裏金議員の一部非公認 国民の理解を得られるか(2024年10月8日『毎日新聞』-「社説」)

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衆院本会議で立憲民主党の吉田晴美氏の質問を聞く石破茂首相(手前右)。同左は林芳正官房長官=国会内で2024年10月7日午後2時37分、平田明浩撮影
 次期衆院選の焦点は政治不信の払拭(ふっしょく)である。これで国民の「納得と共感」を得られるだろうか。
 自民党の派閥裏金事件で処分を受けた衆院議員のうち、安倍派幹部ら6人を非公認とする方針を、石破茂首相が発表した。
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石破茂首相が示した裏金議員の公認を巡る方針
 それ以外の議員は、公認しても、比例代表との重複立候補を認めないことも決めた。今後、地元の意向次第で非公認が増える可能性もある。
 党執行部は当初、裏金議員を原則公認する方針を固め、森山裕幹事長は「当選第一だ」と説明していた。世論の厳しい批判を受けて、首相が軌道修正を図った。とはいえ、処分議員の大半が公認されることに変わりはない。
 今回の判断は、4月の処分に基づいて、公認するかどうかを線引きしたものだ。党員資格停止となった議員が、非公認となるのは当然のことだ。
 一方、党役職停止1年の議員は、先の通常国会政治倫理審査会に出席したか否かで、公認・非公認の扱いが分かれた。政倫審に出席しても、関与を否定するだけで説明責任を果たさなかったにもかかわらず、公認の要件にするのは理解に苦しむ。
 安倍派議員からは「安倍派つぶし」と反発の声が上がるが、国民に目を向けていない内輪の議論である。そもそも処分は、基準が恣意(しい)的で甘さが指摘されていた。
 首相は、裏金を政治資金以外に使っていないかどうかなど、議員から個別に話を聞いて判断する考えを示していた。
 だが、衆院選が早期解散の慌ただしい日程となったこともあり、事情聴取して国民に説明するという約束は果たしていない。
 衆院選では、重複立候補が認められない議員は、小選挙区のみで当落が決まる。自民党は裏金問題について、今回の公認対応も含めて、有権者の審判を受けることになる。
 ただし処分議員が当選したとしても、十分な説明と国民の理解が伴わなければ、「みそぎ」が済んだことにはならない。
 本来は、党や国会に第三者機関を設置して実態を解明し、抜本的な政治改革につなげるべきだ。首相は、衆院選を裏金問題の幕引きに利用してはならない。

誠意って何かね(2024年10月8日『福島民友新聞』-「編集日記」)
 
 土下座したままの五郎。息子が友人のタマコを妊娠させてしまい、タマコの面倒を見ている叔父の元を訪ねて謝る。テレビドラマ「北の国から」の一場面だ
▼叔父が五郎に迫る。自分の娘が同じ立場に置かれた時のことを「本気になって想像してくれ」と。北海道から東京まで飛んできて、頭を下げるのが五郎なりの誠意なのだろうが、そうは取れないと叔父は切り捨て、問う。「誠意って何かね」。真面目で不器用な五郎に、この言葉は相当応えた
石破茂首相が、政治資金収支報告書に不記載があり、重い処分を受けるなどした自民党の一部議員を非公認とする衆院選の方針を決めた。他の不記載議員については公認しても比例重複を認めない
▼不記載の議員に厳しく対処するのは結構だが、先日まで裏金問題は公認・非公認の判断基準とせず、原則公認とする方向だったはず。それを軌道修正した背景には、世論や問題のない議員の強い反発があるようだ
有権者が今の政治をどう思っているか、本気で想像してきたならば方針がこんなにふらつくことはない。何か煮え切らない首相や、今回の方針に納得がいかないという不記載議員に誠意とは何かを問うたところで、無駄なのかね。

事務的なミス(2024年10月8日『中国新聞』-「天風録」)
 
 事務的なミスというとささいな間違いに聞こえる。だが物品を注文する数の桁が多いとどうか、医療現場などで薬品名を間違うと…。大変なことだ。「事務的ミスがあったのは好ましくない」。そう受け止めていた石破茂首相はどうだろう
政治資金規正法の違反容疑で自ら率いた自民党・旧石破派が告発された。パーティー券収入を80万円少なく記載したとされる。「ミスが起きぬようにしたい」。首相は強調したが、政治家のいつもの言い訳ではないか
▲決まり文句は7カ月ほど前の政治倫理審査会でも聞かれた。報告書への不記載について、岸田文雄前首相は「帳簿作成上のミス」。旧安倍派4人は「承知していない」などの言葉を連発した。これで説明責任を果たしたと胸を張ってもらっては困る
▲裏金議員の一部は非公認―。石破首相が衆院選の対応を決めた。そのほかの裏金議員は比例代表への重複立候補こそ認めないものの、公認するというから驚く。これでは報告書に不記載があるのに政倫審に出ていない議員の大半が公認されることに
▲これで選挙に勝てる。「国民の納得と共感」を重視し、勘定に入れた首相の判断のようだ。計算にミスはないだろうか。

裏金議員一部非公認 「納得と共感」には程遠い(2024年10月8日『琉球新報』-「社説」)
 
