後に公開するとした改正政治資金規正法の施行は2026年1月。現行法では自民党が政策活動費を今回の衆院選に使ったかどうかは検証不能だ。首相の発言は無責任とのそしりを免れない。
 金権腐敗の元凶とされてきた企業・団体献金は、与野党の違いが鮮明だ。自民、公明両党の存続方針に対し、多くの野党は禁止を打ち出している。
 石破氏は税金を原資とする政党交付金助成金)導入に代わり、企業・団体献金を全廃する「平成の政治改革」を熟知しているはずだ。助成金献金の「二重取り」を続けても後ろ暗くないのか。
 企業・団体には政治資金パーティー券購入で政治家個人や派閥に献金できる「抜け道」があり、今回の裏金事件の温床にもなった。野党側は企業・団体のパーティー券購入禁止を訴えているが、自民党は公約で触れていない。
 自民党が裏金事件を本当に反省し、引き続き政権を託すにふさわしい体質に生まれ変われるのか。判断するのは私たち有権者だ。

その「仕事」に就くにあたっては良心と責任感が必要だそうだ。…(2024年10月16日『東京新聞』-「筆洗」)
 
 その「仕事」に就くにあたっては良心と責任感が必要だそうだ。公私混交などもってのほかで清廉であり続けなければならず、人の信頼にもとるようなことはやってはならない
▼注文はまだ続く。仕事には常に全力であたり、かつ不断に任務を果たさなければならぬ。おまけに高い識見を養わなければならないというから、日ごろの勉強も欠かせぬ
▼だらしなき身にはおよそ務まりそうもないが、この過酷な「仕事」とは何か。お分かりだろう。衆院議員である。衆院の政治倫理綱領を簡単に書けばそうなる。昨日、衆院選が公示された。名乗りを上げた候補者を当選後に待っているのはそういう厳しい仕事である
自民党派閥の政治資金問題を受けた政治とカネの問題や政治改革が選挙戦の焦点になっている。政治不信がうずまいている。政治家が信用されなければどんな政策を打ちだしても理解を得られまい。全候補者はまず政治倫理綱領をよく読むべきだろう。その上でこれを順守する固い決意を持っていただきたい
▼政治家と聞いて次に連想する言葉はカネか。責任感、清廉、良心の立派な「仕事」がそう言われてしまうのは綱領が空文化しているせいだろう
▼議員という仕事。それが国民からどこか怪しく見えているとしたら民主主義の行方は危うい。この総選挙は日本政治の分岐点かもしれぬ。候補者にその覚悟はあるか。

「政治とカネ」問う 不信を払拭できる策示せ(2024年10月16日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 衆院選が公示された。
 自民党の派閥パーティー裏金事件を受けた「政治とカネ」の問題や、物価高を克服する経済対策、安全保障問題などが争点になる。
 衆院選は2021年10月以来、3年ぶりだ。裏金は長期にわたって続いていた疑いがあり、物価高の一因はアベノミクスによる大規模金融緩和の影響である。今回の選挙で問われているのは、自民党が続けてきた政治そのものと考えるべきだ。
 臨時国会では、所信表明演説と各党の代表質問、党首討論しか実施されなかった。これだけで有権者石破茂内閣の方向性を判断するのは無理がある。
 各党の党首と候補者は27日の投開票までに、十分な材料を提供する義務がある。幅広い視点からの論戦が欠かせない。
清算と再発防止は
 最大の争点は、裏金事件の清算と再発防止策である。
 自民党の複数の派閥が、政治資金パーティー券の販売収入を政治資金収支報告書に正確に記載していなかった。旧安倍派などは議員がノルマを超えて販売した分を議員側に還流し、議員側も報告書に記載していなかった。
 還流分の計4826万円を報告書に記載しなかったとして、池田佳隆衆院議員=自民除名=が政治資金規正法違反で逮捕、起訴されるなど、議員や派閥会計責任者ら計11人が立件されている。
 自民党の調査によると、18~22年だけで85人に総額5億7949万円の不記載があり、1千万円超の議員は20人に上る。違法な使途はなかったとしている。
 ただし、立件され衆院議員を辞職した堀井学氏には、還流分を私的に流用した疑いがある。政治活動以外に使用すれば税務上の問題が生じるのに、自民党は再調査に消極的だ。旧安倍派では20年以上前から還流が続いていた可能性も指摘される。誰が何の目的で始めたのかも「闇の中」である。
■選挙でみそぎ?
 何が問題なのか―。不透明なカネが不透明なルートで政治家に入り、使途も不明なら、政治のかじ取りがカネに左右されかねないことだ。選挙に使われれば民主主義の基盤を揺るがす。
 パーティー券の購入者は20万円を超えなければ公開されず、多くは企業や団体とされる。5万円超で公開される寄付より透明性が低く、事実上の「抜け道」だ。
 政党から党幹部らに支給され、使途を明らかにする必要がない政策活動費も問題だ。二階俊博元幹事長は在任中の5年間に計約50億円を受領し、使途は不明だ。
 岸田文雄政権は規正法を改定し、券購入者の公開基準を5万円超に引き下げた一方、政活費は温存した。中途半端な対応とみなされて支持率は回復せず、岸田氏は総裁選不出馬に追い込まれた。
 各党は衆院選の論戦で政治不信を払拭する策を有権者に示すことが欠かせない。
 自民党は公約で「将来的な廃止も念頭に、政活費の透明性の確保、監査に関する第三者機関設置に取り組む」などとした。石破首相は国会の党首討論では衆院選で使う可能性を否定しなかったが、その後「使わない」と修正した。
 主要野党は公約で政活費の廃止を主張する。自民党が連立を組む公明党も政活費廃止を打ち出しており、自民党との差が際立つ。
企業献金の是非
 自民党は事件で重い処分を受けるなどした12人を非公認とした一方で、34人は公認し、比例代表との重複は認めないことを決めた。
 森山裕幹事長は「一定のけじめ」と述べており、石破首相は非公認候補らが再選された場合は追加公認する方針を説明。公明党自民党が非公認とした2人を推薦した。選挙でみそぎを済ませようとする与党の方針が、有権者にどう判断されるのか。
 「政治とカネ」問題への対策は、リクルート事件やゼネコン汚職などを受けた1994年の規正法改定にさかのぼる。政治資金を税金でまかなう政党交付金を導入した一方で、企業・団体献金の5年後の廃止を掲げたのに、結果的に温存されてきた。
 自民党は今回の公約で企業・団体献金に触れていない。立憲民主党日本維新の会共産党は、政党や政党支部などに限定して認められている企業・団体献金の廃止に言及した。
 石破首相は党首討論で「大事なのは政策が左右されないかどうかで、これから先も認めるべきだ」と主張。立民の野田佳彦代表は「政党交付金がありながら企業団体献金をもらうのは、二重取りで理解されない」と述べている。
 献金の是非だけでなく、「カネがかかる政治」のあり方から検証する必要がある。「民主主義のコスト」(石破首相)なのか、活動を見直し、支出抑制を図るべきなのか―。選挙戦で論議を尽くさねばならない。

