連載⑥ 後退する透明性
2023年度に防衛装備庁が発注した防衛装備品の契約結果が公表されていないことに東京新聞が気付いたのは、今年5月のことだ。
◆「1年分まとめて公表」と答えていたが…
担当者は「夏ごろ1年分まとめて公表します」と答えていた。
2023年度は防衛費を43兆円に増やす5カ年計画の1年目。
戦車や護衛艦、潜水艦など数百億円規模の兵器や武器の契約結果が、防衛装備庁のウェブサイトから抜け落ちていた。
「契約の翌日から72日以内に公表する」と定めた「公共調達の適正化について」の財務省の通達に反する。
「公共調達の適正化について」の通達 旧防衛施設庁や国土交通省で官製談合事件が相次いだことから、財務省が2006年8月、各省庁向けに発出。談合排除のため、公共調達の競争性や透明性を確保するのが狙い。不正の温床になりやすいとされる随意契約についても、競争性の高い一般競争入札への移行を求めている。
◆大臣が語った「透明性の確保は重要」
あらためて尋ねると、担当者は「予算増額で作業が追いつかなかった」と釈明した。
2023年度の契約結果がサイトに掲載されたのは、川崎重工業の接待疑惑が明るみに出て1週間後の7月10日のことだった。
大臣が言及した透明性への意識は、どこまで組織に浸透していたのだろうか。
◆今度は過去4年分の契約結果が消えた
実は、2023年度分の契約結果を掲載したタイミングで、同じサイトから今度は別の記録が消えていた。
以前は公表していた2022年度までの過去4年分の契約結果がなくなっていたのだ。
防衛装備庁調達企画課に過去分を削除した理由を尋ねると、これまで公表していたのは「消さずに放置していただけ」だという。
その上で、自分たちが違反していた財務省の通達を根拠にこんな説明が返ってきた。
◆他省庁のホームページでは過去分も公表
「財務省の通達による全省庁共通ルールで、公表が求められているのは『少なくとも1年分』。2023年度分の掲載を機に整理した」
岸田文雄首相は2022年12月、防衛費を43兆円に増額し、財源確保のための増税方針を表明。この際、「国民からさまざまな意見があることはしっかり受け止めなければならない。丁寧な説明を心がける」と述べていた。
ところが、防衛費の増額が始まった2023年度を境に、かえって防衛調達の透明性は後退している。
◆「ページ数減らすために」冊子から削除
その一つが、防衛省の冊子「予算の概要」だ。兵器生産にあたって国が業者に設備投資の費用を支払う「初度費」の項目が、丸ごと冊子から消えていた。
防衛省によると、2024年度に発注する主な装備品19品目だけでも初度費は総額3470億円に上る。
担当者は「掲載する内容が増えてきたので、ページ数を減らすために見直した」と言う。
◆予算の明細書も…「形式が変わった」
防衛予算の内訳を示した「一般会計歳出予算各目明細書」も内容が減った。2022年度までは「航空機購入費」といった区分ごとに「戦闘機(F-35A)8機、戦闘機(F-35B)4機」などと、購入予定の兵器名と調達数を公表していた。
2023年度からはこの記載がなくなった。防衛省会計課の担当者は「全省庁共通でフォーマット(形式)が変わったので、それに合わせたものだ」と話す。
◆「カーテンの向こう側で」予算が使われている
「私は防衛力強化のため予算増額は必要という立場だ。しかし、今はカーテンの向こう側で勝手に計画が進む。国民は知らない間に不透明な予算を払わされている」=おわり
◇
【6回にわたる連載を総括して】
◆過去の反省はどこ 防衛力強化とは真逆に
防衛予算の増額は、政策目的を達成するための入り口に立っただけ。目的達成に向けては、的確な計画と事業設計の下、効果的に予算執行していくことが肝要だ。
しかし、防衛省の対応を見る限り、計画や事業設計が十分に説明されておらず、予算執行や調達手続きにおいても不透明でずさんな状況がうかがえる。防衛力強化という目的とは真逆の体制整備が進められていると言わざるを得ない。
防衛省では、過大請求や談合が相次いだ結果、原価のチェックや調達の透明性が徹底されるようになったはず。予算増額が行われている今、より透明性が求められるにもかかわらず、過去の反省が生かされていない。
防衛力強化自体は否定するものではないが、これでは納税者である国民の理解は得られないだろう。
川崎重工業の接待疑惑が氷山の一角なのかどうか徹底した調査を行い、対策を講じないと今後の予算執行がますます野放図になりかねない。
◇
8月30日に公表された防衛省の2025年度予算案の概算要求額は、過去最大の8兆5000億円に達した。川重による接待疑惑は、防衛特需に沸く裏で官民が癒着を深め、不正へと発展しかねない危うさを突き付ける。私たちの税金は適切に執行されているのか。43兆円へと肥大化する防衛費を6回にわたって検証した。(この連載は加藤豊大が担当しました)
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