先ごろ終了したNHK連続テレビ小説「虎に翼」で…(2024年10月7日『毎日新聞』-「余録」)


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東京家庭裁判所=1949年撮影
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女性初の裁判所長として新潟家裁所長となった三淵嘉子さん=1972年6月14日
 先ごろ終了したNHK連続テレビ小説「虎に翼」で、75年前に誕生した家庭裁判所は「愛の裁判所」と表現された。主人公のモデルとなった三淵嘉子さんは実際に、法律雑誌でそう呼んでいる。創設メンバーの一人として、子どもや家庭の問題に正面から取り組もうとする思いの表れだろう
▲裁判官人生の後半は、非行に走った少年たちと現場で向き合った。じっくりと話を聞き、自分自身で考えさせることを心がけたという。家裁の活動に協力する元職員や弁護士らのボランティア団体「少年友の会」の設立にも力を尽くした
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終戦直後は戦災孤児が街にあふれ、生活に窮して法を犯していた。時代が進むにつれ、非行の内容や背景は変わった
▲検挙される少年は1983年をピークに減少基調に転じた。しかし、重大な事件が起きる度に厳罰化を求める声が高まる。健全育成を理念とする少年法は幾度も改正された
▲法に反する行為は許されない。被害者の処罰感情も重い。一方で、成育環境や幼い頃のつらい体験が、非行や犯罪につながっている実態がある。法務省の研究所が昨年公表した調査結果では、少年院収容者の6割以上が家族から暴力を受けていた
▲一昨年、昨年と2年連続で検挙者が増えている。「闇バイト」の募集に応じ、詐欺や強盗に加担させられるケースがある。居場所を求めて繁華街の一角に集まる子どもたちもいる。犯罪に手を染めさせず、道を踏み外してしまったら立ち直りを促し、見守る。社会の「愛」が試されている。

若者の闇バイト 安易な応募は一生を棒に振る(2024年10月7日『読売新聞』-「社説」)
 
 高額な報酬を簡単に得られる仕事など、あるはずがない。金欲しさから安易に申し込めば、取り返しのつかない事態になることを知るべきだ。
 東京都と埼玉県で9~10月、複数の男らが住宅に押し入り、住人にけがを負わせて金品を強奪する強盗致傷事件が相次ぎ発生している。いずれも未明に窓ガラスを割って侵入し、住人を縛るなどの手口だった。
 埼玉県の事件で逮捕された男らは「闇バイトに応募した」と供述したという。男らのスマートフォンには、共通する指示役の登録名が残っており、警察は同一グループの犯行だとみている。
 SNSで集められた若者らが、報酬目当てに一般の家庭を次々と襲うという衝撃的な事件である。社会に与える不安も大きい。警察は、指示役を含めたグループの摘発に全力を挙げねばならない。
 指示役は、住宅の資産状況を事前に把握していたとみられる。どこから情報を入手したのか。
 事件前にリフォーム業者の訪問を受け、契約していた家もあった。この家には多額の現金が保管されていた。訪問業者を通じ、資産の情報が犯行グループに漏れた可能性はないのか。警察は、こうした点も含めて捜査を進めている。
 近年、SNSでつながって離合集散を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)が暗躍している。闇バイトは、そのメンバー集めに利用されている。
 SNS上で「高額報酬」「リスクなし」などとうたい、犯罪への加担とはわからない形で実行犯を募る。応募すると、指示役から身分証の画像や家族構成などの個人情報を送るよう求められる。
 強盗をさせられるとわかって断ろうとすると、「家族を殺すぞ」などと脅されるという。
 強盗は、重い懲役刑が科されるケースが多い。犯罪グループからすれば、闇バイトで集めた実行犯は「捨て駒」にすぎない。
 手っ取り早くお金を得たいと、軽い気持ちで応募したら、自身の一生が台無しになるだけでなく、家族まで巻き込むことになる。
 家庭や学校で、闇バイトには絶対に応募しないよう若い世代に繰り返し伝えることが重要だ。
 昨年1月には、東京都狛江市の住宅が同様の闇バイト強盗に襲われ、高齢女性が死亡している。
 指示役の「ルフィ」らが逮捕されたが、トクリュウが壊滅したわけではない。自宅に多額の現金を置かないなど、各家庭で自衛策を講じることも大切だ。