衆院選公示 課題解決へビジョン示せ(2024年10月16日『新潟日報』-「社説」)
 
 地方の課題解決に向けて、どう取り組むのか。各候補者はビジョンを明確にして、有権者に訴えてもらいたい。
 
 衆院選が15日公示され、27日の投開票に向けた舌戦が始まった。
 小選挙区289、比例代表176の計465議席を巡り争う。全国で1344人が出馬し、そのうち女性候補は314人と過去最多となった。
 石破茂首相の下での自民、公明両党連立政権の信を問う選挙だ。
 最大の争点は自民派閥裏金事件を受けた「政治とカネ」への対応である。ほかに物価高への対策や地方活性化策、国際情勢が不安定化する中での安全保障関連の政策など焦点は多岐にわたる。
 いずれも国の将来に大きく関わる課題だ。各候補者の訴えに私たちは耳を澄ませたい。
 小選挙区定数が「10増10減」され、本県は6から5に減った新区割りでの初の選挙戦となる。
 小選挙区比例代表並立制で初めての衆院選が行われた1996年以降、本県の選挙区はほぼ変わっていなかったが、今回は枠組みが大きく変わった選挙区もある。
 有権者の中には自分の選挙区や候補者がよく分からないと戸惑っている人がいるかもしれない。報道や選挙公報などで改めて確認してもらいたい。
 県内では、5小選挙区に計15人が立候補した。自民4人、立憲民主党5人、日本維新の会3人、共産党1人、無所属2人だ。
 基本的にどの選挙区も与野党対決の構図で、自民系と野党第1党の立民が軸となる。
 自民は裏金事件を巡り2区の前職を公認しなかったため、擁立は4人にとどまった。2区前職は党県連推薦を受け、無所属で挑む。
 野党は共産が候補を立てた1区以外、維新を除く共闘態勢につなげた。全区に候補を立てた立民は全勝を期す。
 比例票の掘り起こしを狙う政党を含め、それぞれが何を語るのかにも注目したい。
 中でも5区は、裏金事件で党本部の戒告処分を受けた自民前職が、比例代表への重複立候補を認められなかった。立民前職は選挙区内で日本酒を供与したとして刑事告発された。
 2人には改めて有権者に丁寧に説明する姿勢が求められる。
 県内では過疎にあえぐ中山間地や離島の振興、持続可能な地域医療の再編など住民の生活と切り離せない課題がある。
 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働問題や北朝鮮による拉致問題は国政と直結する。天候不順の影響を受けやすい農林水産業振興など待ったなしの課題が山積している。
 各候補者は日本全体の課題とともに足元の地域課題に向き合う姿勢も問われている。

(2024年10月16日『新潟日報』-「日報抄」)
 
 通い慣れた道のはずだった。ところが沿道の建物が建て替えられたり、交差点が改良されたりして風景は一変。自分はどこにいるのだろうと困惑してしまった
▼例えるなら、こんな感じだろうか。衆院選がきのう公示された。「1票の格差」是正のためとして、本県は今回から小選挙区が6から5に減り、区割りも変更された。選挙の様相が大きく変わることになった
有権者によっては、1票を投じる候補者の顔ぶれががらりと入れ替わった。見慣れない候補者ばかりになり、誰に入れていいか戸惑うかもしれない。所属政党を判断基準にする手もあるが、候補者の人柄や個性が気になる人もいるだろう
▼区割りも激変といえる。佐渡市は旧2区から、新潟市中央区などとともに新1区になった。旧5区だった南魚沼市などは新5区への変更に伴い上越地域と一緒になった。地域ごとに環境や課題は異なるから当面は違和感を抱く人もいるだろう
▼戸惑いは選挙を戦う候補者自身にもある。前職の一人は以前の取材に「全有権者のうち3分の2が新しい選挙区になる。とても回りきれず、時間がない」と焦りをにじませていた。集票戦術も変更を余儀なくされるのだろう
▼新しい風景に戸惑うのは無理もない。なじみの候補者に投票できないと嘆く人もいるかもしれない。ただこの機会に、見慣れない候補者の公約をチェックしたり、街頭演説を聞いてみたりしてもいい。大切なのは、私たちの手にある投票の権利をしっかり使うことだから。

衆院選スタート 政策見極め1票投じよう(2024年10月16日『福井新聞』-「論説」)
 
