被害者の多くは高齢で、一刻の猶予もない。国は、全ての被害者が迅速に補償されるよう、全力で取り組まなければならない。
旧優生保護法下の強制不妊手術を巡る補償法がきょう、国会で成立する。補償法の前文には「国会および政府は、憲法に違反する立法行為と執行の責任を認め、心から深く謝罪する」との文言を盛り込み、国の責任が明記された。
旧法は1948年に議員立法で制定され、手術の規定は96年まで続いた。被害者は約2万5千人にも上る。訴訟の原告以外の被害者にようやく救済の道が開かれることになった意義は大きい。
国は、手術を受けた本人に1500万円、配偶者に500万円の補償金を支払う。本人や配偶者が死亡した場合、子や孫、きょうだいら遺族が受け取ることができる。旧法に基づく人工妊娠中絶手術を強いられた人には、一時金として200万円を支給する。
補償法の請求期限は法施行から5年で、被害者側が請求する。被害はこども家庭庁に設ける審査会で認定する。訴訟の原告側と政府が締結した基本合意書では、周知を徹底するため相談窓口の整備などが盛り込まれた。
「家族などに知られたくない」などと自ら名乗り出ない人、自身が不妊手術を受けていると知らない人もいるとされる。被害者のプライバシー保護に細心の注意を払い、県、市町村と連携して対象者に通知するなど、支給漏れが起きない仕組みを構築してほしい。
旧法を巡っては、2019年に被害者本人に一律320万円を支払う一時金支給法が施行された。しかし、支給が認められた人は約1100人にとどまり、請求期限は今年4月に5年延長された。
補償についても早急な認定作業は当然ながら、全ての被害者を補償するためには、5年とした請求期限についても状況に応じ、柔軟に対応すべきだろう。
基本合意書には、原因究明など第三者機関による検証、定期的な協議の場の設置などを柱とした恒久対策が盛り込まれている。
「戦後最大の人権侵害」とされる。どうして障害などを理由に不妊手術を強いるような法律ができたのか。なぜ国などは過ちを認めず、被害者の救済までに時間を要してしまったのか。政府と国会は厳しく検証し、偏見や差別の根絶につなげなければならない。
旧法は1948年に議員立法で成立し、障害のある人やハンセン病の元患者たちから子を授かる権利を長く奪ってきた。採決に先立ち、衆院は「深刻に責任を認めるとともに心から深く謝罪する」と決議した。国会の過ちを自ら認めた意味は大きいが、遅過ぎたと言わざるを得ない。
国が主導した差別と偏見は根深く、いまだ被害を申し出ることができない人もいる。自治体や障害者施設などと協力して被害を掘り起こし、全員に補償が行き渡るよう努めねばならない。
法案の前文にも国会と政府の責任や謝罪を盛り込んだ。補償金は手術を強いられた本人に1500万円、配偶者に500万円を支払う。法案は議員立法で、旧法を違憲と断じて国に賠償を命じた7月の最高裁大法廷判決を受け、超党派の議員連盟がまとめた。
本人や配偶者が死亡した場合、遺族が受け取れる。人工妊娠中絶手術を強いられた人にも200万円の一時金を支給するとし、司法判断よりも踏み込んだ。
ただ、これで清算が済むはずはない。非人道的な旧法と施策がなぜ生まれ、どうして是正できなかったのか。曖昧な総括では形を変えて繰り返される恐れがある。政府は先月末、再発防止に向け第三者による検証に取り組むことで訴訟の原告と和解合意した。客観的な調査を通じ、非道な行為を続けた原因や背景の究明に努めなければならない。
さらに重要なのは、被害者に補償金や一時金を行き渡らせる方策である。支給は被害者側の申請で、法施行から5年を請求期限としている。
5年前に施行された一時金支給法は、反省とおわびの主語を「われわれ」と濁した上に、本人だけに320万円を支給する制度だった。
被害者のプライバシー保護を理由に個別連絡を控えてきたのが大きな要因だ。支給件数は都道府県によって4~128件とばらついていた。
