おととし、北海道・知床半島沖で観光船が沈没し、乗客と乗員あわせて20人が死亡、6人が行方不明になった事故で、第1管区海上保安本部は、18日、運航会社の社長を業務上過失致死などの疑いで逮捕しました。

 

知床観光船事故 運航会社社長を逮捕 業務上過失致死などの疑い

逮捕されたのは、観光船「KAZU 1」を運航していた「知床遊覧船」の社長、桂田精一容疑者(61)です。

おととし4月23日、知床半島の沖合で「知床遊覧船」の観光船「KAZU 1」が沈没した事故では、乗客と乗員あわせて20人が死亡、6人が行方不明になっています。

第1管区海上保安本部によりますと、桂田社長は、運航管理者などとして観光船の乗客と乗員の安全を確保すべき義務があったのに、これを怠った結果、観光船を沈没させたとして、業務上過失致死と業務上過失往来危険の疑いがもたれています。

海上保安本部は、18日午後2時から会見を開き、詳しい経緯を説明しました。

会見の冒頭、「事故で亡くなられた方のご冥福をお祈りし、事故に遭遇された方々とご家族の皆様に心よりお見舞い申し上げる。事故発生以来、慎重かつ厳正に調査を行い、本日、逮捕した」などと述べました。

沈没に至るまでの状況については、海底から引き揚げた船体を検証するなど捜査したところ、観光船は天候の悪化に伴い、船体が繰り返し揺れていたとみられ、「その過程でかぶった波の一部が船首倉庫のハッチの開口部から海水が侵入したとみられる」と説明しました。

その後、船体前部の倉庫と機関室が海水で満たされ、やがて沈没したと推定されるということです。

そのうえで、「会社は、乗客と乗員の安全の確保のため、航行を中止する義務があったがこれを怠った」と説明しました。

社長の認否は明らかにしていません。

また、事故で死亡した豊田徳幸船長(当時54歳)についても同じ容疑で捜査しているということです。

海上保安本部は運航会社の安全管理の状況などを詳しく調べるとともに、現在も行方が分からなくなっている6人の捜索を続けることにしています。

 

海上保安庁長官 “乗員乗客の安全確保する義務を怠った”

 

運航会社の社長を逮捕したことについて、海上保安庁の瀬口良夫長官は、18日、行われた定例の記者会見で、「改めて事故で亡くなられた方のご冥福をお祈りします。単独での航行中に発生した事故で、沈没メカニズムの解明は困難を極めましたが、さまざまな捜査を通じて沈没原因を特定し、社長が運航管理者でありながら乗員乗客の安全を確保する義務を怠った結果、事故が起きたと判断し逮捕に至りました。引き続き、法と証拠に基づき捜査に万全を尽くします」と述べました。

そのうえで、逮捕のタイミングについての質問に対し、「容疑が固まり、証拠隠滅のおそれがあったので逮捕の必要性があると判断しました」と話しました。

 

長男を亡くした両親 “やっとスタート地点 潔く罪を認めて”

 

運航会社の社長が逮捕されたことについて、事故で長男の※ヌデ島優さん(当時34)を亡くした千葉県松戸市に住む両親がコメントを出しました。

この中で両親は「やっとこの日が来たんだなと思いました。一部では立件されないかもしれないという情報があり心配していましたが、今は少し安心しています」としています。

その上で「やっとスタート地点に立てましたが、これから本番が始まると思うといまだ気が重いです。潔く自分の罪を認めてほしいですし、できる限り重い処罰がくだされることを望みます。裁判が早く終わり1日でも早く息子を感じながら家族全員で前に進みたいと思います」としています。

※ヌデは「木偏」に「勝」、「勝」は上の点が「八」。

 

行方不明の息子の父親 “やっとこれで始まるよと報告”

 

事故で今も行方がわからないままの小柳宝大さん(当時34歳)の父親(65)が福岡県内の自宅で取材に応じました。

事故から2年5か月近くがたつなかでの逮捕について父親は、「ほっとした気持ちと、『これからいよいよ始まるな』という気持ちの両方です。息子には、『やっとこれで始まるよ』と報告しました」と話しました。

そして逮捕された社長に対し、「まずは謝罪し、今までのように逃げ隠れせずに非を認め、再発の防止のためにも罰が与えられるのであれば素直に受けてほしい」としたうえで、「こんなにつらく苦しい思いを他の方には2度としてほしくありません」と心境を語りました。

 

被害者家族の弁護団“適正な刑罰 科せられること望む”

 

観光船「KAZU 1」を運航していた「知床遊覧船」の桂田社長が逮捕されたことについて、被害者家族の弁護団の代表を務める山田廣弁護士は、18日、札幌市内でNHKの取材に応じ、「安全管理をすべきであった社長に適正な刑罰が科せられることを望む。断罪する入り口まで来たかという思いでいる」と述べました。

また、事故から逮捕までに2年半かかったことについては、「沈没した原因を明らかする過程は難しく、妥当だったのではないか」という考えを示しました。

被害者家族は、捜査に全面的に協力していくということで、山田弁護士は、「あまりにもずさんな安全管理体制を明らかにし、被害者の家族が今後生きていくためにも、亡くなった方の尊厳を守るためにも、運行会社の社長に引き続き謝罪を求めていきたい」と話していました。

乗客の家族などは、運航会社と社長に対し、ことし7月に慰謝料などおよそ15億円の賠償を求める訴えを札幌地方裁判所に起こしています。

 

森屋官房副長官 “痛ましい事故 二度と起きぬよう取り組む”

 

森屋官房副長官は午後の記者会見で「捜査中の個別事件について政府の立場でコメントするのは控えるが、旅客船の安全・安心対策は、国土交通省による抜き打ち監査や、通報窓口の設置など可能なものから順次、速やかに実施している。痛ましい事故が二度と起きないよう、引き続き政府としてしっかり取り組む」と述べました。

 

知床斜里観光協会 “安全に楽しんでもらえる観光業を”

 

桂田社長が逮捕されたことについて、北海道斜里町にある知床斜里観光協会の新村武志事務局長は「社長には経営者としての責任をきちんととってほしいと思う。われわれとしては、事故を忘れたり風化させたりすることなく、訪れた人に安全に楽しんでもらえる観光業をつくっていきたい」と話していました。