大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手は19日のマーリンズ戦で2つの盗塁を決めたあと、3本のホームランを打って、今シーズンのホームランが51本、盗塁の数は51に伸ばしました。1つのシーズンでホームラン50本、50盗塁以上を達成したのは大リーグで史上初めての快挙です。
記事後半では大谷選手が「50-50」を達成した要因や、その記録の価値などについて詳しくお伝えしています。
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「50-50」達成 3打席連続HR 6打数6安打10打点で
試合前の時点でホームラン48本、49盗塁としていた大谷選手は1回の第1打席で右中間フェンス直撃のツーベースヒットで出塁すると、その後、1アウト一塁二塁の場面で、三塁への盗塁を決めて今シーズンの盗塁を「50」としました。
そして2回にも盗塁を決めて記録を「51」に伸ばしました。6回の第4打席は1アウト二塁の場面で低めのスライダーを捉えて飛距離133.5メートル、右中間スタンドの2階席まで届く49号のツーランホームランを打ちました。
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大谷翔平「一生忘れられない日になるんじゃないか」
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【連続写真で】50号HR達成
これで大谷選手は今シーズン、出場150試合目でホームラン50本、51盗塁とし、大リーグ史上初めてホームラン50本、50盗塁の「50-50」を達成しました。
「50-50達成」“そのとき”
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打点「120」 日本選手のシーズン最多打点の新記録
《日本選手 大リーガーからも祝福の声》
レッドソックス 吉田正尚「記録を更新し続けるのでは」
去年のWBC=ワールド・ベースボール・クラシックで大谷選手ととともに日本の優勝に貢献したレッドソックスの吉田正尚選手は「本当に誰も経験していないことをやっているので、その領域は分からないが、素直に記録達成おめでとうございますと言いたい。まだまだ試合もあるし、記録を更新し続けるのではないか」と祝福しました。
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《チームメート 対戦相手 談話》
ドジャース ロバーツ監督「唯一無二の存在」
ドジャース ベッツ「最高だったし すばらしかった」
ドジャースのチームメートで2018年にシーズンMVPを受賞したスター選手のムーキー・ベッツ選手は試合後に報道陣から大谷選手へのメッセージを求められ「おめでとうと言わせてほしい。最高だったし、すばらしかった。毎日、君に会えてとてもうれしい。史上最高の選手を見て残りのキャリアを過ごせることを幸せに思う」と祝福していました。
打たれた投手「脱帽するしかない」
マーリンズ監督「史上最高の選手になるかもしれない」
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【解説】大谷翔平 盗塁 大幅増の要因は?
大谷選手の盗塁の自己最多はこれまで2021年にマークした26盗塁でしたが、今シーズンはおよそ2倍に増やしました。背景にはキャンプから重点的に取り組んできた走塁面の強化や昨シーズンからけん制の回数が制限されるなどより盗塁がしやすくなったルール改正などもありますが、最も大きいのは大谷選手が今シーズン、打者1本に絞ったことによって疲労度が大幅に減ったことが挙げられます。
【盗塁しやすくなった“ルール改正”】
大リーグではよりダイナミックなプレーを増やそうと昨シーズンからベースが大きくなり、ピッチャーのけん制の回数が制限されるなど、ルール改正が行われました。その結果、大リーグ全体の昨シーズンの盗塁数は3503個と前の年の2486個からおよそ1.4倍に増え、ブレーブスのアクーニャJr.選手がホームラン40本・70盗塁をマークしたように、足の速い選手にとっては、より盗塁をねらいやすい環境が整っていました。
しかし、昨シーズンの大谷選手は主に中5日でピッチャーとして先発登板をしながら指名打者として毎日出場を続けるという過酷な投打の二刀流でプレーしていました。このため体力の消耗が激しく、シーズン全体で盗塁を試みたのは26回で、成功したのは20回でしたが去年8月には筋肉のけいれんが相次いで途中交代する試合が増えるなど満身創痍(そうい)の状態でした。
