拉致被害者の救出 米国とともに圧力強めよ(2024年5月8日『産経新聞』-「主張」)

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米国から帰国し、報道陣を前に訪米の成果を報告する拉致被害者家族会代表の横田拓也さん(中央)と事務局長の飯塚耕一郎さん(右から2人目)ら=東京・羽田空港
 
 北朝鮮による拉致被害者の家族らが訪米して「全被害者の即時一括帰国と引き換えに日本政府による北朝鮮への人道支援や独自制裁の解除に反対しない」とする運動方針を米政権側に説明した。
 拉致被害者横田めぐみさんの弟で、家族会代表の拓也さんによると、米側から正当で合理的な手段として支持されたという。
 これを家族会の軟化ととらえるべきではない。あくまで局面打開に向けた「苦渋の内容」であり、運動方針へは、全拉致被害者の即時一括帰国が実現しないまま親世代が死去した場合には「強い怒りを持って制裁強化を求める」と併記した。
めぐみさんの母、早紀江さんは88歳、有本恵子さんの父、明弘さんは95歳だ。悲しいかな、残された時間には限りがある。これは北朝鮮に向けた最後通告と受け取るべきである。
 米政権の支持を取り付けたことで、いよいよ北朝鮮は、拉致事件の解決なしに自国の未来を描けないことに気づかなくてはならない。「拉致問題は解決済み」と木で鼻をくくる対応を続ける限り、日米をはじめとするまっとうな国際社会から存在を認められることはない。
 北朝鮮は2002年、当時の金正日総書記が小泉純一郎首相との日朝首脳会談で拉致を初めて認め、謝罪した。この背景には、北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しし、テロ支援国家に指定した米国の圧力があったことを忘れてはならない。圧力を極限まで強め、拉致問題の解決以外に出口がないことを北朝鮮に理解させる必要がある。
 その意味で、国連安全保障理事会で約15年にわたって北朝鮮に対する制裁の実施状況を監視してきた「専門家パネル」の任期が4月30日で終了したことは極めて残念だ。
 専門家パネルは09年の北朝鮮の核実験を受けて設置され、制裁状況について情報を収集し、年次報告書を安保理に提出してきた。1年の任期延長が毎年採択されてきたが、今回は任期延長をめぐる採決でロシアが拒否権を行使した。
日米韓など約50カ国は監視を続ける必要性を訴える共同声明を出した。日本政府は米国とともに新たな監視の枠組みを構築し、北朝鮮に対する制裁の圧力を強化すべきだ。拉致被害者の救出のためにも、である。