「年2万円も負担が減った」体験談…持病で通院続ける80代男性、診療報酬の仕組みを学んで行動したら(2024年10月6日『東京新聞』)

 
<医療の値段・第5部 続・明細書を見よう>③
 「おかげさまで医療費が1年で2万円くらい安くなります。大助かりです」
 茨城県内の80代の男性の声は弾んでいた。20年近く前に軽い脳梗塞を患って以来、地域の病院へ約3カ月ごとに1回通い、血液サラサラの薬を99日分処方してもらっている。
 加えて7〜8年前からは、近所の診療所にほぼ毎月1回通い、高血圧の薬を28日(4週間)分処方されていた。それが7月から高血圧の薬も病院で99日分処方してもらうことになり、診療代が大きく減ることになった。
 「診療所は薬を1カ月分しかもらえない雰囲気だったが、この連載を読んで、症状が安定していれば長期処方が可能だと分かった。病院の先生に『高血圧の薬も一緒に出してもらえませんか』と言ったら、ふたつ返事で処方してくれたので、通院先を替えました」
6月に診療所が発行した「診療費請求書兼領収書」(一部画像処理)

6月に診療所が発行した「診療費請求書兼領収書」(一部画像処理)

◆変更前後の診療明細書を比べると

 6月の診療所の診療明細書を見ると、高血圧の「生活習慣病管理料(Ⅰ)」6600円(診療報酬点数660点、1点10円)など計8630円。生活習慣病管理料と合わせて算定できないはずの「特定疾患処方管理加算」560円も含まれていた。男性は2割負担で、1730円を支払った。
 一方、7月の病院の明細書は計1580円。支払いは320円と、診療所の5分の1以下で済んだ。
 それぞれ1年間に置き換えて計算すると、診療所は28日ごとに年13回通うことになるので、自己負担は計2万2490円。一方、病院は99日ごとに年3.7回の通院で済むので、自己負担は計1180円となる。
7月に病院が男性に発行した「請求書兼領収証書」(一部画像処理)

7月に病院が男性に発行した「請求書兼領収証書」(一部画像処理)

◆検査や注射しなくても「検査や注射込みの包括料金」で請求か

 年に2万円以上も安くなる原因は生活習慣病管理料(Ⅰ)と通院回数にある。
 (Ⅰ)は6月の診療報酬改定により、従来の生活習慣病管理料が移行したもので、検査や注射込みの包括料金となっている。男性は診療所に通い始めた時から、この管理料を毎月算定されていた。
 地域のかかりつけ医のための報酬なので、算定できるのは診療所や200床未満の病院に限られる。男性が現在通う病院は200床以上なので算定できない。
 従来の管理料の算定には患者の同意を得て詳しい治療計画をつくり、服薬や運動、栄養など生活習慣の指導や管理をする必要があった。だが、男性は医師の診察を3回に1回しか受けていなかった。
 「3カ月に1回は診てもらった方がいいと思い、普通に診察を受けたが、後は事前に電話して処方箋をもらいに行くだけだった。先生は時々『運動はしないとね』と言うくらい。検査を受けたことはなく、年1回、市の健康診断の結果を先生に見せていた」
 診察は3カ月に1回で、検査もしなかったのに、男性にとっては割高な診療報酬を、長年にわたり毎月請求されていたことになる。
 「処方箋を書くだけで、9000円近くも取るなんて、うまい話があるんだなと、常に思っていたよ」

 無診察治療の禁止 医師法第20条は「医師は、自ら診察しないで治療をし、診断書や処方せんを交付してはならない」と定め、違反すると50万円以下の罰金を科される。やむを得ない事情があれば、患者本人ではなく、看護している家族らから症状を確認し、薬剤を処方することは認められている。

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<連載:医療の値段>
 6月の診療報酬改定に合わせて生活習慣病の診療代の頻回な請求を取り上げた連載第3部に、多数の情報や意見が寄せられた。改定後は「医療費が値上がりした」「薬の長期処方やリフィル処方を断られた」という声が今なお届く。問題をもう一度追った。(杉谷剛が担当します)
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<医療の値段・第5部 続・明細書を見よう>
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<③>「年2万円も負担が減った」体験談…持病で通院続ける80代男性、診療報酬の仕組みを学んで行動したら(この記事)
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<医療の値段 環流する票とカネ>全6回
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