【今季は打者1本で“元気なままプレー”】
今シーズンは去年受けた右ひじじん帯の再建手術のため投手としてのリハビリを続けながら打者1本に絞って出場することになり、それによってシーズン終盤でも“元気なまま”プレーを続けられる大きな要因になりました。
【打順も2番から1番に】
また、ことし6月にチームで1番を任されていたベッツ選手がけがで離脱し、大谷選手の打順が2番から1番になったことも盗塁が増える要因になりました。
ベッツ選手が離脱する6月16日までの70試合では盗塁は15個でしたが、6月17日以降は80試合で36盗塁と一気にペースを上げました。しかも、28回連続で盗塁を成功させ今シーズンの成功率は驚異の92.7%に上り、現在リーグトップの64盗塁をマークしているレッズのデラクルーズ選手の80%と比べても高い数字となっています。
リードオフマンとしてチームの勝利に貢献するという役割に徹したことが記録を伸ばすことにもつながり、ベッツ選手がけがから復帰したあとも大谷選手がそのまま1番を務めています。5年前、25歳だった2019年に打者1本に絞ったシーズンではひざのけがの影響もあり、ホームラン18本、12盗塁でしたが、30歳のことし残した成績は改めて「野手・大谷」としての無限の可能性を示しました。
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ドジャース 監督・コーチ陣が語る“大谷の進化”
ドジャースのロバーツ監督が「大谷は今シーズンいいベースランナーからベーススティーラーになった」と言うように、これまでのシーズン自己最多だった2021年の26盗塁を大きく上回っています。
ドジャースの走塁に関わる作戦などを担当しているクレイトン・マッカロー一塁コーチは、今シーズンの開幕前にキャンプで初めて大谷選手を指導した当時を振り返り「まだ彼のシーズンの成績がどうなるかは未知数だった。ただ、ピッチャーとしてのリハビリ中で攻撃に高いモチベーションを持っていた。盗塁も含めて自分の限界に挑戦しようとしていた」と話しています。
大リーグ公式サイトによると、大谷選手の今シーズンの走塁スピードは秒速8.56メートルで、大リーグ平均の秒速8.23メートルよりは速いものの、全体では154位にとどまっています。
その大谷選手がここまで盗塁数を伸ばした要因についてマッカローコーチは、2つの理由をあげました。
【その1:フォームの改善】
キャンプでは昨シーズンまでの大谷選手の映像を精査しミリ単位でリードの幅や体勢を見直したということで「二塁に進むことと同時に、一塁に戻ることも考えてどのくらいのリードがいいのか、どんなフォームがいいのかを検証した。彼は時間と労力を注いでフォームを改善すればもっとスムーズに、効率的に走ることができる、もっと盗塁のチャンスがあると気付いたようだった。そして、最初の10歩の中でより早くトップスピードに持って行くためのトレーニングを本当にハードに重ねた」と明かし、スタートの質が格段に向上したと話しました。
【その2:相手ピッチャーの研究】
試合前のロッカールームでは毎日のように相手ピッチャーの映像を確認し▽ボールを投げるまでにかかる時間や▽投球動作に入る際に体のどこが最初に動くかなど、フォームの癖を研究しています。
マッカローコーチは「彼は賢く細部へのこだわりはすごいものがある。彼がどれだけ研究に時間を費やしているかはあまり知られていないが、毎日映像を見て何かを発見することが好きなんだと思う。ピッチャーの特徴とキャッチャーの送球能力、そして自分の限界を知って、どのタイミングなら行けるかをよく理解している。彼が盗塁を決めることになんの偶然もない」と大谷選手の高い研究意欲をたたえました。
大谷選手はこれまでの取材に対し盗塁のポイントを「確実に行けると思った時に行く。あとはスタートのタイミングと勇気だ」と話していました。準備と研究に裏打ちされた「勇気」が大リーグ史上初の偉業として実を結びました。
《大リーグで活躍する選手たちはどう見る?》
おととし46本のホームランを打ってホームラン王を獲得し、今シーズンもここまで35本のホームランを打っているフィリーズのシュワーバー選手は「『50-50』はとても難しいことで、しかも彼はまだ右ひじのリハビリ中ということがすごいことだ。彼の偉業を見ることができるのはファンにとって本当にすばらしいことだ」とバッターに専念するシーズンでの活躍をたたえていました。