補償に当たり、国は個別連絡するかどうかの判断を自治体に委ねるという。自治体の姿勢が問われるのは当然として、責任の重さを鑑みれば国が主体的に判断して動くべきだ。障害者施設や医療機関、弁護士らと緊密に連携し、相談やサポートの態勢づくりを急いでもらいたい。
補償には困難が伴うが、国が引き起こした人権侵害である。被害者の高齢化は進む。社会から偏見や差別を拭い去る意味でも、早期に全面救済を実現しなければならない。
旧優生保護法下の強制不妊手術を巡る訴訟で、手術を受けた本人に国が1500万円の慰謝料を支払うことを柱とする和解に、原告と政府が合意した。各地で係争中の訴訟は2018年の初提訴から6年7カ月を経て決着する。
納得される救済の道筋がやっとついた形である。だが、2万5千人とされる被害者への補償や偏見、差別のない「共生社会」の実現へ、国のさらなる取り組みは必要だ。被害者は高齢化しており、一人でも多く救済するため、まずは補償法成立が急がれる。
旧法は1948年に制定され、障害や精神疾患を理由に本人が同意せずとも不妊手術や中絶を可能にした。96年、差別に当たる条文を削除し母体保護法に改称した。最高裁は7月、旧法が個人の尊厳や法の下の平等を定めた憲法に反するとの判決を出した。
補償法案では、不妊手術を受けた本人に慰謝料と同じ1500万円、配偶者に500万円の補償金を支払う。旧法に基づく人工妊娠中絶手術を強いられた人には200万円の一時金を支給する。
中絶は少なくとも5万9千件と、不妊手術の倍を超す。宿った命を理不尽に奪われた被害者の悲しみはやはり想像に難くない。額や名目はともかく、救済は当然だろう。
補償金などは被害者が申請する。弁護士会がサポートする方向だが、障害の特性などから手続きが困難な人も多いとみられる。行政や医療機関、障害者施設による相談支援窓口の整備など実効性のある仕組みが必要である。
手術の事実を周りに知られたくなかったり、偏見を恐れたりする人も少なくなかろう。不妊手術を受けたうち生存者は1万2千人と推計されるものの、訴訟の原告は40人に満たず、2019年にできた一時金支給法の請求者も千人余りだった。
一時金は320万円にとどまった上、被害者のプライバシー保護を理由に、受給が可能なことを個別に連絡していない。今後の補償も個別に連絡するかどうかは自治体の判断に委ねられる。対象者にどう情報を届けるかという課題は残ったままだ。
こうした事情から、訴訟の原告と政府は再発防止のための第三者検証や、偏見、差別の根絶に向けた協議の場の設置を柱とした恒久対策に関する基本合意を締結した。全ての被害者の補償が実現するよう相談窓口の整備などによる周知徹底も盛り込んだ。
国会が昨年まとめた調査報告によると、不妊手術の実施件数のうち、岡山県は1017件で、北海道、宮城県、大阪府に次いで4番目に多い。補償の実務は自治体が大きな役割を果たすことになろう。他の都道府県に後れを取らない支援が求められる。
旧優生保護法を巡る国家賠償訴訟で和解などの合意書に調印後、全国原告団共同代表の北三郎さん(活動名、左)に声をかける加藤鮎子こども政策担当相(右)=東京・霞が関で2024年9月13日午後5時11分、藤井達也撮影
国が引き起こした重大な人権侵害である。被害救済から取り残される人を出してはならない。
前文には、国会と政府が「深刻に責任を認め、心から深く謝罪する」と記された。
不妊手術を受けた人に1500万円、配偶者に500万円の補償金を支払う。亡くなっていれば遺族が受け取ることができる。
特筆されるのは、人工妊娠中絶を受けた人にも、一律200万円の一時金を支給する点だ。これまで中絶のみの被害者に関する司法判断は出ていないが、被害者側が救済を強く要望していた。
重要なのは、補償金や一時金が行き渡る環境を整えることだ。
不妊手術や中絶を受けたことを証明する資料がないケースもある。支給の審査に当たっては、被害者の証言などを踏まえて柔軟に対応すべきだ。
不妊手術の被害者には、320万円の一時金を支払う法律が2019年に制定された。手術は約2万5000件実施されたが、支給が決まったのは今年8月末時点で1129件にとどまる。
