<独自>防衛装備庁が契約実績の公表を一時怠る 「見やすくするため」公表後に削除も 財務省の通達に違反(2024年9月3日『東京新聞』)

 
戦闘機から自衛隊員の制服まで防衛装備品の調達を担う防衛装備庁が、財務省の通達に反し、2023~2024年度の契約結果の公表を一時怠っていたことが分かった。
2023年度は防衛予算を歴史的に増額する5カ年計画の1年目。装備庁担当者は「予算増額で事務作業が追いつかなかった」と違反を認めている。
川崎重工業の接待疑惑で防衛調達に厳しい目が注がれる中、防衛費の透明性を軽視するような装備庁の姿勢がのぞく。(加藤豊大)

◆突然途絶えた契約結果の公表

財務省の通達とは、全省庁に契約の透明性を求めた「公共調達の適正化について」。契約を結んだ翌日から72日以内に、内容や相手方、金額など11項目を公表することとしている。
通達を受け、防衛装備庁でも「1カ月ごとに契約を取りまとめ、翌々月の10日(4月だけ翌々月末)までに公表する」との実施要領を定めた。これに従い、2024年1月分までは、月ごとに契約結果を随時ウェブサイトで公表してきた。
ところが、2024年2月分以降は公表が途絶えた。

◆予算膨張に「作業が増え、間に合わず」

今年5月1日時点の、防衛装備庁の契約結果公表ページ。4月1日時点では2023(令和5)年度の10カ月分が公表されていたのに、丸ごと消えていた

今年5月1日時点の、防衛装備庁の契約結果公表ページ。4月1日時点では2023(令和5)年度の10カ月分が公表されていたのに、丸ごと消えていた

2023年度は、5年間で総額43兆円とそれまでの1.5倍にまで防衛予算を増額する5カ年計画の1年目に当たる。予算額は、前年度から1兆4000億円増の6兆8000億円に膨らんだ。
防衛装備庁が担う契約件数も5228件から7455件に増えた。
防衛装備庁の調達企画課の担当者は「契約数が増え作業量が膨大になり、2024年2月分以降の公表がスケジュール通りできなくなった」と釈明する。

◆なぜか公表していた契約まで削除

防衛装備庁によると、2月分を更新できなくなった時点で、すでに公表していた2023年4月~24年1月分の契約結果も、サイトからすべて削除したという。
防衛装備庁のウェブサイトに示される契約結果の情報。内容や相手方、金額などが確認できる。本来は契約の翌々月には公表される

防衛装備庁のウェブサイトに示される契約結果の情報。内容や相手方、金額などが確認できる。本来は契約の翌々月には公表される

この点も「公表の翌日から少なくとも1年がたつまで契約結果は掲載しなければならない」との財務省の通達に反する。
なぜ、公表していた契約結果まで、わざわざ削除する必要があったのか。

◆接待疑惑発覚後の7月にまとめて公表

装備庁の担当者は、削除した理由について「ホームページの体裁を変えるためだった」とし、「作業がずるずると長引いてしまった。情報が落ちてしまうデメリットもあったが、見やすくするメリットのほうを取ってしまった」と答えた。
装備庁は、川崎重工業の接待疑惑が明るみに出た1週間後の7月10日になって、2023年度分をまとめて公表。2024年度分は8月9日、4~6月の契約結果を公表した。
7月に発覚した川崎重工業の接待疑惑では、海上自衛隊の潜水艦修理を巡り、下請け会社と架空取引を繰り返して裏金を捻出。海自の乗組員に金品や飲食を提供したとされる。

◆過去の防衛汚職で公表ルール作ったのに…

増額する防衛費の妥当性を指摘する声も上がっており、防衛調達の透明性が問われている。
「72日以内」に契約結果を公表すると定めたルールができたのは、旧防衛施設庁の官製談合事件が一因だった。
つまり、ルールができるきっかけを作った防衛調達において、そのルールが破られていたことになる。
官製談合疑惑を受け、旧防衛施設庁前に集まる報道陣ら=東京都新宿区で、2006年1月30日撮影

官製談合疑惑を受け、旧防衛施設庁前に集まる報道陣ら=東京都新宿区で、2006年1月30日撮影

この談合事件では、施設庁側がOBの天下りを受け入れた実績に応じて、工事を業者に割り振っていた。2006年1月に競争入札妨害の疑いで施設庁OBと現役職員計3人が逮捕され、全員が有罪判決を受けた。事件の影響もあり、施設庁は廃止された。
財務省の通達は、公共調達の透明化を訴え、「国民から不適切な調達を行っているのではないかとの疑念を抱かれてはいけない」と明記している。

◆「透明性に逆行、あまりに無自覚」

NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「予算が増えて本来より強く説明責任が求められるはずなのに、むしろ逆行している」と指摘。「多くの不祥事の背景には透明性の欠如があることに、あまりに無自覚だ」と批判した。

「公共調達の適正化について」の通達 旧防衛施設庁国土交通省で官製談合事件が相次いだことから、財務省が2006年8月、各省庁向けに発出。談合排除のため、公共調達の競争性や透明性を確保するのが狙い。不正の温床になりやすいとされる随意契約についても、競争性の高い一般競争入札への移行を求めている。

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8月30日に発表された防衛省の2025年度予算案の概算要求額は、過去最大の8.5兆円に達しました。本紙は近く、膨張する防衛費を検証する連載を始めます。