 衆院選が公示された。最大の争点は自民党派閥裏金事件の解明と責任の在り方になるだろうが、物価高対策や人口減少への対応、エネルギー政策、防災など暮らしを取り巻く喫緊の課題は山積している。「政治とカネ」問題により失墜した政治に対する国民の信頼は取り戻せるのか。国会での論戦が決して十分だったとはいえないだけに、積極的な政策論争を望む。
 福井新聞の調査報道「ふくい特報班」によるアンケートでも、重視する政策や争点のトップは「裏金など『政治とカネ』問題」と関心は高かった。
 公示前に行われた与野党7党首による日本記者クラブ主催の討論会で石破茂首相は、使途公開不要の政策活動費に関し今回の衆院選で「抑制的に使う」との考えを示したが、翌日のテレビ番組で一転「使わない」と軌道修正した。公明党石井啓一代表は裏金で非公認となった自民党出身の無所属候補を推薦する対応に説明を求められた。自公両党は選挙戦を通じ、裏金問題の釈明を迫られよう。
 野党にとっては自公連立政権を過半数割れに追い込む好機のはず。にもかかわらず、3年前の前回と比べ野党間の選挙協力は進まなかった。自公に代わる政権の姿はまだ見えていない。
 裏金問題のほかにも、長引く物価高対策など国民の暮らしと直結し早急に手を打たねばならない課題は多い。主要政党は公約で、物価高に苦しむ有権者を支援するための経済政策を軸とする。給付金支給やエネルギー料金補助継続のほか、減税策を盛り込んだ政党もある。家計を助ける姿勢を前面に打ち出した。
 複数の政党が公約に掲げる最低賃金1500円は、いつまでにどのようなプロセスをたどり実現する考えか。石破首相は臨時国会所信表明演説で「2020年代に1500円という目標に向かって努力する」と強調したが公約では時期や金額は明記されなかった。
 折しも公示日の10月15は、02年の日朝首脳会談を経て小浜市拉致被害者地村保志、富貴恵さん夫妻ら5人が帰国した日と重なる。あれから22年、横田めぐみさんらほかの被害者の帰国はかなっていない。拉致問題とどう向き合うのか各党は考えを示すべきだ。
 福井1、2区は、現行の区割りとなった14年以降で最も多い計10人が立候補した。北陸新幹線の開業効果をどうやって持続させるのか、全線開業に向けてどう取り組んでいくのか―。歯止めがかからない人口減少への対応や原子力政策など福井県を取り巻く課題は山積している。各候補の政策の違いは何なのか、訴えに耳を傾け、福井の未来を誰に託すか冷静に見極めて1票を投じたい。

論戦スタート 自民政治の歪みただすのは(2024年10月16日『京都新聞』-「社説」)
 
 先の政権交代から12年。不信を増す自民党政治の歪(ひず)みをただせるのは、石破茂政権なのか。それとも野党に力を与えて託すのか。きのう公示された衆院選で最大の選択肢だ。
 もとより急速な少子高齢化に伴う人口減少、生活を圧迫する物価高、地震と豪雨を受け能登半島で続く避難生活、ウクライナや中東での侵略と虐殺、激化する米国と中国の対立など内外に課題は山積する。各党の処方箋が問われる。
 ただ、それを前に進める土台は、国民の政治への信頼にほかならない。危機的に損なわれている現状を放置すれば、日本の再生はつまずき続けるだろう。ウミを出し切る政治改革は待ったなしだ。
 新政権に期待と批判
 前回衆院選から3年。反社会的な問題を起こしてきた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と、政策協定を結ぶなどして選挙支援を受ける。非課税の優遇を受ける政治資金を裏金化し、選挙や飲食に充てる。そんな自民の病巣が次々にあぶり出された。
 岸田文雄前政権は対応を誤ったと言わざるを得ない。いずれも自民内の形式的な調査にとどめ、真相究明には後ろ向きだった。腐敗の中心が党最大勢力の安倍派であり、足場が弱い岸田氏は政権維持のために配慮を重ねたといえる。
 年末に裏金で逮捕者が出た後も岸田氏は、野党が求める企業団体献金や資金パーティーの禁止など再発防止策を避けた。数の力で通した改正政治資金規正法は「癒着の温床」と「抜け穴」を残した。
 効果の不透明な減税や物価高対策で国民の不満をそらそうとしたが、今年に入って内閣支持率は2割台に張り付いたまま。四面楚歌(そか)で退陣に追い込まれた形である。
 自民総裁選で事態打開を託されたのが「党内野党」といわれ、不遇をかこっていた石破氏だ。安倍晋三菅義偉―岸田の3政権に対し批判的な「筋論」を唱え、国民人気が高かった点が「選挙の顔」に押し上げられた要因だろう。
 持論は封印のままか
 だが、今月1日の首相就任以来の振る舞いには疑問が多い。
 わずか8日後に戦後最短で衆院を解散した。各党代表質問と党首討論に3日間を充てただけ。議員任期を1年残す中、総裁選では予算委員会での議論を通し、選挙の判断材料を示すとしていた。
 政権発足の「刷新感」に乗じ、ほころびが出ないうちに選挙へという党利党略が際立つ。
 その姿勢は所信表明にも見えた。地方創生の強化以外は具体性を欠く。「政治とカネ」の問題は「令和の政治改革を断行」というだけで、何をするか触れない。
 一方、世論調査で厳しさが伝わると裏金議員の比例重複を認めず、一部は非公認とした。だが、真相が曖昧なままの不透明な線引きは形だけの見せしめに映る。当選すれば追加公認する構えだが、それで闇にふたをするなら、岸田氏の轍(てつ)を踏むことになろう。
 首相は裏金事件の解明と再発防止を踏み込んで語るべきだ。
 石破氏は総裁選で、世論の過半や経団連が求める「選択的夫婦別姓」の導入、法人税や富裕層の金融所得への課税強化に意欲をみせた。12月の健康保険証廃止の見直しに賛同し、「原発ゼロ」へ最大限努力するとも述べた。
 選挙公約では、一連の主張を封印し、岸田政権の主要政策を踏襲した。その評価は争点になる。
 安倍政権以来の経済政策アベノミクスは、金融や財政を痛める弊害が著しい。岸田氏は金融の正常化に踏み出したものの、財政の膨張を加速させた。予算「倍増」を決めながら、防衛費と少子化対策の財源の手当ては先送りした。借金財政の健全化は避けられない。
 安倍政治の強権的で国会を軽視する手法は、岸田氏も引き継いだ。閣議決定で敵基地への攻撃能力保有原発回帰を進め、国会で十分説明しない。これを批判していた石破氏は、臨時国会をみる限り改める気配が見えなかった。
 「多弱野党」脱せるか
 岸田氏同様、党基盤の弱い石破氏は世論が最大の支えだろう。国民の批判と期待に向き合い、石破カラーを出して勝利してこそ、党内を抑えられるのではないか。選挙中の首相の言動を注視したい。
 政権批判の受け皿となる野党も課題を抱えたまま選挙に入った。
 衆院選は「政権選択」の選挙であり、野党第1党・立憲民主党野田佳彦代表も「政権交代こそ最大の政治改革」と訴える。
 ただ、立民での単独過半数が見通しにくい以上、日本維新の会など他の野党と候補を一本化し、与党との一騎打ちに持ち込む必要があった。京都、滋賀をはじめ多くの競合区が残った。
 この3年、方針や政策のぶれもみられた立民に加え、政権に近づいた時もあった維新や国民民主党の姿勢も問われよう。
 「1強政治」に甘んじてきた「多弱野党」の反省も踏まえ、野党で過半数を得たなら政治改革など一致して動く構想を示してはどうか。選挙中でも遅くあるまい。
 京滋とも投票率は5割台が続く。主権者の一票で、停滞する政治を動かしたい。

