袴田巌さん無罪確定へ 姉ひで子さん「やっと一区切り」 検事総長は談話で“強い不満”(2024年10月9日『日テレニュース』)

 
8日午後9時ごろ、支援者に付き添われ、カメラの前に姿を見せた袴田巌さん(88)。ゆっくりとした足取りで家へと帰って行きました。
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 8日は、袴田さんを巡り大きな動きがありました。 午後7時ごろ、会見の場で支援者たちと固い握手を交わした袴田さんの姉、ひで子さん(91)。
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袴田さんの姉 ひで子さん(91) 「こんばんは、袴田でございます。おかげさまで控訴はなかったようでございます。これで一件落着で、本当に裁判が完全に終わるということで、とてもうれしく思っております」 弟の袴田巌さんは、1966年、静岡県で一家4人が殺害された事件で、一度は死刑が確定していましたが…
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袴田巌さんに無罪判決。無罪判決と掲げられました」 再審・やり直し裁判で9月26日、静岡地裁は捜査機関による証拠の“ねつ造”があったと断定し、無罪判決を言い渡しました。 これに対し、検察側が控訴した場合、さらに裁判が長引く可能性がありましたが、8日検察側は控訴しないことを明らかにしました。 事件から58年。88歳になった袴田さんの無罪が、ついに確定することになります。 袴田さんの姉 ひで子さん(91) 「やっぱり終わるんだと思って、58年の苦労というか、そういうものが吹き飛んじゃったと言いますかね、喜びしか今のところありません。これで一件落着で、誰にも何もいわれないと。巌が死刑囚でなくなるということが、とてもうれしいことです」 
 
 ◇ 一方、検察側のトップである畝本直美検事総長が、異例の談話を発表。犯行時の着衣とされた5点の衣類などが、捜査機関による“ねつ造”だと断定されたことについて、強い不満をあらわにしました。 畝本直美検事総長(談話より一部抜粋) 「『5点の衣類』が捜査機関のねつ造であると断定した上、検察官もそれを承知で関与していたことを示唆していますが、何ら具体的な証拠や根拠が示されていません」 「本判決が『5点の衣類』を、捜査機関のねつ造と断じたことには、強い不満を抱かざるを得ません」 ただ、やり直し裁判が長引いたことについては、次のように謝罪しました。 畝本直美検事総長 「袴田さんは、結果として相当な長期間にわたり、その法的地位が不安定な状況に置かれてしまうこととなりました。この点につき、刑事司法の一翼を担う検察としても、申し訳なく思っております」 この談話について、袴田さんの弁護団は怒りをあらわにしました。
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袴田さんの弁護団 小川秀世弁護士
 「談話を発表して見たが、その内容も非常に私は納得いかないというか、端的にけしからん内容だったと思っています。検察なんて全然反省がないじゃないですか」 袴田さんの姉 ひで子さん(91) 「真の自由を巌もよく言っていたが、自由をこれから得ていきたいと思います。もう88歳ですからね、あまり多くを望みませんが、巌にはせめてもう少し長生きしてほしいなと」 長い拘禁生活で精神をむしばまれ、意思疎通が難しくなってしまった袴田さん。 袴田さんの姉 ひで子さん(91) 「ハワイでも行こうかと言っていたが、今の健康状態では無理だと思います。車いすか何かでないといけないものですから。でも、巌が行くと言えば、どこへでも行くつもりです」 (10月8日放送『news zero』より)

