それぞれが「言わなかったこと」は…石破首相、立憲・野田代表の衆院選第一声 焦点は「政治とカネ」(2024年10月16日『東京新聞』)

 
 衆院選が公示された15日、与野党の党首らは重視する選挙区に入るなどして第一声を上げた。自民党派閥の裏金事件が発覚してから初の大型選挙。自民党総裁石破茂首相は「深い反省」を表明しつつも「政治とカネ」への言及はわずかで、震災復興や経済対策を強調した。野党第1党の立憲民主党野田佳彦代表は「裏金が大きな争点」として、裏金議員の選挙区に照準を定めて政権交代の必要性を訴えた。(井上峻輔、中沢穣)
有権者に支持を訴える石破茂首相(写真左)と立憲民主党の野田佳彦代表(写真右)=井上峻輔、平野皓士朗撮影

有権者に支持を訴える石破茂首相(写真左)と立憲民主党野田佳彦代表(写真右)=井上峻輔、平野皓士朗撮影

◆首相 「政治改革」の具体案を語らず

 「東北の復興なくして日本の復興なし。能登とともに新しい日本の再生にかける思いは、いわき・小名浜から上げたい」。首相は15日、福島県いわき市小名浜港で、汗ばむほどの強い日差しを浴びながら、東日本大震災で被災したこの地から選挙戦を始める理由をそう語った。
 演説の多くは復興や漁業政策など土地柄に合わせた内容。「ご当地ネタ」を随所に盛り込むのが定番だが、この日も港にある物産センターや飲食店に触れて会場を沸かせた。自民は2011年の震災と東京電力福島第1原発事故以降、第一声を福島県で行うことが多く、今回も被災地に寄り添う姿勢を示した。
 一方、焦点の裏金事件に関しては説明を尽くしたとは言い難い。震災を振り返った後に「『政治とカネ』の問題、パーティー収入不記載の問題が二度と起きないよう、深い反省の下に選挙に臨む」と指摘。裏金づくりの真相はいまだ闇の中だが、実態解明には触れずに「もう一度、新しい日本をつくる」と訴えた。
 政治改革への言及はごくわずかで、それすらも、福島4区の自民新人坂本竜太郎候補の父が政治改革に熱心な衆院議員だったというアピールに費やした。規制強化や再発防止の具体策は示さないまま、20分ほどの演説を終えた。

◆立憲民主・野田代表 「野党共闘」触れず

 立民は、自民の派閥裏金事件に関係した前議員ら46人の選挙区に党幹部を集中的に投入して「裏金選挙」を印象付ける戦略を取った。野田代表は15日、裏金議員の地元である東京都八王子市でマイクを握り、演説の大部分を追及に費やした。
 「裏金が大きな争点だと国民の皆さまにご理解いただき、その怒りを共有したい」。野田氏は20分に満たない演説で「裏」という言葉を約30回も連発した。批判の矛先を向けたのは、旧安倍派幹部「5人衆」の一人で、東京24区の萩生田光一自民党政調会長だ。
 野田氏は「裏金の額が多い。その裏金議員を裏から支えた旧統一教会との結び付きも強い」と批判。さらに使途の公開が不要な政策活動費もやり玉に挙げた。
 首相が総裁選で政策活動費の廃止検討に言及したのに一時「使う」と明言したことから、非公認の裏金議員に使われる可能性もあると問題視。「裏、裏、裏の自民党の政治文化を八王子から壊していこう」と締めくくった。
 立民は裏金議員を追い落として自公の過半数割れを目指すが、多くの選挙区で候補の一本化ができず、野党同士が競合する。演説では野党共闘など選挙協力に関する発言はなく、一時入院したれいわ新選組山本太郎代表にお見舞いの言葉を述べただけだった。