論戦スタート/社会の未来を選ぶために(2024年10月16日『神戸新聞』-「社説」)
 
 衆院選がきのう公示され、12日間の論戦が始まった。小選挙区定数「10増10減」などを受けた新区割りで計465議席を争う。全国では9党などから計1300人超が立候補を届け出た。兵庫県内の12小選挙区には過去最多の56人が立候補した。
 石破茂首相が就任8日後に衆院を解散した異例の短期決戦だ。自民党が2012年に政権復帰して以降、長らく続く「自民1強」と呼ばれる巨大与党体制を継続させるのか、野党勢力を伸ばして政治に緊張感を呼び覚ますのか。今後の国政の大きな流れをつくる選挙である。
 判断材料は多岐にわたる。物価高対策、社会保障少子化対策、地方活性化、災害対策など国民の暮らしに密接に関わる政策課題が争点になっている。外交・安全保障、憲法改正など国の根幹に関わるテーマでも各党の違いが浮かび上がる。
 27日の投開票日まで、各党が発表した公約と候補者が訴える政策を見比べ、私たちが暮らす社会の将来像を選び取るための機会としたい。
 最大の争点は、自民党派閥裏金事件で失墜した政治への信頼を取り戻すための改革に、各党がどう向き合うかである。
 首相は裏金議員の公認問題で場当たり的な対応を重ねたが、何よりも最優先すべきは裏金事件の全容解明と再発防止策である。首相は党首討論でも野党が求める再調査には否定的だ。真相究明に後ろ向きな姿勢を有権者はどう評価するのか。
 抜け穴だらけの政治資金規正法の再改正も真摯(しんし)な議論が欠かせない。首相は「政治資金の透明性を担保する」とするが、政策活動費は当面継続し、企業・団体献金も必要性を訴える。自民は「カネのかかる政治」と決別する覚悟があるのか。論戦を通じて目を凝らしたい。
 野党にとっても正念場だ。立憲民主党は「政権交代こそ政治改革」と訴えるが、野党間の候補者調整は限定的だ。裏金問題で自民に厳しい視線が向けられる中、「敵失」に頼るだけでは信頼は得られない。批判票の受け皿を超えて、政権像を具体的に提示できるかなど課題は多い。
 高齢化と人口減少の加速を踏まえ、国民に負担を求める少子化対策や防衛増税などを巡る議論も忘れてはならない。物価高対策で低所得世帯への給付金支給のほか、減税策を公約に盛り込んだ政党もあるが、財源をどうするか、手だてを十分に示していない。政策の実効性をどう担保するか明らかにする必要がある。
 政党だけでなく、私たちの意識も問われている。無関心は「白紙委任」につながり、身勝手な政治を許す。「主役は国民」と自覚し、未来への選択に臨みたい。

衆院選公示 地方活性化の議論深めよ(2024年10月16日『山陽新聞』-「社説」)
 