今シーズン大谷選手を上回る両リーグトップの64盗塁をマークし、ホームランも24本打っているレッズのデラクルーズ選手は「彼は本物だ。信じられないよ。盗塁をするためにはタフでありそのための追加の努力をしないといけない。ハードに努力をし、健康であり続けるための努力もしないといけない」と大谷選手のたくましさに驚いていました。
2019年にドジャースで47本のホームランを打ち、盗塁も15個記録してMVPに輝き、現在はカブスでプレーするベリンジャー選手は「リハビリをしながら継続的な活躍を見せていることは本当に信じられない。彼はアスリートとは何かを見せてくれている。大リーグのキャッチャーはみんな優秀で多く盗塁をすることは難しく彼がどれだけ速いかをあらわしている」と大谷選手の身体能力の高さに脱帽していました。
今シーズンここまでホームラン21本、32盗塁とオールラウンドな活躍を見せ、オールスターゲームでは初のMVPを獲得したレッドソックスのデュラン選手は「スピードのためのトレーニングを増やす選手もいれば、パワーをつけるためのトレーニングをする選手も多くいる。私はその両方を少しずつ取り入れているが、大谷選手はそれ以上のトレーニングをしているのだろう。『50-50』は私もいつか達成したいが、できなくても気にしない。それを達成できるのは本当に特別な選手だ」とホームランと盗塁を両立させることの難しさを語りました。
大リーグ1年目の2019年に53本を打ってホームラン王を獲得し、今シーズンも33本のホームランを打っているメッツのアロンゾ選手は「彼がとてつもない打撃技術とパワーを持っているのは間違いない。ただ、盗塁をしない私からすると、50盗塁というのが最も難しいことだ。常に健康でないとこの数字は残せない。彼はフィールドで活躍をしているが、健康を維持するということにおいてもすばらしい仕事をしている。これこそ驚くべき偉業で、歴史的なことだ」とシーズンを通して活躍を続ける大谷選手のコンディション管理を絶賛していました。
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【ポイント】「50-50」の価値は
日本のプロ野球では打率3割、ホームラン30本、30盗塁をマークすると総合力の高さを「トリプルスリー」と評価されるように、大リーグではホームラン30本、30盗塁を達成した選手たちを「30-30クラブ」、ホームラン40本、40盗塁を「40-40クラブ」と呼んで1つの称号としてたたえられます。
「30-30」クラブには
▽ガーディアンズのホセ・ラミレス選手や
▽ロイヤルズのボビー・ウィットJr.選手など、
今シーズン達成した選手を含めて70人以上の“クラブ会員”がいますが、「40-40」クラブは大谷選手を含む6人のみです。
大リーグを20年以上取材しボストンの地元紙でレッドソックス担当する、ピーター・エイブラハム記者は「ホームランと盗塁という数字は“パワフルで速い”という単純なものを示しているが、それができる選手は多くない。複雑な指標ではなく、ファンがシンプルにその選手のすばらしさ、どれだけ優れているかを理解できるところがこのクラブの魅力だ」と、その価値を話しています。
大谷選手は大リーグで初めてホームラン50本、50盗塁を達成したことでたった1人の「50-50」クラブの会員となりました。
エイブラハム記者は「『50-50』はベーブ・ルースの史上初のシーズン60本のホームランや、ジョー・ディマジオの56試合連続ヒットの大リーグ記録などの偉大な記録の1つだ。数年前には不可能に思われていたが、これで『50-50』を目標にしようという選手が出てくると思う。時間はかかるが、達成可能な選手も出てくるだろう」と大リーグの歴史の中でも大きな足跡となると期待していました。
米ベテラン記者が語る“時代変化”
大リーグを40年近く取材しているアメリカの全国紙、USAトゥデーのボブ・ナイチンゲール記者はNHKの取材に対して、大谷選手の「50-50」達成は昨シーズンのブレーブスのアクーニャJr.選手のホームラン40本と70盗塁と並び「時代の変化によるものが大きい」と語りました。
ナイチンゲール記者は「ホームランと盗塁の『40-40』のようなことには1988年にホセ・カンセコが史上初めて達成するまで、みんな興味がなかった。それまでにも偉大な選手はたくさんいて、彼らは『それが重要なことだと知っていたら、僕らもやっていただろう』と話している」と、大リーグでは時代とともにホームランと盗塁の両立が重視されるようになったと振り返ります。
