中国古代の思想家「荘子」の言葉に…(2024年10月8日『毎日新聞』-「余録」)

ロシア沿海州中国東北部に生息するアムールヒョウ。中国には豹変など豹を使う成語が多い=広島市安佐北区安佐動物公園で2022年4月20日午後3時32分、岩本一希撮影
裏金問題で非公認となる見通しの萩生田光一元政調会長=東京都千代田区の自民党本部で2024年2月1日午後0時6分、竹内幹撮影拡大
裏金問題で非公認となる見通しの萩生田光一政調会長=東京都千代田区自民党本部で2024年2月1日午後0時6分、竹内幹撮影

 中国古代の思想家「荘子」の言葉に「虎(こ)豹(ひょう)の文(ぶん)は田(かり)を来す」がある。文は文様で田は狩り。立派な毛皮が猟師に狙われるように才能がありすぎると災難を招くという例えだ

▲「君子豹変す」は易経に由来する。毛が抜け替わり斑紋が美しくなるように過ちを改め、面目を一新する意味だ。「大人(たいじん)虎変す」ともいう。トラもヒョウも中国に生息する。生態がよく知られていたのだろう

奈良時代長屋王の邸宅跡からは「豹皮」と書かれた木簡が出土している。日本にも毛皮がもたらされて珍重されたが、生きた姿を見る機会はまずなかった。ヒョウはメスのトラと思われていた

▲「豹変」が本来の意味から離れたのも遠い存在のせいか。今では簡単に意見を変える節操のなさを指すことが多い。自民党総裁就任以来、「豹変」ぶりが指摘されてきたのが石破茂首相だ。解散時期に金融政策、今度は裏金議員の公認問題だ

▲当初原則公認と伝えられたが、世論の反発で一部を非公認とし、比例代表と重複を認めない方針に転換した。小紙の世論調査では裏金議員の公認に「納得できない」が70%。世論に歩み寄ったともいえるが、本来の「豹変」には程遠い

▲選挙を前に党利党略が横行するのは今に始まったことではない。「一斑全(いっぱんぜん)豹(ぴょう)」は豹の斑紋の一つから全体を判断する意味の四字熟語。見識の狭さを指す。あすは衆院解散を前に与野党党首討論が開かれる。幅広い視野で各党の主張の理非を見極め、「一斑全豹」に陥らないように心がけたい。