 第50回衆院選が公示され、27日の投開票に向けた選挙戦が始まった。今月就任したばかりの石破茂首相の政権に国のかじ取りを任せるかどうかが問われる選挙である。
 自民党総裁である首相と公明党石井啓一代表は両党での過半数確保を目標に掲げる。解散前に野党第1党だった立憲民主党野田佳彦代表は自公の過半数割れと立民の比較第1党を目指す。
 自公両党の公示前勢力は計288。過半数ライン(233議席)を50議席以上も上回っているが、与党側には危機感が漂う。自民派閥裏金事件を受けた「政治とカネ」問題が尾を引いているからだ。
 共同通信社が今月初めに実施した電話世論調査では、裏金議員を公認することを「理解できない」との回答が75・6%に上っていた。
 自民は裏金事件に関係した前議員ら12人を小選挙区で非公認とした。当初、原則公認する案が浮上していたが、世論の反発に配慮した格好だ。関与がありながらも公認した34人についても比例代表への重複立候補を認めなかった。
 事件の舞台となった旧安倍派の前議員らからは不満の声が漏れるが、首相は記者会見で「党内融和より国民の共感を得ることが大事だ」と言い切った。党内基盤の脆弱(ぜいじゃく)さが指摘される首相だが、世論を無視することはできまい。
 野党は前回(2021年)、立民、共産、国民民主、れいわ新選組、社民の5党で共闘を進め、約210選挙区で候補者を一本化した。立民は今回、裏金事件に関係した前議員らの選挙区で、野党候補一本化を呼びかけたが、日本維新の会、共産、国民民主各党などは慎重姿勢を示した。
 立民の野田代表は政権交代のためには「穏健な保守層」を取り込まなければならないとし、先の代表選から現実路線を強く打ち出している。共産の田村智子委員長は、安全保障関連法の即座の廃止は困難とする野田氏の姿勢などを理由に、共闘見送りを明言した。野党共闘の難しさが改めて浮き彫りになった形だ。
 前回と同様、首相の就任から投開票まで1カ月もない超短期決戦である。地方の人口減少対策と東京一極集中の是正は急務だ。「政治とカネ」問題での政治不信の払拭、物価高に対応した経済対策など国政の課題は山積している。各党、各候補者は論戦で政策を競い、有権者に判断材料を示してもらいたい。
 今回の衆院選は「1票の格差」是正を目的に都市部の定数を増やし、地方の定数を減らした「10増10減」で行われる。岡山県内の小選挙区は5から4、広島県は7から6に減った。
 岡山の新3区は、おおむね旧3区と旧5区を合わせたエリアで面積が県土の約7割をも占める。有権者の声が選出議員に届きにくくなる懸念がある。民意がうまく反映するのか、選挙制度のチェックも欠かせない。

衆院選で聞こえる声(2024年10月16日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
 静寂の夜、木々や茂みから聞こえてくる虫の音と、ひんやりとした風が心地いい。日本人は古くから耳を傾け、季節を感じてきた
▼この秋の情趣は普通のことと思っていたら、世界では珍しいらしい。ある研究によると、世界の多くが虫の音を雑音と感じるのに対し、日本人は言語をつかさどる左脳で「声」として捉えているという
▼深まる秋の静けさを破り、懸命に訴える声が聞こえ始めた。国の針路を決める衆院選がきのう公示された。自民、公明両党が過半数を維持できるか、野党が阻止するかが焦点の一つだ
▼国民が望む政策を実行できるのは誰か、どの党か。「東京一極集中を止め、地方に元気を取り戻す」「経済成長を成し遂げる」。聞こえのいい言葉ばかりが耳に入ってくる。現実味は。財源の裏付けは。訴える人は分かりやすく説明してほしい。岡山県では先に始まった知事選と同日の投票である。国政と県政。声の聞き間違いには注意だ
▼風は読めない。派閥裏金事件で逆風がやまない自民は、選挙の顔が変わり風向きの好転を期待した。思惑通りにいくかどうか。野党は「政治とカネ」問題を追い風にしたいが、敵失に乗じる風頼みには限界があろう
▼少なくとも、有権者の選択を左右する突風は吹いていないようだ。ならば、自らの耳と目と心を研ぎ澄ませ、意思を示したい。
衆院選公示 政治への信頼取り戻せるか(2024年10月16日『中国新聞』-「社説」)
 
 第50回衆院選がきのう公示され、27日の投開票日に向けて選挙戦が始まった。与野党が政治改革などを争点に論戦を繰り広げる。
 今回の選挙の意義は、石破茂首相と新内閣を信任するかどうかにとどまらない。首相が路線を引き継ぐ岸田政権の3年間のみならず、その土台となった安倍政権以降、12年間続いた自民、公明両党による政権運営に評価を下す機会とも捉えられよう。
 ◆超短期の決戦に
 問われるのは、政党や政治家の姿勢だけではないだろう。今回の選挙には、自民党派閥の裏金事件に絡んだ前職も数多く立候補した。自民党の公認が適切だったかを含め、裏金事件などへの対応が金のかからぬ政治に本当につながるのか、われわれ有権者の判断も問われることになる。
 超短期の決戦である。首相就任から8日後の衆院解散は戦後最短、解散から投開票日までの18日間は戦後2番目に短い。各党には、言葉を尽くして有権者の審判に資する論戦を望みたい。
 首相が選挙を急ぐのは、新内閣の不祥事が少ないうちにとの思いからだろう。総裁選での発言を翻して十分な国会審議に応じず、解散を断行した判断は、長期にわたり政権を担ったおごりではないか。
 ◆核禁条約も争点
 岸田文雄前首相が退陣したのは、裏金事件などで国民の信頼を失ったためだ。最大の争点が政治改革であることは揺るがない。首相は決意にとどまらず具体策を示す必要がある。
 議論すべき課題は山積する。「核兵器のない世界」に向けた取り組み、とりわけ核兵器禁止条約への対応も日本被団協ノーベル平和賞受賞が決まったことで関心が高まった。
 物価高への対策や地方創生の議論も欠かせない。ただ日本の財政赤字は先進国で最悪の水準である。首相はきのうの街頭演説で新たな経済対策の財源となる補正予算を巡り、一般会計の歳出が13兆円余りだった前年度を上回る規模とする考えを示した。人気取りのばらまき政策には厳しい目を向けたい。
 自民党は政権に返り咲いた2012年以降、単独で過半数を上回る議席を得てきた。まずは自民1強体制が継続するのかに注目したい。
 野党が自民党の「政治とカネ」問題を追及するのは当然だ。きのうの演説では多くの野党党首が裏金事件に時間を割き、立憲民主党野田佳彦代表は「自民党政治に決別しよう」と政権交代を訴えた。
 与党の過半数割れを狙う上で、公約を通じて政権担当能力を示し、自民党から離れる有権者の受け皿となるよう努めることが重要である。過半数割れの先に何があるのか、論戦でしっかりと語り、有権者から支持されなくてはならない。
 ◆低迷する投票率
 野田代表をはじめ野党党首の顔ぶれも前回選から大きく変わった。有権者の評価を初めて受ける立場は首相と変わらない。
 共同通信社が12、13日に実施した全国電世論調査(第1回トレンド調査)で、望ましい選挙結果は「与党と野党の勢力が伯仲する」が50・7%で最多だった。有権者が政治に緊張感を求めているのは間違いない。
 衆院選投票率は過去4回続けて50%台で推移した。特に若者の投票率低迷は著しい。7月の東京都知事選では既成政党離れも見られた。各党には、政治への信頼を取り戻す使命が課せられている。
 小選挙区の定数「10増10減」で、区割りが変わって初の選挙となる。中国地方は広島、山口、岡山県で各1減り計17。比例代表中国ブロックの定数も11から10に減った。新しい枠組みの中、各党や候補者の訴えに耳をすませ、熟考して1票を投じたい。

