知床事故で逮捕 刑事責任の徹底解明を(2024年9月19日『北海道新聞』-「社説」)

 2022年4月に知床半島沖で小型観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没した事故で、第1管区海上保安本部はきのう、運航会社社長の桂田精一容疑者を業務上過失致死などの疑いで逮捕した。
 当時は荒天が予想されていた。桂田容疑者が運航を中止しなかったことが事故につながったと判断した。
 死者・行方不明者26人に上る海難史に残る重大事故である。大切な人を失った家族らは今も悔しさの中にいる。一部家族は桂田容疑者に損害賠償を求める民事訴訟を起こしている。
 悲劇はなぜ起きたのか。1管本部は刑事責任の解明に捜査を尽くしてもらいたい。
 業務上過失致死罪の成立には、事故の危険性を予見できたか、事故を回避する措置を取ったかの2点がカギとなる。
 当日は強風と波浪の注意報が出され、風速と波高が運航中止のレベルになる恐れがあった。
 1管本部は記者会見で、桂田容疑者は気象や海の状況を把握して船の運航を管理する責任を負う運航管理者だったのに、「航行を中止する義務を怠った」と指摘した。
 その結果、「船体は波浪の影響を受け、船首のハッチの開口部から海水が船内に入った」と説明した。桂田容疑者の認否は明らかにしなかった。
 運輸安全委員会は昨秋、事故原因について、部品の劣化できちんと閉まらなかったハッチのふたが波の揺れで外れ、そこから浸水し沈没に至ったと結論付けている。
 1管本部も事故の直接の原因については同様の見解を示す。桂田容疑者の過失の立証が捜査のポイントとなりそうだ。
 桂田容疑者は船に関する知識も経験もなく、事務所をほぼ不在にしていた。運輸安全委は、同社には実質的な運航管理体制がなかったと批判している。
 こうしたずさんな安全管理が、事故にどう影響したのかについても究明が待たれる。
 この事故では国側の監査や検査の不備も浮かび上がり、国は法令違反に対する厳罰化といった再発防止策を講じた。
 だが、そうした中で高速船の浸水を隠したまま運航したとして、JR九州の子会社が行政処分を受けた。安全意識のさらなる浸透が欠かせない。
 事故の影響で観光客数が落ち込んだ知床では、地域が一体となって観光の安全対策に力を入れている。
 徹底捜査で事件の全容を解明し再発防止につなげることが、その後押しになるはずだ。