周囲の偏見を恐れ、申請をためらう人もいると指摘される。相談しやすい窓口の設置や、弁護士がサポートする体制が求められる。
申請期限も設けるべきではない。最高裁判決は賠償請求に期限を設けなかった。
不妊手術を受けたことを本人が知らない場合もある。記録を持っている行政が、プライバシーに配慮しつつ、個別に通知する仕組みの構築が欠かせない。
実務全般で都道府県が大きな役割を果たす。対応に差が生じないようにする方策が求められる。
旧優生保護法の制定と運用は、明らかな差別政策だった。国は被害実態を調査して過ちの歴史を検証し、社会に残る差別や偏見の根絶に取り組まなければならない。
「戦後最大の人権侵害」の救済にようやく道筋がついた。全面解決に向けた歩みを止めてはならない。
合意書は、手術を受けた本人に国が1500万円の慰謝料を支払うことを柱とする。夫婦で提訴している場合は本人に1300万円、配偶者に200万円を支払うと規定した。
しかし、問題はこれで終わりではない。全被害者への補償にはまだ至っていないからだ。
旧法は優生思想に基づき、1948年に議員立法により全会一致で成立した。半世紀近く維持され、精神疾患や障害を理由に約2万5千人が手術を強いられた。このうち約1万2千人が存命とされるが、裁判に踏み切ったのは40人に満たない。
提訴を機に社会問題化したことで、被害者へ一律の一時金を支給する法律が2019年に成立した。ただ「見舞金」との位置付けで、配偶者は対象外。金額も320万円にとどまり、十分な補償を求める原告らとの隔たりは大きかった。
手術を受けた本人に対して1500万円、配偶者に500万円の補償金を支払う。裁判で慰謝料を得ている人は差額分を受け取れる。人工妊娠中絶を受けた人についても、一時金として200万円を支給する。前文には国会と政府による謝罪を明記し、国の責任を明確にした。原告側弁護団の主張がほぼ全て通った内容であり、評価したい。
補償制度が整備されても、課題は残る。一時金支給法は被害者のプライバシー保護を理由に、受給できることを個別に通知してこなかった。今回も個別に連絡するかどうかは自治体の判断に委ねられる。
支給は被害者側が申請する。全面救済には補償内容を迅速に周知し、いかに申請につなげられるかが鍵となる。相談支援体制の強化など実効性のある仕組みが求められる。
差別や偏見のない共生社会の実現も忘れてはならない。
このような人権侵害を二度と繰り返さないよう、国は原因究明を徹底する必要がある。同時に私たちも差別や偏見を許さないとの決意を固くしたい。
遅きに失したとはいえ、短期間で合意にこぎ着けた国会の努力は評価したい。
手術を受けた本人に1500万円、配偶者に500万円の補償額は、訴訟での本人に対する賠償認容額の上限と同水準で、配偶者は最大認容額200万円を上回る。旧法に基づく人工妊娠中絶手術の被害者にも200万円を支給する。
2019年施行の一時金支給法により本人に支払われる320万円は併給される。額が十分かどうかは異論もあろうが、司法判断を踏まえれば妥当と言える。
法案の前文には、憲法違反の旧法の立法と執行を「深く謝罪する」と明記し、同旨の国会決議案もまとめた。立法府と行政府の違憲行為を厳しく指摘した最高裁判決を真摯(しんし)に受け止めた国会の対応は、旧法推進の一翼を担った全国の自治体が今後、被害救済の支援に取り組む姿勢をも規律するはずだ。
24日、一連の訴訟の皮切りとなった宮城県の60代の原告女性と国が仙台高裁で和解した。女性による18年1月の全国初の提訴が、今回の全面補償へと続く道を開いた。原告・弁護団の長年の労苦に、深く敬意を表したい。
議連は来月1日に召集予定の臨時国会に法案を提出し、早期成立を目指す考えだ。ただ、今月27日開票の自民党総裁選を経て新首相が決まり、直ちに衆院解散・総選挙に踏み切った場合、少なくとも衆院選後の新内閣発足や特別国会まで動きが止まる。
そうした事態は、早期救済を図ろうと尽力した関係者にとって不本意に違いない。政局優先で被害救済を後回しすることは避けるべきだ。
