診療代も通院回数も減って「別世界」なのに…長期処方・リフィル処方を「できない」と断る医者たちの説明(2024年10月7日『東京新聞』)

 
<医療の値段・第5部 続・明細書を見よう>④
 「消費者は、医者がサイフの中に手を突っ込んでくるのに寛大すぎませんか」
使用後に回収された薬のシート(本文と関係ありません)

使用後に回収された薬のシート(本文と関係ありません)

 埼玉県の70代の男性からメールが届いた。2011年から膵囊胞(すいのうほう)の検査で、3カ月ごとに地域の国立病院に通院した際、持病の糖尿病の薬も3カ月分処方してもらっていた。

◆前の病院では3カ月処方だったのに…「それはできない」

 4年通ったころ、医師から「膵囊胞は安定しているので検査は年1回でいい。糖尿病の専門病院を紹介する」と言われ、診療所に通うことに。問診で「以前は3カ月処方でした」と話すと、「それはできない」。それでも2カ月処方だったので、6年間通った。
 その後、シルバー人材センターの紹介で、別の診療所の事務の仕事に就いた。医療費の自己負担分の半額を負担してくれるので、通院先もここに変えた。

◆院長は「いいですよ」→経営者の事務長が拒否

 「雇われの院長に『薬を3カ月処方してもらえませんか』と頼んだら『いいですよ』と言ったのに、経営者の親族の事務長らが『保険請求が受け付けられない恐れがあり、1カ月分しか出せない』と拒否した」
 そこで男性は埼玉県国民健康保険団体連合会に問い合わせた。「医師が判断すれば、その薬なら3カ月分出すことに問題はない」とのことだったという。

◆診療代が3分の1に 通院の負担も軽くなった

 今春、診療所を辞めたのを機に、通院先を変えようと近隣の8軒の診療所に長期処方を問い合わせたが、「ほとんどが1カ月処方。1カ所だけ2カ月と答えたところに通うことにした」。
 薬の3カ月処方を希望すると、医師は「3カ月でないと(経済的に)ちょっと苦しいですか」などと言いつつ応諾した。男性の7月の診療代は4800円。自己負担は3割の1440円で、通院は年4回になるから計5760円。通院が毎月なら3倍の計1万7280円になる計算だ。
 「通院回数も診療代も3分の1になり、負担が軽くなった。もう別世界だね」

◆リフィル処方箋を希望したら「他へ行って」

 13年前、脳梗塞につながる可能性がある「一過性脳虚血発作」を患い、血液サラサラの薬を飲んでいる神奈川県の60代の男性。東京都内の病院に3カ月ごとに通院していたが、脳神経内科の閉鎖で、近所のクリニックに3年ほど通った。
健康保険組合連合会のホームページにあるリフィル処方箋の説明

健康保険組合連合会のホームページにあるリフィル処方箋の説明

 薬は6週間分を処方されていたが、仕事帰りの通院が大変だったので、1枚の処方箋を3回まで使えるリフィル処方箋を要望した。
 「うちは出していない。この地域の他の病院も皆やらない。どうしてもほしかったら他へ行って」。医師はそんなふうに断ったという。

◆医療費削減につながるはずなのに

 「地域の病院で、カルテルを結ぶような対応が本当なら問題だ」。そう感じた男性は厚生労働省のホームページで見たメールアドレスにメールを出したが、特に何の反応もなかった。
 今夏、クリニックの夏休みで薬が必要になり、勤務先にほど近い東京都内の別の診療所を受診。2カ月処方だったので、そのまま通院している。「医療保険財政が破綻しそうな状況で、医療費を削減しなくてどうするのかと思う。市民が長期処方やリフィルを希望することが節約につながる」

 リフィル処方箋 リフィル(refill)は「詰め替え」の意味。一定期間内に繰り返し使える処方箋で、医師が「しばらく通院しなくても問題なし」と判断した場合に交付する。最大3回までで、3回のリフィル処方箋なら、2、3回目はそれを薬局に持参すれば薬を購入できる。通院回数を減らすことができ、患者の利便性向上や医療費の節約につながる。

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<連載:医療の値段>
 6月の診療報酬改定に合わせて生活習慣病の診療代の頻回な請求を取り上げた連載第3部に、多数の情報や意見が寄せられた。改定後は「医療費が値上がりした」「薬の長期処方やリフィル処方を断られた」という声が今なお届く。問題をもう一度追った。(杉谷剛が担当します)
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