老人ホームの価格は「人員体制で変わる」月額80万円のホームの体制とは?実例に学ぶ賢い施設選び【社会福祉士解説】(2024年9月22日『介護ポストセブン』)

キャプチャ2
老人ホームの月額費用には、人件費が加算されるケースも
 介護付き有料老人ホームを選ぶとき、「費用」は欠かせないポイントだが、加えて「ケアを担うスタッフの数(人員体制)も介護の質を左右する重要なポイントになります」と、社会福祉士の渋澤和世さん。介護サービス相談員としても活動する渋澤さんに、実例をもとに職員体制や費用について解説いただいた。
キャプチャ
【画像】「介護者:職員の人数」 60人定員の施設の職員体制の目安
この記事を執筆した専門家
渋澤和世さん
代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)がある。
キャプチャ
介護付き有料老人ホームを選ぶ判断基準は?
 民間が運営する「介護付き有料老人ホーム」への入居を検討する場合、どんな基準で選ぶでしょうか。
 昨今は、施設検索サイトでさまざまな条件を入れて探すこともできます。エリアや介護度、施設の種別を選択でき、身体状況に合った施設の所在や空室などを検索できます。
 さらに、「築年数は新しい方がいい」「食事も好みに合うものがいいな」「レクリエーションが充実していると嬉しい」「リハビリもあったほうがいい」「交通の便も考慮したい」など、今後の生活の場となる施設に対する要望も加味しつつ、”毎月出せる予算”を考えて絞り込んでいくことになります。
 都市部の一等地や、駅から近い立地に建つ施設は、居住費(家賃相当)が高額で、月額利用料が高いのは、何となく理解できます。しかし、中には若干不便に立地にありながらも評価が高く、費用が安いわけではないのにいつも満室のところもあります。その理由はどこにあるのでしょうか?
 まずは、月額利用料の内訳から見ていきましょう。
月額利用料の内訳は?
 介護付き有料老人ホームは、月におよそ20~25万円の費用がかかると言われています。その内訳は大きくは次の8つになります。
【1】居住費…家賃に相当。居室面積、設備、施設の立地などによって変動する。
【2】管理費…共有部の維持管理費、事務費、水光熱費など。
【3】食費…食材、厨房管理費など。
【4】介護サービス費…施設で受けるサービス(掃除、洗濯、排泄、着替え、食事、入浴など)に対する費用。基本的なサービスは、介護保険が適用される。
【5】医療費…訪問診療、通院、薬代など。
【6】日常生活費…日用品や、菓子、新聞などの嗜好品やおむつ代など。
【7】上乗せ介護費…介護・看護職員が規定よりも多く配置され、手厚いサービスを受けた際、支払う費用。
【8】サービス加算費…機能訓練や看取りなどサービスや設備が整っていると加算される。
上乗せ介護費=人員体制が手厚い
 前述の「若干不便な立地でも評価が高く、費用も安くはないのにいつも満室の施設」が選ばれる理由はなぜなのでしょうか?
 ある利用者のご家族に話を聞いてみると、「ケアが充実していて安心感がある。費用は納得できる」「夜間も看護師がいて酸素ボンベを看護師さんが取り替えてくれるので安心」など、どうやら人が対応する介護サービスの手厚さが重視されているようです。
 介護施設には、いくつか種類がありますが、それぞれ利用者数に対して配置すべき職員数の基準があります。
 これを「人員配置基準」と呼び、各施設が独自に設定するものではなく、厚生労働省が定めた基準があります。
 介護付き有料老人ホームは、利用者が要支援・要介護かによって看護・介護職員の配置基準の比率が異なりますが、以下のように設定されています。
介護職員と看護職員の人員配置基準
・要支援者:看護・介護職員=常勤換算で10:1
・要介護者:看護・介護職員=常勤換算で3:1
※看護職員は利用者30人に対して必ず1人配置すること。ただし30人を超える場合は50人ごとに1人配置。
※介護職員、看護職員それぞれのうち1人以上は常勤職員であること。
※24時間3人に1人が常駐しているのではなく、常勤の介護・看護職員の総数に対する割合。
※ 夜間帯の職員は1人以上
 介護付き有料老人ホームの人員配置の最低基準は、要介護者3人につき、常勤の介護・看護職員1人の配置(3:1)が義務付けられています。
 しかし、「2.5:1」や「2:1」などの手厚い人員配置を行い、それをセールスポイントにしている施設も少なくありません。
 なお、人員体制が手厚いということは、【7】上乗せ介護費が加算されることになります。
●都内の老人ホーム「月額80万円と高額でも人気の理由」
 私が知っている施設の中で職員体制が一番手厚かったのは、「1.5:1」です。つまり、基準の2倍の数のスタッフがケアをしてくれるということになります。
 参考としてこのホームの費用をご紹介いたします。
 東京都23区内のこの施設は、ワンルームの居室の入居に一時金(敷金相当)として120万、月額費用として80万ほどかかります。このうち、上乗せ介護サービスの費用は、月額11万5,500円で、人件費が加算されます。
 費用はそれなりにかかりますが、職員の体制にゆとりがあるので、利用者と職員、職員同士も会話をする時間が生まれます。
 流れ作業となりやすい入浴も1人あたり30分と長くとることも可能で、湯加減なども個人の好みに合わせ調整してくれます。
 食事介助も職員に余裕がない施設では、入居者を2~3人並んでもらい、次から次へと口にスプーンを運ぶ風景もありますが、余裕があればゆっくりと食事を味わうことも可能でしょう。
今後は人によるサービスが受けにくい状況に?
 昨今、介護職員の確保が難しくなってきているのが実情です。そのため、現場の革新は急務となっています。
 厚生労働省は2022年4月から、介護ロボットをはじめとしたITを活用した実証実験を開始しています。また、見守り機器導入による夜勤職員の配置基準の緩和なども進められています。有料老人ホームなどでの人員配置基準を、3:1から4:1に緩和する案も検討されています。
 有料老人ホームを選ぶ際は、まずは総額から”毎月出せる予算”がそれぞれの家庭ごとにあるかと思います。「費用」や「立地」、「食事」などは選ぶポイントになりやすいと思いますが、職員やスタッフの人数も確認しておきたいところ。職員の体制によって介護サービスの手厚さは変わり、生活にも大きく影響します。
 施設選びで迷った場合は、スタッフや職員の人数にも注目してみてほしいと思います。「2.5:1」や「2:1」の場合はサービスが手厚い施設といえるでしょう。