補償の枠組みができたことで、旧法による問題が全て消えるわけではない。解決への前提条件が整ったに過ぎず、これから真価が問われる。
被害の認定は従来通り「明らかに不合理ではなく、一応確からしいこと」が基準となる。新たに対象となる中絶の多くは、手術痕や公的記録が残っていない。証明するには弁護士ら周囲の手厚いサポートが必要になる。
素案には被害が生じた背景や原因の調査と検証の実施が盛り込まれた。さらに弁護団は、国との定期協議を通じて差別防止などの恒久対策を講じることも求めている。
ハンセン病、薬害肝炎など過去の大型国賠訴訟でも和解後、恒久対策に向けた定期協議が続いているが、時間の経過や職員の代替わりなどにより、国側の関心や熱意の薄れも指摘される。問題を風化させない手だてを当事者のみならず、私たちも考えたい。
合意書には、国が被害者に多大な苦痛と苦難を与えたとして「真摯(しんし)に反省し、心より謝罪を申し上げる」と明記。慰謝料を不妊手術を受けた本人に1500万円、夫婦で提訴している場合は本人に1300万円、配偶者に200万円支払うとした。2018年1月に仙台地裁に最初の提訴があってから、6年7カ月余り。一連の訴訟は、ようやく決着することになった。
不妊手術は1948年に施行された旧優生保護法の下、精神疾患や知的障害がある人らを対象に実施された。「不良な子孫の出生を防止する」との優生思想に基づくものだった。96年に法改正されるまでの間に手術を受けた人は約2万5千人で、うち6割は本人の同意がないまま行われたとされる。
この問題は「戦後最大の人権侵害」といわれる。今回の和解合意書の調印は、被害者救済に向けた大きな一歩といえよう。
被害者への補償については、2019年に一時金支給法が施行されている。ただ、支給対象は手術を受けた本人に限定され、額は320万円と見舞金的な位置付け。十分な補償を求める原告らとの隔たりは大きかった。最高裁大法廷が今年7月、旧優生保護法は違憲だとして国に賠償を命じる統一判断を示したことが、和解を進める契機となった。
最高裁の統一判断を受け、国会では超党派の議員連盟のプロジェクトチームが発足。被害者補償に向け、新たな法案を作るための作業が進められている。被害者の高齢化が進んでいるだけに、制度を早期に構築することが望まれる。
問題は、どうやって全ての被害者に補償を行き渡らせるかだ。訴訟を起こしたのは数十人。一時金も千人ほどにしか支給されていない。
被害者の多くが不妊目的と知らずに手術を受けさせられたり、偏見を恐れて名乗り出られなかったりしているとみられる。いかに被害を掘り起こすかが鍵になる。国はプライバシーの問題も含めて被害者側とよく話し合い、対策を打つべきだ。
妊娠後に堕胎をさせられた中絶被害にも目を向けなければならない。不妊手術と違い手術痕が残らず記録に乏しいなどの課題が指摘されている中、日弁連の電話相談には、当事者や家族から問い合わせがあったという。こうした人たちへの補償も急務だ。
合意書の調印式で、原告団の共同代表が「声を上げられずにいる被害者がたくさんいる」と全面救済を訴えた。政府はこの言葉を重く受け止め、被害者救済への取り組みを加速させるべきだ。責任ある対応が求められる。
初の提訴から6年7カ月にわたる法廷闘争がやっと決着する見通しとなった。旧優生保護法が施行されて76年、差別的な条文の削除からも28年がたつ。なぜ被害者の苦しみが放置され続けたのか、国を挙げた検証が不可欠だ。
障害を理由に不妊手術を強制されたとして被害者が国に損害賠償を求めた訴訟で、国は3高裁と神戸など6地裁で係争中の19人を対象に、和解に向けた合意書を締結した。最高裁が7月に訴訟5件について旧法を違憲とし国の賠償責任を認める統一判断を示したことを受け、岸田文雄首相は全面的な和解を目指す方針を示していた。
合意書は、旧法を執行した政府の責任について「極めて重大。あってはならない人権侵害を行い、被害者の方々の心身に長年にわたり多大な苦痛と苦難を与えてきた」とし、謝罪を明記した。手術を受けた原告1人につき1500万円と弁護士費用を支払う救済策が柱となる。
