教員給与の引き上げ 負担減らす対策もさらに(2024年10月4日『毎日新聞』-「社説」)

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夏休みの職員室で仕事をする中学校の教員たち=岐阜市で2022年8月、李英浩撮影
 教育の担い手を確保するには、給与引き上げだけでは不十分だ。更なる負担軽減策が欠かせない。
 文部科学省が公立校の教員の給与を増額する方針を打ち出した。時間外勤務手当(残業代)の代わりに一律支給されている「教職調整額」の割合を基本給の4%から13%に引き上げる。学級担任や管理職の手当も増額する。いずれも、2025年度予算の概算要求に盛り込んだ。
 教員のなり手不足を解消する狙いがある。23年度採用の公立校教員の選考試験の倍率は全国平均3・4倍で過去最低だった。6年連続の減少だ。採用倍率が1倍台にとどまる自治体もある。
 就職先として若者から選ばれない理由は給与水準だけではない。岐阜県教育委員会が23年、教育学部や教職課程の大学4年生を対象に調査したところ、教員にならなかった学生の79%が長時間労働などの勤務実態を理由に挙げた。
 やりがいを感じている教員は少なくない。文科省が22年に実施した調査によれば、小中学校の教員の半数以上が仕事に「満足している」と答えている。
 だが、負担軽減はなかなか進まない。22年度に小学校で64・5%、中学校では77・1%の教員が、国が指針で定めた上限の月45時間を超えて残業していた。
 ワーク・ライフ・バランスについては小中とも約半数が「満足していない」と回答した。
 状況を根本的に改善するには、教員1人あたりの負担を減らすことが重要だ。
 文科省は概算要求で約7700人の定数増も打ち出している。継続的に増員する方針で、実現すれば効果が期待できる。
 しかし、志望者が減る中で思うように人員を確保できるかは見通せない。多様な人材を登用できる仕組みも積極的に導入すべきだ。他業種からの転職を後押しする制度の創設も一案である。
 非効率な業務も減らさなければならない。23年の文科省の調査では、全国の公立小中学校の95・9%がファクスを使っていた。デジタル化の加速は急務だ。
 教育は豊かな社会の基盤だ。ゆとりを持って働ける労働環境を整えなければ、質の高い教育の実現はおぼつかない。