【ワシントン=坂本一之】岸田文雄首相が8月14日に自民党総裁選への不出馬を表明した後、北朝鮮による日本人拉致問題の解決を目指し、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記との会談を実現させるよう事務方に交渉を指示していたことが28日、分かった。関係者が明らかにした。北朝鮮が批判してきた政権維持のための「人気取り」にはならない環境で、任期最後まで会談の実現を模索した。
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岸田首相は不出馬表明後、残り約1カ月半の任期の最後まで拉致問題に取り組むとして、日朝首脳会談の交渉を担当者に指示し、北朝鮮に働きかけた。首相の意欲は強く、訪朝や海外での会談に備え、日々の予定に余裕を持たせる形で任期内の日程を調整した。 日朝首脳会談を巡っては金総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長が3月の談話で「拉致問題に没頭するなら、(岸田)首相の構想は人気取りに過ぎない」と批判していた。首相は退任が決まったことで、北朝鮮が警戒する政権浮揚を狙ったものではないことを示せると判断したようだ。ただ、北朝鮮は「拉致問題は解決済み」との従来の主張を崩さず拒否したとみられ、会談は実現しなかった。
11月に大統領選を控える米国では、バイデン大統領が再選断念を発表してから約10日後の8月1日、ロシアとの身柄交換で、スパイ罪で収監された米国人記者らの帰国を実現させた。
一方、日本では7年8カ月の長期となった第2次安倍晋三政権や3年の岸田政権でも拉致被害者の帰国は実現していない。被害者家族の高齢化が進む中、解決の糸口が見いだせない状況が続き、拉致問題は大きな岐路に立たされている。