訴訟に参加していない被害者の救済も図る。超党派の国会議員連盟は和解の内容を踏まえ、幅広い救済を図る新法の議論を始めた。これまで対象から外れていた、障害を理由に人工妊娠中絶手術を強いられた人への補償も検討する。
ただ全ての被害者を救済するには大きな壁がある。これまで声を上げられなかった潜在的な被害者の掘り起こしだ。2019年には議員立法で一律320万円の一時金を支給する法律が成立したが、約2万5千人とされる被害者のうち支給は24年7月末時点で1129人にとどまる。
申請した人のみを支給対象としたため、だまされて手術を受けさせられ被害に気付かない人や、根強い差別を背景に家族にすら打ち明けられない人らが漏れたとみられる。こうした実情にも目を向けなければ、真の救済には程遠い。政府は自治体と連携して被害の実態把握を急ぎ、プライバシーに配慮しながら救済を行き渡らせなければならない。
被害者が声を上げにくい環境をつくったのは、優生施策を推し進めた政府とそれを是認してきた社会の責任だ。兵庫県でも「不幸な子どもの生まれない県民運動」が進められ、当時の神戸新聞の社説も運動に賛同したことを改めて省みたい。
「戦後最大の人権侵害」を真に終息させるためには、障害のある人の尊厳が尊重される社会を実現する必要がある。官民が協力して、偏見や差別を根絶する取り組みを広げることが重要だ。
「不良な子孫の出生防止」を目的とした旧法は、戦後間もなくから半世紀も続いた。子を授かる道を絶たれた無念は察するに余りある。根強い差別の中でいまだ声を上げられずにいる被害者も含め、全面救済を急がねばならない。
同時に、国はもとより、誰が何を間違え、どうして是正できなかったのかを検証する必要がある。形を変えて同じ非道が繰り返されないよう、後世に伝える取り組みも重要だ。真相にふたをすることは許されない。
80年代には省内で「人道的に問題」との声が上がったにもかかわらず、制度廃止に時間がかかった。廃止後もすぐに救済へ動かなかった。なぜなのか。都道府県や医師、地域はどう関わったのか。国は第三者機関による調査を通じて、明らかにすべきである。
ハンセン病問題の対応が参考になる。2001年に熊本地裁が隔離政策を違憲とし、当時の小泉純一郎首相が控訴を断念。外部に設けた検証会議には元患者も名を連ねた。聞き取りを重視し、医療や司法、報道の責任にも触れた上で再発防止策を提言した。
命を選別する「優生思想」を疑わず、社会にはびこらせた国会の責任も重大だ。
旧法は1948年に議員立法で成立。衆参両院とも全会一致だった。96年の改正まで人権侵害を見過ごした。ようやく5年前に議員立法で被害者本人に一時金320万円を支給する法律が成立したものの、見舞金のような位置付けで、反省とおわびの主語を「われわれ」と曖昧にした。
衆参両院は秋の臨時国会で被害者への謝罪決議を採択するという。当然だ。超党派の議員連盟が原告以外の被害者救済に向けた補償制度を創設する法案を準備している。本人に和解合意と同額の1500万円、配偶者に500万円とし、相続人も対象にする。
旧法に規定があった人工妊娠中絶も補償対象に含める方針だ。国と国会の責任や旧法の違憲性を明記し、漏れのない救済と優生思想根絶への出発点としてもらいたい。
不妊手術を強いられた男女は約2万5千人に上る。このうち約1万2千人は存命と推測されるが、訴訟を起こしたのは39人、一時金支給は約1130人にとどまる。
国は各地の障害者施設に診療記録などの確認を求め、被害掘り起こしと本人への通知に全力を挙げるべきだ。個別に面会するなど、最善を尽くさなければならない。
旧優生保護法下での強制不妊手術を巡る訴訟で、原告側と政府が和解に向けた合意書を交わした。国が謝罪し、手術を受けた本人に慰謝料1500万円を支払う。旧法を違憲と断じ、国に賠償を命じた最高裁大法廷判決に沿った内容だ。熊本など各地で起こされた一連の裁判は決着する。