選挙ポスターの顔(2024年10月16日『中国新聞』-「天風録」)
 
 何かを繰り返し見たり聞いたりすると、好ましく思い始めることがある―。ザイアンス効果というらしい。その効果を狙うものか。顔写真を大写しにした歯科医の看板を国道沿いなどで見かける。東京で話題となり各地に広がった
▲道路脇に立つ掲示板にきのう顔写真が並び始めた。衆院選挙ポスターである。たいていは候補者の顔と名前という内容。でも目立てば、有権者の心をつかめるかもしれない。ネット時代だが、捨てたものではなさそう
▲いつもは気にも留められない選挙ポスターが夏、物議を醸した。東京都知事選の「掲示板ジャック」だ。好きなポスターを自由に張る権利を、政治団体が寄付をしてくれた人に譲渡。いわば掲示枠を買った人が、選挙と関係ないポスターを大量に張り出した
▲ペットの犬猫の写真や風俗店を紹介する内容まで。掲示ポスターの規制がない公選法の盲点を突かれた。問題視した各党が法改正も検討。だが臨時国会は会期が短く、審理できず解散。規制なしのままで選挙となった
鳥取県ではポスターを選挙目的に限るなどとした条例が成立した。大事な政策をしっかり語り、実行する候補は誰か。ポスターも吟味してみなくては。

月は欠けても(2024年10月16日『山陰中央新報』-「明窓」)
 
 ユーミンこと松任谷由実さんの曲『14番目の月』にこんな歌詞がある。<つぎの夜から欠ける満月より 14番目の月がいちばん好き>。月の満ち欠けは新月を1とすると満月は15番(日)目。<愛の告白をしたら最後 そのとたん終わりが見える>という歌詞もあり、はかない恋愛の成り行きを月の見え方で表すユーミンの世界観に引かれる
▼今夜は、その14番目の月が見える。昨夜は旧暦の9月13日に当たる「十三夜」。旧暦8月15日の「中秋の名月十五夜)」に次いで月がきれいな日とされる。十五夜は中国から伝わり、十三夜は日本独自の風習として平安時代から愛(め)でられた
▼「十四夜」ではなく、より月が欠けた「十三夜」としたのは、徒然草の作者吉田兼好が「花は盛りに 月は隈(くま)なきをのみ見るものかは(桜は満開、月は満月の時に見るものか、いやそうではない)」と書いたように、不完全な様や不足した状態に美しさを見いだし、想像することに趣を覚える日本人の感覚からだろう
▼とはいえ、完全を求めたい事象もある。きのう公示された衆院選。今の社会情勢や信頼に足りない政治の在り方を踏まえれば、候補者からごまかしや曖昧な主張は聞きたくない。ただ求めてばかりも無責任。民主主義の担い手である有権者こそ、しっかりと考え、判断したい
▼ちなみにあすの夜は満月が大きく見えるスーパームーン。今年一番、月が地球に近い。(衣)

【2024衆院選 政治とカネ】信頼回復の道筋を示せ(2024年10月16日『高知新聞』-「社説」)
 
