警察の市民監視に関する社説・コラム(2024年9月18・19・20日)

キャプチャ
 
キャプチャ2

警察と個人情報 恣意的収集防ぐ規定を(2024年9月20日『東京新聞』-「社説」)
 
 市民運動に参加する住民の個人情報に関し、警察が「収集」したこと自体も違法だとする判断を、先週、名古屋高裁が示した。捜査当局が、恣意(しい)的に市民の個人情報を収集できる現状を批判し、強い危機感もにじませた。関連の法整備や監視機関の設置を急ぐべきではないか。
 原告は、岐阜県の住民4人。県警大垣署員が2013~14年、同県での風力発電施設の建設計画に反対する勉強会を開いた住民らの市民運動参加歴や病歴などを収集し、事業者の中部電力子会社に提供したのはプライバシー侵害で違法だとして、県などに損害賠償などを求めて提訴していた。
 一審岐阜地裁は「個人情報の提供は違法だが、収集は適法」と判決。双方が控訴していたが、高裁は「(個人情報の)収集も提供もみだりにされない自由」が憲法13条で保障されているとして、大垣署の手法を「違法」と判断した。その上で、県に情報の一部抹消と請求額通りの賠償金440万円の支払いを命じた。
 特筆すべきは高裁判決が、当局の個人情報収集のあり方に強い懸念を示した点だ。「(収集の)目的と必要性を捜査機関側が立証しなければならない」とし、市民運動を際限なく危険視して情報収集する公安警察の手法は「憲法21条(集会、表現などの自由)に反する」と断じた。
 また、情報収集の対象や許されない場合などを定めた法律上の規律がなく、恣意的に収集が行われていたと指摘。県公安委員会や警察庁国家公安委員会の監督にも、警察組織内部での自浄作用にも期待できないとの認識を示し、監視、監督する第三者機関が存在しないことを問題視。このままでは「(個人情報収集の)対象者が全国民に及ぶ可能性もないとはいえない」との危機感さえ示した。
 同じ裁判長は先に、無罪確定者のDNA型などを警察庁データベースから削除するよう国に命じる判決を出し、既に確定している。
 その判決の中でも、取得・保管の運用があいまいなDNA型の扱いに関する法の整備を国に強く促し、「第三者機関による監督が必要だ」と求めている。今回の判決と合わせ、捜査当局がほしいままに個人情報を扱える現状への強い憂慮の表明といえよう。国会や政府は、この警鐘に、すみやかにこたえるべきだ。

警察の情報収集で判決 市民運動「敵視」を断罪(2024年9月19日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 警察による特定の個人に対する情報収集を違法と認め、抹消を命じた画期的な判決だ。
 岐阜県で計画された風力発電事業を巡り、反対する地域住民の個人情報を地元の警察署が収集し、事業者に提供していた問題を巡る裁判。住民4人が岐阜県に損害賠償などを求めた訴訟の名古屋高裁判決は、情報収集が警察官の裁量権を逸脱していたことを認め、情報の一部抹消も命じた。
 被告の岐阜県側は、住民らの活動が無秩序な運動に発展する可能性があったとして、秩序維持のため、情報収集が必要だったと主張していた。
 一審の岐阜地裁判決は、事業者への情報提供は違法と認めた一方で、情報収集については、警察の責務に照らして必要性があったとして住民側の訴えを退けていた。
 控訴審判決が画期的だったのは、警察による情報収集が「一切許されないとまではいえない」としつつも「市民運動やその萌芽(ほうが)の段階にあるものを際限なく危険視して、情報収集し、監視を続けることが、表現の自由などを保障する憲法21条1項に反することは明らか」と一蹴した点にある。
 世の中で起きている問題に反対の立場で意見を表明したり、周囲に賛同を求めたりするだけで、警察から監視され、個人情報を収集されることなど許されてはならない。
 民主主義の根幹たる言論を萎縮させることは明らかで、控訴審が一審判決を覆した意義は大きい。
■    ■
 併せて名古屋高裁は、警察による情報収集活動が、どのような場合にどのような情報が収集、保有の対象になるのか基準がないことを指摘。捜査機関による情報収集や利用の要件を明確化した法律上の規定がないことを問題提起した。
 警察庁公安委員会の監督は期待できず、「警察の自浄作用は全く機能していない」と厳しく批判し、監視・監督する第三者機関の必要性を説いた。
 犯罪捜査など、必要な情報収集がある一方で、表現の自由内心の自由などに関わる情報に、収集や保管の制限がない現状に警鐘を鳴らした。
 違法な情報の取り扱いが明らかになった今、このまま運用が警察の裁量に委ねられれば、国民の疑問や不信は払拭できない。
 公安委員会の在り方を見直すなど、監視・監督の仕組み作りが必要だ。
■    ■
 県内では名護市辺野古の新基地建設を巡る市民運動の現場で、警察によるビデオカメラを使った撮影が当然のごとく行われている。市民を撮影し、映像をどう扱うのか、現状は警察の裁量次第ということになる。
 市民の自由な表現活動は憲法が保障する国民に当然の権利で、名古屋高裁判決にある通り、市民運動によって広く問題への関心が高まることも期待できる。
 警察法は警察活動の「不偏不党、公平中正」をうたう。警察が市民の表現活動に敵対することなどあってはならないことを常に肝に銘じるべきである。