旧法の手術規定は1948年から96年まで存続した。手術を受けた約2万5千人のうち、約1万2千人が存命とみられる。そのほとんどが提訴していない。政府と国会は全ての被害者を救済する責任を負っている。補償の枠組みづくりを急ぐとともに、対象者の掘り起こしに全力を挙げなければならない。
合意書には「優生思想と障害者に対する偏見差別を根絶し、個人の尊厳が尊重される社会の実現へ最大限努力する」と記された。旧法が差別を助長し、社会に根付かせたのは明らかだ。国の謝罪、補償だけで「戦後最大の人権侵害」が解決するわけではない。差別のない社会を実現するには、国民それぞれの意識も問われている。
超党派の国会議員連盟は、訴訟外の人のために補償制度を創設する法案を秋の臨時国会に提出する方針。和解合意と同額の補償を検討しており、被害者のほか配偶者や相続人も対象に含める。被害者の多くは高齢だ。衆院解散も取り沙汰されるが、一刻も早く補償法を成立させるべきだ。
旧法下で堕胎を強いられた中絶被害の救済も必要だ。議連は200万円の補償を検討しているが、生まれるはずの命を奪われた苦しみ、悲しみに見合うのか議論を尽くしてもらいたい。
2019年施行の一時金支給法は一律320万円を支給したものの、受給したのは約1100人にとどまる。国の責任を明記しない「見舞金」という位置付けに加え、不妊目的と知らずに手術を強いられたり、偏見を恐れて名乗り出られなかったりした人が多いためだ。
国の周知不足もあった。プライバシー侵害の恐れがあるとして、手術記録が残っている人に個別の通知をしなかった。知的障害などで制度を理解しづらい人も少なくない。新たな補償制度で同じ轍[てつ]を踏んではならない。国は障害者施設などに診療記録の確認を求め、被害者への周知とサポートに努めてほしい。
政府や国会の対応を巡る検証も欠かせない。旧法は議員立法により全会一致で成立した。強制不妊は本人の意に反し、身体の拘束や欺罔[ぎもう]を伴った。なぜ、優生思想が合法化され、被害者救済がここまで遅れたのか。偏見や差別は今も残っていないか。過去の反省を教訓として、不断の啓発・教育につなげなくてはならない。
熊本訴訟の原告で、2月に79歳で亡くなった渡辺数美さんは「人の道に外れたことを国がするのはおかしい。健常者と障害者を分け隔てる気持ちが分からない」と語っていた。二度と「人道」を外れない共生社会を目指したい。
差別や偏見のない共生社会の実現に向け、さらに強く踏み出さなければならない。
旧優生保護法下での強制不妊手術を巡る訴訟で、原告側と政府が和解の合意書に調印した。内容は、手術を受けた本人に国が1500万円の慰謝料を払うことが柱で、国が被害者に多大な苦痛と苦難を与えたとして「心より謝罪申し上げる」と明記した。
各地で係争中の訴訟は順次和解手続きに入る。強制不妊を巡る訴訟は2018年の初提訴から約6年7カ月を経て決着を迎えることになる。
新たな補償制度を検討している超党派議員連盟のプロジェクトチームは、原告以外の被害者に対し、手術を受けた本人へ同額の1500万円を補償するなどとした案をまとめた。秋の臨時国会への法案提出を目指している。
一連の訴訟の原告は40人に満たず、差別や偏見を恐れ声を上げられない被害者も多い。2019年には一時金支給法が成立したが、請求者は千人余にとどまっている。
補償に向けた新法も遅らせてはならない。10月1日にも召集される臨時国会では、自民党総裁選で選ばれた新総裁が新首相に指名される見通しだ。そのまま衆院解散・総選挙に突入すれば、早期の新法成立も危ぶまれる。
また、旧法の下で人工中絶を強いられた人への救済も課題だ。一時金支給法の対象になっていない。超党派議連では、一時金200万円を支払うとして、具体的な認定基準を詰めるという。被害者が納得するような救済策を講じてほしい。
合意書では「国は優生思想と障害者に対する偏見差別を根絶し、全ての個人が疾病や障害の有無により分け隔てられることなく尊厳が尊重される社会を実現すべく、最大限努力する」と記された。