 【全文】袴田さん再審で控訴断念 検事総長談話
 
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畝本(うねもと)直美検事総長
○結論
検察は、袴田巌さんを被告人とする令和6年9月26日付静岡地方裁判所の判決に対し、控訴しないこととしました。
○令和5年の東京高裁決定を踏まえた対応
本件について再審開始を決定した令和5年3月の東京高裁決定には、重大な事実誤認があると考えましたが、憲法違反等刑事訴訟法が定める上告理由が見当たらない以上、特別抗告を行うことは相当ではないと判断しました。
他方、改めて関係証拠を精査した結果、被告人が犯人であることの立証は可能であり、にもかかわらず4名もの尊い命が犠牲となった重大事犯につき、立証活動を行わないことは、検察の責務を放棄することになりかねないとの判断の下、静岡地裁における再審公判では、有罪立証を行うこととしました。
そして、袴田さんが相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも配意し、迅速な訴訟遂行に努めるとともに、客観性の高い証拠を中心に据え、主張立証を尽くしてまいりました。
静岡地裁判決に対する評価
本判決では、いわゆる「5点の衣類」として発見された白半袖シャツに付着していた血痕のDNA型が袴田さんのものと一致するか、袴田さんは事件当時鉄紺色のズボンを着用することができたかといった多くの争点について、弁護人の主張が排斥されています。
しかしながら、1年以上みそ漬けにされた着衣の血痕の赤みは消失するか、との争点について、多くの科学者による「『赤み』が必ず消失することは科学的に説明できない」という見解やその根拠に十分な検討を加えないまま、醸造について専門性のない科学者の一見解に依拠し、「5点の衣類を1号タンク内で1年以上みそ漬けした場合には、その血痕は赤みを失って黒褐色化するものと認められる。」と断定したことについては大きな疑念を抱かざるを得ません。
加えて、本判決は、消失するはずの赤みが残っていたということは、「5点の衣類」が捜査機関のねつ造であると断定した上、検察官もそれを承知で関与していたことを示唆していますが、何ら具体的な証拠や根拠が示されていません。
それどころか、理由中で判示された事実には、客観的に明らかな時系列や証拠関係とは明白に矛盾する内容も含まれている上、推論の過程には、論理則・経験則に反する部分が多々あり、本判決が「5点の衣類」を捜査機関のねつ造と断じたことには強い不満を抱かざるを得ません。
○控訴の要否
このように、本判決は、その理由中に多くの問題を含む到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容であると思われます。
しかしながら、再審請求審における司法判断が区々になったことなどにより、袴田さんが、結果として相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも思いを致し、熟慮を重ねた結果、本判決につき検察が控訴し、その状況が継続することは相当ではないとの判断に至りました。
○所感と今後の方針
先にも述べたとおり、袴田さんは、結果として相当な長期間にわたり、その法的地位が不安定な状況に置かれてしまうこととなりました。この点につき、刑事司法の一翼を担う検察としても申し訳なく思っております。
最高検察庁としては、本件の再審請求手続きがこのような長期間に及んだことなどにつき、所要の検証を行いたいと思っております。

証拠捏造を認定された静岡県警「より一層緻密かつ適正な捜査を」袴田巖さんの再審無罪を受け検察が控訴断念(2024年10月8日『テレビ静岡NEWS』)
 
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1966年に当時の静岡県清水市(現在の静岡市清水区)で一家4人が殺害された強盗殺人放火事件のやり直しの裁判(再審)では、静岡地裁が9月26日、袴田巖さんに対して無罪を言い渡しました。こうした中、検察が10月8日に控訴しない考えを明らかにしたことを受け、静岡県警がコメントを発表しました。
事件発生時の捜査員「もう一切しゃべりません」 袴田巖さんの再審無罪受け 以前は「本人が入れた」と主張
1966年、静岡県清水市(当時)で味噌製造会社の専務一家4人が殺害された強盗殺人放火事件、いわゆる袴田事件の再審をめぐっては、9月26日に静岡地裁の國井恒志 裁判長が一度は死刑が確定した袴田巖さん(88)に対して無罪判決を言い渡しまた。
また、判決公判で、静岡地裁は(1)袴田さんが犯行を自白した検察官調書(2)犯行着衣とされた“5点の衣類”(3)“5点の衣類”のうち袴田さんの実家で見つかったとされるズボンの切れ端の3つについて「証拠の捏造」を認定しています。
こうした中、検察は10月8日に検事総長談話を発表し、静岡地裁の判決について「到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容であると思われます」と指摘した一方、「袴田さんが結果として相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも思いを致し、熟慮を重ねた結果、検察が控訴し、その状況が継続することは相当ではないとの判断に至りました」と控訴の断念を明らかにしました。
その上で、最高検察庁として「再審請求手続きが長期間に及んだことなどにつき、所要の検証を行いたいと思っております」としています。
これを受け、静岡県警は「袴田さんが長きにわたって法的地位が不安定な状況に置かれてきたことについて、申し訳なく思っております。可能な範囲で改めて事実確認を行い、今後の教訓とする事項があればしっかりと受け止め、より一層緻密かつ適正な捜査を推進してまいります」とのコメントを発表しました。
検察は10月9日に上訴権を放棄する予定で、これにより袴田さんの無罪が確定します。