岸田文雄首相の後継を決める自民党総裁選は27日午後、党本部で決選投票が行われ、石破茂元幹事長(67)が215票を得て、194票の高市早苗経済安全保障担当相(63)を破った。議員票と都道府県票の内訳はそれぞれ石破氏が189票、26票。高市氏が173票、21票だった。
石破氏は1回目の投票で議員票46、党員票108の計154票を獲得。一方、高市氏は議員票72、党員票109の計181票を得ていた。石破氏は1回目の投票では2位だったが、決選投票では議員票を大幅に伸ばし、逆転した。
政治
◆政治とカネで「政党法」制定
「派閥裏金事件を踏まえ、政党のガバナンス(組織統治)向上を目指す『政党法』を制定する」
(10日、記者会見で)
◆世襲候補は審査厳格化
「国会議員の世襲では、候補者の審査の厳格化が必要」
(22日、NHK番組で)
◆投票は義務化すべき
「国政選挙などでの投票率低下に関して、投票は義務化すべきだ。この国、地域がどうなろうと知ったことではないというのは、よいことではない」
(19日、インターネット番組で)
◆靖国参拝、明言避ける
(25日、BSフジ番組で)
経済
◆法人税は引き上げの余地
(21日、インターネット番組で)
◆地熱や小水力発電に注力
(23日、自民党本部での政策討論会で)
外交
◆中国に強くただしていく
「(中国・深圳の日本人男児刺殺事件について)日本政府として中国に申し入れるだけでなく、どういう対応を取ったのか強くただしていくべきだ」
(19日、記者団の取材で)
◆北朝鮮に連絡事務所
(10日、記者会見で)
◆米国に自衛隊基地
27日投開票の自民党総裁選で新総裁に選ばれた石破茂元幹事長(67)は、派閥パーティー収入不記載事件に関し「党として厳しく臨む」と語り、各社の世論調査でも「政治とカネ」の問題を重視する層から支持されている。
選択的夫婦別姓については、制度導入に賛成の考えを示し、「夫婦が別姓になると家族が崩壊するとか、よく分からない理屈があるが、やらない理由がよく分からない」と語る。
また、エネルギー政策については出馬会見で「原発をゼロに近づける努力を最大限する」と他候補と一線を画す姿勢を示したが、12日の告示後は「安全性を最大限に高め、引き出せる可能性は最大限に引き出すのは当然だ」とも語るようになった。再生可能エネルギーである地熱や小水力発電の可能性を引き出すとしている。
27日投開票の自民党総裁選を制した石破茂新総裁(67)を巡っては、党内で人付き合いの悪さが指摘される一方、選挙の応援演説依頼など「頼まれたら断らない」性格で知られる。かつては人気漫画「ドラゴンボール」のキャラクター「魔人ブウ」のコスプレ姿を披露したことで話題になった。石破氏にコスプレを依頼した「円形劇場くらよしフィギュアミュージアム」(鳥取県倉吉市)を運営する「円形劇場」の稲嶋正彦代表取締役は産経新聞の取材に、「半分だまし討ちのような形で着用をお願いしたが、ニコニコ受けてくれた。やわらかい一面がある」と振り返った。
「石破さんに言い出せなかった」
コスプレを披露したのは石破氏だけではない。同じく来賓の平井伸治鳥取県知事は機動戦士ガンダムに登場するアムロ・レイ、倉吉市の石田耕太郎市長(当時)はドラゴンボールの孫悟空、舞立昇治参院議員(鳥取選挙区)はベジータのコスプレでくす玉割に臨んだ。
恐竜や動物、アニメのヒーローのキャラクター展示を通して、フィギュアカルチャーを発信するミュージアムのセレモニー。政治家といえど、スーツにネクタイ姿は似つかわしくない。ただ、稲嶋氏は「ほかの来賓の政治家には事前にコスプレをお願いすると言っていたが、ハードルが高くて石破さんには言い出せなかった」と打ち明ける。
「似合い過ぎて驚いた…」
平井氏らに遅れて会場に到着した石破氏に対し、「だまし討ち」(稲嶋氏)に近い形となったが、恐る恐るコスプレの着用を訴えたところ、石破氏は二つ返事で受けたという。
魔人ブウを着用した理由は、もう一つコスプレの衣装を用意していたが、そちらはサイズが合わなかったため。稲嶋氏は、「普通なら断ってもおかしくないのにニコニコして応じてくれた。総裁選に出ようかというトップの政治家の1人なのに…」と驚いたといい、「魔人に仕立てようというつもりはなかったが、似合い過ぎて驚いた」とも回想する。
魔人ブウのコスプレはSNSを中心に反響を呼んだ。石破氏も数年間街頭演説で「人生何があるか分からない。魔人ブウのコスプレをさせられた」とエピソードを披露するようになる。稲嶋氏は「ミュージアムのことを知らなくても、『石破さんが魔人ブウをした所』と説明すると、皆さん『あー、あの』と気が付いてくれる」と満足そうだ。
石破氏を巡っては、安倍氏らの政権運営などをたびたび批判してきた経緯がある。稲嶋氏は首相になる石破氏に対して、「これからは批判ではなく(国家を)運営する方になる」と述べた上で、「非常に頭のいい人なので、地方の魅力を引き出して、少子化に対抗していくための政策を進めていくかを楽しみにしている」とエールを送った。(奥原慎平)
自民党の新総裁に27日、石破茂元幹事長が選出されたことで、「地方創生」の取り組みの加速が期待できそうだ。石破氏は平成26年に初代地方創生担当相に就任したこともあり、地方への思い入れは人一倍強いとされる。だが、それから10年を経た今も東京一極集中の流れは変わらない。
「どんどん人口が減っていく地方であってはならない」。この日の決選投票前の演説で、石破氏は地方衰退への危機感をあらわにした。
経済界有志らで構成する「人口戦略会議」は今年4月、744自治体で人口減少が深刻化し、将来的に「消滅の可能性がある」と発表した。人口が減れば、経済活動が停滞し、税収は減り、生活インフラや自治体機能の維持が難しくなる。
石破氏は24日の討論会で「婚姻率が低いところは人口が減る」と指摘。特に若い女性の都市部への流出を食い止めるため、魅力的な職場の創出など「若い人に選ばれる地方を作る」と訴えた。
解決策の一つとして石破氏が掲げるのが産業の「国内回帰」だ。メイド・イン・ジャパンにこだわり、国内にサプライチェーン(供給網)を整備することで輸出増や経済安全保障の強化を図る。
デジタル技術を活用した情報格差の是正や訪日客の地方への誘致にも取り組む考えだ。
一方、金融市場は「石破首相」の誕生に身構える。石破氏が一時期、金融所得課税の強化に言及したことが尾を引いている。25日の会見では「貯蓄から投資へという流れは一層加速させていく」と語るなど態度を軟化させているが、市場の警戒感はしばらく解けそうもない。(米沢文)