ハンセン病元患者らも国策によって差別や偏見に苦しんだ。旧優生保護法を巡っては昨年6月、調査報告書がまとまったが、国や国会などの責任の所在は明確になっていない。誤った法律は社会全体の差別意識を助長した。歴史を直視し、差別と偏見を生み出さないよう改めて国民全体で議論を深めていきたい。
これに伴い各地で係争中の訴訟は順次、和解手続きに入る。
強制不妊問題は、その違法性を問う最初の提訴から6年7カ月を経て一つの節目を迎えた。
旧法は「不良な子孫の出生を防止する」との非人道的な目的を掲げて半世紀近く続いた。
そのもとで障害などを理由に子を授かる道を断たれた人たちの悔しさは察するに余りある。
国は真摯(しんし)に謝罪し、未提訴の被害者らを含む全面救済を急ぐべきだ。
しかし、国がプライバシーを理由に個別に通知していないこともあって請求は少なく、受給が認められたのはこれまでに1100件ほどにすぎない。
今回の合意と同じ補償をすべての被害者に確実に行き渡らせる新制度の創設が欠かせない。
問題は、中絶の被害者に対して議連が検討する金額が200万円と格段に低いことだ。
生まれるはずの命を無理に奪われた痛苦は、不妊手術を強いられた人たちと変わるまい。
補償の対象者をどのような基準で認定するかも焦点になる。
知的障害を理由に妻が中絶と不妊の手術を強制されたと訴える道央の夫婦は、手術記録や手術痕などの客観的証拠がないとして敗訴が確定している。
しかし弁護団は、国が長く被害を放置しなければ証拠が残っていた可能性があるとする。証拠が失われた責めを被害者に負わせるのは理不尽だ。
「疑わしきは救済」の仕組みとすべきだ。救済対象を狭めることがあってはならない。
忘れてならないのは、金銭の支払いだけでこの問題は決して解決しないということだ。
旧法が優生思想を助長してきた面は否めない。今も根強い障害者らへの差別や偏見の根絶に不断に取り組むことも国の重要な責務である。
合意書は、1500万円の慰謝料を支払うことなどが柱だ。最初の提訴から6年7カ月で一連の訴訟は終結に向かうが、真のゴールはまだ先にある。訴訟を起こしていない人を含めた救済と、差別や偏見のない社会に変えていく一里塚としなければならない。
旧優生保護法は1948年に議員立法で制定された。同意のない手術を認め、母体保護法に改正された96年までに約2万5千人が手術された。極めて重大な被害にもかかわらず問題は長年放置され、訴訟提起後の2019年に一時金320万円を支給する法律ができたにとどまる。
今後やるべきことは多い。まずは、原告以外にも補償する制度の創設だ。超党派議員連盟のプロジェクトチーム(PT)が本人に1500万円、配偶者に500万円などの案を示し、検討が続いている。秋の臨時国会への法案提出を目指すという。被害者はみな高齢化している。柔軟に救済できる方法を工夫してほしい。
差別や偏見のない社会づくりも焦眉の課題だ。旧法の存在自体が長年、その温床となってきた。国は合意書でこれらの根絶に取り組み、「尊厳が尊重される社会を実現すべく、最大限努力する」とした。その責任は重い。
合意書には、恒久対策や定期的な協議の場の設置などについて基本合意書を締結することも明記された。強制不妊は、決して過去の問題ではない。私たち一人ひとりも考えなければならない。
一方、超党派の議員連盟は訴訟を起こしていない人のため新たな補償制度を創設する法案を秋の臨時国会に提出したい考えだ。被害者本人にのみ一律320万円の一時金を支給する今の制度と異なり本人に加え配偶者や相続人も対象に含める方針。和解合意と同額の補償を検討している。
「戦後最大の人権侵害」に対する補償の枠組みは整いつつある。しかし全面救済への道は険しいと言わなければならない。旧法は1948年に制定され、96年まで存続。約2万5千人が不妊手術を受けた。うち約1万2千人は存命と推測されるが、訴訟を起こしたのは39人、一時金支給は1110人。合わせても、その10分の1に満たない。