警察の市民監視 恣意的な運用許されない(2024年9月18日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 公安警察が秘密裏に行う市民の監視や情報収集は、個人の内心の自由を脅かし、言動を萎縮させて、民主主義の土台を揺るがす恐れがある。そのことを重く見た、意義ある判決だ。
 風力発電施設の建設に反対する住民らの情報を岐阜県警大垣署が収集し、事業者に提供したことをめぐり、住民4人が起こした裁判である。名古屋高裁が、個人情報の収集や保管を違憲、違法と認め、抹消を命じる判断を示した。
 人格権や私生活の自由を保障した憲法により、個人情報をみだりに収集されない自由もまた保障されている、と判決は述べる。その上で、警察が保有する情報の抹消請求を、人格権に基づく具体的な権利として認めた。
 大垣署は、住民らの学歴や病歴、交友関係まで調べ、事業者に情報提供して対応を協議していた。県側は裁判で、昨今の「大衆運動」は短時間で大規模化、無秩序化する危険性があるとして、情報収集の必要性を主張した。
 判決は、市民運動すべてを危険視することになりかねないとして、県側の主張を「失当」と断じている。際限なく情報を収集し、監視を続けるのは、憲法が定める集会・結社・表現の自由に反することは明らかだとした。
 また、情報収集活動が一切許されないとまでは言えないものの、警察法が掲げる「公共の安全と秩序の維持」を名目に、フリーハンドで活動することは許されないと言明している。公安警察による情報収集を裁判所が違法と認めたのは初めてだという。
 市民の言動に公安当局がひそかに目を光らせることは、物言えぬ社会につながる危うさをはらむ。にもかかわらず、監視や情報収集の実態は闇に包まれ、外からはうかがい知れない。歯止めとなる法や仕組みも欠いている。
 判決は、情報収集活動を監督する第三者機関がなく、公安委員会や警察内部での自浄作用も全く機能しない状況の下で、著しく社会的相当性を欠いた恣意(しい)的な運用が行われていたと指摘した。どのような場合に収集や保有、利用を認めるのか、根拠を明示する立法の必要性に言及してもいる。
 秘密保護法制の経済分野への拡大や、共謀罪法をはじめとする治安法を後ろ盾にして、公安警察の権限はますます強大化している。不当な権限の行使を防ぐための立法と、独立して公安警察の活動を監視する機関を置くことは不可欠だ。司
法の警告を、国会はなおざりにしてはならない。

公安警察の市民監視(2024年9月18日『しんぶん赤旗』-「主張」)
 
違法な情報収集 直ちにやめよ
 平穏な市民運動を敵視し継続して監視している公安警察の行動が断罪されました。大垣警察市民監視違憲訴訟の名古屋高裁判決(13日)です。
 中部電力の子会社の風力発電計画が住環境に与える影響を懸念した住民は、勉強会や市長などへの嘆願書提出を行ってきました。これを敵視した岐阜県警大垣署警備課は、運動の拡大でトラブル発生のおそれがあるなどとして、住民の個人情報を収集・保有し、会社側に提供していました。
 判決は、大垣署員の行動は私企業の利益に肩入れし住民運動を妨害する目的だったと認め、「警察の活動は…不偏不党且(か)つ公平中正を旨とし…憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない」とする警察法に真っ向から反し「明らかに違法」と断じました。
 住民らの活動は犯罪や反社会的集団とは無関係な民主的・平和的なもので、国民全体の福祉や利益に役立つものだと評価しました。
憲法違反を認める
 判決は、大垣署員らの行動を憲法に照らして判断し、公権力に対して個人の自由を保障し、個人情報をみだりに収集・保有・第三者に提供されない自由を保障する憲法13条(個人の尊重・幸福追求権)、集会・結社・表現の自由を保障する憲法21条に違反し、憲法19条(思想・良心の自由)からみて「非常に悪質」とのべ、保有する情報の抹消を命じました。
■国の開き直り断罪
 山谷えり子国家公安委員長(当時)は、日本共産党山下芳生参院議員の質問(2015年)に対し、大垣署の行為は「公共の安全と秩序の維持」のために「通常行っている警察業務の一環」「権限の濫用には当たらない」と開き直りました。警察庁警備局長は、風力発電や道路工事などの事業の際に、住民の情報を収集し第三者に提供・意見交換することは「通常業務の一環」として行っていることだと認めています。
 今回の判決は、大垣署らの違法行為が通常の業務だと言うなら「大きな問題である」とし、「公共の安全と秩序の維持」を名目に法的根拠もなく「フリーハンドで活動することは許されない」と公安警察のやり方を断じました。
 違法で恣意(しい)的な運用がされていたにもかかわらず開き直る警察には「自浄作用が全く機能していない」と批判し、公安警察全体の個人情報収集・保有・提供に歯止めをかけました。
 情報開示や裁判での警官への証人尋問の要求を「今後の情報収集活動に支障を及ぼすおそれ」があると突っぱねた岐阜県警や、具体的事実を明らかにしない警察庁警備局長の態度も批判し、警察側に情報収集などの正当性を立証する責任があると指摘しました。
 公安警察は犯罪の発生とは無関係に、市民の民主的活動を敵視し、継続して情報収集し、予断や偏見をもって分析・活用しています。憲法の下でこうした活動は許されません。岐阜県警は判決に従い保有する個人情報を直ちに抹消し、公安警察は違法な市民監視をやめるべきです。
 個人情報に対する公権力の権限濫用を監視しチェックする仕組みが必要です。