 信なくば立たず。どんなに優れた政策も、政治が国民の信頼を欠いたままでは求心力や実効性を欠く。
 その国民の信頼が、自民党派閥の裏金事件で大きく失墜している。岸田文雄前首相は事件のけじめを理由に退陣した。それだけに今回の衆院選は「政治とカネ」「政治改革」が最大の焦点となる。各党、各候補は信頼回復の道筋を示し、有権者はそれらを見極める必要がある。
 派閥パーティー券の販売ノルマを超えた利益を各議員に還流し、政治資金収支報告書に記載されなかった裏金事件は、最終的に旧安倍派を中心に80人以上が関わっていた。東京地検特捜部は、高額の資金を受け取った衆院議員や派閥の会計責任者ら計10人を立件した。
 脱税を疑われてもおかしくない裏金づくりは組織的に行われていた。リクルート事件などに続く歴史的なスキャンダルだと言ってよい。国民目線とのずれが明らかな行為に政治不信が高まるのは当然で、国会では政治改革の議論が再燃した。
 議論では、不祥事が繰り返される「政治とカネ」問題に「今度こそ抜本的なメスを」との流れもあった。税金が原資である政党交付金と「二重取り」批判がある企業・団体献金、使途が公開されない政策活動費や調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の扱いなどが焦点になったほか、「多額の費用がかかる」とされる政治・選挙の在り方そのものを問う声もあった。
 しかし、政治資金規正法の改正は小手先に終わったと言わざるを得ない。見直しは制度の枝葉にとどまり、規制の抜け道、先送り事項も目立つ。直後の世論調査では78%が問題解消に「効果なし」と答えた。
 こうした経過をたどった末、衆院選では各党が改めて「政治改革」「信頼回復」を掲げている。
 自民は4月に独自調査に基づいて関係議員を処分しているが、さらに関係議員の一部を非公認とした。公約では「国民目線で改革を進める」と強調し、政策活動費は「将来的な廃止も念頭に透明性を確保」とするなどした。これまでよりも一歩踏みこんだのは事実だろう。
 しかし、抽象的な改革意欲は額面通りに受け止めにくい面がある。裏金づくりの実態は今も分かっていない。石破茂首相は再調査にも消極的で、これでは政治改革に臨む姿勢に疑問符が付く。より具体的で説得力のある訴えがなければ、不信の解消は限られるのではないか。
 野党側は、事件の調査不足や改革案の甘さを指摘し、企業・団体献金廃止などより明快な公約を挙げる。このうち野党第1党の立憲民主党は、首相の解散判断を「裏金隠し解散」とし、「政権交代こそが政治改革になる」と訴えている。
 実態調査が不十分で不信につながっているという点では、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係もある。政治が国民と真摯(しんし)に向き合うことができるか問われている。

刈り込むべきか(2024年10月16日『高知新聞』-「小社会」)
 
 散歩中、道端のヨモギに花が咲いているのに気付いた。満開の株もあれば、ピークを過ぎた株も。あまりに地味で小さい花なので、前日までまるで気づかず、通り過ぎていた。
 ヨモギは葉を餅や天ぷらなど食用にするほか、高血圧などの薬草としても用いる。おきゅうのもぐさの原料でもある。これほど身近にあり、重宝される野草はないだろう。
 園芸研究家の故柳宗民さんは「とても雑草とは云(い)えないありがたい植物」だと、著書で強調している。ただし至極愛されている草かといえば、そうでもない。先日もよく通る緑地のヨモギがきれいに刈り取られていた。花盛りであったろうに。
 真夏の暑さや乾燥にも強いヨモギは、あっという間にはびこる。調べると、他の植物の成長を抑える物質を出して勢力を伸ばす。しかも、花粉は秋の花粉症の原因物質の一つというから悩ましい。柳さんは、刈り取られる宿命を「『過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如(ごと)し』というところか」と例えた。
 いまの国政と重ねてみる。与党自民党は実績は多々あろうが、政権を担う期間が長くなって、おごりや緩みが目立っていないか。国民の不満が渦巻く派閥裏金事件も、その一端に映る。
 衆院選が公示された。勢力を刈り込むべきか有権者が判断する。それには受け皿になる党があるのが大事だが、野党は政策を浸透できているだろうか。まずは各党、各候補者の論戦にしっかり耳を傾けたい。

衆院選公示 国民の意思投票で示そう(2024年10月16日『西日本新聞』-「社説」)
 
 自分の1票では政治や社会は何も変わらない。そんな無力感を抱いている人が多いかもしれない。目の前の政治に不信感が募っていればなおさらだろう。
 多くの人の意思で国や地域の針路を決める。誰かの決定だけで物事が進むような独裁を許さない。そんな民主主義の社会に私たちは生きている。
 為政者の決定は1票の積み重ねに基づく。1票の差で結果が分かれることもある。
 衆院選がきのう公示された。国民の代表となる465人の衆院議員を選ぶ。有権者が政権を選択する3年ぶりの総選挙である。
 現在の自民、公明両党の連立政権か、野党を中心とした新たな枠組みか。誰に国のかじ取りを託すのか。選ぶのは私たち有権者にほかならない。
■起点は「政治とカネ」
 新首相誕生から衆院解散まであまりに慌ただしく、投票の判断材料が十分だとは言い難い。
 石破茂政権が1日に発足し、9日に衆院解散するまでの日数は戦後最短だった。新政権に実績はない。期待値だけで判断するわけにはいかない。
 石破首相は就任すると、自民党総裁選での発言は一議員としての私見だと態度を変えた。変節に戸惑っている国民もいるだろう。
 今回の選挙は、新政権だけでなく、前回の衆院選以来約3年にわたった岸田文雄前政権への審判でもある。解散・総選挙に至る経緯を振り返れば、そのことは一層明確になる。
 選挙戦の最大の争点は「政治とカネ」への対応である。岸田政権下で露呈した不祥事が解散・総選挙の要因で、政治の根幹を問う重い問題であるからだ。
 自民党派閥の裏金事件は、家計のやりくりに頭を悩ませる国民の怒りと、政治への不信を買った。そのエネルギーが岸田前首相を退陣に追い込んだ。
 自民党が裏金議員の一部を非公認としたところで、怒りは収まるまい。公示直前の共同通信社による世論調査では、7割超がこの対応を「不十分」と回答した。当選すればみそぎは済む、と安易に考えるべきではない。
 主権者である国民の信頼があってこその政治だ。与野党には、不祥事の元凶である「カネをかける政治」とどうやって決別するかを徹底して論じてもらいたい。
 政策課題は山積している。
 少子化は想定以上のスピードで進む。若い世代が将来に希望を抱けない状況を変えねばならない。家庭の経済環境にかかわらず、望む教育を誰もが受けられる仕組みを築きたい。
 物価高騰が暮らしを直撃している。有効な経済対策が急務だ。困窮する人への支援が欠かせない。
 ただし、ばらまきに歯止めをかけ、財政の膨張に区切りを付けるべきだ。社会保障費の安定財源の確保も先送りできない。
■争点は暮らしの中に
 地方創生や防災、エネルギー、安全保障、選択的夫婦別姓制度も争点になる。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治の関係も見過ごせない。
 有権者は各党の公約、候補者の主張を比較して投票したい。
 自らの暮らしを見つめると、実は自分だけの問題ではないことがある。そこから政策課題が見えてくるかもしれない。
 周りを見渡してみよう。制度や政策の網から漏れ、苦しんでいる人がいないか。平和が脅かされていないか。選挙の争点は身近なところに必ずある。
 日本原水爆被害者団体協議会(被団協)にノーベル平和賞が贈られることになった。世界で戦火はやまず、核兵器使用の恐れは増している。気候変動対策も待ったなしだ。世界に向け、日本政府を動かすのも私たちの1票である。
 前回の投票率は過去3番目に低い50%台だった。半分近くの人が投票しない状態は変えたい。
 石破首相は国民の信を問うた。1票に意思を込めよう。