大半の人が声を上げることができずにいる。国はまず、各地の障害者施設に診療記録などの確認を求め、被害掘り起こしに全力を挙げる必要がある。補償する枠組みができても本人に渡らなければ意味がない。補償の要件についても、被害者の負担とならないよう十二分に配慮すべきだ。
一時金支給法は、宮城県の60代女性が初めて提訴した翌年の2019年に成立。旧法の違憲性や国の賠償責任を巡る司法判断はまだ示されていなかった。国賠訴訟の継続中に救済法が整備されるのは異例だが、見舞金のような位置付けになり、低い金額にとどまった。
また国は、手術を誰にも知られたくない人もいるとして、プライバシー侵害の恐れを理由に手術記録が残っている人への個別通知をしないと決めた。知的障害などで制度を理解できない人がいるため一時金請求を促すのに必要と被害者側は訴えたが、聞き入れられなかった。結果、請求も支給認定も伸び悩んだ。
国が被害掘り起こしよりも早期決着を優先したとしか映らない。被害者と個別に面会するなどして、何ができるかに知恵を絞る必要がある。
超党派議連は今回、旧法に規定があった人工妊娠中絶についても補償の対象に含めることを検討中だ。中絶のみで提訴した例はないが、全面救済には欠かせないだろう。ただし中絶手術は不妊手術とは違い、手術痕が残らず、記録も乏しいという。補償の要件を慎重に詰める必要がある。
政府や国会の対応を巡る検証も尽くさなくてはならない。旧法は「不良な子孫の出生防止」を目的として議員立法により全会一致で成立。当時の厚生省は1953年に「優生手術(不妊手術)は本人の意見に反しても行うことができる」「身体の拘束や欺罔(ぎもう)などを用いることも許される」と各地の自治体に通知。54年と57年には、手術の件数を増やすよう求めた。
80年代後半に厚生省内で「人道的に問題」「人権侵害も甚だしい」と批判があったにもかかわらず、なぜ強制不妊手術の廃止に時間がかかったのか。なぜ廃止の時点で、すぐに救済に動かなかったのか-などを明らかにし、教訓として、しっかり刻む必要があろう。
強制不妊手術を巡る一連の訴訟について、原告側と政府が和解のための合意書を交わした。国が謝罪し、強制不妊手術の被害者本人に1500万円を支払う。障がい者への偏見差別の根絶に向け、検証や教育・啓発にも取り組む。
議員立法で一時金支給法が成立したのは2019年。被害者に一律320万円の支給を認めた。
ただ、国の責任は明記されず「見舞金」の位置付けに。認定件数は7月末時点で1126人にとどまる。
原告となっていない被害者にも1500万円を補償するほか、原告にはいない中絶の被害者も対象とする案が提示されている。
被害者の多くはすでに70~80代だ。訴訟中に亡くなった人もおり、これ以上議論を長引かせてはならない。一刻も早い補償制度の確立が求められる。
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被害の掘り起こしも急務だ。
旧法下で不妊手術を受けたのは約2万5千人。そのうち1万2千人は存命と推測されるが、大半の人が声を上げられずにいる。
「優生思想」を押し進めた国策は、社会の偏見も助長した。「手術を知られたくない」との思いから一時金を申請できない人や、だまされて手術を受けたこと自体を知らない人もいる。
国はまず各地の障がい者施設に診療記録などの確認を求めるべきだ。
知的障がいなどで制度を理解できない人もいるだろう。成年後見人の活用など被害者一人一人に補償を届ける仕組みが必要だ。
政府や国会の対応についての検証も尽くさなければならない。1996年の法改正後も国は謝罪や補償を拒み、国会も見過ごしてきた。
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旧法を巡っては80年代後半、当時の厚生省内で「人道的に問題」との批判もあったという。それなのになぜ廃止に時間がかかったのか。被害者の補償がなぜ遅れたのか。反省に基づく検証が求められる。
「戦後最大の人権侵害」とされる被害にメディアも加担した。
その責任は重い。戦後の民主憲法の下で起きた教訓として刻むべきだ。