袴田巌さん再審「無罪判決」追い続けたジャーナリストが公判を振り返る…「姉・秀子さんの涙に胸が熱くなった」(2024年10月2日『日刊ゲンダ』)

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支援者らに感謝を述べる袴田さんと姉・秀子さん(C)共同通信社
 1966年6月に静岡県清水市で起きた一家4人殺害事件をめぐり、強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌さん(88)のやり直しの裁判。静岡地裁は先月26日、「袴田さんが犯人とは認められない」として、無罪判決を言い渡した。
 判決では、検察側が袴田さんを犯人だとする証拠としていた「取り調べ調書」「5点の衣類」「(袴田さんの実家から押収された5点の衣類の)素材の切れ端」などを捜査機関による捏造だと断定した。
 2007年から袴田さんの事件を取材し続け、著書に「袴田巖と世界一の姉 冤罪・袴田事件をめぐる人びとの願い」(花伝社)があるジャーナリストの粟野仁雄氏が判決公判について振り返る。
「私は一番前の席で判決公判を聞きましたが、裁判所が取り調べ調書は、警察と検察が“連携して作成した”。すなわち“グルだった”と断定したことに本当に驚きました。これまでも国家賠償訴訟などで裁判所から警察が断罪されることはありましたが、同じ法曹界のいわば“身内”である検察官の捜査における捏造を裁判所が断罪したケースは聞いたことがありません。そうした意味で裁判所は勇気のある決断を下したと思います」
 今回、袴田さんに無罪判決を下した静岡地裁の国井恒志裁判長は閉廷前に長年、袴田さんの裁判を支援し続けてきた姉の秀子さん(91)に対し、「裁判所として長い時間がかかってしまったことは申し訳ないと思っています」と謝辞を述べ、「末永く心身ともに健やかにお過ごしください」とねぎらいの言葉をかけた。
「秀子さんは信念を持った女性です。50年以上にわたって巌さんの無実を信じ続けてきました。その秀子さんが無罪判決を聞き、法廷で涙を流したのを見た時には、私の胸にも迫るものがありました」(粟野仁雄氏)
 袴田さんはおととい(9月29日)県弁護士会の報告会に出席。秀子さんに促されながら「ありがとうございます」と自身の口で語った。
「警察による苛烈極まりない取り調べや長期にわたる拘禁生活の影響で巌さんは意思の疎通がうまくできません。そんな巌さんを秀子さんが支援者らの前に出したのは、これまで支援し続けてきた人たちに自身の言葉でキチンと謝意を述べて欲しかったからだと思います。会場からは割れんばかりの拍手が起こりました」(粟野仁雄氏)
 拍手に応えるかのように袴田さんは柔和な表情を浮かべていた。

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袴田巖と世界一の姉:冤罪・袴田事件をめぐる人びとの願い 単行本(ソフトカバー) – 2024/8/26
粟野 仁雄 (著)
 
いよいよ審判が下る、戦後最大の冤罪事件
見込み捜査と捏造証拠により死刑判決を受け、60年近く雪冤の闘いが繰り広げられてきた袴田事件
数奇な運命をたどってきた88歳の死刑囚と91歳の姉、そして「耐えがたいほど正義に反する」現実に立ち向かってきた人々の悲願が、いま実現する——
無実の人・袴田巖を支え続けた姉・ひで子と、弁護団・支援者たちの闘いを追った、渾身のルポ
●目次●
序 章 袴田巖が帰ってきた
第1章 事件発生から逮捕へ
第2章 証拠をめぐる疑惑の数々
第3章 袴田事件と交錯する人生
第4章 雪冤への長い道のり
第5章 〝開かずの扉〟の先にあるもの
終 章 「常識」を取り戻す闘い
本書によせて 袴田巖さんを救援する清水・静岡市民の会事務局長 山崎俊樹
解説 ルポライター 鎌田 慧