幸福に近づく一あしを(2024年10月16日『長崎新聞』-「水や空」)
 
 宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のせりふにある。〈ほんとうにどんなつらいことでも それがただしいみちを進む中でのできごとなら 峠の上り下りも…ほんとうの幸福に近づく一(ひと)あしずつです〉。一あしは「一歩」を指す
▲かつて小渕恵三元首相は、国会の演説でこのせりふを引き、構造改革に理解を求めた。いま、峠に差しかかっているのは与党も野党も同じだろう。幸福に近づく予感や実感を抱かせることができるのは、どの政党であり、どの候補者なのか。衆院選が公示された
石破茂首相は就任した途端に「政治とカネ」の対応を巡る発言が抑え気味になり、歯切れのよさに影が差す。追い風が吹いていいはずの野党は野党で、一枚岩になりきれず勢力が分散している
▲情勢は混沌(こんとん)としているが、この衆院選から小選挙区が四つから三つになった本県は、さらに複雑な綾(あや)を描く。線引きが変わり、前職も元職も新人も、候補者はこれまで縁のなかった地域でも票を求めることになる
▲票を投じる側にも、なじみのない顔触れに戸惑う人は多いだろう。人物か、政党か、物価高や少子化に手を打つ政策か。選挙で何を重視するのかは人それぞれだが、政党、候補者が発する声にじっくりと耳を澄まして選択したい
▲政党や候補者は〈幸福に近づく一あし〉を語り尽くすほかない。一あしずつが行き着く景色を明瞭に描く、そうした選挙戦を望む。(徹)

[2024 衆院選]沖縄選挙区に16人 有権者に選択肢を示せ(2024年10月16日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 第50回衆院選が15日に公示され、県内の4選挙区に前職7人、元職1人、新人8人の計16人が立候補を届け出た。27日の投開票に向けて12日間の選挙戦が始まった。
 今回の沖縄選挙区の特徴は、従来の「オール沖縄」対自公勢力の構図に変化が生じていることだ。
 大票田の那覇市を含む1区には4人が立候補した。
 当初、れいわが新人を擁立する方針だったが、公示間際の11日夜になって取りやめることを発表し、オール沖縄の分裂が回避された経緯がある。
 ただこれまで、3連勝している前職を支援していた那覇市長は、今回は自民候補の支援に回っている。2022年の参院選で、一定票数を確保した参政からも立候補した。対する自民も保守系無所属の候補と競合するなど情勢は流動的だ。
 2区にはオール沖縄と自民の他に、維新や参政、無所属の計5人が立候補した。3区は、自民とオール沖縄に加え、参政が名乗りを上げるなど、各区とも混戦模様となっている。
 4区ではオール沖縄が候補者の一本化で折り合えず、立民とれいわがそれぞれ候補を擁立する結果となった。前職の自民とともに維新も立候補している。
 沖縄選挙区に16人が立候補するのは12年の19人に次ぐ多さだ。沖縄の声を国政に届けるためにも活発な論戦を期待したい。
■    ■
 前回21年の衆院選では、オール沖縄と自公が2勝2敗で拮抗(きっこう)した。
 あれから3年、辺野古の新基地建設を巡って国はこの間、全国にも例がない代執行に踏み切った。軟弱地盤という大きな課題を残したまま、大浦湾側の埋め立てを本格化させている。
 基地問題では、石破茂氏が総裁選で掲げた日米地位協定改定も大きな争点だ。
 石破氏は自衛隊の訓練を強化するため米国に自衛隊の訓練場を造り、米国での自衛隊の法的地位を定めるために地位協定を改定する必要があると主張している。本紙の候補者調査では、石破氏の改定案に賛否が二分している。
 また岸田文雄政権下で進んだ、自衛隊の「南西シフト」に伴う基地負担についても有権者の関心は高い。物価高や子どもの貧困などを巡る問題も待ったなしである。
■    ■
 前回21年の衆院選の県内投票率は、前々回を1・48ポイント下回って54・90%だった。民主党(当時)が政権交代した09年には64・95%に達したが、その後は50%台半ばで下げ止まりが続いている。
 今回の衆院選の結果は、来夏の参院選や26年の県知事選にも影響を与える。
 最大の争点は自民党の裏金事件や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を巡る政治改革である。
 各候補者は、有権者の関心を引くだけでなく、耳の痛い現実も含めて、有権者に多様な選択肢を示すべきである。