そのうえで「もし、シーズン130盗塁の大リーグ史上最多記録を持つリッキー・ヘンダーソンが今のルールでプレーしていれば200盗塁していただろう」と昨シーズンのルール改正が盗塁の難しさを大きく変えたと指摘します。
そして、出塁率と長打率を足した「OPS」などの指標が重視されるようになり、バッターがヒットの数よりも長打をねらう傾向が強くなっていることなどを念頭に「かつてバッターは三振することを恥ずかしかったが、今は違う。全く違うゲームになっているんだ」と時代によって選手たちのプレースタイルも大きく変わってきていると話していました。
《列島各地で号外》
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地元・岩手でも号外 祝福の声
大谷選手の出身地・岩手県では、盛岡市に本社がある「岩手日報社」が午前10時ごろ、盛岡市中心部にある肴町の商店街で「大谷50-50」と大きな見出しを付けた号外を配り、買い物客が次々と受け取っていました。号外は3万4500部発行し、盛岡市のほか、大谷選手の出身地、奥州市などで配るということです。
号外を受け取った70代の男性は「一気に記録を達成したので、びっくりしました。娘と息子が大谷選手と同じ中学に通っていたので喜びもひとしおです。おめでとうございます」と興奮した様子で話していました。
別の70代の女性は「記録の達成を待っていました。信じられないパワーで、このあともどこまでいくのか楽しみです」と話していました。
古巣 日本ハムの地元 札幌でも喜び
東京 有楽町駅前でも号外
東京の有楽町駅前でも号外が配られました。
50代の女性は「本当にすごいですし、日本の誇りです。大谷さんバンザイと思いました。最後まで記録を伸ばしていってほしいです」と話していました。
20代の男性は「今シーズン中に達成するとは思ってましたがまさかきょう達成するとは思わず驚きました。今シーズンはMVPも取ってもらいたいです。史上初なことばかり成し遂げていて、いずれ三冠王になることを期待してます」と話していました。
70代の女性は「達成することを毎日楽しみにしていたので、達成した時はやったーと思いました。打った瞬間、ホームランだとわかるすごい打球で、誰がホームランボールを取ったのかも気になります。今シーズンはどこまでいくのか楽しみです」と話していました。
《海外メディアも速報で快挙伝える》
◆欧米メディア
ドジャース本拠地の地元紙「ロサンゼルス・タイムズ」は「大谷翔平がやった!ドジャースのスターが3本塁打10打点で初めての50-50を達成」という見出しを掲げました。
「USAトゥデイ」は「大谷翔平はキャリアを左右するような挫折のせいで成績を落とすようなことはなかった。彼は単純にその類いまれな才能を別のところに注ぎ歴史を作り続けているのだ」とたたえました。
「ニューヨーク・タイムズ」は「記録的な契約の1年目で大谷翔平は1球もボールを投げることなく人々を驚かせる術を見いだした。1シーズンで誰よりも早くホームラン40本・40盗塁を達成しただけでも十分に見事だった。しかし50-50まで上り詰めるとは?その山の頂に大谷はひとり、立っている」と伝えました。
イギリスの公共放送BBCは「大谷翔平はシーズン50本塁打と50盗塁を達成した最初の選手となり、野球界の歴史を作った」と報じました。
ロイター通信は「大谷翔平はマイアミの試合で、多彩な才能をみごとに見せつけた」と伝えています。
アメリカのAP通信は「歴史に名を刻む彼のキャリアの中でも最も華々しい試合で3本の本塁打と2つの盗塁を決めた」とたたえました。
◆韓国メディア
今シーズンの開幕戦が行われた韓国のメディアも速報で伝えています。
通信社の連合ニュースは「スーパースターの大谷翔平がついに前人未到の50ホームラン、50盗塁の大記録を打ちたてた。めざましい活躍を見せ、新しい歴史の主人公になった」などと伝えています。
通信社の「ニュース1」は「漫画でも『やりすぎ』という指摘が出てもおかしくない。ゲームでも難易度をもっとも低く設定しなければならない成績だ。しかし大谷翔平は『現実』の野球、それも世界最高のリーグの大リーグで実現した」と称賛しています。
公共放送KBSは「初の50ホームラン、50盗塁の大記録を打ちたてた。この記録は大リーグ史上初めてで、日本や韓国のプロ野球でも出たことがない」と伝えました。