 石破茂首相が、自民党派閥裏金事件で処分を受けた旧安倍派幹部ら6人を非公認とすることを表明した。そのほか、政治資金収支報告書に不記載があった裏金議員を原則公認した上で比例代表への重複立候補は認めないとした。対象は40人程度の見通しだ。
 そもそも、裏金づくりは誰がいつ始めたのか、何に使ったのか、という基本的な事実が未解明のままだ。そして、裏金分の納税などをしないまま、自民党は議員らを4月に処分したが、大甘だと批判されてきた。一部非公認は厳しい世論を受けての対応というが、首相が重視する国民の「納得と共感」には程遠い内容と言わざるを得ない。
 首相は8月24日の自民党総裁選の出馬表明では裏金関係議員に関し「公認するのにふさわしいかどうか、徹底的に議論すべきだ」と述べた。しかし、翌日には「新体制で決めることだ」とトーンダウンし、新総裁選出後の記者会見では「党選対本部で議論して判断する」と述べていた。
 表明された方針では、裏金議員が選挙区で有権者の支持を得て勝ち上がれば「みそぎ」となる。裏金事件で大量処分を受けていた旧安倍派からは、決定に怨嗟(えんさ)の声が上がり、選挙後に「倒閣運動」を起こすと宣言する者もいるという。反省していない証しであろう。7日の衆議院の代表質問で首相はこの対応について「厳しい姿勢で臨み、ルールを守る自民党を確立する」と述べたが、国民はそう受け取るだろうか。
 内閣発足直後の共同通信世論調査で、内閣支持率は最近の歴代内閣の発足時で最も低い50.7%だった。裏金議員を公認することには75.6%が「理解できない」とした。石破首相就任で「政治とカネ」の問題が「解決に向かう」とした人は22.8%にとどまった。自公政権が成立させた改正政治資金規正法ザル法のままで、自民党の体質が変わっていないと国民が知っているからだ。
 石破首相は総裁選で「新事実が判明した場合は再調査はあり得る」と述べていた。麻生派に所属していた元衆院議員の関係者が裏金の存在を認める証言をしていたという報道がなされていた。しかし、首相就任後の会見で再調査を否定した。
 同世論調査では、衆院選前に国会の予算委員会を開催すべきだとの回答も72.7%に達した。全閣僚が出席し、一問一答で答弁する予算委員会でなければ、初入閣が13人を数える閣僚の資質や新政権の政策を見極めることはできないと、国民は考えているのである。新政権は、世論が求めることと全て正反対の方向に突き進んでいる。
 早期解散は、野党側の準備が整わないうちに選挙を仕掛け、自民党議席減を小さく抑えようという賭けである。「政治とカネ」の問題をうやむやに終わらせる総選挙にしてはならない。

裏金議員の公認 納得も共感も得られぬ(2024年10月8日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 石破茂首相の所信表明演説に対する各党代表質問が始まった。
 前言を翻し、早期解散を決めた一方、所信表明ではアジア版NATO創設や日米地位協定の改定に触れないなど、この間の石破首相の発言は後退している。
 これに対し野党は「言行不一致」「自民党を変える前にご自身が変わってしまった」と追及した。
 とりわけ自民党派閥裏金事件の対応はぶれている。
 石破首相は代表質問の前日、政治資金収支報告書に不記載があった裏金議員を衆院選で公認するかどうかの考え方を発表した。
 4月の党処分を基準に下村博文氏ら旧安倍派幹部や、国会の政治倫理審査会に出席しなかった萩生田光一氏ら少なくとも6人を非公認とする方針を示した。
 その他の40人程度は地元の理解を条件に判断し、公認しても比例代表への重複立候補を認めない。
 総裁選に立候補した際の「公認にふさわしいか、徹底的に議論すべきだ」という厳しい姿勢から、直後に「新体制が決めること」と軌道修正した。総裁就任後には、原則公認する案を検討してきた。
 各社の世論調査内閣支持率が50%前後と発足当初としては低く、冷めた目を感じ取ったのではないか。
 衆院選を控え、世論を意識するのは無理もない。説明責任を果たしていない議員を公認すれば、党の姿勢を問われるからだ。
 だが、発言が二転三転するようでは、政治改革への意欲どころか、首相としての資質にも疑問符が付く。
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 石破首相は裏金事件の再調査についても、検察の捜査や弁護士の聞き取りなど「事実関係の把握、解明を進めてきた」と強調し、否定的な見解を示した。
 自民党の処分は、不記載額500万円以上の議員が中心だ。それ未満の不記載ではほとんどが処分の対象になっていない。
 不記載だけでも違法行為であり、さらに「脱税」との指摘もある。金額の過多で公認、非公認を決めるのでは、納得も共感も得られるはずがない。
 裏金事件では、誰がいつ始め、なぜ必要だったのかなど経緯も明らかになっていないのである。
 国民の政治不信を払拭するには再調査のほか、政策活動費や調査研究広報滞在費の見直し、企業献金の完全禁止など、「政治とカネ」の課題に抜本的に取り組む姿勢が求められる。
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 選択的夫婦別姓、マイナ保険証と現行の健康保険証との併用、金融所得課税の強化でも石破首相は慎重な発言に終始した。
 解決が難しいからこそ断固たる決意を示すべきではないか。そこが見えてこない。
 非公認の方針を受け、党内では旧安倍派などから反発の声が上がる。だからといって党内融和を優先すれば、国民の不信はますます高まる。
 8日の参院代表質問、9日の党首討論と続く。
 衆院選を前に、石破首相は国民の判断材料となる説明を尽くすべきである。